48.私のスキルよ。空気を読んでくれ
「「リッチモンド(さん)!!」」
まるで恐竜映画のような壮絶な戦いに、血の気が引く。
ドラゴンvsドラゴンの、魔法あり、ぶつかり合い、噛みつきありの戦いだ。
「カナデ様っ ご無事でしたか!!」
レオさんが私に気付きやって来た。
オルゲンに気付き、「この子供は……?」と訝しむ。
「オルゲンって言うんです。害はないから安心して下さい」
あえて邪竜とは紹介せず、言葉を濁す。
「もしかして、ドラゴンの生き残りですか? …………誰かに似ているような……」
「まぁ……そう、なのかなぁ……」
「カナデ、生き残りとは何だ?」
「オルゲンは黙ってて。レオさん、一体何がどうなって、こんな事になってるんですか? クレマンスさんとご両親は何処です!?」
辺りを見回すが姿が見当たらず、嫌な予感しかしない。
「それが……クレマンスも、クレマンスの両親も、あのドラゴンに飲み込まれてしまったのです」
「の、飲み込まれた!?」
クレマンスさんが、こ、殺された……っ!?
「はい。リッチモンド様が仰るには、まだ死んではいないから助けられるはずだ、と。しかし、あの邪竜に操られているロッソというドラゴンが、不自然な程強いのです。何というか……邪竜本人ではないのかという程に……」
「我はあのドラゴンを操ってなどおらぬ!! それにヤツは邪竜ではない!!」
「オルゲン、分かってるから落ち着いて」
「むむ…………。おい、カナデっ おかしいぞ!? 力が戻らぬと思っていたが、ここに来てからはっきり分かった。我の力が、あのドラゴンに吸い取られているのだ!」
「え!? それは確かなの?」
「多分!」
「多分って何!?」
本当に、ロッソがオルゲンの力を吸い取っているとしたら、オルゲンと一部が繋がってるリッチモンドさんは大丈夫なの!?
「カナデ様、今のこの子供の発言はどういう事でしょうか?」
レオさんがオルゲンの発言を訝しみ始め、変な汗が出てくる。
するとそこへ、
“スキャンが終了しました”
と、何故か突然文字が現れたのだ。
“場所の指定が出来ます”
は? 場所?? 何、コレ。
意味が分からず戸惑っていると、ドラゴン化したリッチモンドさんがロッソの尾で殴られ、地面に落下した。
「リッチモンドさん!!」
「リッチモンド!! カナデ、我は弟を助けに行くぞっ カナデはそこの人間とこの空間から脱出するがよい!」
「オルゲン!? 何言ってるのっ リッチモンドさんとオルゲンを置いていけるわけないでしょ!!」
“開拓地を選択して下さい”
もうっ 今そんな事してる場合じゃないんだってば!
このヤバいシーンで、私のスキルは空気が読めずにマップを表示させている。
しかも、異空間のマップまでご丁寧に表示されているではないか。
“開拓地を選択して下さい”
もう……っ いや、待てよ……。
開拓って事は、結界も張れるよね?
もし、ロッソだけを入れないようにする結界を張ったら…………、
「レオさん、オルゲン、何とかなるかもしれない!!」
「「カナデ(様)?」」
開拓地はこの地下全体とこの空間!
“温泉地、テーマパーク、プール、ショッピングモールから選択して下さい”
は?
テーマパーク!? ショッピングモール!?
「カナデ、どうしたのだ?? 何とかなるとはどういう事だ? 我は何かした方が良いのか?」
「カナデ様?」
あーっ もう!! 皆が喜びそうなもの……っ
【温泉地】を選択します!!! 結界内からロッソだけ出して下さい!
“開拓します”
その瞬間、今いる空間も、その外も、一気に整地、そして結界が拡がり、ロッソだけが一瞬で姿を消したのだ。
“旅館が召喚されます”
“土産物屋が召喚されます”
“山と川が創られます”
ポンポンと目の前におかしな文字が出てくる。
「カナデ!!」
ロッソが突然居なくなり、呆然としていたリッチモンドさんだったが、こちらに気付いて文字通り飛んできた。
この人はドラゴンの時でもイケメンだ。
「リッチモンドさんっ」
目の前にある白竜の顔に抱きつく。
「無事で良かった」
「それはこっちのセリフだ……っ 怪我はないか?」
優しい瞳のドラゴンが、すりすりと頭を擦り付けてくる。
何だか可愛い。
「どうやってあの牢からでたんだ?」
「実は……」
半歩後ろにいるオルゲンをチラリと見れば、リッチモンドさんもその視線を追ってオルゲンに辿り着く。
「…………っ 邪竜!?」
リッチモンドさんは目を見開き、レオさんはその言葉にギョっとして、オルゲンと私を見比べると、一体どういう事だという表情をして話を聞く体勢にはいったのだ。
