第3話 少女と魔王
時はほんの少し巻き戻る。
エリナは、実験室を出て扉を閉めると、安堵したからなのか足から力が抜け、再び腰が抜けそうになり、背を壁に預けた。
ガタガタと震える体を抱き、深呼吸をする。
恐怖で乱れた息を整えると、大きく息を吐いて自室に向かう。
その時、使用人に今の姿を見られないように、慎重に歩みを進めていった。
そして自室に着くと、安心感を覚え、どっと疲れが押し寄せてくる。
そのまま休みたいという思いを押し殺し、エリナは先に着替えをすることにした。
濡れた制服のスカートとチェック柄の下着を脱ぎ、新しい服に着替える。
だが、上だけ制服なのに違和感を覚え、一式着替えることにした。
着替え終えるとエリナは、力なくベッドに座り込む。
「あ、あの化け物は一体? ……」
エリナは魔王について考えようとしたが、思い出すだけで恐怖で体が震えだす。
そんな自分をなだめる様に両手で体を抱く。
だが、魔王について考えないわけにもいかず、エリナは色々と思考する。
(な、何が原因であんな化け物が出てきたんだろう。召喚に失敗したから? でも、召喚されてるからそれは、あり得ない。じゃあ、手順が違った? もしくは翻訳ミス? 可能性はあるけど、召喚されてるからその線も薄いかも……。そうなると、魔法自体の解釈が違ってた可能性が高いのかな。大昔のものだから、私が思ってたのと違うのかも……。でも、どうしよう。あの化け物が相手だと退去させるなて、私には出来ない……)
結局は、魔王と話すしかない。
と、結論付けたエリナは、意を決して実験室に戻ることにした。
その道中、魔王と対峙したことで、精神がかなり消耗していたのか、エリナは眠気に襲われるが、彼女は首を横に振り、別のことを考えて気を紛らわせることにした。
(もし、翻訳ミスだったらどうしよう。召喚されてはいるけど、魔法全体の効果を読み間違えてたら……)
そんなことを考えるとエリナは体を震わせる。
(でも可能性は低いよね? 今、解読されてる考古学の知識を使っているし、さらに様々な時代の古代文字を参考にしながら解読したから間違っているわけ……。でも、それがあってる保証もない……か)
彼女にとって一番起きてほしくないことについて考えていた。
研究成果が、根本から違ってたなんて、エリナは考えたくなかったからだ。
無能と言われ続ける日々。
それを耐え続け、やっとの思いで辿り着いたのだから、これが正解であって欲しいと彼女は心の底から願う。
そうこうしていると、エリナは実験室に到着した。
「私が呼び出したんだから、その責任は持たないと」
覚悟を決め、ゴクリと唾を飲み込むと、扉をノックする。
「入ってくれ」
ほんの少し返事まで間があったことに、不安を覚えながらも、恐る恐る扉を開く。
死を纏った存在に再び会うことに抵抗を覚えながらも、部屋に入る。
しかし、目の前の存在が先ほどまでと雰囲気が違うことに、エリナは驚きを隠せなかった。
(さっきと違って、全く怖くない)
そんな様子の彼女に魔王が声をかける。
「どうした? ドラゴンがフレイムボールを食らった様な顔をして」
「……え、えーとそれを言うなら鳩が豆鉄砲を食らった様な顔ってこと……ですか?」
一瞬、思考を停止させながらも恐る恐ると言った感じで返事を返す。
「この時代だとそう言うのか」
意味は同じでも言葉が違うことに、魔王は時間の流れを感じていた。
そして読んでいた本をパタンッと閉じる。
それにエリナが肩をビクリとさせる。
「そんなとこに立ってないで、こっちに来て座れ」
魔王の指示に従い、エリナは彼の正面の椅子に座る。
「じゃあ、改めて。俺の名はアルス=マグナ。かつて人々に殲滅の魔王と呼ばれた存在だ」
「ま、魔王!?」
驚きで声を荒げる。
エリナは自分で召喚した存在が、かなり高位の悪魔だと予想していた。
流石に魔王が召喚されたなんて、考えてもいなかった。
そんな様子のエリナに、魔王が問いかける。
「お前が召喚主でいいんだよな?」
その言葉を聞き、エリナは停止していた思考が動き出した。
そして、はっ! と何かに気が付き、慌てていた。
「え……あ、うん。私がマスターで合ってると思い……ます。……あ! そうだった!! 名乗るのが遅れましたけど、私の名前はエリナ・ゼン・ヴィアーレと言います。よ、よろしく、お願いします……」
咄嗟に応える。
「ああ、よろしくな。それでいくつか聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「はい!」
エリナは殺されないように必死に、頭を回転させ、すぐ返事を返せるように身構えるのだった。
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