(14)#魔法を覚えました
「お、兄ちゃん。今日も泊まりでいいのかい?」
宿屋の主人が帳簿を書きながら訊いてきた。
「ああ。陽が沈む前には帰るよ」
この一週間、俺はセーラが働く宿屋を拠点に、レベル上げと旅費を稼ぐ為に街近くのダンジョンへ通っていた。
「ダン、もう行くのか?」
「お、セーラ。市場で朝飯食べたらな」
「頑張るね」
「まあな。帰る為に稼がないといけないし。」
異世界に来て二日目の朝、俺は帰る条件という大事なことを訊き忘れていたことを思い出し、担当の安木さんにメールで問い合わせた。
数分後、簡潔な文章が返ってきた。
『派遣された方々が元の世界に戻る為には、最低五年の期間を満了するか、いいねの累計が十億ポイントを超えるかになります』
刑期のようなノルマに俺は頭を抱えてしまったが、まずは旅の備えが必要と思い、しばらく街に滞在することにしたのだ。
俺は軽く朝食を済ませ、昼飯の弁当を買ってダンジョンに入った。
「光の精よ、我の行き先を照らせ、《シャイン》」
真っ暗闇だった洞窟が浮かぶ光の玉で照らされる。
「慣れたらこっちの方が便利だな」
ポイントで魔法が覚えられることに気づいた俺は、ダンジョンで使えそうなものをいくつか覚えていた。
スマホのライトがあるが、バッテリー節約の為に出来るものは魔法でやることにしていた。
ちなみに政府が設置した充電器が宿屋などにあるのだが、ポイントを消費するので使うのを控えている。
「よーし。今日も稼ぐぞ」