プロローグ2 滅びた神と朽ちる魔王
魔王が天界に向かってから、長い時が経った。
激しい戦いの末、最高神を滅ぼし、魔王自身も力尽き、朽ち始めていた。
魔王が漂っている場所は、もはや天界とは言えぬ場所。
そこは上下左右が存在せず、上下左右が存在し、様々な矛盾が成り立つ場所であり、物理法則や世界の法則、つまり天理すらも破壊され崩壊した場所。
空間が崩壊した事により、雷が発生し、地獄の業火の如き炎が吹き荒れている。
そして、とてつもない熱を誇る場所に吹雪が起こっていた。
その様な現象が発生してはすぐ消えるを繰り返す場所もある、異常な空間。
当然のことだが、大気すらも破壊されており、生命体が生きることは不可能。
この場所に、外部のものが入れば瞬く間に、命が有ろうが無かろうが問答無用に破壊されてしまう。
この現状を作ったのが魔王であり、魔王が持つ最強の魔法により、破壊された場所がここなのだ。
「我もここまで……か。最高神の悪あがき、流石と言わざるを得ないな」
魔王は何の感情もなく、一人呟く。
その目は死への絶望もなく、恐怖もない。
最高神の最後の悪あがきを直撃した魔王は、自身の体が朽ち始めているのを冷静に分析し、把握していた。
「……勇者からの贈り物が無ければ、もう少し長引いていたな」
魔王は短く目を瞑り、最高神との戦いを思い出す。
そして生命活動の限界を感じ取る。
「さて、そろそろ行くか。詠唱をするのも久しぶりだな」
小さく呟くと魔王は、詠唱を始める。
「――我、世界の理からはずれし者。円環の輪への帰還を拒絶し、新たなる生をこの身に宿さん。今ここに時代の壁を越えし、召喚の輪を改変す」
詠唱を終え、魔法の名を紡ぐ。
「――円環の輪への帰還を拒絶し、呼び声に応え時代を流転し生きる者」
幾つもの魔方陣が出現する。
一つ一つが精巧に作られた魔方陣であり、その中に更に魔方陣が組み込まれていた。
そして魔王を中心に立体魔方陣が完成した。
この魔法は、魔力の最大値を消費する魔法。
故にほぼ魔力切れの魔王が、魔法を行使できたのだ。
「――レムディセウム」
魔王は自身の力を六分割し、この時の為に世界の様々な場所に建設していた力の保管施設へと、その力を転送する魔法を使った。
しかし、どの能力がどこに保管されるかは魔王ですらわからない。
そしてやることを終えるとちょうど、魔法が発動する。
一万年後の時代のどこかで、召喚魔法が行使されたようだ。
「今から行く時代は、神が人を滅ぼそうとしていないことを願おう」
その言葉を最後に転生召喚魔法が完全発動し、魔王は光の粒子となり、魔方陣に吸われるように消えてしまった。
そして魔王の前にいたのは金髪の少女だった。