(62)#大使任務終了
「ダンよ、気が向いたらいつでも来てくれ」
王座から側に降りて来てクリス王は別れの握手をしながら挨拶してきた。
「はい。いつか彼女と来れることを願っています」
俺は純粋な期待を込めて握手を返した。
「期待に応えられるように励む」
クリス王の言葉は建前でなく、本当にやってくれそうなだなと感じられた。
「では、これにて失礼致します」
挨拶が交わされたのを確認したマークさんが代表してお辞儀をした。
「大使団諸君、無事の帰還を願っている」
クリス王の言葉を聞き、大使団全員が深々と頭を下げてその場を後にした。
「ダンさん、随分と気に入られましたね」
馬車が走り出して少しした頃にマークさんが話し掛けてきた。
「ごますりしたつもりはないんだけど」
何が王様に好かれたのか不思議で仕方ないと思いながら答えた。
「そういう普通な所じゃないですか?」
トールが指摘してきた。
「そうなのかな」
俺はそういうものかと納得するようにうなずいた。
「そろそろフリーダム領ですね。領内に入ったら、ゲートで城へ行き報告をします。早く自宅へ戻りたいでしょうが、もうしばらくお待ちください」
「いや、気に」
「セーラさんに会えなくて寂しかったですもんね」
俺がマークさんに答えるより早くトールが割って入ってきた。
「別にちょっと会えないからって」
「いやいや、たまにスマホですか?それでセーラさんの写真をチェックしてたの知ってますから」
「マジか」
「ヒヒヒヒ」
トールはイタズラっ子みたいな顔をして笑っている。
「フフフ」
「マークさんまで」
やり取りを見ていたマークさんも上品な感じで笑顔を浮かべていた。
「そろそろ着きますよ」
トールは流すように会話を変えた。
「ダン、ご苦労だった」
いつもとは違う品の良い口調の王様が玉座に座った状態で労ってくれた。
「詳しい話は今度聞こう。さあ、早く想い人の所へ行ってやれ」
「お言葉はありがたいのですが」
気恥ずかしくなり、助けを求めて周りを見ると、ロベルト団長はいつものことながら、ベロニカさんまでニヤついていた。
「いいから早く帰るのだ」
急に雑になった王様に追い返されるように俺は城を後にした。
「おかえり」
俺がドアに近づいた瞬間、帰るタイミングがわかっていたかのようなバッチリのタイミングでセーラが出迎えてくれた。
「ただいま」
実家に帰省したときのようにリラックスした俺は、自然な笑顔で挨拶を返していた。




