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53話 説明会②

 魔法で椅子を出したロクドトはそこに座り、ディカニスの説明を始めた。


「彼女が言ったように、ディカニスはカタ王国に伝わるカタ神話の最高神、カルバス直属の騎士団だ。カタ王国の騎士団とはまた別の組織なのだが、この説明は省かせてもらう。カルバスと共にディカニスがこの世界に来たのはそこにいるスティルを保護し、魔王ディサエルを倒す為だ。だがスティルを保護だの妻だのというのは、ディサエルが魔王だという事も含めて全てカルバスが勝手に言っている事だ」


 ロクドトは一息ついて、また話し出した。


「カタ王国内ではカタ神話が嘘偽りの無い真実であるかの様に伝えられているが、あれは殆どカルバスにとって都合のいい内容に仕立て上げられている。この双子が初めてカタ王国に来た時、カルバスはスティルに一目惚れし、自分を神にするよう懇願したり、結婚を申し込んだりしたが、どちらも断られた。あまりにしつこいから神にはしてもらえたようだが、結婚までは承諾されていない。だが神にしてもらえた事で有頂天になったのか、その日からあの愚か者はスティルと結婚したも同然のように振舞い始めたらしい」


「あれは本当に迷惑だったな~」


 スティルは苦い顔をして頷いた。


「神になり、スティルと結婚した事はカルバスにとって都合のいい事だが、カルバスにとって都合の悪い事……いや、神がいた。それがディサエルだ。いつもスティルの側にいて、己を神にせよという願いを無視し、女のくせに男みたいな格好と言葉遣いをしている目障りな神。だから彼女の事を魔王と呼び、国民に対して彼女を倒すべき敵であると示したのだろう」


「そんな酷い事があったの、ディースく……あ、ええと、ディサエルさん……様?」


 今までディースくんと呼んでいた人の名前が本当はディサエルで、しかも神だと言うのだから、美香はディサエルの事をどう呼べばいいのか分からず混乱し始めた。対するディサエルはもう”ディースくん”の演技を止め、私と接する時のような態度で答えた。


「ディースくんでもディサエル様でも、お前が呼びやすいように呼んでいいぜ。嘘ついてディースだって名乗ったのはオレの方だからな。無理して敬語を使う必要もない。いやしかし、女なのに男の格好をするなと言われても、こちとら人間だった頃には国王と王妃の間に男の子が産まれなかったから、ってだけで無理矢理男の格好させられてたんだぞ。それなのに国王と二人きりの時は女でいろとか、意味わかんねーっての」


 やれやれ、といった表情で大きな溜息をつくディサエル。以前に父親からの扱いが特に酷かったと言っていたが、今の発言からその内容を想像するだけで吐き気がする。何故平気そうにこんな事が言えるんだ。


「あの、ディサエル……」


 私の心の内を読んだのか、安心させるようにディサエルは微笑んだ。


「心配してくれてありがとな。オレはもう大丈夫だから安心しろ」


「……うん」


 何千年も生きているのだ。今更私がどうこう言う話でもないのかもしれない。


「話を進めてもいいか? カルバスは神になったその日に最初の仕事として、魔王の討伐を行った。その時に編成した魔王討伐隊がディカニスの始まりだ。古代カタ語でディサエル・カリエ・ニスティカ。略してディカニス」


「酷い名前だな」


「センス悪すぎ~」


 双子が不平不満を漏らしているが、古代カタ語とやらの意味が分からない私と美香はポカンとしている。ロクドトはそんな私達を無視して話を続けた。


「その時は魔王を倒したとカルバスは思ったのだが、どうやらそれは彼女がわざと倒されるフリをしただけで、倒せてなどいなかった。それを知ったのが一ヶ月程前の事だ」


 古代と言うから討伐隊を組んだのは随分と昔の事のようだが、最近までずっとディサエルを倒したと思い込んでいたのか。ディサエルがそれ程上手く倒されるフリをしたのか、それともカルバスの思い込みが激しすぎるのか……。


「あいつに会いたくないからオレが上手い事避けてたんだ」


 隣でディサエルがボソリと言った。


「遠征でとある世界に行った時、たまたまそこの双子が共にいる所を団員の一人が見つけた。その団員はスティルと共にいるのがかの魔王ディサエルであるとは気がつかなかったようだが、スティルを発見した事をカルバスに報告した。『我が妻を見つけたら真っ先に報告せよ』というのがカルバスの命令の中で一番重要だからな。同じ世界にスティルがいる事を知ったカルバスは、他の仕事を投げうって己の妻に会いに行った。するとどうだ。我が妻はかの魔王と共にいるではないか。倒したはずの憎き魔王と。魔王の隣でにこやかな笑みを浮かべる妻はまたしても魔王に洗脳されたに違いない! と思ったかどうかは知らんが、とにかく魔王の存在が許せないカルバスはディカニスを率いて双子を取り囲んだ。スティルを保護し、魔王を倒す為に。全く、いい迷惑だ」


「それオレの台詞だろ」


「それわたしの台詞だよ」


 双子が口を揃えて言った。私もそう思う。だがロクドトとしても、組織のトップの自分勝手な都合で振り回されるのは迷惑なのだろう。好き好んでディカニスにいたのではなさそうだし。

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