(105)#跡目問題①
「父さん、あの弾が彼女連れて来たわよ」
「どのだよ」
墓前で余計な報告をする母さんに、俺はお決まりのツッコミをする。
「ほら父さん、セーラちゃんの猫耳可愛いわよ」
遠慮なく耳をなでながら、母さんは墓に向かって話しかける。
「だから何の報告だよ」
されるがままのセーラを引き剥がしつつ、母さんにツッコんだ。
「ケチ」
「ケチってな」
「セーラちゃんがいいんだから、別にいいでしょ」
お気に入りの人形を抱きしめる子供のように、母さんは俺からセーラを奪い返した。
「いつ言ったよ」
俺も子供のケンカみたいに言い返す。
「目が言ってるわよ」
そう言って母さんはあっかんべの顔をした。
「私はいいよ」
セーラが突然母さんの味方についた。
「ほらー」
母さんはドヤ顔でセーラをギュッと抱きしめる。
「えへへ」
セーラの態度はどことなく嬉しそうに感じた。
「はいはい」
やってられないという仕草をしつつ、俺は帰り支度を始めた。
「なあダン。あれって安木じゃないか?」
駐車場の方を指差しセーラが言った。
獣人であるセーラには見えたようで、安木さんと知らない男性が立っているらしい。
「どうして安木さんが?」
あちらの世界に戻る日にしか来ないと言っていたのに、何の用だろうか。
「凡田さん、静養中に申し訳ありません」
セーラの言った通り、駐車場には安木さんと見知らぬ男性が待っていた。
「何かあったんですか?」
何の用件もなしに安木さんが来るわけがないと思い、俺は内容を訊いた。
「実はこの方がお会いしたいとのことでしたので」
「どうもスミスと申します」
安木さんに紹介された男性は、すっと前に出て会釈した。
「どうも、ぼ」
「言ったわよね?私達に関わるなって」
俺が自己紹介しようとした瞬間、母さんが険しい顔で割って入ってきた。
「お嬢様お久しぶりです」
スミスさんは母さんに詰め寄られても動じず、慣れた様子で挨拶した。
「お坊ちゃん、初めまして」
「は、はぁ」
突然のお坊ちゃん呼びに、俺は戸惑いつつ返事をする。
「行くわよ」
「お母様、ご事情は把握しておりますが、政府としてはスミスさんをこのままお帰しするわけにはいかないんです。どうか少しでいいので時間をください」
安木さんが母さんの前に立ち、頭を深く下げた。
母さんは少し考え口を開いた。
「わかりました」
「ありがとうございます。ではご案内します」
俺とセーラだけがわけもわからないまま、安木さんの案内で移動を始めた。