2. チートなお家様
「おおっ 畑と果物の木が付いてるなんて!! “家召喚”すごいな」
小屋の前にまずは畑を見てみる事にする。
どうやらキャベツ、玉ねぎ、ジャガイモが生っているようだ。そしてリンゴ。とりあえず食料には困らなそうである。
「よし。次は小屋だ」
見た目は木で出来た四角い小屋。大きな窓があり、そこから畑に出る事も出来るようだ。きちんと玄関もあり意外と立派だ。
いよいよ小屋の中へ入る。
扉を開けると小さな靴置き場。12畳ほどのフローリングのワンルームには小さなキッチンと扉が1つある。
靴を脱いでまず扉を開けると、やはりあったトイレ。そして同室にシャワールーム。浴槽が無いのは残念だが、シャンプー、コンディショナー、ボディソープがあったので嬉しくなった。トイレットペーパーもちゃんとあるようでホッとする。
次にキッチンへ移動する。
小さな流しにカセットコンロが一つ。嬉しい事に、砂糖、塩、醤油、味噌、胡椒が置かれているではないか!!
あ、食器用洗剤とスポンジもある。
「ありがとうございます!!」
よく分からんが、このスキルを与えてくれた人(?)に感謝したい。
流しの下には扉があって、中にはボウル、ザル、鍋、フライパン、おたま、フライ返し、菜箸が置かれていた。その横に小さな冷蔵庫。独り暮らしのマンションのような仕様だ。このタイプの冷蔵庫は放置すると霜がもりもりになる冷凍庫が内部に付いているはず。
開けるとやはりそのタイプだった。
中にはミネラルウォーターとペットボトルの麦茶、卵、牛乳、バター、茶葉(緑茶)、たくあん、が入っている。
「何故たくあん?」
いや、しかし飲み物も確保出来た。
床に直置きされているが、ポットと炊飯器もある。炊飯器の横にはお米もあるではないか!!
食器棚にはパン皿、深皿、どんぶり、お茶碗、お椀、箸、スプーン、フォーク、マグカップ、グラス、急須が一つずつ並べてある。
小さなクローゼットもあり、そこにはほうき、塵取り、雑巾、バケツ、洗濯板と洗濯用洗剤という掃除道具類、が入っていた。
バスタオル、フェイスタオル、下着に寝袋もある。
「ああ~。もうここで暮らしていけるわ! チートなお家様だった!!」
ふと、折り畳み式の机の上に本が置かれている事に気付く。
「タイトルは、“家召喚について”? 説明書か!!」
なになに……初めて家召喚したあなたへ。
この家の中(畑、果樹園含め)にある全ての物は、家の中にある限り、どれだけ使用しても無くなる事はありません。
この家の食料には健康維持、体力、魔力回復の効果があります。
畑の手入れは1日1回の草取り、水やりで十分です。
土地の周りには結界が張られており、あなたが許可したものしか入れません。
あなたのレベルが上がるにつれ、家の仕様は変化します。
例: 土地の拡張、畑の拡張、食料、飲料、調味料の種類増加等
「なにこのおウチ様、チートすぎる」
さて、家召喚の事も分かったが、どうやら私には戦闘系の能力は皆無で武器もない。レベルを上げていきたいが、どうやったら良いのか分からない。
…………考えてもらちが明かないので、とりあえず今はご飯を作る為に畑に収穫に行くとしよう。
「ついでに草取りと水やりもしようかな」
キッチンからボウルを持ち出し、窓から外に出て目の前の畑に入る。
「大きなキャベツだなぁ。とりあえず一つ貰おう」
よいしょ!! とキャベツを収穫する。後は玉ねぎ一つと、ジャガイモを……ごっそり取れた!!
「そして草取り……っ てそんなに生えてないなぁ」
プチプチと草を取ると次は水まきだ。外にあった水道にはホースが繋がっていたので、それを使って水をまく。
小さな畑なのですぐに終わった。
それにしても、久々に感じる身体の軽さと頭のすっきり具合に嬉しすぎて。
もう……っ 涙が出てくる。
辛かった。苦しかった。女としての全てを奪われた気がした。でも、そんな思いとはもうさよならだ!!
私は今日からまた、新たな人生を生きていく。今度こそ後悔しないように。
「はぁ~。身体が軽い!! 健康って最高だ!! 今なら何でも出来そうな気がする!!!!」
青空に向けて両手を上げ、伸びをする。
気持ちが良い。
よし! お昼御飯は肉と人参なしの肉じゃがとキャベツの味噌汁でも作ろうかな!
◇◇◇
「う~ん、何時かはわからないけど、太陽の位置から考えて今はお昼時かな……あ、この野菜めちゃくちゃ美味しい!!」
肉じゃがにキャベツと卵のお味噌汁、炊きたてのご飯を食べながら考える。
チートなお家様のおかげで病気になる心配もなさそうだし、しばらくはここで憧れのスローライフを送るとして……………………って、
外に何か居るッ 何アレ……っ
良い風が入るので、窓を開けたままご飯を食べていたが、閉めて置けばよかった。
だって森の中……葉っぱが繁ってる所に目が見える!! ギョロってしてる赤い目!! 葉っぱがガサガサ揺れてるし!!
……結界、大丈夫だよね!?
「ギャギャ!!」
出てきたァァァァァァァァ!!!!
車並みに大きい、蜘蛛みたいな気持ち悪いのが飛び出してきたァァァァ!!!!
「ギ……」
あ、弾かれた。
「ギィィィィィ!!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
結界を攻撃してるっ 気持ち悪!! 私虫系だめなんだって! 早く去ってくれ!!
「ギャッ」
「え?」
蜘蛛もどきがその足で、今までにないくらい思いきり結界を攻撃したら、その足がもげたのだ。
「ヒィィィィ!!」
足が地面に落ちてる!! 気持ち悪すぎる!!!!
「ギィィィィィ!!!!」
蜘蛛もどきは怒ったのか、今度は口からゴォォォ!!!! ととんでもない威力の炎を放った。私の目の前が真っ赤に染まっている。
しかし、その炎は蜘蛛もどきに跳ね返ると、ジュッという音と共にその姿がかき消えてしまった。
後に残るのは、黒く焦げた木々と地面だけだった。
「……おウチ様、最強」