5.終の住処
ドラゴンおじいちゃんは、それはもう美味しそうに食べてくれた。まだ足りなそうだったが、ぶっちゃけ独り暮らしなので量を作っておらず、申し訳なかった。
「はぁ。美味かった……。こんなに美味い食事は初めてだ」
3杯目の緑茶を飲みながら、うっとりとした瞳で遠くを見つめるロマンスグレー。
緑茶も気に入ってくれたらしい。
「それは良かったです。私もここで独り暮らしなので、久々に話が出来て嬉しいです」
「一人だと? わしにはここが村に見えるが……。いや、魔の森の最奥に村があるのもそもそもおかしいがな」
「いやぁ、自分のスキル試してたら村っぽいものが出来ちゃって」
あははと笑えば、おじいちゃんの顔が引きつっていく。
「そなた何者だ? 見た目は人間だが、人間にはこんな強力な結界は張れんし、そもそも魔の森の最奥に来ることなど不可能なはずだ」
「普通の人間です。結界はこの家が張ってるものですし、ここにもいつの間にか居たというか……」
久々に誰かと会話出来たという浮かれた気持ちもあったからかもしれない。
おじいちゃんドラゴンは長く生きているというし、良い人そうだったので気が付けば自分の事情を全て話してしまっていたのだ。
「━━━……という事で、戦闘系の能力が無い為に土地を拡張して森から脱出しようと安易に考えた結果、村が出来ました」
「そなた……。いや、分かった。この森を出たいなら、わしが連れていってやろう」
「本当ですか!?」
「美味い食事を馳走してもらった礼もあるしな」
やったぁ!!!! 森から脱出出来る!!!!
「しかし……そなたはここで暮らした方が幸せだと思うぞ」
「へ?」
「わしが知る人間というのは、どうしようもなく強欲でな。そなたの能力は喉から手が出るほど欲するような、そんな危険な代物なのだ」
え? そんなに欲しがるような能力かな??
「ふむ……。そなたは全く危機感がない事がわかった。わしも丁度、終の住処を探しておった所だ。ここに住まわせて美味い飯を毎日食わせてくれるのならば、偶にわしが街に連れて行ってやるがどうだろうか? 街に住むより余程安全だろう」
「喜んで!!!!」
この後、返事が早い。少しは考えてから返事をしろ。だから危機感が無いと言っているんだ。と説教が始まってしまった。
だってここで暮らせて街にも行けて、家族も出来るんだよ!? メリットしかないでしょと言えば、きょとんとされて、素敵すぎる笑顔で抱き締められた。
「そういえば、終の住処って……もう長くないって事……?」
「そうだ。わしも長く生き過ぎた。後2~300年の命だろう」
「いや、そんだけ生きれりゃ十分じゃないですかね」
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ドラゴンのおじいちゃん。名前はリッチモンドさんというらしい。
名前からしてお金持ちそうだが、本当にお金持ちだった。
なんでも、ドラゴンだから光り物を集めるのが趣味(カラスか!!)とかで、金銀財宝をしこたま集めて無限収納インベントリに保管していたらしく、生活費だと渡されそうになったので全力でお断りした。
お金持ち怖い。
「何故断る。人間はこういうものが大好きだろう?」
「いや、ここでお金を使う事はないんで」
「家族なのだろう。遠慮しなくていい」
「あ~……じゃあ、街に行った時に何か買ってもらっても良いですか?」
「勿論だとも」
という事で話がついた。リッチモンドさんはどうやら頼られる事が好きらしい。
「しかしそなたの家は不思議な魔道具で溢れているな」
「そうなんですか?」
この世界がまだどんな所か分からないので首を傾げる。
「うむ。このポットとかいう自動でお湯が沸く道具一つで、金貨50枚の価値はある」
「へぇ。金貨がどのくらいの価値かよく知りませんが、リッチモンドさんは人間のお金にも道具にも詳しいんですね」
「わしは昔人間に紛れて生活した事もあるのだ。しかしそなた、街に行く前に常識を勉強した方が良いかもしれんな」
そうかもしれない。
しかし、村の畑が日に日に大きくなるので図書室で本を読む時間がとれないのだ。
1日中草取りと水やりをしている気がする。
「水やりならば魔法でやればいいだろう?」
「魔法は一切使えません。才能も無いらしいんで」
「そなた能力が偏りすぎてないか。……まぁ良い。畑の水やりはわしがやろう。草取りも勿論手伝うのでな。勉強する時間を取るのだぞ」
「リッチモンドさ~ん!! ありがとうっ」
嬉しくて抱きつけば、良い匂いがした。
この世界のドラゴンは、どうやら良い匂いがするらしい。
翌日からリッチモンドさんと一緒に畑の世話をする事となった。リッチモンドさんの魔法はとにかく便利だった。
村の全ての畑と果樹園の上に水の塊を浮かせて、そこから雨みたいに水を降らせるのだ。なのであれだけ時間のかかった水やりがあっという間に終わった。
「魔法って便利ですね~」
草取りをしながら魔法について教えてもらう。
「そうだろう。人間はここまでの魔法は使えんが、水で刃を作って飛ばすぐらいなら出来るようだぞ」
「へぇ。魔法って火とか水とか種類があるんですか?」
「うむ。基本は火、水、風、土、光、闇だな。他に無属性の魔法もあるが、これに関しては人間の中に使えるものがほぼいない」
「無属性魔法って、リッチモンドさんが使ってた無限収納インベントリや転移ですよね? どうして人間には使える人があまりいないんですか?」
「それは魔力を大量に消費するからだ」
「なるほど。ちなみに魔力って数値化すると、人間の平均はいくつくらいです?」
「そうだな……せいぜい50という程度か。ちなみにドラゴンは10000だ」
私の魔力、とんでもなかった!!!!
「じゃあ、リッチモンドさんの魔力は?」
「わしは600000といったところか」
このドラゴン、チートだ!!
「何ですか貴方。ドラゴンの王様ですか」
「ワハハハ! 昔の話だな」
本当に王様だった!?