49.分かってほしい、オルゲンの性格
さっきまで何も無かった異空間には山と川が出来、異空間の外にあたる地下には、旅館やお土産屋さんが並び、硫黄の独特な匂いが広がる。
地下だけど大丈夫!?と思ったが、そこは私のスキルが都合の良い仕事をしているらしく、匂いはするものの充満はしていないようだった。
何だか不思議な空間が出来てしまった……。
「カナデ、何故邪竜がここに居るのだ」
「カナデ様っ 邪竜から離れて下さい!」
ハッ! 少し現実逃避をしていたが、今はリッチモンドさんとオルゲンが対面してしまった所なのだ。
きちんと説明しなければ。
リッチモンドさんが私と邪竜の間に立ち、レオさんがオルゲンから離れた場所へ私を連れて行こうとする。
「リッチモンドさん、オルゲンは邪竜じゃありません」
「カナデ、此奴こそが邪竜となったわしの双子の兄なのだ」
リッチモンドさんの言葉に、何故かオルゲンが胸を張っている。
違うから。リッチモンドさんはオルゲンの紹介をしてるわけじゃないから。
「それは分かってます。でもオルゲンは、ロッソに利用されただけなんです!」
「我は利用などされておらぬぞ!?」
「オルゲンは黙ってて! リッチモンドさん、オルゲンはリッチモンドさんと対立するように仕向けられていたんです」
「我はリッチモンドと対立などしておらぬ」
だから黙って! ややこしくなるから!!
私達のやり取りにポカンとするリッチモンドさんに、畳み掛けるように伝える。
「オルゲンは、物凄くアホの子なんです!!」
「アホではないわ!! 我は、我はやれば出来る子だと言われておるのだぞっ」
よし! これでアホだと証明されたはず。
「カナデ、これは一体……」
リッチモンドさんがオルゲンと私を交互に見遣り、動揺している。
「利用されていても気付いてなくて、この国が滅んだ事も知らないんです! 建物が壊されただけだと思っていて……っ」
「だから利用などされておらぬ! ……ん? か、かな、かな、カナデよ! この国が滅んだとはどういう事だ!?」
あっ これはオルゲンの前で言うべきじゃなかった!
両手で口を塞いでも時既に遅し。
オルゲンは口をパクパクさせ、私を見上げて瞳を揺らしていた。
「邪竜が、この国を滅ぼしたのではないのか……?」
「ちが、違うっ 我は、王都の建物だけ壊せと頼んだのだ! リッチモンドを追い出したからこんな目に合うのだ! ざまぁみろと、皆にそう言ってやりたかっただけなのだ!!」
オルゲンの様子に、リッチモンドさんは困惑し、レオさんも首を傾げている。
「リッチモンドさん、オルゲンは何者かに利用されていたんです。本当のオルゲンは弟思いの優しく純粋なドラゴンなんです」
リッチモンドさんに必死に訴えた。
「利用……。だが、わしの力を奪おうと、見たこともない魔法を使って魔力を奪ったではないか……」
「我は、魔力が多すぎてつがうものがおらぬと、リッチモンドが困っていたから、それならば我と魔力を半分ずつに分ければ良いと思ったのだ! そうすれば、つがえる者も出てくるかもしれぬと……教えてもらって……」
オルゲンにそう教えた者が何者なのか……、大体想像がつくけど。
「ならば、わしにキツくあたっていたのは何故なのだ……」
「その話しは少し長くなるがよいか?」
オルゲン、空気読んで……。
リッチモンドさんがえ? って顔してるから。
「構わぬ。どうやらカナデが上手く助けてくれたようで、クレマンスも、その両親も無事だ。ロッソのやつは結界外に追い出されたみたいだし、時間もある」
え!? クレマンスさん達どこにいるの!?
「カナデ様、あちらに倒れております」
キョロキョロしていたら、レオさんが教えてくれた。
「息もしていますし、外傷はないようです」
三人の傍に行くと、レオさんがそう教えてくれたのでホッとした。
「カナデ様は、こうなると分かっていたのですね」
クレマンスさん達を見ていたレオさんは、そう言って私に視線を戻す。
「結界外に放り出す人と、結界内に入れる人を指定したら、クレマンスさん達は助かるんじゃないかって思ったの」
一か八かだったけど、上手く行って良かったよ。
とりあえず、旅館の中に入ろうか。




