第4話 魔王の問い
魔王は早速といった感じに質問をする。
「この時代には殲滅の魔王のこと、かつて神々との戦争があったことについて伝承が残っているか?」
「ご、ごめんなさい。聞いたことがありません。神々との戦争という所は、伝説として語り継がれていますが、魔王様の思っている元は、違うと思います。その中に殲滅の魔王という単語ありませんし、私も詳しくはわかりませんから……。もしかしたら学院の図書館なら何かあるかも、としか言えません。お役に立てず、すみません。」
「気にするな」
エリナは誠心誠意謝るが、魔王は全く気にしていない様子。
(流石に年月が経ちすぎて、俺達のことは忘れ去られたようだな。まー当たり前っちゃ当たり前か)
そして次の質問をする。
「旧人類は生存しているか? あ、そうだった。お前らには魔族って言ったほうがいいか?」
「ええと……?」
エリナは困惑したような表情を見せる。
だが、すぐに何か思いついたのか口を開く。
「人それぞれですが、頭部に角が生えてたり、翼があるといった特徴があるのが魔族です。魔王様の知っている種族でしょうか?」
「ん? 翼……」
魔王はそれを聞くと、何処か引っかかるような違和感を覚えた。
(確かに、俺らが知ってる魔族は似たような特徴があるが基本的に魔界に住んでいるし、二足歩行の獣みたいな連中も混じってるから、マスターのいう魔族とは違いうそうだな)
そして、エリナの知っている魔族が自分たちを指しているのかわからず、魔王はさらに聞いてみることにした。
「その魔族の中に、俺みたいに完全にヒューマンの見てくれのやつはいるか?」
「いるとは聞いたことがあります。が、割合的には付属品がついている方が多いです」
魔王は今の発言でピンッと来るものがあったらしい。
(俺らが知っている魔族に角や翼がない奴はハーフを除いて存在しない。つまり、何らかの種族と混じり合って新しい姿になったのか。……同胞たちが生きててよかった)
旧人類が絶滅していないことに安堵の息を吐く。
感情がなかった頃は、こんな思いをすることもなかったため、魔王は感情を失う前よりも、安心感が強くなっているのを感じた。
そしてここまで聞いて、なんとなく予想がついてはいるが、どうしても聞きたいことを口にする。
「ベルウォルゼって名前の国を知らないか? 魔族の国だ」
「聞いたことありません。魔族の国でなら何かわかるかも知れません」
「そうか。わかった」
予想通りの結末に、魔王はあっさりとした返事を返した。
どこか寂しさを感じているようだが、感情が戻ったばかりなのか、それを感情として理解できていないようだ。
その表情の変化にエリナも何か感じたようだが、余計なことは口にしないことにした。
「これが最後の質問だ。この時代の魔法は、最高で第何位階まで存在していることになっている?」
「第八位階が最強の魔法とされています」
エリナの返答に、魔王は目を丸くして驚く。
(まさか!? いや、一万年も時が進んだのだ。魔法の認識がズレていてもおかしくない……か。魔法が衰退してそうで怖いが、今はそういうことにしておこう)
最悪な場合から目を伏せ、自分なりに結論を出す。
そして魔王の驚いた顔を見て、エリナはもっと強い魔法があるのかも、と心の中でワクワクしていたが、今は殺されないことに意識を割く。
「そうか。……マスターからは何かあるか?」
「い、いえ。わ、私からは何もありません」
どこか怯える様にしながら、震えた声を出す。
そんなエリナを見て、魔王が先に彼女に伝えるべきことを告げることにした。
「マスター、言っておきたいことがある」
「!? ………」
その言葉にエリナは固唾を飲み、身構える。
「そう身構えなくいい。取って食おうとは思っていない」
それを聞き、エリナは肩の力が抜けるのを感じた。
「俺はお前を殺すつもりはない。そうだな……俺の扱いは友人みたいな感じで構わない」
「…………」
エリナは予想していたものとは違うことを言われ、一瞬言葉を失うがすぐに返す言葉を探す。
「え、えーと……わかりました。改めて、よ、よろしくね」
「まあ、最初はこんな反応になるか」
魔王は困った様子のエリナを見て、苦笑いを浮かべた。
「マスターって意外と肝が据わってるな」
「ど、どういう事……ですか?」
「俺と出会って直ぐの時は、恐怖でいきなり漏らしてたけど、少し時間を置いたら、普通に受け答えする当たりさ。しかも、何の警戒もしてないときた」
忘れていた事実を掘り返され、エリナは顔を真っ赤に染める。
「!! あ、ああああの時の事は忘れてください! お願い! だから……」
魔王をどうすればいいのか、ずっと考えていただけに、いざ思い出すと恥ずかしくなり、エリナは悶えていた。
そんな様子を魔王は愉快そうに眺めていた。
「あ! そういえば……あ、あの……私のお……あ、あれは?」
「数秘術で消滅させたから安心しろ」
「あ、ありがとう、ございます」
小さくお礼を言うと、その場は沈黙に支配された。
だが、それを破ったのはエリナだった。
「わ、私は肝なんて据わってないと思います。それにあれでもすごく警戒していました」
「まあ、そういう事にしておくよ。俺自身、強すぎる奴らを相手にしてたから、警戒についての感覚が狂ってるのかもな」
そういうと、魔王の脳裏に神やそれに匹敵する強者達の顔が浮かぶ。
流石に天と地程の差があれば、一介の学生の警戒なんてないに等しいものだろう。
そんな感覚を覚えながらも、魔王は本題を切り出すのだった。
「で、本題なんだが、俺は魔王でも倒せばいいのか?」
「え?」
エリナがキョトンとした表情を浮かべる。
「??」
魔王も理解が追い付かず、首を傾げるのだった。
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