37.邪竜
『滅びた……、だと?』
え、どういう事!? リッチモンドさんがドラゴンの国を追い出されてから、まだ1年経ってないよね?
滅びた!? 何で??
『リッチモンド様が国を出た後、赤竜のロッソ様が王として国を統治しておりましたが、1週間前の事です……』
青いドラゴンさんが、何があったのかを語り出した。それを真剣に聞くリッチモンドさんの表情は、見た事がない程険しかった。
『“邪竜”が、復活したのです』
じゃりゅう? じゃりゅうって何だろう?
『何だと!? アレの封印は後1000年は保つはずだ!! 一体何故封印が解けたのだ!?』
『っ……ロッソ様が……1000年しか保たぬ結界など意味がないと仰られ、自分が邪竜を倒すと……』
『なんと愚かな事を……っ』
『復活してしまった邪竜に勝てるものなどおらず、国は邪竜によって滅ぼされてしまったのです……っ』
青いドラゴンさんは這う這うの体でここまでやって来たらしい。
リッチモンドさんを探して……。
『生き残ったものは皆、散り散りになり、今はどこに居るのかも分かりません……っ』
『…………』
『申し訳ありません……っ 貴方様が創り上げた“ソレルーナドラゴ王国 ”を、このような事でなくしてしまうなど……っ』
ボロボロと涙を零し、謝り続ける青いドラゴンさんに、リッチモンドさんは何も言えずにいた。
『リッチモンドさん、青いドラゴンさんを休ませますね。リッチモンドさんはお昼ごはんをちゃんと食べて下さい』
『カナデ……』
床に崩れ落ちている青いドラゴンさんを支え、空いている客室に連れて行く。
『ドラゴンさん、こちらで少し休んで下さい。眠って起きたら、お風呂に入ってすっきりしましょう』
『あ、ありがとう……っ』
『いえ。あ、私カナデと言います。ドラゴンさんの名前を聞いてもいいですか?』
『クレマンスだ……。国が、滅びる前は、騎士をしていた』
『女性の騎士ですか! 格好良いですね!!』
私が子供みたいな事を言ったからか、クレマンスさんはクスッと笑ってくれて、『ありがとう』と私を見たその表情が、本当に綺麗で眩しかった。
「───リッチモンドさん、クレマンスさんはお休みになりましたよ」
食堂で昼食を食べていたリッチモンドさんに声を掛ける。
「そうか……」
心ここにあらずな返事に、心配になって隣に座り、彼の手を握った。
「リッチモンドさん、ドラゴンの国に行きましょう」
「カナデ!?」
「生き残っているドラゴンさん達が気になりますし、“じゃりゅう”っていうのも気になります。放っておくと、まずいんですよね?」
「しかし、危険だ……っ」
リッチモンドさんは、きっと一人で行く気だったに違いない。でも、
「私、リッチモンドさんを一人で行かせたくないです」
話を聞く限り危険な場所に、リッチモンドさんを一人で行かせるなんて絶対反対だ。
「カナデ……」
「私なら、ドラゴンの国で家を召喚するスキルが使えます! それを使えば、結界も張れるし、リッチモンドさんが逃げ込める場所も確保できます。生き残りの人だって、避難させられますよ」
だから、私も連れて行って下さい!!
じっと彼の目を見つめれば、リッチモンドさんは、
「絶対無理はしないと約束してくれ」
と手を重ねて私の瞳を覗き込むように見つめてきたのだ。
今更ながらに、こんな美形に見つめられると動悸が……っ
「カナデ、そなたはわしが必ず守る」
「リッチモンドさん……。私もリッチモンドさんを守ります!」
「カナデには敵わないな……」
蕩けそうな微笑みを見せるリッチモンドに、顔が真っ赤になったのは当然の反応だろう。
◇◇◇
「“邪竜”ですか!?」
子供達には話せないので、レオさん、ローガンさん、ヒューゴさん、イヴリンさんに集まってもらい、ドラゴンの国で何があったのかを説明すると、ヒューゴさんが蒼白な顔で息を飲んだ。
「ヒューゴさん、“じゃりゅう”っていうのを知ってるんですか?」
「はい。魔に魅入られたドラゴンで、その力は一国をも簡単に滅ぼすと言われています。しかし、邪竜は同族に封印されたと聞いた事がありますが……」
“じゃりゅう”ってドラゴンなの!? しかも魔に魅入られたって…………もしかして、“邪竜”!?
「その通りだ。“邪竜”は昔、わしが封印したのだ」




