プロローグ
始まりは一通の手紙から。
ミアウは大量の紙袋を持ちながらスクランブル交差点を歩く。ポケットからミニタイプライターを出す。ここでは『スマホ』のような役割の。ミニタイプライター、通称ミニターを操作し、メールを送る。制限がかかり、また送れない。
ポケットにミニターを戻そうとすると耳から何かを下げている人とぶつかった。
「っ!」
手からミニターが滑り落ちる。振り返って探そうとしても人が多すぎる。何かを踏む音が聞こえる。信号は点滅して変わりつつある。人が少なくなり、やっとしゃがんでミニターを取れた。走って信号を渡り終える。周りを見渡しても隣にいた友達はいない。
「ミャウミャウ~!」
後ろから声がした。振り返るとエミがいた。人間界でできた友達だ。
「はぐれちゃったね、ん? それ、どうしたの?」
エミはミアウの持っている凹んだミニターを指差す。ミアウは凹んだ部分を撫でる。
「ミニター。これは無理かも」
「……そうだね、一回電源付けてみたら?」
ミアウはエミの言葉に頷いて魔力を流し、電源を入れてみる。光らない。
「どうなの? これ、付いてる?」
エミは不思議そうな顔で尋ねる。ミアウはため息を吐く。
「ダメ。これが捨てられるゴミ箱はない?」
「ゴミ箱? 捨てちゃうの? 直せるよ!」
エミはミアウの手からミニターを取り、ハンカチを取り出し、拭いていく。
ミアウは目を見開く。「大丈夫なの?」ミアウが不安たっぷりの声で聴くと「大丈夫だよ直るよ」とエミは笑った。
「人間界のスマホ買おうとしてたところだから、もういいよ」
ミアウは紙袋を持ち直しながら言うとエミが目を輝かせ「じゃあ、もらっていい?」と聞いた。
ミアウは持っていても意味がないのでエミにあげることにした。
ミアウの人間界の住まい。自分以外の人も住んでいるという奇妙な高いビルに着く。
郵便受けに手を突っ込むと紙が入ってある。掴んで手を引く。手紙だ。
エミはミアウの顔をのぞき込む。ミアウは手紙を紙袋に入れる。
「セイカ、わたしはあっちに戻る。戻らないといけない。ごめんね」
「戻るって、魔界に? そんな急に? 三年間じゃなかったの……?」
ミアウはエミにハグをする。そして紙袋からカチューシャを取る。
「ちょっ、それ、高いやつ!」
「いいの、わたしたちこれで最後だもん。餞別」
セイカにカチューシャを付ける。
「ダイヤって綺麗。セイカにぴったり」
「え、ダ、ダイヤ?」
エミは固まる。ミアウはもう一度ハグする。離すとセイカはミアウのポケットに入っている手紙を見ていた。
「手紙、開けなくてもいいの?」
「……うん」
ミアウはエミを残し、扉を通る。エレベーターのボタンを押すと透明の扉から涙を流しているエミが見えた。ミアウは必死に涙を堪える。チンと音がしてミアウは誰もいないエレベーターに乗り込む。そして紙袋から手紙を取り出す。
手紙を開けずともわかる。内容が何なのか。誰からなのか。それはミアウにとって最悪の手紙だ。開けても開けなくても結果は変わらない。しかし開けなければいけない。
「やっぱり」
ミアウは手紙を読むなり、シーリングスタンプを剥がして手紙を破る。
「くそ魔王」
そして終わりも一通の手紙から。
次回 Mの帰還