36.ドラゴンの国は……
『お、美味しい……っ こんな美味しいもの、食べた事がない!』
人化してもらった美人ドラゴンさんに、外で食べてもらうのは申し訳ないので食堂に移動してもらい、ガパオライスを出すと、ものすごい勢いで食べ始めた。
そのスリムな身体のどこに入るのかという食いっぷりに呆然としてしまう。
『まだおかわりありますから、ゆっくり食べて下さいね』
何だか、リッチモンドさんに初めて会った時を思い出す食べっぷりだなぁ。
ドラゴンって皆いっぱい食べるのかも。
『ああ、すまない……。その、おかわりを頂けるか?』
『分かりました。すぐ持ってきますね。あ、良かったら、そちらの麦茶飲んで下さいね』
『むぎちゃ……?』
『冷たいお茶です。ガパオライスが少し辛いので、冷たい飲み物にしてみました』
『?? あ、ああ。ありがとう……』
キッチンでおかわりを用意して料理を運んでいたら、違う食堂で食べていた子供達が様子を見にやって来た。
「お母さん、青いドラゴンさん大丈夫ですか?」
ルイが心配そうに聞いてきたので、頭を撫でる。
「大丈夫だよ。怪我は治ったし。ただ、ドラゴンさんは人間の言葉が話せないみたいだから、驚かせないようにね」
「僕とアーサーはドラゴン語が少し話せますので、お話しても良いですか?」
え!? ルイとアーサードラゴン語話せるの!? いつの間に……。
「勿論だよ。でも今は食事中だから後でね」
「はい!」
「ルイ兄ちゃんいいな~」
「私もドラゴン語分かればいいのに……」
リッチモンドさんがドラゴンだからか、子供達の間ではドラゴンは優しく、強く、格好良いという意識があるらしい。
皆の憧れなのだ。
あの青いドラゴンさんも良い人っぽいし、もしかしたらドラゴンは皆優しいのかもしれない。
『お待たせしました。おかわりですよ』
『ありがとう。むぎちゃという飲み物も美味しかった』
『お口に合って良かったです』
暫くして食べ終わると、ドラゴンさんは私に深く頭を下げ感謝を示した。
『助けていただき、感謝する』
『いえ。怪我をしているひとを放ってはおけませんから。でも、ドラゴンである貴女が、何故あんな大怪我を?』
『それは……っ』
彼女はぎゅっと膝に置いていた手を握り、下唇を噛んだのだ。
『言いにくい事なら、言わなくても大丈夫ですよ』
『ぇ……』
『無理矢理聞き出そうなんて思っていませんから。それに、貴女さえ良ければ、いつまででもここで暮らしてもらって良いですからね』
『っ……あり、ありがとう……っ』
ドラゴンさんはポロポロと涙を溢した。
『だ、だが、私は探さねばならない御方がいるのだ。だから、君に甘えるわけにはいかない』
彼女は涙を拭うと、青く美しい瞳で私を真っ直ぐに見据えた。
『探している人、ですか?』
『ああ。白いドラゴンなのだが、見かけた事はないだろうか?』
『白い……』
それって、リッチモンドさんの事……?
いや、白いドラゴンなんていっぱい居るかもしれないし!
『白いドラゴンはあの御方しかいらっしゃらないから……、もし、見た事があるのならば、教えて欲しい』
『え……』
やっぱりこのドラゴンさんは、リッチモンドさんのを探しているんだ!!
『な、何でそのドラゴンを探しているんですか!?』
『それは……、その御方が、私達の王、だからだ……』
リッチモンドさんは、ドラゴンの国を追い出されたって言ってた……。でも、ドラゴンさんはリッチモンドさんを探してるって……。
一体どういう事なんだろう??
「「「お父さんお帰りなさーい!!」」」
そんな時だ。
リッチモンドさんを出迎える、子供達の声が聞こえてきたのは。
「おおっ 帰ったぞ! お母さんはキッチンか?」
「いえ、お母さんは青いドラゴンさんとそこの食堂に居ます」
ルイがドラゴンさんの事を話してしまった。
どうしよう……。もし、リッチモンドさんがドラゴンの国に帰ってしまったら……っ
『どうした? 顔色が悪いようだが……』
『いえ、あの……、「カナデ!! 無事か!?」』
バンッ と食堂の扉が開き、リッチモンドさんがかなり慌てた様子で飛び込んできたのだ。
「リッチモンドさん……っ」
「カナデ! 怪我はないか!?」
いつの間にか私はリッチモンドさんの腕の中にいて、いい匂いに包まれていた。
この香り、好きなんだよね……。安心する。
『あ、貴方様は……!!!?』
『む……? そなたは、クレマンスか!?』
『リッチモンド様!!』
やっぱり二人は知り合いだったんだ。
『どうしてそなたがここにいるのだ?』
『リッチモンド様…………っ 申し訳ございません!!』
青いドラゴンさんは、突然リッチモンドさんに土下座をし、謝罪しだしたのだ。
『クレマンス、何をしておる?』
『私は、貴方様にとんでもない事をしてしまいました……っ』
『わしは気にしてはおらん。面を上げよ』
『しかし……っ 私は貴方様の騎士でありながら、貴方様を国から追い出して……っ』
『クレマンス、わしは追い出されて良かったと思っているのだ』
『え……?』
『お陰で、カナデに出会う事が出来た』
リッチモンドさんは私を愛しげに見つめ、金色の瞳を細めた。
それが好きで好きでたまらないと言われてる気がして、恥ずかしくて俯く事しか出来なかった。
『カナデ、とは、そちらの人間の事でしょうか?』
『ああ。カナデはわしの愛しい人だ』
『っ……リッチモンド様が、人間などを……』
『クレマンス、人間などという、その愚かな考えは改めろ。カナデはこの世界で唯一、わしの子を産める女性だ』
リッチモンドさぁぁぁん!? そんな直接的な表現しないでください!!
顔が燃えるように熱い。
『まさか……その人間は、魔力がリッチモンド様と同等なのですか!?』
『同等どころか、カナデの方が多いのだよ』
自分の事のように誇ってくれてるんだけど、なんだか親バカの自慢を聞いているような気がして居た堪れない。
『そんな事よりも、そなたは何故ここに居るのだ?』
『それは……っ』
『そなたは王の騎士であろう。国を離れてはならぬはず』
『リッチモンド様!!!』
青いドラゴンさんは、意を決したようにリッチモンドさんを見ると、こう言ったのだ。
『ドラゴンの国は、滅びました』




