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第14話 編入試験1

 編入試験当日。

 魔王はエリナの案内で学院に向かっていた。

 一万年前と変わらない街並みを眺めながら、歩みを進める。

 大通りは人で賑わい、活気ある街だ。


「ここら辺は来たことなかったが、結構出店もあるんだな」

「色々なお店があって飽きないでしょ。特に串焼きとかは、手軽に食べるから私のおススメなんだー」


 楽しそうに言う。

 気が付けば観光案内と化していた。

 そのことに触れることなく、魔王は屋台などのメニューを聞く。

 感情が戻ってから見る屋台は、それは好奇心がそそられる物ばかり。

 屋台自体は見慣れているが、時代が違えば内容も違う。

 香ばしい匂い堪能しながら進んで行く。

 雑談をしながらのんびり街並みを楽しんでいると、あっという間に学院へ到着した。


「着いたよ。ここが王立ルミナス学院」

「なんか城塞感ある見た目だな」


どこか既視感を覚える。

その既視感の正体が、かつて通っていた学校と似たような見た目だったことに気がつくと、魔王は小さく笑った。


「この学院は、緊急時の避難場所になってるから、こんな見た目になってるんだって。それに学院の地下にはダンジョンがあるから、魔物が外に出ないよに作られてるって聞いたことがある」

「なるほどな~。時代が変わっても作りは似るものなんだな」


 二人は話しながら、学院の門を潜る。

 中に入ると校舎に目がいくほど、立派な物が立っていた。

 そして周囲に目を向ける。

 かなり広い作りで広場の様な物から訓練場まで様々なものがある。

 少し進むと一人の女の教師が待っていた。

 褐色肌の金髪で、大人というよりは見た目は完全に少女であり、エリナと歳はさほど変わらない様に見える。

 むしろ、エリナよりも幼いように見えてしまう。


 そんな少女を見て、魔王はピクリと片眉を動かす。

 何かを感じ取った様に。


「時間通りね」

「先生、この人がユリウス・アルバート君です」


 魔王アルス=マグナは、本名であるユリウス・アルバートとして学院の書類に名前を書いていた。

 これは魔王が……ユリウスが魔王と言われる程の力を現状保持していないから、魔王としての二つ名を呼ばれたくなくて、名前を変えたのだ。

 本人なりのけじめというやつだ。

 エリナもこの事には同意しているが、つい「魔王様」と口走ってしまうこともしばしばあり、入学試験までに治るのかと、ユリウスは内心、心配していたが杞憂だった。

 

「ユリウス・アルバートだ。今日はよろしく頼む」

「はい。ゾーイ・リ・ミッシェルです。よろしくお願いします」


 互いに簡単な自己紹介を済ませ、試験会場に向かう。


「会場はこちらです。付いて来てください」


 そう言って会場までの案内を始める。


「ユリウス君はどんな魔法が得意なんですか?」


 道すがら興味本位に聞いてくるゾーイ。

 

「火力特化の魔法で、単体と範囲の両方だな」

「ふふ。実技試験が楽しみになってきました」


 本当に心の底から楽しみしている時の笑み。

 それを見ながらもユリウスは、何も感じない。

 とりあえず、話を合わせる。

 そんな様子だった。


「所で二人はどの様な関係なんですか?」


 意外と聞きづらいことを、躊躇なく言う。


「え、えーと、それは……」


 少し頬を赤く染めるエリナ。

 そしてなんていえば言いかわからず、言葉を探す。

 だが、そんなことをしている間に、ユリウスが口を開いた。


「俺が魔法を教えてるって感じの関係だな」

「最近、エリナちゃんの魔法が伸びてきたのは、そういう事だったんですね」


 どこか腑に落ちたという感じだ。

 そしてエリナはどこか納得していない様子。

 ユリウスに少し好意があるようだが、ユリウス本人は全く気付いていない。

 否、気づいてはいるが、気づかないフリをしているのかもしれない……。

 感情が戻ったばかりで、その辺はかなり疎くなっているのだから。


「どうやって魔法を上達させているのか興味があるけど、それはまたの機会にしますね」

「?」


 その言葉に首を傾げるユリウスだったが、すぐにその理由がわかった。


「到着しました。ここが筆記試験の会場です」


 ゾーイが扉を開け、入るように仕草で促す。

 それに従い二人は教室に入っていく。


「ユリウス君はそこの席に座って。今問題を用意するからちょっとゆっくりしててね」


 そう言って教室を後にする。


「思ってたより広いな」

「かなりの生徒が通ってるからね。……そういえば調子はどう? 何とかなりそうかな?」

「ばっちりだな。どんな問題でもかかってこい! ってやつだ」

「ふふ。それなら心配なさそうだね」


 自身に満ちた声を聞き、エリナが微笑した。

 そして間もなくして、試験問題を持ったゾーイが戻って来た。


「これが問題用紙で、こっちが解答用紙ね」

「後どれくらいの試験があるんだ?」

「筆記試験は、これだけだよ。各科目の先生が全力で作り上げて、これに凝縮した感じかな」

「お、おう」

 

 そこそこの厚さを誇る問題用紙を見て、嫌な汗が背筋を伝う。


「試験時間は二時間半。出来次第、切り上げることも出来るから、その時は申告してね」

「わかった」

「では、はじめ!」


 合図と共に問題を開く。

 びっしりと敷き詰められた文字を見て、溜め息を吐く。

 まず、ぱっと見でわかる物から埋めていく。

 複雑な問題や難しい問題は後回しにする作戦。


 エリナがゾーイの隣に座っていた。

 そしてユリウスが解いている問題に目を向ける。


「これ中々の難易度ですね。先生」


 小声で話す。


「編入試験はいつもこんな感じだよ。むしろ、いつもより難しく感じるかも。エリナちゃんが解くとしたらどう?」

「うーん。……簡単に見た感じ、数か所くらいしか難しい問題はありません」

「流石ね。座学のトップ争いをするだけあるわ」


 褒められたことが、素直に嬉しくて顔に出ていたが本人は全く気が付いていなかった。

 その様子にゾーイが小さく笑う。


(魔王様、大丈夫かな? さっきはああ言ってたけど……これ、数週間勉強したくらいで解ける様な難易度じゃない。むしろ、解ける方が不思議に思うくらい)


 ちらりとユリウスを見る。

 ペンは止まることなく、常に動いている。


(ここの魔法の問題は、魔王様にとってはボーナス問題かも)


 問題に目を通しながら、分析していく。

 エリナにとっては、かなり楽な分類の問題だと結論を出した。

 普通は、並の知識ではまず解けない問題である。

 だが、魔法などの知識を磨いていたエリナだからこそ、楽だと感じられた。


「頑張って」


 小さく呟く。

 ゾーイにすら聞こえない位の大きさで。

 そして魔王はペンを動かしてはいるが、頭を抱えていた。


(歴史の問題なんてわかるわけないだろ!? やった所が見事に出てないとは……流石、俺だな)


 ユリウスが山を張ると昔からかなりの確率で外れていた。

 その経験があるだけに、かなり落ち着いて見える。

 むしろ開き直っているといった方が正しいくらいに。


(この問題、そもそもが間違ってないか? 魔法式の間違いを答えろと書いてるが、この魔法式自体が破綻してるぞ)


 正しい物を書くか。

 それとも間違った物を書くかで悩んだ末、正しい物を書くことにした。

 魔法に関する問題が間違えだらけで、別の意味で頭を抱え始める。

 この時代の人間なら、正解は簡単に導き出せるだろう。

 だが、昔の時代出身のユリウスからしたら、魔法式が破綻しすぎていて、原型となる魔法を見つけるのに苦労していた。

 そしてご丁寧に全ての魔法式を正しい物、つまり最適化された物に書き直していた。

 それ以降は純粋に難易度の高さと文字を誤訳しそうになるくらいしか頭を悩ませることが無かった。

 全ての問題を解き終わったのは終了一〇分前だった。

 問題を解き終え、見直しも済ませると手を上げゾーイを呼んだ。


「終わったぞ」

「本当に終了でいい? まだ少し時間が残ってるけど……」

「回収してくれ。これ以上やっても思いつかないだろうしな」

「わかった」


 そう言って問題用紙と解答用紙を回収する。


「三〇分の休憩後、訓練場に向かってね。場所はエリナちゃんに案内してもらって」


 そう言い残してゾーイが教室を後にした。


「疲れた〜!!」


 席を立ち、大きく背伸びをする。


「お疲れ様」


 そう言ってエリナが微笑する。

 その笑みに癒されるユリウス。


「これさっき買って来たんだ。口に合えばいいけど」

「ありがとな」


 飲み物を受け取ると、すぐにそれを飲む。


「さて、次の会場に向かうか」

「休まなくても良いの?」

「さっさと終わらせて、試験とはおさらばしたいしな」

「あはは……」


 どこか呆れ気味に苦笑いを浮かべる。

 二人は校舎を出て、ゆっくりとした足取りで訓練場に向かう。


「魔法に関する問題はどうだった? まお……ユウ君にとっては簡単だったかな?」

「間違いが多すぎて、難問だったぞ。何の魔法かさっぱりだしな」

「あー……」


 言葉が出ない。

 正しい魔法の作り方を知ったエリナだからこそ、今のユリウスの気持ちがよくわかった。

 魔法の構築が間違えだらけのこの時代で、魔法式を見て何の魔法か当てるのは、中々に骨が折れる。

 

「じゃ、じゃあ他の問題はどうだった?」

「ばっちりだな。マスターには、感謝しかない」

「教えたことが、役に立ったなら私も嬉しいな」

「?」


 ユリウスが小首を傾げる。

 その反応にエリナも不思議そうにしている。


「えーと……」


 その疑問に答えるようにユリウスが口を開く。


「マスターの心を読ませてもらったおかげで、何とかなったぜ」

「ま、魔法を使ってたの!?」

「こ、声がでけーよ!」


 焦りから声を荒げる。


「そ、それってカンニングじゃ……」

「バレなきゃいいんだよ。魔法の隠蔽や探知をさせないようにする技能を使えば、楽勝だぜ」

「うわー。ここまで酷い能力の無駄遣いは初めて見た」


 呆れを通り越し、感嘆の声が漏れる。

 ここまで堂々とされると、流石に褒めざるを得ない。

 まさか技術の穴を突くことをするとは、エリナも思ってはいなかったようだ。

 この時代で魔法の痕跡を残さないレベルの隠蔽は、超が幾つもつくような魔導士にしか出来ない。

 それを看破する魔法は存在するが、一学院の教師が出来るような品物ではない。

 ユリウスの時代なら出来て当然の物だったが……。


「着いたよ」

「でかいな。外見も闘技場みたいだし……」

「当たり前だよ。ここが学院で一番大きい実技訓練場なんだから」


 二人して闘技場の様な外見の実技訓練場を見上げていた。


「私も初めて見たときは、すごく驚いたんだよ」

「だろーな。ここまでの立派なもんはそうそう見つからないだろ」


 ユリウスも作りや付与された魔法を見て、関心していた。


「じゃあ、入ろうか」

「そうだな」


 そう言って二人は、訓練場に入っていく。

 中も見た目通り、かなり広い。

 行き来がしやすい様に作られており、柱にはちょっとした装飾も施されている。

 ユリウスは辺りを興味深げに見渡しながら、エリナの後を追う。

 そして二人は訓練場の実技場に出た。

 

 外観通りの設計で、実技場は観客席に囲まれていた。

 闘技場と言われても、全く遜色がない。

 予想通りの設計だが、ほえー、と何とも言えない声が出てしまった。

 それを聞いて、エリナがクスリと笑う。


「結構早すぎたか?」

「た、多分……」


 周りを見渡すが人の気配がない。

 正確にはユリウスだけ気配に気が付いていたが、目視できる範囲にいない。

 そして少し遅れて、一人の男性教員が反対の入り口から現れる。

 ぱっと見の印象は筋肉。

 その一言で片づけられるくらい、がたい良い。


「始めるのはもうちょい待ってくれ。もうすぐゾーイ先生も来るだろうから」

「ああ、わかった」

「その間に使う武器を選んでくると良い。試験内容は、模擬戦形式の近接戦だ」


 頷いて返事を返す。


「こっちに模擬戦用の木剣があるから付いて来て」


 その言葉に従い、保管室に足を向ける。

 そして保管室に入る。


「もはや武器庫だな」


 中は模擬戦用の武器から実戦用まで、様々なものが取り揃えられていた。

 

「魔王様は何を使うの?」

「素直にこれだな」


 手に取ったのは使い慣れた片手直剣。

 だが、剣身の長さも個々で違い、幾つか手に取り、しっくりくる物を探す。


(色々ありすぎて悩むな。しかも絶妙にいい感じの長さと重さの奴が、見つからない)


 そして長々と悩んで末、直感で良さそうな物を二本選んだ。

 めんどくなったらしい。


「決まった?」


 剣や弓を見ていたエリナが、振り返る。


「ああ。戻るか」

「うん」


 実技場に戻ると、ゾーイが観客席、それも一番見ごたえがある場所、特等席に堂々と座っていた。


「準備はいいか?」

「いつでもいいぜ」


 エリナが邪魔にならない位置に移動したのを確認すると、二人は数歩下がり剣を抜く。

 ユリウスは腰に二本剣を差していた。

 負けそうになったら、使うつもりのようだ。

 ゾーイが立ち上がる。


「それでは始め!」


 拡声魔法のおかげで、声が実技場に響く。

 その合図と共に実技試験が始まるのだった。


『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。


誤字や脱字があるかもしれませんが、温かい目で見ていただけたら、幸いです。

誤字報告なども受け付けているので、気軽に感想と一緒に添えてもらえたらうれしいです。

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