3.もう一度家召喚してみた
蜘蛛もどきを見た事で、ここがやはり異世界だと確信する。
きっとあの蜘蛛もどきはモンスターだ。
しかも火炎系の魔法を森の中でぶっぱなすイカれた奴だった。火事になったらどうする。
「早々に家召喚して良かった」
あのまま森をさ迷ってたら今頃はモンスターの餌になっていただろう。しかも私が最も苦手とする虫系モンスターの餌だ。絶対無理。
「でもさ、あんなモンスターがうろうろしてるなら、私はここから出られないって事だよね……」
詰んだ。
異世界に来て若返って、新たな人生を歩もうとしたらまさかモンスターが蔓延る森に閉じ込められるなんて。
「はぁ。今世は夫と子供が欲しかったのにな……」
ここで寂しく独り生きていくしかないのかな。
せめてレベルが上げられたら、土地が拡がって動ける範囲も増えるんだけど。
今後の事を考えるとテンションが下がっていく。
暗い気持ちで色々考えていたら、いつの間にか日が暮れていた。食欲もわかないので、今日はもうシャワーを浴びて眠る事にしよう。
シャワーから出て寝袋に入ると、疲れていたのかあっという間に夢の中へと旅立った。
気付けば朝で、外を見ると結界の周りには数匹のモンスターの死骸が転がっていた。
「げっ 朝から酷いものを見た……っ」
惨状にまたテンションが下がる。しかし夜食べなかった事もあり、お腹は空くわけで……。
「芋でもふかすか……」
冷蔵庫を開け、芋を取りだそうとして手が止まった。
昨日無かったものが、冷蔵庫の中に鎮座していたからだ。
「こ、これは……っ マヨネーズ!!!!」
何で!? どういう事? 調味料が増えてるって事は、まさかレベルが上がってる!?
「す、ステータス見なきゃ!!」
名前: 藤井 かなで
年齢: 15才
レベル: 2 ↑up
HP: 100/100
MP: 1000000/1000000
健康状態: 良好
魔法: 才能なし。例えレベルを上げても使用できません。
スキル: 家召喚、言語翻訳、文字の読み書き
嘘でしょう!? 本当にレベルが1上がってる!!
え? まさか1日1レベル上がって行くとかそんなチョロい仕様なの?
これは、明日またステータスを確認しなきゃいけない。
◇◇◇
私の希望的観測は翌日を迎える事で確信に変わった。
日を跨ぐにつれ、レベルが上がっていったのだ。
ちなみに3日目はケチャップが増えていた。
それから日を追うごとに、ある日はチューブのわさびが。またある日は食器がグレードアップし、畑の野菜の種類が増えていた事もあった。
そして……早いものであれから約3ヶ月が経った。
現在の私のステータスはこうだ。
名前: 藤井 かなで
年齢: 15才
レベル: 90 ↑up
HP: 86/100
MP: 1000000/1000000
健康状態: 良好
魔法: 才能なし。例えレベルを上げても使用できません。
スキル: 家召喚、言語翻訳、文字の読み書き
今私が住んでる家は、とんでもない事になっている。
まず土地は一軒家が3軒建つくらいの広さに拡がり、畑にはナス、きゅうり、トマト、とうもろこし、白菜、レタス、大根、人参、枝豆等が増え、果樹園はりんご、みかん、葡萄、ナシ、レモン等がたわわに実っていた。
家はハウスメーカーが建てた大きめの一軒家みたいなものに変化し、家の中もそれに並ぶ立派なものに変わっている。
調味料もポン酢やお好みソース、ウスターソース、焼き肉のタレなど充実している。
そして何が一番変わったかというと、図書室が出来たのだ。
これが本当に便利だった。
何しろこの世界の事について書かれた本や、ポーションの作り方、料理本等々、様々な本が置かれているのだから。
その中で、この森について書かれている本があったので読んでみた。
この森は“魔の森”と呼ばれており、強い魔物が集う森らしい。奥に行けば行くほど魔物のレベルが上がっていく。
魔物の強さがどの程度かというと、森の入り口付近はBランクの冒険者パーティーで勝てるレベル。少し入るとAランク冒険者のパーティーでないと進む事も無理なレベルに変わり、さらに奥に進むとSランクのパーティーで何とかなる? なレベル。
そして私が住んでる最奥の場所は、人類では到達できないレベルらしい。
ちなみに冒険者とは、あのファンタジーの定番の冒険者という認識で間違いないらしく、ランクも存在する。
Sランク: 冒険者最高ランク。伝説
Aランク: 一流。憧れ
Bランク: 一目置かれる存在
Cランク: 一人前
Dランク: もう少しで一人前
Eランク: 調子に乗って死ぬ
Fランク: 頑張った結果死ぬ
Gランク: 新人
簡単にいうとこんな感じなのだそう。
で、肝心なのはここがそんなヤバい森の最奥だったって事。
私としては家の土地をどんどん拡げていって、この森から脱出する事を目標にしてたんだけど、このままじゃ何十年かかるか分からない。
で、考えた結果、ウチの隣にも“家召喚”する事にしたわけだ。
「家を増やす事によって土地が拡がるもんね!!」
等と安易な考えで家召喚を唱えたんだけど、何か選択肢が出てきたぞ。
“別宅を召喚”
“村を作る”
「…………ん? 村?」
土地を拡げたいなら絶対“村を作る”だよね。私しか住んでないけど。
“村を作る為に整地します”
やはり最初の頃のように光って、北海道の牧場かってくらいの面積が整地された。
「え? これ大丈夫? 環境破壊にならない? 魔物達激怒しない?」
“家を召喚します”
そこへ初期設定の小屋がいくつも建てられ、畑と果樹園も出来る。
ほわぁ~……。本当に村っぽくなった。
「うわぁ……今度はチートな村様? 誰も住んでないのがもったいないや」
しかし私は気付いていなかった。
この村の畑の世話を、一人でしなくてはならない事に。