第6話 魔王と召喚者
あれから数分が経ち、魔王はあることに気が付く。
「そういえば、俺はどこで生活すればいい?」
「あ……」
全く考えていなかったのか、エリナが間抜けな声を漏らす。
その様子を見て、魔王は小さく笑った。
「その様子を見るに、何も考えていなかったようだな」
「も、申し訳あり……」
そこまで言いかけたところで、エリナは魔王の言葉を思い出す。
そしてどうしようと、困りながら魔王の方に一瞬視線を向けた。
そんな様子の彼女を見て、魔王から声をかける。
「なあ、マスターって貴族だったりするか?」
その問いに首を縦に振る。
「私の爵位は公爵です」
「そうか。なら、最低限のものがあれば、俺はこの部屋でいいぞ。俺がいると面倒なことになるだろ?」
「本当にいいんですか?」
「ああ、問題ない。ここなら多少の魔法を使っても、怪しまれることはなさそうだしな」
それを聞き、エリナは胸をなでおろす。
そして魔王があることを思い出し、空間収納から一枚のコインを取り出す。
「流石にこの時代だと使えないだろうが、念のため聞いておきたいんだが、これは使えるか?」
コインを机の上に置き、エリナに差し出した。
興味深げに観察しながら、コインを手に取る。
「これは使えないけど、金属として売れば換金できるかも知れない」
「なるほどな。ちなみに相場はわかるか?」
その言葉にエリナは首を横に振る。
「でも、金なら小さくてもいい値で買い取ってくれるって、聞いたことがあります」
まだ会話に慣れず、敬語が混じってしまう。
そんなことは気にも留めず、魔王が口を開く。
「まあ、考えても仕方ない。金銭面は後回しにするか」
考えるのがめんどくさくなり、開き直る。
それでいいのか? と思いつつ、エリナはあることを思い出す。
「それなら魔物の素材を冒険者ギルドに、売却すれば稼げると思います」
「確かに、それはいい案だな」
(この時代にも、冒険者が存在するのか)
昔と変わらない所に、親近感を覚える。
「そうと決まれば、魔法が使えるかどうか、試し打ちするぞ! マスター、この辺に人があまり来ない場所はあるか」
魔法という言葉に反応して、エリナが興奮気味に返事を返した。
「それなら王都の外にあるよ!」
だが、そこでエリナに懸念が生まれる。
「でも、どうやって屋敷から出るんですか?」
「気配を完全に消すか、透明化の魔法を使うから問題ない」
「流石です! ……ですが、もうすぐ夜になります。どうしますか?」
「なら明日だな」
「わかりました。では、食事などを持ってきますね」
そう言って部屋を出ようとしたところで、魔王が声をかける。
「毛布とかは夜営用のやつがあるから、なくてもいいぞ」
「わかりました。言い忘れてましたが、お手洗いはここを出て、階段を上がって左に行けばあります」
「わかった。ありがとう」
エリナは明日の事に、胸を躍らせながら部屋を後にした。
そして料理を手にして戻ってくる。
「よく二人分持ってこれたな。俺が使用人なら怪しむぞ」
「あはは……ちゃんと怪しまれたけど、使い魔の分って言って誤魔化してきました」
苦笑いを浮かべながら、料理を机の上に並べていく。
その間、魔王は手伝うことなく頭の中で魔方陣を広げ、転生召喚魔法の粗を探していた。
「できました」
その声に反応して、現実に意識が引き戻される。
「一人でやらせてすまなかったな」
「気にしないでください! その……」
言葉が詰まり、エリナが目を泳がせると、魔王がその先を口にした。
「殺されたくないからか」
「………」
その言葉にエリナが小さく頷く。
「ほんとに殺す気はないから、安心してくれ。まあ、一晩経つ頃には頭も整理できてるんじゃないか」
「そうですね。まだ頭が現実についてこれてない気がします」
困惑した表情を残らせ、微笑する。
固すぎるエリナに、魔王は調子が狂わされ、少々困っていた。
「と、とりあえず冷める前にを食おうぜ」
「はい」
「では、いただきます」
魔王は目の前に並べられた料理を、豪快に食べていく。
そしてエリナは上品に料理を食す。
「ま、魔王様、泣いてるんですか?」
「泣いてない! 目から魔力が溢れてるだけだ! 久しぶりに感情がある状態で飯を食ったんだ、旨すぎて何か込み上げてくるだけだ」
その様子を微笑ましくエリナは思いながら、手を進める。
「このスープ旨いな。ほどよい味付けに、野菜が口の中で溶けて、野菜の甘さが残る感じがいいな」
「お口に合ったみたいでよかったです」
「ほお、マスターが作ったのか」
「はい。スープだけですが」
「いやいや、貴族で料理ができるのはすごいな。大抵の奴らはできないぞ」
「学院で作る機会があったので、それで料理にはまっちゃたんです」
素直に褒められたのが嬉しくて、つい照れてしまっていた。
そしてなんやかんやありながら食事を済ますと、エリナが食器を片付けて実験室を後にする。
エリナが部屋を出た後、魔王は勇者召喚の魔方陣の近くに、胡坐をかいて座り、自身を中心に床に魔方陣を展開した。
その効果は周囲の魔力を集めるものだった。
魔力切れに近い状態の魔王は、夜の間に消耗した分の魔力を、自身の魔力回復力と周囲から魔力を吸収することで効率的に回復を行う。
そしてエリナは風呂を済ませ、自室で就寝した。
その夜は、悪夢にうなされることになるのだった。
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