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虹色のぬいぐるみ

作者: 和よらぎ ゆらね

序章 白


私はぬいぐるみが好きだ。

それはもう、ぬいぐるみの専門店を経営するほどに。

 

昔からぬいぐるみで遊ぶのが好きだった。

どこに行くときも何をするときも、いつもぬいぐるみがそばにあった。

おばあちゃんのくれた手作りのぬいぐるみだ。


おばあちゃんはしわしわになったあたたかい手で、

真っ白な綿を、丁寧に。

命を、丁寧に、丁寧に。

ぬいぐるみに詰め込んでいく。

それを見るのが大好きだった。



一色目 赤 


私は時間も忘れて作り続けた。

懐かしい感覚に胸を熱くしながら、作り続けた。

もうすぐ夜も明けるかというころ、


───できた。

一緒に育ってきたぬいぐるみには遠く及ばないが

それでも初めてにしては上出来だと思う。

わたしはその子を抱きかかえ、眠りについた。



次の日、ぬいぐるみの糸がほつれているところがあるのに気が付いた。

人間でいう心臓の部分。胸のあたりに。

私は一度ほつれた糸を抜き、新しく縫い直そうとした。

その時だった。私は違和感を覚えた。

違うのだ。色が。

あんなにも白かった綿が。

透き通った赤色になっていた。


燃えている炎のようなきれいな赤だった。

私は思わず見とれてしまった。

不気味だったので念のため綿を取り換え、そっと胸を閉じた。



二色目 橙


ぬいぐるみとはどこに行くにも一緒だった。

あの日、おばあちゃんにもらったぬいぐるみのようにずっと一緒にいた。

一緒に寝た。一緒にピクニックに行った。

時には一緒にお店のレジにいたこともあった。

どんなときでも、私たちは一緒だった。


ある日、また糸のほつれを見つけた。

しかも、前回と同じ、心臓の部分に。

私はもう一度縫い直すことにした。

一度ほどいてはみ出してきた綿を戻すとき、私は驚愕した。

変わったのだ。色が。

綿の色は白かった。間違いない。

詰め替えたはずの真っ白な綿から、優しいオレンジに変わっていた。


私は不気味に思いつつも、ぬいぐるみを捨てることはできなかった。

初めて自分で作ったのだ。捨てられるはずがない。

私はもう一度、真っ白な綿を詰めなおし、そっと胸を閉じた。



三色目 黄


私は母に相談した。

ぬいぐるみの中の綿が知らぬ間に変わることを。

母は

「あなたはほんとにぬいぐるみを大切にするのね」

とだけ言って優しく笑った。


そういえば、、、


───大事に扱ったものには命が宿るのよ


おばあちゃんの言葉だ。



この色は、ぬいぐるみの綿の色はこの子の心だったのだろうか。

申し訳ないことをした。あの子の心を二回も…。


それにしても、綿の色は何を意味していたのだろう。

赤、オレンジ。どうして色は変わったのだろうか。

私は次の色が気になってしまった。

家に帰るとすぐ、ぬいぐるみを確認した。

糸のほつれはなかったがわざとほどき、中を確認した。


───黄色だ。


まずいと思った。どうしてかはわからない。

本能が危険を感じ取った。

私は急いで縫い直し、少し離れた棚の上に置いた。



四色目 緑


まるで危険を知らせるかのような黄色だった綿。

しかし何も起こらず、わたしはいつも通りの日々を過ごしていた。

大好きなぬいぐるみに囲まれ、幸せな生活を送っていた。

あれから、例のぬいぐるみを持ち歩くことはなくなった。

不気味に思えて、手元に置いておくのが不安になった。


しばらくたった時、棚の上にあったぬいぐるみが移動している気がした。

目についておくところにはあった。だから違和感を感じることができた。


おそるおそる胸のあたりを見てみた。

前と同じ部分だ、また糸がほつれている。

私は裁縫道具を取り出し、ゆっくりと、ほつれた部分を開く。


───緑だ。


優しい、緑だった。

良かった。とその時は思えた。


後になって、色が変わったことに対して不気味さを感じ始めた。

今思えば初めからおかしかったのだ。綿の色が変わるなど……。



五色目 青


普通に考えて、色が変わるなんておかしい。

私は恐怖に耐えられなくなった。

出かける前に棚の上に置いておいたぬいぐるみは棚の奥にしまい込んだ




………はずだった。



家に帰ってきた私の目に飛び込んできたのは机に座っているぬいぐるみだった。


───どうして。


確かに棚の奥にしまったはず。

恐る恐る近づくと胸の部分が開かれている。


───青い。


冷たい色だった。空の青とは程遠い。

とても冷たい、青だった。



なんの色なのだろうか。

黄色だったときは本能的な危険を感じた。

黄色が危険を表す色だからなのだろうか…。

でも赤の時は…赤も危険を表す色のはずだ。

でも何も感じなかった…。

青は。この冷たい青は、何を表してる?

ぬいぐるみは私に何を伝えたいのだろうか



六色目 藍


私は青色の意味を考えながら再び棚の奥深くにしまった。

誰にも見えないよう、奥深くに。


誰かのイタズラかもしれない。

いや、そうであって欲しいと願いながら…。



────どうして…。


朝起きてくると、ぬいぐるみがあった。


もう嫌だ、なんで、どうして、

君は私に何をしたいの、何が言いたいの。



その時私はぬいぐるみの胸のところから覗く

深い青、藍色の綿を見た。


なんだろう、この藍色は。


さっきまで恐怖で震えていた私だったが

今は不思議と落ち着いていた。


赤、オレンジ、黄色、緑、青、そして、藍色。


その時その時の色と情景を思い返す。

そうか、そういうことなのか、


───ごめんね。


私はそう言って、ぬいぐるみを抱きかかえ

そっと、眠りについた。



七色目 紫


朝起きると、ぬいぐるみは手元になかった。


私は慌てて探した。

ない。ない。ない。どこにも。ない。


机の上も、棚の中も、店のレジにも、

どこにもあの子の姿はなかった。


布団の中にあるかもしれない。きっとそうだ

朝寝ぼけていて見えなかっただけだ。

私は急いで寝室に行き、布団をめくった



───むらさき、?


そこにあったのは…


薄い紫色をした綿だけだった

なんで、どうして。

理解が出来なかった。

君の気持ちに、僕は気づいた

なのにどうして。



どんなに探してもあの子は見つからない。

でも私にはお店がある。

私はこの子を忘れないためにも

ポケットに紫の綿を入れ、仕事へ向かった。



帰ってきてポケットの綿を取り出してみると

朝よりも紫色は濃くなっていた。

それはもうはっきりと分かるほどに

暗く、重い紫へと変わっていた。


私はそれを1度机に置き、お風呂に入った。

あの色は何なのだろう。

徐々に濃くなる紫色。


あれが意味するものはなんなのか。


そんなことを考えながら一通りの用事を済ませ、机の上の綿を見た。



なんとも言えない色だ。

黒に近い、赤。

恐怖に近い感情が私を襲った。


私は布団に潜り、息を殺した

なんでそうしたか自分にも分からない。

でも、隠れなければいけない。そんな気がした。


私はいつの間にか、深く眠っていた。


それから私がぬいぐるみを見ることは無かった。

さてさて、「虹色のぬいぐるみ」いかがだったでしょうか。

ぬいぐるみの綿の色に変化の理由、皆さんはわかったでしょうか。

主人公は途中で気づくことができたみたいですね。

皆さんはどうでしたか?



さて、ここで前作の話をさせてください。

前作の「あめの日」ラストの展開は皆さんの創造にお任せしていました。

ここで私なりに考えたストーリーの流れを少し話そうと思います。

(これはあくまで「私のラスト」であり、「正解」ではありません。私にラストを踏まえたうえで、皆様なりのラストを楽しんでいただきたいと思います。)


※ネタバレ注意

前作の「あめの日」をまだ読んでいない方は

ここから先はネタバレですのでご注意ください






まず前提として、この話は主人公の心の中を天気で表している。

というのは皆さん、気づいていると思います。

さて、それではストーリーを振り返ってみましょう。


まず最初、川に飛び込んで自殺を図る。

そのあと、暗闇が広がるところは主人公の心の中。

その時は自殺を図るくらい苦しんでて、

あめの存在が見えないほどの暗闇だった。これが、「雨の日」

一回目、目を覚ますとき、ここからは、主人公の本能・夢の中。

だからこれは、主人公の心の中のお話。

あめとすごす時間が楽しい、心地いいから、「晴れの日」

曇り始めるのは、目覚める時が近づいてるとき。

本能的にもうすぐあめとサヨナラしなければいけない。

と思ってるから寂しい、「曇りの日」

ラスト。二回目、目が覚めるとき。

ここからは、夢の中ではありません。現実のお話です。

起きたときにいた女の子は夢の中で一緒に過ごしたあめ。

これからは、あめといっしょに過ごしていく。

ここから始まるのは、「あめの日」



さて、僕の考えたストーリーはこんな感じ。

皆さんはどう考えたでしょうか。

あめは空想の人物で最後の女の子は違う人だと考える人もいたでしょう。

ずっと夢の中、あるいはずっと現実だと考えたでしょうか。

それらはすべて「正解」です。



少々話が長くなってしまいましたね。今回はこの辺でサヨナラしましょうか。

それでは、また次の作品で…。

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