11.優しいお姉さん
カナデ視点
「慌てなくて大丈夫だよ。まだ沢山あるから」
美味しい、美味しいと慌てて食べている子供達にゆっくり食べるよう言うが、空腹だったのだろう。途中で咳き込みながらもあっという間に食べきってしまった。
二人は、空になった器を悲しそうに見つめるので、リッチモンドさんが初めてウチに来た時を思い出し、噴き出しそうになった。
「おかわりあるけど、まだ食べられそう?」
「「おねがいします!」」
さすが双子だけあり、声が揃っている。
おかしくなって笑いながら二人の器を回収し、「すぐにおかわりを持ってくるから待っててね」と伝え、二人の部屋を出て、階段を降りキッチンへと向かう。
家が広くなったので、キッチンまでの距離が遠い。
リッチモンドさんは元々お城に住んでたから、何とも思ってないどころか、小さい邸だと思ってるみたいだけどね。
キッチンへ入ると、リッチモンドさんがソワソワしながらコンロの上にある、鉄鍋に入ったすき焼きを見ていた。
夕飯にはまだ早い時間だから、食卓に出していなかったんだけど……この様子だと、もうご飯にしたほうがいいかな。
「リッチモンドさん」
「おっ カナデ。ぁ、いや、わしはつまみ食いなどしてないぞ!?」
あー……つまみ食い、しようとしたんだね。
「子供達におかわりを持っていったら、すぐ夕飯にするから、もう少しだけ待っててね」
「おおっ 分かった。わしは待てるぞ!」
食いしん坊のおじいちゃん竜は、ご機嫌に食堂へと向かって行った。
私はおかわりの重湯を器に注ぎ、また子供達の所へ戻ったのだ。
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ルイ視点
ぼくたちは産まれた時から皆に嫌われていた。
双子は“忌み子”だから、王族の恥になるんだって言われて、ずっとアーサーと二人、塔の中にある部屋に閉じ込められていたんだ。
鍵のかかった扉の外にはいつも見張りがいて、部屋の外に出る事もできなかった。
偶に、大人が入ってきて、鬱憤を晴らすかのようにぼくたちを殴ったり蹴ったり、鞭で叩いたりした。
そんな地獄のような中でも、ぼくたちの唯一の楽しみは本を読むことだった。
部屋の中には色んな本が沢山あったから、ぼくたちはいつの間にか文字が読めるようになっていたし、外の見張り達の会話を聞いて、言葉を話せるようになっていた。
見張り達は、ぼくたちがこの“十年”生きてこれたのは、次がなかなか生まれなかったからだって話してた。
だけどある日を境に、今まであった僅かな食べ物の差し入れも貰えなくなった。
壁から滲み出す雨水を二人で舐めてしのいでいた日々。空腹なのにお腹が膨らんでくる恐怖、そして、動く事もままならなくなった日、部屋の扉が開けられて、鎧を着た数人の大人がぼくたちを荷物のように運び出し、何かに乗せて、それが動き出したと思ったら……森の中に捨てられていた。
アーサーよりも体の小さかったぼくは、体力も底を尽きていた為に、捨てられた時にはもう意識を失っていた。
そして気付いたら、この綺麗な部屋のふかふかなベッドに寝かされていたんだ。
見たこともない豪華な部屋に戸惑っていた時、お姉さんが入って来た。
お姉さんは優しい声で話しかけてきて、アーサーが隣に寝かされている事を教えてくれた。
アーサーが生きてた事にほっとして泣いてたら、柔らかい綺麗な布で涙を拭いてくれて、そんな綺麗な布をぼくなんかに使うのはもったいないって言おうとしたら、“だっすいしょーじょー”になるからって、白く濁った飲み物をくれたんだ。
汚水、だろうか……。でも、喉が乾いているし、例えどんな水でもありがたい。
そう思って飲んだら、
何これ……すっごく甘い。おいしいっ!!
夢中で飲んでいて、気付いたらコップの中は空だった。
無くなってしまって、少し残念な気持ちだったけど、だるかった体が軽くなって、傷も無くなってる事に気付き、血の気が引いた。
お姉さんがくれた飲み物は、本に書いてあった“ポーション”なんだ!
“ポーション”は、めったに手に入れる事の出来ない幻の薬で、どんなに大金を積んでも買えないって書いてあった。そんな貴重なものを、ぼくは飲んでしまったんだ……。
するとお姉さんが、傷はお姉さんの家族が治癒魔法で治したと言い出した。
ますます血の気が引く。
治癒魔法なんて、使える人族はいないって本に書いてあった。亜人だって、そんな事が出来るのはドラゴンだけだって……。
きっとお姉さんはとても尊い身分の方なんだ……っ
そんな方に助けていただき、さらに“ポーション”までいただいたと理解し、どうお返しをしたら良いかも分からなくなった。
だから、お金を持っていないんだと謝ったんだ。
けど、姉さんはお金なんていらないから、元気になれって、優しい言葉をかけてくれた。
今までそんな優しい事を言ってくれる人なんていなかったから、また涙が出そうになったけど、“だっすいしょーじょー”っていうのになって、またポーションが出てきたら怖いから、ぐっと我慢した。
その後、アーサーの目が覚めてから貰った食事で、ぼくたちは衝撃を受けるのだけど、それ以上の衝撃がまだぼくたちを待っているなんて、想像も出来なかったんだ。