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64話 紫野原魔法探偵事務所 暫くの間休暇中

「あ~、やっと来た!」


「今からこの街の祭りに行くのだが、キミも一緒に来るか?」


 扉の向こうに広がるのは、部屋ではなく、見慣れぬどこかの街並みだ。レンガ造りの建物や石畳の道路が見え、どこからか賑やかな音楽も聴こえてくる。


 後ろから誰かが肩を組んできた。


「聞いて驚け。今から行われる祭りはオレとスティルを崇める祭りなんだ。本物の神がそこに紛れているとは知らずに、この街の奴らは盛大に祭りを行う。こんな面白い事他にあると思うか?」


 隣でニヤリとディサエルが笑う。


「無い!」


 私も釣られてニヤリと笑った。


「よし! じゃあ行くぞ!」


「おー!」


 スティルが元気よく拳を上げた。


「くれぐれも騒ぎは起こすなよ。前の世界でキミ達がしでかした事を忘れたとは言わせないからな」


 そんな双子にロクドトが釘を刺す。


「何かあったんですか?」


「これがこの世界の人間の望む姿だから、とか言ってディサエルが禍々しい獣の姿になって暴れたのだ……」


 思い出すのも嫌なのか、ロクドトは顔をしかめた。


「ああ、それは……大変でしたね」


「大変なんてものじゃない。だが、キミがいればそんな事はしないだろう。安心して楽しみたまえ」


「はい!」


「ほら、行くぞ翠」


「露店全部回るからね」


「はーい! ……あ、ちょっと待って」


 双子に付いていく前に、開けた扉を閉めた。こういう時って、勝手に扉が消えたりするのかな。なんて思ったが、消えずにそこに扉はある。


「戻りたい時はこの扉を開ければいいし、その後またどこか別の世界に行きたい時は、向こう側から扉を開ければいい」


「この扉がわたし達がいる場所に繋がるように、魔法を掛けておいたからね」


 いつの間にか背後にいた双子がそう言った。


「いつそんな魔法を?」


「オレ達が別れた日だよ。とっくに気づいているかと思ったが、全然来ないんだもんな」


「だって、そんな事気づかなかったし……」


「お前魔法探偵だって言うなら、もっと魔力に注意した方がいいぜ?」


「うん……本当に、そうだね」


 やっぱり神には敵わない。


「もう、翠ったら。しょんぼりしてないで、早く行こうよ!」


「オレ達がこの世界を破滅させる、って内容の劇をやるらしいぜ。これは外せないよな」


「……やっぱりこの世界でも変な事言われてるんだ」


「その辺りについては、あまり気にしない方が身のためだぞ」


 うんざりした声でロクドトが言う。


「……分かりました」


 こっちにいる間、元の世界ではどれだけの時間が経過するのかは知らないが……どうせ依頼人は大して来ないのだ。明日は休みにしても問題ないだろう。何しろ初めての異世界のお祭りだ。楽しまなきゃ損というもの。


「よし、その意気だ翠!」


「今日一日楽しむよー!」


「騒ぎだけは起こすなよ」


「私がさせないので大丈夫です!」


 今から疲れるまでは、この異世界で休暇を目一杯楽しもう! この神様達となら、どんな事だって楽しめる。この時の私は知らなかったのだが、ディサエルが魔法で『紫野原魔法探偵事務所 暫くの間休暇中』と書いた看板を事務所の玄関に出していた。


 それを知ったのはいつかって?


 一週間後の事だ。

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