42.衝撃の事実
クレマンス視点
───……連れて来い。リッチモンドと、あの娘を連れて来るのだ───……
真っ黒に変わったロッソを殺そうとしたが、私の力ではどうにもならず、家族まで人質に取られ、息も絶え絶えでやって来た“魔の森”。
ここはドラゴンですら近付く事を恐れる森だった。
そんな所にリッチモンド様がいらっしゃるのか?
不安に駆られながらも空を飛んでいた時、村のようなものが見えて我が目を疑った。
“魔の森”の最深部に、“村”があるだと!?
しかも、人間が暮らす村だ。
強力な結界が張ってあり、入れそうもない。
恐らく、ここにリッチモンド様とロッソの言う“娘”が居るのだろう。
どうしたものかと村の上空を旋回していれば、人間の娘が降りて来いと手招きするので、そのまま降りていく。すると、結界を簡単に通り抜ける事が出来たのだ。
しかし、ロッソから受けた攻撃のダメージが、酷く、私は気を失ってしまった。
目覚めると、嘘のように傷が治っており、さっき手招きしていた娘が近くでドラゴンの言葉を話していた。
もしかしたら、リッチモンド様が教えたのかもしれない。
人間の娘は親切に怪我を治療してくれ、食べた事もないような美味しい食べ物を与えてくれた。
しかも、この村にいつまでも居て良いと言う。
娘の優しさに、人質をとられてさえ居なければ……と何度思った事だろう。
しかし私は、リッチモンド様と彼が愛したという“娘”を連れて戻らねばならない。
私の愛する御方が愛した方……。
黒く変化したロッソからそれを聞いた時は、胸が酷く痛んだが、そもそもあの方を追い出した私が、彼を愛する資格などないのだと、どれほど自分に言い聞かせただろう。
そしてまた、裏切ろうとしているのだから。
……リッチモンド様が愛した娘……。
出来るなら、この人間のように優しい娘であってほしいなどと、思う事も許されないのかもしれない。
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カナデ視点
「リッチモンドさん!」
地下へと降りてきたリッチモンドさんを見た時、心底安心した。
あの黒いドラゴンとリッチモンドさんが鉢合わせなくて良かった……と。
「カナデっ 怪我は無いか?!」
リッチモンドさんに抱きしめられ、怪我がないか確認される。
恥ずかしいけど、すごく嬉しかったのはナイショだ。
リッチモンドさんの声に安心して力が抜けてしまった時、私は自分が随分緊張していたんだと初めて知った。
「私は大丈夫です。レオさんが守ってくれましたから」
リッチモンドさんに支えられながら、なんとか話をする。
「そうか。レオも怪我はないか? よくカナデを守ってくれた」
「いえ、カナデ様が結界を張ってくださいましたので無事でした。結界が無ければアレには勝てなかったでしょう……」
「レオ、そう落ち込むでない。邪竜に勝てる者などわししかいないのだからな」
ニヤリと笑うリッチモンドさんに、レオさんも安心したようで、困ったように笑っていた。
「それと、リッチモンド様……クレマンスですが」
レオさんの言葉に、クレマンスさんの肩がビクリと震える。
「どうした? 怪我でもしたのか」
「それはカナデ様が治療しました。……クレマンスはどうやら、黒いドラゴンに家族を人質に取られているらしく、リッチモンド様とカナデ様をここへ連れて来るよう命じられていたのだそうです」
「そうか……」
リッチモンドさんがクレマンスさんを見る。
「リッチモンド様……っ 申し訳ございませんっ」
顔面蒼白で謝罪するクレマンスさんに、
「クレマンスよ、辛かっただろう……」
リッチモンドさんはそう、優しく声を掛けた。
ああ、もう。
この人は何て優しい人なんだろう。
「っ……ぅ、あ…ぁぁぁぁッ」
クレマンスさんはその言葉に、子供のように泣き出し、私も貰い泣きしそうになった。
リッチモンドさんを好きになって良かった。
こんな素敵な人に出会えて良かった。
この世界に来てから、貴方に出会ってから、私は幸せな事ばかりだよ。リッチモンドさん。
◇◇◇
「───……リッチモンドさん、私は邪竜に会った事もないのに、どうして邪竜は私の事を知っていたんですか?」
クレマンスさんが落ち着いた頃に、逆鱗の通話でも聞いた事をもう一度聞いてみる。
リッチモンドさんは何かを知ってる風だったから、ずっと気になってたんだよね。
「うむ……。何から話すべきか……」
彼は暫く考えてから、口を開いた。
「邪竜は、わしの双子の兄なのだ───」




