(110)#vs祖父①
「ダン様、失礼してよろしいですか?」
「はい。どうぞ」
俺は重い瞼をこすりながら返事をした。
「朝食のご準備が出来ました」
ドアを開けたまま、スミスさんは会釈する。
「わかりました」
スミスさんは部屋を出る俺をスムーズに避け、静かにドアを閉めた。
「昨日の食事はお口に合いましたか?」
歩きながらチラッとこちらを見てスミスさんが訊く。
「はい。美味しかったです」
そう返事をしたが、祖父の威圧感の印象が強く、ほぼ味の記憶はなかった。
「なら良かったです。異世界に行ったときに、味付けを勉強した甲斐がありました」
嬉しそうに微笑むスミスさんを見て、ちょっと罪悪感を感じてしまう。
「口数は少ない方ですが、ジーク様もダン様とお食事が出来て喜んでらっしゃると思いますよ」
顔や態度に出ていたのか、俺の考えなどお見通しという感じでスミスさんは言った。
「そうだといいんですけど」
母さんは気分良くはないかもしれないが、せっかく会いに来たのだから俺としては仲良くしたい。
「おはようございます」
先に座り仕事の書類らしきものに目を通していたジークさんに、俺は様子を伺いながら挨拶をする。
「おはよう」
軽く咳払いをし、渋い表情のままだがジークさんも挨拶を返してくれた。
「昨日は眠れたか?」
「はい。ぐっすりと」
「そうか」
淡々とした言葉のラリーだが、どことなく孫に接するおじいちゃんの優しさのようなものを感じた。
「今日は何か予定があるのか?」
「いえ、ありません」
「なら少し付き合いなさい」
「わかりました」
「スミス、用意は任せたぞ」
「かしこまりました」
全く何をするのか予想出来ず、朝食も緊張しながら食べることになった。
「ええと何をするんでしょうか?」
少し時間を置いて迎えに来たスミスさんに案内され、俺は軍の訓練所みたいな場所に来ていた。
「詳しくはジーク様が話されると思いますので」
「そうですか」
スミスさんは細かい説明はせず、とりあえず体をほぐして待つようにとだけ言って俺から離れて行った。
「待たせたな」
遅れて現れたジークさんは、賢者みたいな格好をしていた。
「すみません。何をするんですか?」
何となく予想は出来たが、念の為に確認をする。
「異世界の勇者がどれほどか知りたくてな」
そう言うジークさんの顔は、闘技場で見たロベルトさんを思い出させた。