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43 聖龍

 ◇ :一人称視点への切替or場面転換(一人称継続)

◇◇◇:三人称視点への切替or場面転換(三人称継続)

 スタンピードで魔力切れを起こしたが、ゆっくりと眠ることで無事に回復した私はみんなと一緒に、この街でミンネ聖教の司祭をしているという人物から話を聞いていた。

 その話というのは無論、昨日現れた龍のことである。


「聖龍ミティエーリヤ様、ですか?」

「はい。実際にお目に掛かれなかったというのは非常に残念ですが、皆様からの目撃情報から推察するに聖龍ミティエーリヤ様で間違いないかと」

「えっと……大変申し上げにくいんですけど、聖龍ミティエーリヤ様ってどんな龍なんでしょう?」


 私のこの発言に司祭さんはひどく驚いた表情を見せる。

 ……申し訳ないのだが、私は結構ミンネ聖教団にお世話になっている割にはあまり教団について詳しくないのだ。

 その後、ちゃんと司祭さんは聖龍について話してくれた。


「聖龍ミティエーリヤ様はかつて女神ミネティーナ様が邪神メフィストフェレスと戦われていた時代に人類へと味方した龍であられます。女神様や大精霊様とも関わりがあったとされ、邪神が封印された後はここから西、海を渡った先にある“光の霊堂”をお守りくださっております」

「光の霊堂ですか?」

「ええ、毎年祭礼の日になると我々聖職者は祭礼品を光の霊堂がある“龍の孤島”へとお届けしますが、すぐに引き返しますので実際に訪れたことはありませんがね……」


 遥か昔に人類へと味方した聖龍と邪神を封印するために重要なものであるという霊堂か。気になる単語がたくさん飛び出してくる。

 そうなるとやはり疑問も出てくるものである。


「その聖龍様と会ってはいけないということですか?」

「いえ……1000年近く前の記録では教団とも交流があったされているのですが、ある日聖龍ミティエーリヤ様が『ここ数百年は忙しくなるから、少し会うのは控えてもらえると嬉しい』と仰ったため、我々はそのお言葉を今も守っているのです。ただ……具体的な年数も分からず、実際にお会いして確かめることもできないので……」


 まあ、偉大な相手から「会うのを控えて」と言われたら会うこともできないか。

 数百年というのもざっくりとしすぎているし、思ったよりも適当な人なのかもしれない。人ではなく龍なんだけど。

 これじゃあ望み薄だが、やれるだけやってみるか。


「私たちが会いに行くっていうのは駄目ですか? 私、今回その聖龍様が人間を助けに来てくれたのには意味があったと思うんです。逆に、相手が来てくれたのにお礼を言いにもいかないのは失礼に当たるのではないかと」

「た、たしかに……」


 話しているうちにいい感じの理由が思い浮かんだので口にしてみた。

 この反応、あまり難しく考える必要はなかったのかもしれない。


 少し議論する必要があるということで、また1週間後くらいにここに足を運ぶことになった。

 それまで私たちは魔素鎮めを終わらせていこうと思う。

 優先順位的には今回、スタンピードが観測された場所が最優先で、他の小さな異変があった場所も可能な限り巡っていきたいと考えている。




 そうして忙しい1週間はあっという間に過ぎ、ハーモニクスという新しい力のおかげもあって私たちの魔素鎮めは順調に進んでいった。




    ◇




 会議によって決まったのは、聖龍ミティエーリヤ様に会って今回の件の御礼と約束事の確認をすること、迫る邪神の脅威に対抗するための協力関係を築くことだ。

 立場的にも私が適任であるということで私とコウカたちが行くことに決まった。

 海を渡らなくてはいけないということで船も用意してもらって、私たちはそれに乗って運んでもらうことになる。


 そうして私たちは西の港町へと向かった。


「うわぁ、これが海!? 全部水だよ! すごい、すごいよ、ねえ!」

「すごく青いし、広いね……! この風も何だか変な感じ……!」

「これって海の匂いなのかしら?」


 初めて海を見たみんなが海に釘付けになる。

 海を見たことのある私だってこんなに綺麗な海を実際に見ることなんて全然なかったから、気分が高揚している。

 私たちの中でも特にダンゴとシズクの興奮が凄まじいが、コウカとヒバナも少しうずうずとしているのが見て取れる。

 今日はあまり海に触れる時間を取れそうにないけど、いずれは時間を取って遊びに行ってもいいかもしれない。




 港町に着いた私たちはその街で一泊してから早朝に用意されていた船に乗り込み、出港した。

 甲板上では間近に海が見えるということでみんなが外に出て海を眺めていた。

 私もこの世界に来て三半規管が強化されたのか、全く船酔いの心配がなかったので心置きなく船旅を楽しんだ。

 ただ1人、ノドカは暢気に寝ていることを報告しよう。


「すごいね、魚がたくさん泳いでる!」

「そんなに乗り出すと落ちてしまいますよ」

「シズもよ、気を付けてね」


 水面を眺めていると魚の姿も見えたりして、結構面白い。

 あれは何だ、これは何だと好奇心旺盛な子たちが盛り上がっている。

 コウカとヒバナも海を眺めながらもその子たちに気を配っていた。


「…………吸い込まれて、しまいそう……」

「あはは、もしそうなっても私が引っ張り上げるから大丈夫だよ」


 船の縁から海を見下ろしていたアンヤの呟き。

 独り言だと思うけど、少し不安そうに見えたので言葉を返した。

 まさか言葉を返されるとは思わなかったのか、バッと振り返ったアンヤと見つめ合う形となる。

 私が首を傾げると、彼女は目を細めて――僅かに口角を上げた。


「……ありがとう、ますたー……」


 初めて見たアンヤの表情。

 それは笑顔と呼べるものではないかもしれないが、彼女は表情で気持ちを表現してくれた。

 その嬉しさといったらもう言葉では表すことができないほどだった。

 ――そして、妹の新たな表情に小さな姉も反応を示す。


「あれっ? アンヤ笑ってる!? アンヤが笑ってる!」

「…………うるさい」

「もう照れるなよ! ほら、笑顔、笑顔!」

「……照れてない。……やめ、て……」


 絡みついて自分の頬を引っ張り上げようとしてくるダンゴをアンヤが鬱陶しそうに跳ね除けようとするが、ダンゴは全く意に返さない。

 そもそも力ではダンゴのほうが上なのだ。

 結局アンヤはダンゴのことを退かせることができなかったため、最終的には影に潜り込んで逃げ出していた。


「あの子も随分と変わったわね」

「そうだね。よくお話してくれるようになったし……」

「ま、そのおかげで少しは何考えてるか分かりやすくなったわよね。今のあれは恥ずかしがっていたというより、本当に迷惑に思っていたやつよ」

「なっ、アンヤ! それってホント? そんなに迷惑だった……?」


 ヒバナとシズクの会話を聞いたダンゴがショックを受けた顔でアンヤへと近付いていく。

 それを見たヒバナがやってしまったと言わんばかりに気まずそうな表情をしながら、口を押さえた。

 そんな彼女をコウカが肘で突く。


「……もう、ヒバナ。考えなしすぎます」

「ぅ……コウカねぇに言われるのは癪だけど……失敗だったのは認めるわ」


 ヒバナも人を悲しませるのは本意ではないだろう。それが普段から無邪気に甘えてくる妹なら尚更だ。

 彼女は縋るような視線をアンヤへと向けた。全てはアンヤの返答に掛かっていると言える。

 物理的にも精神的にも縋り付かれているアンヤは、悲しそうな顔で自分と目を合わせるダンゴとしばらく見つめ合った後、ゆっくりと言葉を発した。


「…………迷惑……じゃ、ない……」

「ホント!? 嬉しいよ、アンヤ!」


 ガバッと勢いよく抱き着いてくるダンゴを今度は退けようとはしなかった。否、できないのだろう。

 為すがままにされている中、アンヤはせめてもの抵抗として恨みがましい視線でヒバナを見つめていたので、見つめられていた彼女は大変居心地が悪そうに無言で両手を合わせて謝っていた。


「むっ……何ですか、あれは!?」

「えっ? うわぁ、おっきな魚だ!」


 突然、コウカが大きな声を出すのでみんなの視線がコウカから彼女の見ている先へと移る。

 アンヤとじゃれ合っていたダンゴも釣られて目を向けると、興奮した様子で声を上げた。


 私が見たのは、遠くの方で黒くて大きな身体を持つ動物が海面から飛び出してきている瞬間だった。

 その動物はまたすぐに大きな水飛沫を上げながら水中に潜ってしまったが、その姿だけで私はそれが何なのか気付いた。


「すご……あれ、鯨だね。魚じゃなくて私たち人間と同じで哺乳類なんだよ。……前の世界だとね」


 そもそもこの世界が動物をどう分類しているのかすら知らないので、私の知識はこの世界でも通用するのか分からなかった。

 それでもみんなは興味津々と言った様子で私の話を聞いてくれた。




「わぁ~大きな山が~見える~」


 コウカに抱き着くような形で眠っていたはずのノドカが暢気な声を上げた。

 彼女が指さした先には船首があり、さらにその先には薄っすらと島らしき影が見えている。そして確かに島の中心にはとても大きな山があった。


「あー……あの島はいわゆる火山島ってやつじゃないかな」


 私もあまり詳しくはないのだが、知っているだけのことをみんなに教える。物知りのシズクもこれは初めて聞く話なのだそうだ。

 話している間に船が進んで徐々に島の姿が見えるようになっていく。島全体が緑色に覆われており、山の様子からも火山が活発ではないことが分かった。


 その後、甲板上に出ていた司祭さんの言葉によってあの島が“龍の孤島”と呼ばれる島であることが判明した。




    ◇




「こちらが上納品となります。我々はこの場所で待機しておりますので、どうかお気をつけて」

「わかりました。みんな、行こう」


 聖龍ミティエーリヤ様へと渡す物が入っている木箱を受け取り、《ストレージ》へと収納する。

 木箱の中身は宝石だそうだ。

 こんなもので龍が喜ぶのかなと少し疑問に思ったりもしたが、古来よりそのようにしてきたらしいのでこれでいいのだろう。


 さて、聖龍ミティエーリヤ様を探さなければならない。

 どこにいるのかは誰にも分からないので、まずは山の中腹にあるとされる光の霊堂へ向かうことにした。


「……やけに静かですね」

「ボクたちがここに来るまでは声がしてたのにね」


 魔物も動物の1匹も出てこない。

 不思議なのは、島に上陸した直後くらいまでは聞こえていた鳥をはじめとする動物たちの鳴き声も聞こえないということだ。

 今、耳に入ってくるのは海風の音くらいだった


「……見られてる」

「アンヤ、何か感じるの?」


 視線を前に向けたまま、アンヤは頷いた。

 その言葉でみんなも徐々にどこかから視線を向けられていることに気が付いたようだ。ちなみに私は全く分からない。

 仕方がないので、ノドカを頼ることにする。


「ノドカの索敵だとどう感じるかな?」

「う~ん……遠くに~魔物さんが~たくさん~。だけど~見てるだけ~?」


 ファーガルド大森林で黒い魔物に遠くから見られていた時を彷彿とさせる状況だが、あの時ほどの不快感はこの空間にはなかった。


「ジッと見られ続けるのって落ち着かないね……」

「襲ってくるなら襲ってくるでハッキリしてほしいわ」


 ただあの時ほどの不快感がないとはいえ、落ち着かないのは確かだ。


「とりあえず今は注意しながら進もうか」


 私の言葉に全員が頷いてくれた。

 相手が何を考えているのかが分からないので、今は警戒しながら進むほかない。


 そうして、しばらく歩き続けていた時だった。急にノドカが「魔物さんが~動き出しました~」と声を上げた。

 周囲の草木がガサガサと揺れはじめた途端に私とノドカを中心にしながら全員が背中合わせとなるよう、円形に並んで周囲を警戒する。

 緊張感が高まる中、姿を現したのは種族を問わない魔物たち。

 近付いてくる彼らにみんなが身構えるが、彼らは私たちから一定の距離を保つようにして立ち止まった。


「敵意がない……?」


 コウカの呟き通りに彼らからは敵意も殺意も感じない。

 僅かな警戒心は感じるが、張り詰めるような空気も肌に突き刺さるような攻撃的な視線もなかった。

 そのため、私たちも攻撃するわけにもいかずに睨み合うような状況が続いていた。

 ――そんな時だ。どこからかこの場に不釣り合いな少女の声が聞こえてきた。


「待ってたの、きゅーせーしゅ。本当におかーさんが言っていた通りになったの」


 声と共に私たちの前に姿を現したのは大きな狼とその背中に跨り、銀色の髪を靡かせている幼げな少女だった。

 ――どうして、こんなところに女の子が?


「あなたはいったい――」

「マスター、下がってください」


 私が少女に問い掛けようとした時、そんな私を手で制したコウカが剣をまっすぐ少女へと向けた。

 突然のことに頭が追い付いていないでいると、周囲を取り囲んでいた魔物たちから明確な敵意を感じるようになった。


「あれは少女ではありません。感じませんか、あの力を」


 コウカに言われて、その少女の力を感じ取ろうとすると驚愕した。

 どうして気付かなかったのだと疑問に思うくらい、目の前の少女からは強大な魔力を感じる。


 まさに一触即発の睨み合いが続いている光景を気怠げな目で見ていた少女はため息をついた。


「はぁ……お前たち、もうやめるの。そっちの精霊も剣を下ろしてほしいの」


 驚くことに少女のその声で張り詰めるような空気は霧散した。

 魔物たちが彼女の言うことを聞き、私たちに敵意を向けることをやめたのだ。

 ――それでも、うちの子はやめないのだが。


「わたしがその要求を素直に呑むと思いますか?」


 少女の言うことをコウカが聞く理由はない。だから、今度は私の番だろう。

 私は彼女の剣を握る手をそっと上から握った。


「コウカ、剣を収めて……ね?」

「でも……!」

「あの子には私たちを攻撃する気はないよ。そうでしょ?」


 剣を向けられて、周りの魔物が敵意を剝き出しにした時だってあの少女からは私たちをどうにかしようという気は少しも見えなかった。

 確認のために少女へと問い掛けた時、彼女のアメシストのような綺麗な瞳と視線が交差する。

 そして少女は確かに頷いた。


「招いた相手を傷付けるなんて真似、シリスがするわけないの」


 少し冷静になったコウカはそっと剣を下してくれた。でも《ストレージ》に収納しないということはまだ警戒はしているのだろう。

 そのことに関して少女は気に障った様子もない。


「招いた?」


 ヒバナがそんな疑問を口にした。招いたというのは先程の少女の言葉だろうか。

 たしかに、私は少女からここに招かれた覚えはない。ここに来たのは、聖龍ミティエーリヤ様に会うためだ。


「人間は義理と人情を重んじる……とかおかーさんが言ってたの。だから、助けてやればこの場所まで来るって思ったの。この間ぶりなの、きゅーせーしゅ。そっちの精霊もなの」

「え~わたくし~……?」


 少女が私を指さし、次にノドカを指さした。

 どうやら救世主とは私のことのようだ。ノドカのことも精霊と言っているし、益々この少女のことが分からなくなる。

 指を向けられたノドカは困惑していた。そういう私も彼女に助けられた覚えどころか会った覚えすらもない。


 いや待てよ。あの瞳……あの色、どこかで見たような気がする。

 そうだ、龍。まさか――。


「あなたはあの時の龍? ってことは聖龍様?」

「せーりゅー? たしかにシリスは龍だけど、シリスニェークっていう名前があるの」


 目の前の少女が龍であるというのにも驚きだが、私の周りにはスライムの少女たちがいるのでまだ理解できる。

 でも問題はそこじゃない。


「シリスニャ……シリスニェーク? ミティエーリヤ様じゃないんですか?」

「ミティエーリヤはおかーさんの名前。シリスはシリスニェークなの」


 おかーさん……お母さん。ミティエーリヤ様は彼女のお母さんの名前。

 ということはだ、彼女は聖龍ミティエーリヤ様の娘ということになる。

 ――どういうことなのだ、司祭さん。

 娘がいるなんて話、全く聞いていない。……いや、教えてくれていないのではなくて、司祭さんも知らなかったのだろうか。


「えっと、シリスミェ……シリスニェーク様――」

「シリスでいいの。様とか、敬語……とかも別にいらないの」


 私が噛み過ぎたせいではないと思うが、彼女から許可を貰えたのでありがたくそれに甘えさせてもらおう。

 正直、目の前の女の子が龍には見えないのでやりづらかったのだ。


「じゃあシリスって呼ばせてもらうね。この間は助けてくれてどうもありがとう、シリス」

「別にいいの。シリスもきゅーせーしゅにこの島に来て欲しかったから助けただけなの」


 救世主という呼び名にムズムズする。

 たしかに私は救世主になってくれとは言われたが、救世主ではない。そもそも、どうしてシリスが私を救世主と呼ぶのかもわからない。


「あのさ、シリス。シリスは私を救世主って呼ぶし、コウカたちのことも精霊って呼ぶけど……どうして?」

「10年くらい前にそのうち世界にきゅーせーしゅが現れるっておかーさんが言ってたの。きゅーせーしゅはおかーさんよりも強いかもしれないって言ってたからすぐに分かったの。精霊もシリスくらい強いのもいるって言ってたから分かるの」


 10年ほど前に聖龍ミティエーリヤ様は救世主が現れるという予言のようなものを出していたのだろうか。……そのうち現れるって結構アバウトであるというのは置いておいてだ。

 救世主という呼び名も落ち着かないが、そのうちそう呼ばれるのも普通になるのかもしれないし、別にいい。


 さて……聞きたいことはまだあるとはいえ、どうしようか。

 上納品も聖龍ミティエーリヤ様に渡さなければならないが、シリスがこの島に私たちを招いた理由も知りたい。

 ここで遠慮していても仕方がないので、直接彼女に聞いてみることにしよう。


「シリス。私たち、あなたのお母さんに会いたいんだけど、シリスの用事が先の方がいいかな?」


 その時、一瞬シリスの表情が曇ったのを私は見逃さなかった。

 だが彼女はすぐに表情を取り繕ってしまう。


「とりあえず付いてくるといいの。話は歩きながらするの」


 そう言うと彼女を乗せた狼は180度転回し、大きな山に向かって歩き出す。

 周囲の魔物たちは元来た方向に引き返していく者やシリスに付いていく者など様々だった。

 そして私たちは、シリスに付いていく魔物たちと一緒に彼女の後を付いていった。魔物と肩を並べて歩くというのはどうにも不思議な気分だ。




 シリスの後を追うこと数分、私たちとシリスの間には会話はなかった。


「ちょっと……あの娘、何も喋らなくなったわよ」

「歩きながら話すって言ってたのにね……?」


 ヒバナとシズクがこそこそと言葉を交わす。

 どうにも話しかけづらい雰囲気を醸し出しているせいで、誰も彼女に話しかけることができない。

 このままでは埒が明かないので誰かが話しかけることになったのだが、当然のように私がその役割を受け持つことになった。

 まずは何か当たり障りのないことから聞いてみよう。そこを会話の糸口にするのだ。

 ――当たり障りのないこと……当たり障りのないこと……。


「シリスって、今年で何歳になるの? いや、ミティエーリヤ様に娘がいるって話は聞いてなかったからさ」

「乙女に年齢を聞く野郎は万死に値するクソ野郎だっておかーさんが言ってたの」

「えぇ……」


 ちょっと過激すぎないだろうか。自分の娘になんてことを教えているんだ。


「まあ、きゅーせーしゅは野郎じゃないから別に答えてあげてもいいの」


 男じゃなかったら別に教えてもいいらしい。

 そういうことじゃない気もするけど、彼女が良いと言っているのだからいいのだ。


「シリスは今年で794歳なの。まだまだ一流の龍まで遠いの」

「は!? な、794!?」


 ――めちゃくちゃ年上だった。

 揶揄っているわけではないだろう。

 彼女のお母さんである聖龍ミティエーリヤ様は遥か昔から現代まで生きている龍だ。龍とは長命な生き物なのだというのは容易に想像がつく。

 ……待てよ。ということは1000年くらい前に聖龍ミティエーリヤ様が言った数百年くらい忙しくなるというのはもしかして、子育てだったとか……いや、まさかね。


 そんなことを考えていた時のことだ。突如、地鳴りと共に地面が揺れはじめた。


「わ、なになに!?」

「地震!?」


 揺れはしばらく続いたが、やがて収まる。

 結構な大きさだったようにも感じるが、慌てていたのは私たちだけだったようだ。

 シリスはただ無言で山のある方角に目を向けていた。


「……この島ってよく地震が起こるの?」

「最近は頻繁なの。そして、その理由も分かってるの」

「理由って?」


 私の問いに狼の上でシリスが振り返る。

 彼女は少し目を伏せ、口を開いた。


「あの山の中で龍が暴れてるの」


 この地震は自然のものではないということなのか。でも、これほどの揺れを引き起こす龍とはいったい何者なんだ。

 シリスは伏せていた目を上げ、私たちを見渡す。


「……きゅーせーしゅたちをここに呼んだ理由を話すの。きゅーせーしゅたちには……その龍を殺してほしいの」


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