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3話 依頼人は神様です③

「オレ達は互いの痕跡を探れないが、奴らの痕跡なら探れる。だから奴らがどこにいるのかは分かるが、この世界にオレを信仰してくれる人間がいないと大した魔法が使えない。そこで信仰してくれそうな人を探す事に決めたら……なんとびっくり。この世界にも魔法使いがいるときた。だったら魔法使いに協力を仰いだ方が、一緒に戦ってくれるかもしれない。と思いついた所で見つけたのが……」


「この事務所、ですか」


 そうだ。と首肯するディサエル。なるほど。話が見えてきた。


「ここまで話した所でもう一度言うが、オレはディサエル。神だ。妹を探すのを手伝ってほしい」


 燃え盛る炎のような赤い瞳がこちらを見据えてくる。この神を信仰し、力を与え、他の神に連れ去られた妹を探し、必要に応じて共に戦う事。これが記念すべき第一回目の依頼内容か。こんな依頼が来るとは露ほども考えていなかったが、こんなにも面白そうな依頼を受けずに他に何の依頼を受けろと言うのだろう!


「その依頼、お受けいたします!」


 こうして私はディサエルと手を組む事になった。


「それで、ディサエルさん」


 話を切り出そうとすると、ディサエルが待った、と手を挙げる。


「呼び捨てでいい。無理に敬語を使う必要もない」


 神様相手に呼び捨て且つタメ口とは畏れ多い気もするが、本人がそう言うのであれば従った方がいいのだろう。そもそも知らない世界の神に対する礼儀作法も知らない。


「あー、うん。オッケー」


「オレもお前の事は下の名前で呼んでいいか? 何て名前だ?」


「翠」


「翠だな。よし。それで、何の話だ?」


「妹を探すと言っても、どうやって探せばいい? 私は妹さんの事も、二人を追ってやってきた人達の事も知らないから、痕跡も分からない」


「ああ、その事か。追ってきた奴らの痕跡ならオレが分かるから、街に繰り出せばこれが痕跡だと言ってやれるんだが……」


 ディサエルはそこで言葉を切って、難しそうな表情を浮かべる。


「奴らが街のどこに潜んでいるか分からないからな……。下手に動いて奴らに見つかると、力の足りないオレじゃまた負けるだけだ」


 なるほど。それは最もな事だろう。相手がどんな強さを持っているのか知らないが、一度負けている本人がこう言っているのだ。何も対策を立てずに一緒に行動するのは、返って不利になる可能性が高い。


「だから、そうだな……。オレの力がある程度蓄えられるまで、ここでお前と一緒に住んでもいいか?」


「うん……え⁉」


 一緒に住む⁉ 今日初めて会った人(神)と⁉


「ここ事務所兼自宅だろ? 空き部屋無いか?」


「あるにはあるけど……マジで言ってる?」


 魔力が溜まるまで大人しくしている為だとしても、何故そうなる。そんな「ちょっと今からそこのコンビニまで行こうぜ」的な軽いノリで言われても困る。


「大マジ。外に出ると危ないんだから、仕方ねぇだろ」


 いくら神とは言え、要求する側にしては態度がデカすぎやしないか。


「それも……そうだけど。急に言われても……」


「迷惑掛けてる事くらい分かってる。だがオレの身の安全も大切な事だ。それにオレを信仰してくれる人間が近くにいた方が、魔力も早く溜まりやすい。だから頼む。ここに住まわせてくれ」


 そう言ってディサエルは頭まで下げだした。ここまでされると(神なのもあって)無下にはできない。


「仕方がないから……いいですよ」


「ありがとう」


 こうして何故か、ディサエルと一緒に住む事にもなった。

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