(67)#取材③
「素晴らしい腕前ですね」
藤さんが可愛いらしい笑顔をしながらこちらに近づいて来た。
「大したことないですよ」
俺は照れながら答える。
「デレデレしちゃって」
俺に聞こえるように言い、セーラはフンと顔を背けて横を通り過ぎて行った。
「おいって」
呼びかけた俺の声は虚しくダンジョンに響く。
「悪いことしちゃいました?」
やり取りを見ていた藤さんが上目遣いでこちらを見て言った。
「気にしないでください。あいつ、すぐ怒るので」
俺は苦笑いしつつ答える。
「セーラさんは凡田さんのことを本当に好きなんですね」
「そうですか?」
ふふふと笑って言う藤さんの言葉に、俺は首を傾げながら言った。
「女心はまだまだみたいですね」
俺の顔を見た藤さんは、ダメな生徒に教える先生のような感じで言い、クルーのもとに戻って行った。
「ふぅ。そろそろ休憩しましょう」
1時間程探索したぐらいで俺は足を止めて結果を張った。
「もう休むのか?」
セーラは物足りない感じで俺に訊いてきた。
「クルーの人達は初めてだし、冒険者でもないからな。今日は散歩してるぐらいのペースでいいだろ」
俺はセーラにしか聞こえない声で説明する。
「確かにそれが妥当だと思います」
「おぉ。びっくりさせないでくださいよ」
また気付かない動きで近くに来ていた安木さんが会話に入ってきた。
「下手に怪我をされても困りますし、ましてや死人なんて出た日にはこの異世界交流事業も頓挫してしまいます」
淡々とした口調で安木さんが言った。
「そうですね」
俺はどこまで本気なのかわからない安木さんに苦笑いしつつ答えた。
「俺が火の用意するから、食材の準備頼むよ」
「もうやってるよ」
セーラは言われる前に俺がストックで取り出した食材を切り出していた。
「わぁ。セーラさん、料理人みたい」
「小さい頃からやってたからね」
セーラは褒め慣れていないせいか、赤面しながら答えた。
「凡田さんは幸せ者ですね」
「そうですね」
「どうだか。もう食い飽きてきたんじゃないのか」
魔力を込めて使うコンロの上で鍋を振るいながら、セーラが嫌味を言ってきた。
「毎日美味しく頂いていますよ」
俺も見え見えの媚を売る態度で答える。
「ほい、出来たよ」
セーラは俺のことを相手にせず、野菜炒めやステーキに似た料理を皆のもとに持って行った。
「わぁ。美味しいそう。いただきます」
藤さんが本当に美味しいそうな顔をしたのに続いて、他のクルーや安木さんも料理を口にし始めた。




