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青春シリーズ

覚えてないか・・・

 グランドホテル槙島のエントランスに到着した臼野尚輝は、ジャケットの左内ポケットから招待状を取り出した。


「こんな立派なホテルで同窓会すんのか」


 尚輝はホテルに入り掲示板で同窓会の会場を確認して、エレベーターに向かった。


「◎☆県立根津高等学校同窓会」


 会場入口の表札を頼りに入場する尚輝、入ってすぐ右側に受付が設けられている。


「招待状の確認をさせていただきます」


 受付係のうち若い女性から声を掛けられ、尚輝は招待状を彼女の前に差し出した。


「2009年度卒業の臼野様ですね、どうぞお進みください」


 となりの男性が確認用名簿をのぞき込んだ。


「えっ? 臼野?」


 尚輝は男性の顔を見て、


「えっ? 棚橋? 棚橋将也か?」

「尚輝! 卒業以来だな!」


 棚橋は尚輝の上腕部を軽く叩いた。


「あとでゆっくり話そう。2009年度って札が立ってるテーブルに山井や芳賀、進藤とかいるから」

「あいつらも来てんのか。じゃ、行ってくるわ」


 尚輝は棚橋の肩を叩いて2009年度のテーブルに向かった。


「おい、尚輝だ!」

「ホントだ。お~い!」


 尚輝は旧クラスメイトの元へと駆けて行った。


「山井、芳賀、進藤。久し振りだな」

「尚輝がな! 俺らはたまに会ってるけど、尚輝は大学で東京いってからずっと」

「奨学金早く返したくって、出資抑えてたんだよ」

 

 山井一希は瓶ビールとグラスを持って尚輝に近づいた。


「車じゃないよな?」

「ああ、呑む気満々だ」


 尚輝は山井からグラスを渡され、芳賀徹也と進藤聡もグラスを手にした。


「始まる前に呑んでいいのか?」

「堅いな尚輝は、周り見てみろ」


 芳賀もまた瓶ビールを手に、会場を見渡した。


「確かに、もう出来上がってんな」

「とにかく、呑もう」


 尚輝は山井からビールを注がれ、彼から瓶ビールを受け取って彼のグラスにビールを注いだ。芳賀と進藤のグラスにもビールが注がれている。


「まずは尚輝との再会を祝して、かんぱ~い!」

「かんぱ~い!」


 尚輝は山井らとグラスを合わせてビールを半分程飲んだ。


「えっ? 尚輝?」


 尚輝は聞き覚えのある女性の声に驚き、周囲を見た。


「えっ! リッコ、それに千鶴と麻衣も」

「お前ら、遅えよ! 皮膚呼吸出来ねえぐれえ化粧してんじゃねえよ」


 尚輝は山井の発言で同窓会に参加した事を悔やんだ。


「山井、デリカシーって言葉知らないのか?」


 リッコこと波川理津子は「尚輝は真面目だからな」と、テーブルからグラス3個を取り、菱野千鶴と宮木麻衣に渡した。


「ホント! 山井ったらサイテー! 尚輝、ビール注いで」


 尚輝は理津子のグラスにビールを注いで瓶が空になったので、次の瓶ビールと交換して千鶴のグラスに注いだ。


「芳賀! アンタもぼーっとしてないで注ぎなさいよ」

「相変わらず、人遣い荒いな」


 芳賀は麻衣のグラスにビールを注ぎ、彼女に瓶ビールを突きつけた。


「お前も注げよ」


 麻衣は芳賀のグラスにビールを注ぎつつ、尚輝らのグラスの空き具合を確認した。


「ホラ! オトコども! 元クラス委員の私が御酌してあげるから、グラスを空けなさい」


 尚輝は麻衣が男勝りであることを思い出した。


「あっ、尚輝は無理して呑まなくていいよ」


 麻衣の気遣いで、自分が山井らとそんなに親しくなかったと気づかされる尚輝である。


「大丈夫だ。元クラス委員、注いでくれ」


 尚輝はビールを飲み干してグラスを麻衣に差し出した。


「じゃ、尚輝との再会を祝して」


 麻衣は尚輝のグラスにビールを注いで、自らのグラスを尚輝のグラスに当てた。


「かんぱ~い!」

「か、かんぱ~い!」


 尚輝は「十分ぐらい話ししたら、他のテーブルまわるか」とビールを飲み干した。


「あとは手酌でいこう。そう言えば宇須野先生って元気なのか?」

「ウスノロ? 俺らが卒業して教師やめたらしいぞ」

「山井! その呼び方やめなよ」

「何だよ!? 元クラス委員だからっていいカッコしやがって」

「俺もその呼び方好きじゃない! 自分が言われてるみたいだ」


 尚輝は山井らから離れるチャンスと捉えた。


「尚輝、お前が気にすることじゃないだろ? 先生と同じ読み方だから、尚輝って呼んでんじゃねえか」

「そうだったな? 俺、同窓会初めてだからアチコチ行ってくるわ」


 尚輝は山井の背中を叩いて他のテーブルに向かった。


「何だよ! 相変わらず付き合い悪い奴だな」

「アンタと違って、尚輝は繊細なんだから」

「リッコの言う通り! さっきの化粧の件だって立派なセクハラだよ」


 千鶴もまたビールを飲み干し、進藤を誘ってその場から立ち去った。


「なんだ? アイツらまで」

「知らないの? あの二人、もうすぐ結婚するんだよ」

「マジか? 俺、聞いてねえよ!」

「私らもホテルの前で言われたから」


 山井は信用されていないと気づき、ビールを飲み干して瓶ビールをつかんだ。


「山井、あんまり飲み過ぎんなよ」

「うるせー! どうせ俺はデリカシーの無いオトコだよ」


 芳賀は理津子と麻衣に「俺に任せろ」とつぶやき、山井を隅っこのイスに連れて行った。


「山井も悪い奴じゃないんだけどね」

「世話が焼けるな、元クラス委員として面倒見てやっか」


 理津子と麻衣も山井の元へと向かった。



 尚輝は何人かの顔見知りと挨拶を交わしつつ、文芸部の部長だった井崎有に声をかけられた。


「えっ? た、たもつ?」

「尚輝、川柳やってるか?」


 尚輝は首を横に振った。


「そうか、俺は会社のレクレーションで俳句やってる」

「レクレーション? 大きい会社なんだな?」

「いやいや、うちの社長が社員は家族だとか言い出して」


 尚輝は「俺の嫌いなタイプだ」と井崎のグラスにビールを注いだ。


「その社長に御役を押しつけられた?」

「予算はかけるなって言いやがったから、月に一回、俳句の会をやってる」

「大変だな~」

「まっ! 今どきは強制なんてさせられないから、参加者は多くて五人だ」

「それくらいが良いよな」

「ああ、投句させてホワイトボードに書いて互選させて終わり」

「講評とかしないの?」

「会社だよー、気まずいじゃん」


 井崎の表情からお気楽に俳句の会をやってると確信する尚輝である。


「俺の俳句なんかより尚輝の川柳、ずっとすごかったじゃん」

「まあ、あの頃は、な」

「確か、全国高校川柳大会で最優秀賞とって、あの美人川柳作家に講評してもらったんだよな?」

「ああ、清音きよね先生にな」


 尚輝は自分でビールを注いで、井崎と乾杯した。


「尚輝、東京だろう? 清音先生に会うチャンスなんかいくらでもあるだろ?」

「簡単に言うな! 俺だって忙しいんだ」

「そうか、悪かった」


 井崎も無神経な言動はあるが、山井と違い距離を詰めてこないので、尚輝にとっては付き合いやすい相手なのだ。


「そういや、アイツも来てたな」

「アイツ? 誰のことだよ?」

「美依だよ、一個下の椎野美依しいのみい


 尚輝はこの同窓会に来た目的を果たせそうだと、ビールを一気に飲んだ。


「川柳班の、いや文芸部のエースふたり、十数年ぶりの揃い踏みだな」


 尚輝は「センスないな」と井崎の背中を叩いた。


「は、何だよ?」

「高校時代、お前はやたらと俺と美依をくっつけたがってたな」

「だって、お前ら、仲良かっただろ?」

「どうだろ?」


 尚輝は2010年度のテーブルに向かった。


「あ、あの。すみませんが」

「は、はい?」


 尚輝に声を掛けられた美依は首をかしげた。


「椎野美依さん、ですよね?」

「そうですが、どちら様でした?」


 尚輝は「覚えてないか・・・」と、思い出話しだけで済まそうとした。


「文芸部の川柳班で一緒だった、臼野尚輝です」

「臼野さん? えっ?」

「覚えてないか・・・」

「ごめんなさい、川柳班? えっと、全国大会出てましたっけ?」

「は、はい。席も隣でした」


 尚輝が高校二年の時、美依が入学して文芸部に入部した。

 美依は祖母が川柳愛好家なので幼い頃から川柳に親しみ、前年の根津高文化祭に参加し文芸部の会場で尚輝の川柳を見て、彼に負けない川柳を目指して入部に至ったのである。


「臼野君、川柳なんてチョロいって思ってるでしょ?」

「えっ? 君付け?」

「川柳に関しては私の方がキャリア長いから」


 文芸部の中でも俳句班や短歌班、ポエム班にくらべて川柳班は格下扱いだった。


 尚輝自身も入学当初は映画研究同好会に所属していたが、メンバーの一部が「芸術」と称してポルノ映画を製作、公園で絡みのシーンを撮影しているのを通報されて撮影していた者達は退学処分、同好会は解散となった。

 

 尚輝は川柳班の能川に誘われて文芸部に転部、川柳入門書を読んで脚本執筆の経験を活かして作句(川柳の制作)にハマった。ダメ元で参加した全国高校川柳大会で、優秀賞を獲得したのだ。


「尚輝、何マジになってんだよ」


 能川ら既存の川柳班のメンバーは下劣な時事川柳を楽しんでいて、大会への興味は全くなく自然と尚輝から離れていった。


「臼野君、川柳班は私達で盛り上げるよ」

「俺はそんな気はないから」


 あくまで自分のためだけに川柳に取り組む尚輝と、川柳班の評価を上げる気満々の美依。そんな二人の目標は全国高校川柳大会での最優秀賞であった。


「尚輝、今度句会出てみない?」


 尚輝は美依から呼び捨てされても、何の不満もなかった。彼女の川柳の実力と精神年齢三十歳と感じるほどの落ち着きぶりに、感服していたからである。


「ジジババだらけの句会だろ? 勘弁してくれ」

「川柳のためだよ」

「休みは映画観たり脚本書いたりしたいんだ」

「脚本のネタにすればいいじゃない」


 尚輝は美依に押し切られて何度か川柳結社「つぶて」の句会に参加した。


「尚輝、ちょっといいか?」


 俳句班の井崎が昼休みに尚輝を図書室へと呼び出した。


「何だよ?」

「お前、美依と付き合ってんの?」

「だったらどうする? 恋愛禁止なんてないだろ?」


 尚輝は井崎がニヤけていることに、只々呆れた。


「用はそれだけか? だったら行くぞ」

「俺はいいんだけど、他の奴らがさ・・」

「他の奴らが何なんだよ?」

「ほら、文芸部ってリアルな恋愛に飢えてる奴が多いだろ?」

「知らないよ」


 尚輝は図書室をあとにした。


「尚輝、ヘンな噂なんて気にしないで川柳に邁進しよう」


 尚輝は美依のメンタルの強さに応えるべく、川柳にいそしんだ。


「美依、いよいよだな」


 尚輝は二回目の全国高校川柳大会にのぞんだ。


「尚輝、参加人数が少ないからって舐めてかかっちゃダメだよ」

「お前こそ、ガキん時からやってるからって余裕こいてんじゃないぞ」


 その年、尚輝は最優秀賞を受賞、特別選者の清音先生から講評とハグをされた。


「すごいね、これからも頑張ってね」

「清音先生、俺・・・」


 尚輝は顔を赤くして席に戻った。


「何デレデレしてんのよ!」

「大人のオンナって、いいよな。ファンデの香り〜」


 美依は優秀賞を受賞したものの、特に講評はもらえずにいた。


「尚輝、先に帰って」

「俺には単独行動するなって言っといて、勝手な事言うな!」


 美依は尚輝に全てを打ち明ける事にした。


「アンタの川柳を初めて見た時から、私には無い感性にジェラシーを・・・」


 尚輝は美依が愛おしくなったが、弱っている彼女につけ込むのはフェアでないと感じた。


「川柳ばっかやってるからだ。映画でも観たらどうだ?」


 尚輝がノートにオススメの映画を書いて、そのページを破った時、


「馬鹿!」


 美依は走り去ってしまった。


「尚輝、この間はごめんなさい」


 大会から美依は部活を休んでいたが、尚輝はずっと部活を続けていた。


「美依、実は俺・・・」

「やっぱ、川柳やめられなくてさ。アンタには映画とか脚本とかあるんだろうけど、私には川柳しかなくて」


 尚輝は美依が文芸部に復帰したら、自分が退部するつもりだった。


「来年、リベンジさせて! 今度こそ、全国大会で尚輝より上に行きたい」


 尚輝は翌年の全国高校川柳大会で優秀賞を、美依は最優秀賞を受賞した。そして、尚輝は文芸部を引退、美依と会う事もなくなった。


 この同窓会で尚輝は美依に、十数年振りに声をかけたのだ。

 

「椎野さんは川柳を続けてらっしゃるんですか?」

「根津高の文芸部の顧問をしております」

「教師やってんですか?」

「清音先生みたいな才能は無いので、教師だったら部活か同好会で川柳やれるかなって」


 尚輝は美依が充実した人生を歩んでいると見て、自分の思いは伏せておこうと決意した。


「□◇県立青葉高校って、知ってます?」

「青葉って? 確か・・・」

「清音先生の母校ですよ」

「えっ! 清音先生の?」

「そう、青葉高校創立七十周年で校内川柳大会が開催されて」


 尚輝はあるネット記事を思い出した。


「確か、生徒達の前で旦那にキスしたって?」

「五十過ぎて何やってんだか」


 尚輝は清音先生の夫が教師である事を、スマートフォンのネット記事で知った。


「あれ位でないと、人の心を動かせる川柳は出来ないですよ」

 

 美依はテーブルから瓶ビールを取り、尚輝のグラスに注いだ。


「あっ、すみません。椎野さんはお酒大丈夫ですか?」


 美依はうなづいて瓶ビールを尚輝に渡した。


「はい、お注ぎします」


 尚輝は瓶ビールを受け取り、美依のグラスに注いだ。


「あ、すみません。えっと、昔はどう呼び合ってましたっけ?」

「どうって、その」

「覚えてないか・・・」


 美依はグラスを尚輝のグラスに当てて、一気に飲み干した。


「くあーっ! ああもう無理!」

「はい? 椎野さん、大丈夫ですか?」

「椎野さんじゃないだろ? 美依だろうが、尚輝!」


 美依の豹変振りに驚きながらも、尚輝はある思いを伝える決心をした。


「美依、お前が人格変わる前に言わせてくれ」


 尚輝もビールを一気に飲み干した。

 

「全国高校川柳大会で俺が最優秀賞を取ったとき、美依はすごく落ち込んでいた。そんなお前を愛おしいと思った」


 尚輝はグラスをテーブルに置いた。


「ウソ! 清音先生にハグされてデレデレしてたくせに」

「そりゃ、オンナに抱きつかれりゃ真っ赤になるだろうよ。うぶな男子高校生なんだから」

「自分で言うな!」

「お前の事が好きだった」


 尚輝は美依に頭を下げた。


「なっ、何?」

「お前が優秀賞で俺が最優秀賞になった時、もう少し優しくしとけばよかった」

「べ、別に優しくしてほしくなんか・・・」

「そうだな、その次の全国大会では逆転されたしな」


 尚輝はもう話す事は無いと、その場を立ち去ろうとするが、


「返事くらい聞きなさいよ」


 美依は尚輝の左腕を掴み、自らの前に引き寄せた。


「美依?」


 美依は尚輝を抱きしめ、


「今、優しくして」


 更に激しく口づけをした。


「私も、もっと素直に尚輝に甘えればよかった」

「美依、ここ同窓会の会場だぞ」


 美依は同窓会の横看板を指さした。


「大変長らくおまたせしました。ただいまより◎☆県立根津高等学校同窓会パーティーを開催致します!」


 司会者の挨拶に大きな拍手がおきた。


「あれ? 司会者って有?」

「そう! 井崎先輩が私の相談に乗ってくれて」


 マイクスタンドにいる井崎が、尚輝と美依にアイコンタクトを送った。


「有もグルなのか?」

「言い方! まあ、近いけど」

「俺が同窓会出るの分かってたって事?」


 尚輝はこの同窓会自体がドッキリかなんかかと疑った。


「私離婚したんだよね、一年半前に」

「子供は?」


 美依は首を横に振った。


「半年くらい前かな? 外で呑んでたら井崎先輩が彼女さんと店入ってきて」

「そこで合流した?」

「酔ってたってのもあって、つい尚輝の事を話してたら同窓会に来るって言ってくれて」

「個人情報保護って言葉知らないのか?」


 尚輝が本気で言っているわけではない無いことは、美依にはお見通しだった。


「彼女さんが尚輝に当時の気持ちを伝えた方がいいって」


 尚輝は少しだけ、神様とかいると思えてきた。


「俺、こっち来る前に恋愛成就の神社でお参りしたんだ」

「尚輝はずっと一人なの?」

「婚約寸前までいったんだか、俺が映画雑誌の編集やってるから将来が見えないって」


 美依は「やはり映画関係の仕事してたか」と、尚輝を再び抱きしめた。


「私なら大丈夫だよ」

「いいのか?」


 美依は「このホテルで部屋取ってあるから」と、尚輝の耳元でささやいた。


「そっち?」

「いいじゃない、もうとっくに高校卒業してんだから」


 井崎が「根津高校あるある」を披露して会場を盛り上げる中、尚輝と美依は同窓会が終わったあとの事で盛り上がったのである。

 

《終》


 


 


 

 


 

 

 



 


 

前回の投稿から間が開いてしまい、申し訳ありません。


小説家になろう20周年の投稿作品として執筆しました。


また、今作で登場した美人川柳作家・清音先生は、


「先輩を高杉クンと呼んだ夏」


の主人公・川澄清音(亜矢子)でございます。


つまり、スピンオフ作品でございます。


ぴい助の思い込みでございます!


では、六十手前のドン・キホーテの第4部分でお会いしましょう!

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