第十一話 シック
「エリック、一つ部屋を貸してもらえないかい?」
シックはエリックの隣に座る。そのことに怒ったのか、エリックはシックの肩に手を回して耳を引っ張る。シックは耐えようとしたが痛すぎる。
「うううぅぅぅぅぅ」と喚きながら彼の太ももを叩くことしかできない。シックは話し合いに来たというのに。
廊下を歩く音が聞こえ、エリックは回した手を左手の資料に戻す。シックは耳を抑えてソファーから立ち、目の前の机に腰を下ろす。
「二人して何しているんですか? お風呂は空きました」
足音の正体はバスルームに行ったウィルジウスだった。エリックはシックの様子を伺う。彼はウィルジウスをソファーに座るよう言っている。
「おい、ウィルジウスを変にするんじゃないぞ。早くバスルームへ行け」
「やだなあ、心外だ。私はスペル合わせゲームをしようとしただけだよ。お前も早くウィルジウスの部屋を作ってくれ。毎日腰が痛くてしんどい。それか私がミアウの部屋に行ったほうがいいか? ちょうどあの部屋はダブルベットだから……」
シックは挙げられた手に気付いて口を止める。エリックはシックを睨んでから手の主に声をかける。
「どうしたんだ? ウィルジウス。困ったことでもあるのか?」
「ぼく……邪魔ですか? これからはベディーにお願いしたほうがいいですか?」
シックとエリックは顔を合わせた。
「「あいつだけはダメだ!」」
ミアウは自室付きのバスルームから出る。口からはため息も出てきた。
「やっぱり。人間界の方が良いシャンプーじゃない。あー、戻りたーい」
勢いよくシルクのベッドにダイブする。髪を乾かさないで寝るのはいつぶりだろう。そんなことを思いながら眠りについた、すぐ後。ミアウの机付きタイプライターが動き出した。
シック・ウァニュはシングルベッドから起き上がる。
ベッドの半分以上をウィルジウスが攻めていた。
ため息と共にカーテンを開けると朝日が見える。そして壊れた壁掛け時計を横目にクローゼットからいつもの黒スーツを取る。自室のバスルームに行き、そこで着替え、時計置き場から一つの時計を取り、付ける。ネクタイ置き場からもタイを取り、締める。
ウィルジウスを起こそうとベッドに近づいた時、ドアがノックされた。シックは急いでウィルジウスに顔まで布団を掛け、髪を整えてドアを開く。
「なーんだ。エリックか。朝食、誘いにきたのか?」
「バカ言うな」
エリックは否定しながらベッドに視線をやる。
「ウィルジウスの部屋を作ったよ。だが、荷物が遅れていてね。いつまでかかるか分からないらしい。まだここで寝かしてあげないか? 嫌なら私の部屋に移動させるが」
「ここでいい」
シックは気持ちよさそうに寝ているウィルジウスの髪を撫でた。
次回 リッチな女の子の入学準備♡




