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33 哀愁

「うわぁ……すごいよ、ノドカ姉様! すっごく大きい川、それに橋!」


 河川都市ナザリガルドの中を流れる巨大な運河。私も初めて見たときはすごく驚いたものだ。

 今でもそのスケールは決して見劣りするものではないが。


「何だか、気持ちが変わると見え方も変わってくるわね」

「うん、今はただこの景色を純粋に楽しめる」


 一度、一緒にこの橋を通ったこともあるヒバナとシズクが橋の手摺から身を乗り出し、橋からの景色を楽しんでいた。

 私としては寒いので早く渡り切ってしまいたかったが、楽しむ彼女たちの姿を見られただけでも得した気分である。


 ファーリンドまではあとほんの少し。




    ◇




「ん? おいおいアンタ、スライムの嬢ちゃんじゃねえか」

「お久しぶりです、おじさん。戻ってきちゃいました」


 この世界に来て最初にお世話となった兵士のおじさんと再会を果たす。この街に帰ってくるのはもう半年ぶりくらいになるのだろうか。

 冒険者の街ファーリンド、私はこの場所へ帰ってきたのだ。


「おい嬢ちゃん。3体のスライムはどうしたんだ」

「えっ」


 スライムマスターの噂はここまで広まっていないのだろうか。

 なら、コウカたちについてよく知らないのも頷ける。


「このブロンドの髪の子が黄色いスライムのコウカですよ。それで赤髪と青髪のそっくりな子が赤と青のスライムのヒバナとシズクです」

「……は?」


 おじさんから帰って来たのは当然の反応であった。




「この街、何だか懐かしいですね」


 ファーリンドの街の中を歩いていると、コウカがそんなことを言い始めた。

 この子と私はこの街に3週間以上滞在していたので、そう感じることもあるのかもしれない。

 そんなコウカの言葉に同意を示すのはヒバナとシズクだ。


「あの頃は好きでもなんでもなかったけど」

「こうして見ると、悪くないね……」


 あの頃はヒバナとシズクは常に周りを警戒していたから、気が気でなかったのだろう。

 力を持ったことで人への苦手意識を克服しつつある今、また違った見え方があるのかもしれない。


「ただ少し、活気がないような気がしますが……」

「あぁ、たしかにそうかもね」


 冒険者の街というだけあってそれなりに活気のある街だったと記憶していたのだが、今は冒険者たちの顔にあまり覇気がない気がする。

 これは早急に冒険者ギルドへ行ってみる必要があるだろう。




 ファーリンドの街の冒険者ギルドはやはり大きい。色々な町のギルドを見てきたから、それがよく分かる。

 中に入ると見知った人物が受付カウンターに立っているのを見つけたので、私はまっすぐ受付へと歩いていく。

 紺色の髪を高いところで結っている真面目そうな女性、ジェシカさんだ。

 彼女もこの街でお世話になった1人である。


「こんにちは。お久しぶりです、ジェシカさん」

「ゆ、ユウヒさん!? 本当にお久しぶりです、ファーリンドに戻ってこられたんですね」


 大きな声を上げた後、顔を赤らめつつ澄まし顔になったジェシカさん。

 彼女はどこか嬉しそうに私との再会を喜んでくれた。


「あれからファーガルド大森林の様子はどうですか?」


 ファーガルド大森林は私が女神ミネティーナ様によって最初に転移させられた場所で、コウカと出会った場所でもあった。

 そしてその場所では魔泉に異変があって、魔物が大量発生していたのだ。

 ナザリガルドの街からファーリンドまで来る間に遠目ではファーガルド大森林の様子は確認していたが、それだけでは正直なところ何も分からなかった。


 私が問い掛けた途端、明るい雰囲気を漂わせていたジェシカさんの顔が明確に曇り始める。


「それが……あまり状況は良くありません」


 ジェシカさん曰く、私たちが去った後も1週間置きくらいに森林内の魔物の掃討が冒険者によって行われていたが、倒す度に手強さと量が増していくせいで最近は冒険者たちの士気も下がってしまっているらしい。

 特別依頼として出しても依頼を受けてくれないことも多くなっているため、最近は国や聖教団に掛け合い、戦力を貸してもらおうとしているのだとか。


 ――やっぱり基本的に魔泉の異変は解決していくべきなのだ。

 特別依頼に私が参加したとき、冒険者たちは嬉々としてファーガルド大森林に行っていた。

 だからもし、まだその状態が続いているのなら本当に魔素鎮めを行うべきか悩んでいたが、困っているというのならもう悩む必要はない。

 逆に魔物が減ったという時も魔素鎮めを行うべきか悩むことが多いが、正常な値の魔素が出ていないと自然が崩壊したり、魔物の量が減って却って生活が苦しくなっていることだってあった。

 そもそも正常な魔泉ではスタンピードなんてまず起こらないのだ。正常な魔泉へ戻すことは何も迷う必要などない。


「ジェシカさん、最後にファーガルド大森林の魔物を倒したのはいつですか?」

「2日前ですが、それがどうかしましたか?」


 2日前なら、今は森林内に魔物はほとんどいないだろう。

 一気にファーガルド大森林の奥まで行って魔素鎮めを行う。それが今するべきことだ。


「私がどうにかします」

「どうにかって……無理ですよ。私たちも様々な手立てを講じてきましたが、定期的に魔物の数を減らすしか手はありません」

「いいえ、私たちならそれとは別の方法だって示すことができるんです」


 私はギルド内のテーブルで座って待っているみんなに目を向けた。


「“たち”……あの方たちがあなたの仲間ですか?」

「はい、ジェシカさんが知っている子がいますよ。綺麗なブロンドヘアの女の子がいるでしょう。あれがスライムのコウカです」

「えっ!?」


 ジェシカさんにあの子たちが全員スライムであることを教えた。

 すると彼女は驚きながらも考え込む。


「スライムマスターの噂……やはりユウヒさんだったんですね」

「あれ? 知ってたんですか」

「まあ……軽く耳にしたくらいですけど」


 ラモード王国やゲオルギア連邦ほどではないにせよ、こうしてスライムマスターの噂を知っている人はいるようだ。

 知っているのなら話は早い。私たちがこれまでにやってきたことも噂で知っているはずだ。


 ――そんな時だ。


「おい、懐かしい顔があると思ったら……スライムマスターじゃないか」

「ギルドマスター! ユウヒさんがスライムマスターであることをご存知だったのですか?」


 窓口裏の扉からひょっこりと顔を出した初老の男性は、この街のギルドマスターだった。

 その口ぶりから、私とスライムマスターを既に結び付けて考えていたらしい。


「上の方でも話題になっている1人だからな。それにスライムを使役している人間などお前さん以外に聞いたこともない。スライムマスターの話を聞いて、まずお前さんを思い浮かべたさ」


 冒険者ギルドからもそれなりに期待してもらっているらしい。

 結構、頑張ってきたのでそれは嬉しい。


「それで、お前さんたちは何を話していたんだ?」

「それが……ユウヒさんがファーガルド大森林の異変をどうにかすると……」

「どうにか、か……」


 ギルドマスターが目を閉じて、顎に手を当てながら深く考え始めた。

 そして何か答えを得たのか、ゆっくりと瞼を開いていく。


「何をする気だ?」

「ファーガルド大森林の奥、魔泉の中心を目指します。……今はこれ以上話せません」

「あそこはマスターランクの冒険者でも手を焼くほどだ。前回の討伐から2日目とはいえ、奥に行くほど手強い魔物が再発生している可能性が高い。それでも行くのか?」

「もちろんです」


 私は自身の視線に決意を乗せ、ギルドマスターの目をまっすぐ見つめる。

 そうしてしばらく見つめ合った後に彼は1つ頷くと言葉を続けた。


「いいだろう、やってみるといい」

「ですが、ギルドマスター!」

「冒険者は自分の実力を正確に分析できなければ生き残れない。自分でできると言っているのだ、任せてみるのもいいだろう」


 ジェシカさんは私を心配してくれているようだが、ギルドマスターの言葉に渋々納得したようだ。

 たしかにこの街に初めて来た時の実力では到底、奥へと向かうのは無理だっただろう。しかし、今の私たちなら決して不可能などではない。

 私がやる気を漲らせていると、ギルドマスターが紙に何かを書いてジェシカさんに手渡した。

 彼は去り際に「指名依頼を出そう」と言って、元来た扉の奥へと消えていく。


「ユウヒさん、ギルドから『ファーガルド大森林に起こっている異変の偵察。また可能であれば対処』の依頼を出します。受けてくれませんか」


 異変の調査が依頼の主目的、対処は絶対ではない。それがその指名依頼の内容だ。

 その内容だと私が対処に失敗したとしても依頼は成功扱いになる。

 危なくなれば戻ってこい、とそう言っているのだろうか。そもそも対処に成功するか分からない私に指名依頼を出すなんてお人好し過ぎる。

 そんな彼の期待に応えるためにも、私はやれることをやろう。


「受けます。ぜひ受けさせてください」

「ありがとうございます。依頼を登録するので、冒険者カードをこちらに」


 冒険者カードを受け取ったジェシカさんが手続きを始める。

 そして手続きを始めてすぐ、「あら……」と口を開いた。


「ユウヒさん、今日がお誕生日だったのですね。17歳のお誕生日、おめでとうございます」

「――えっ」


 ――私の誕生日……?

 この世界の1月は30日、それが12月まであるから、1年間は360日だというのは知っている。カウンター横に置いてある日付表を見る。

 今日の日付は……12月22日。前の世界の私の誕生日と同じ。この世界でも同じ日付が誕生日。

 冒険者カードを作るとき、私は鑑定用の魔導具に触れた。

 そこには名前の他に年齢だって勝手に表示されていた。冒険者カードにはその情報がそのまま転写されている。

 つまりこの世界が私の誕生日を今日、この日だと言っているのだ。

 そして、これが意味することはもうひとつ。


 今日、この日はパパとママが死んだ日――命日なんだ。


「ユウヒさん、ファーガルド大森林の奥地まで向かうには時間が掛かります。今からですと夜を回ってしまうでしょう。明日の朝、出発することをお勧めします」

「……そうします。ありがとうございました」


 冒険者カードを返してもらった私は、みんなの下へと戻ろうと歩き始める。


 駄目だ。12月22日、それが頭から離れない。

 もう全部終わってしまったことなのに、ずっと私の心を縛り続ける。

 誕生日なんて、パパとママが死んでから悲しい日に変わった。

 伯父さんたちも私を気遣ってか、少しだけ言葉を掛けてくれるだけでその日はあまり関わろうとはしてこなかった。

 伯父さんたちの家に引き取られてから新しく出来た知り合いに対しても、しつこく聞いてきた()()()以外には誕生日を教えないようにしていたから、もう祝われることはないって思っていたのに。


 それが想像もしていない方法で知られた。

 どうせなら、この世界に来た日を誕生日にしてくれればよかったのに。

 そうすれば、私はその日が誕生日だと胸を張ってみんなに教えられたのだ。


「ユウヒちゃん……今日がお誕生日だったんだね。あたし、本で読んだから知ってるよ。お誕生日はその人が生まれてきたことをみんなでお祝いするんだよね」

「もう、もっと早く教えてくれれば何か用意したのに……」


 私とジェシカさんのやり取りを聞いていたのか、みんなには今日が何の日かバレているみたいだ。

 みんなが祝いの言葉を紡ごうとしてくれる。

 ――だが私の心は迷っていた。


「お姉さま~暗い顔~……」


 少し顔に出ていたのか、そんな心情をノドカに悟られた。

 この子は意外と人のことを見ているのだ。


「どうかしたの、主様?」


 心配そうに私を見つめる複数の目。


「……今日はね、私の誕生日だけど……パパとママが居なくなった日でもあるの……」


 だから、本当のことを話すことにした。


「ユウヒのパパとママ? それって別の世界の……」

「で、でもいなくなったって……」


 困惑するヒバナたち。

 私が別の世界で死んだ際にこの世界へと来たことは、アンヤ以外知っているはずだ。

 でも、それだけだ。誰も前の世界の私について知らない。


「私のパパとママは死んじゃったの……5年……ううん、6年前に」

「そんな……」


 そう、今日で6年になるんだ。

 あの日、私に残ったのはこのペンダントだけ。

 この子たちは皆、親子の愛情というものは目にしたことがあるはず。そして、失う怖さというものをよく理解している子もいるはずなのだ。

 だから私の発言を受けて痛ましげに表情を歪めている子がいる。

 そうだよ、そういう日だから――。


「だから、ね……私の誕生日はお祝いしちゃいけないんだ」


 こんな日に幸せな気持ちになってはいけない。

 終わってしまったことでも、そう思うのが()()だろうから。


「――そんなの関係ありません!」


 バンっと机を叩いて、コウカが勢いよく立ち上がった。

 力強い声に底に沈みかけていた私の意識は引き上げられ、彼女のまっすぐな瞳と見つめ合う。

 それだけでわかる、今のコウカは本気だった。彼女は本気で関係ないと、そう思っている。


「マスターと出会わなければ、わたしたちは今ここにいなかった。マスターが生まれてこなければ、わたしたちの人生は始まってもいなかった。だから、こうしてここにいるわたしたちが……マスターが生まれてきたことと、マスターに出会えたことに感謝を込めて祝う。それの何が駄目なんですか! 死んだ人がどうとか、わたしには関係ありません!」

「ちょっ、ちょっと!」


 ヒバナが立ち上がって言葉を続けるコウカの袖を掴む。

 だが、それにヒバナ以外のみんなが同意を示し始める。


「そうだよね、ボクたちが主様の誕生日をお祝いしちゃいけない理由はないよ」

「わたくしたちにとっては~知らない人だし~」

「うん、そうだね。知らない人」


 ノドカとシズクが顔を合わせて微笑み合う。

 それにギョッとしたのはヒバナだ。


「ちょ、シズも!? ……あー、もう! そうよ、私たちにはこれっぽっちも関係ないわよ!」

「…………気遣いなんて、いらない」


 知ったことかと、気遣う必要があるのかという彼女たちの言葉。

 そして――。


「きっと……ユウヒちゃんの気持ちだけだよ」


 私の気持ち……シズクの言っていることがいまいち理解できない。私はどうすればいい。私はどうするべきなんだ。

 また思考の渦に飲まれそうになる私にコウカの声が届く。


「誰に何を言われようとも、わたしはこの日を……マスターの誕生日を祝い続けます。これからもずっと!」


 コウカの力強い言葉に私の心の靄は晴れたような気がした。

 ――ああ……違うんだ、きっと。どうするべきかじゃない。どうしたいのか。どうしてほしいのかが大切なんだ。

 そうか、そうだったんだ。ずっと私は気兼ねなく祝ってほしいと思っていた。

 それこそが私の紛れもない本心だったんだ。


 でも、親が死んだ日にどうして幸せな想いをしているんだって責められそうで、どうしても気後れしてしまって、自分の心に素直になれなかった。

 それを関係ないとこの子たちは言ってくれた。

 私が生まれたこと、私と出会えたことに感謝することを……祝うことを禁止する理由なんてないと言ってくれた。


「うん! ずっとボクたちでお祝いすれば、今は悲しい思い出でもきっと!」

「楽しい思い出に~変わります~!」


 ――もう、変わっちゃってるよ。だって胸がこんなにも温かくなっているんだから。

 これから毎年こうして祝ってもらえると思うと、私はこの日が待ち遠しく感じるようになるのだろう。それはとても幸せなことだ。

 そして、その幸せに思う気持ちに嘘なんてつかなくていい。


「それじゃあまずは……今年からよ」

「そうだね、ひーちゃん。みんなでお祝いしよ」


 みんなから贈られた祝福の言葉。

 それは私の心を温かくしてくれる魔法の言葉だった。

 こんな言葉を柵も何もない心持ちで、もう一度聞くことができるなんて夢にも思わなかった。




『そうだよね……分かったよ。なら今日は――も優日のお父さんとお母さんに手を合わせる。それで明後日のイヴはさ、パーッとお祝いしない? それだったら別にいいよね?』


 そう、あの子も決して言わなかった言葉だ。




    ◇




 みんなが祝ってくれるということで、まずはヒバナの料理が振舞われた。

 振舞われたのだが――。


「ねえ、ひーちゃん。お祝い事に出して良い料理じゃないよね……?」

「どうして……最近は上手くいっていたのに……」


 ヒバナの料理を食べるのはア・ラ・モード杯で微妙なケーキを食べて以来だった。

 それからもヒバナは料理の練習を怠っていなかったのだが、今日に限って失敗してしまったらしい。なんというか、全体的に黒かった。

 あまりにショックを受けていて可哀そうだったので、この肉らしきものを食べてみることにした。

 見た目は最悪だが……ふむ。


「……おいしい」

「ホント!? あっ……き、気を遣わないで、憐れみの評価なんていらないわ」


 顔にパッと笑顔を咲かせたヒバナだが、すぐにフイっと顔を逸らして髪を弄り出す。

 それでも、ちらちらと目だけで私の反応を窺っていたので感想自体は気になるらしい。


「いや、ホントだよ。外側の見た目は最悪だけど、中はそんなでもないし。味に関しては美味しいよ。まだまだ改善の余地はあると思うけどね」


 どんな上から目線の評価だよと言われてしまいそうだが、ヒバナはこの言葉が嬉しかったらしい。

 最初は素っ気ない反応を示していたものの、どんどん口角が上がってしまっていた。

 私の言葉にアンヤ以外のみんなも料理を食べ始める。評価は概ねプラス評価に向いていた。

 一方、アンヤは完全に食わず嫌いを起こしていて自分のチョコを食べ始めている。まあ、それは追々考えるとして。

 こうして祝ってもらえたのだから、みんなに聞きたいことがあったのだ。


「ねえ、みんな。今日こうしてもらったように、みんなの誕生日もお祝いしたいんだけどさ。……みんなの誕生日、どうしようか?」


 祝いたいのは山々なのだが、私はみんなの生まれた日を知らない。

 多分、みんなも正確に分かってはいないと思う。


「マスターと出会った日、その日を私たちの生まれた日にしませんか?」


 そう言ったのはコウカだ。

 この意見には、みんなからも反対意見はないようだ。


「ボクもそれでいいと思う!」

「そうね。私がヒバナになった日って考えれば、何もおかしくはないわね」


 こうしてみんなの誕生日は私と出会った日に決まった。

 正確な日付は、コウカの場合は冒険者カードを初めて作った日の1日前。他のみんなはテイマーカードに名前を追加した日を見れば分かる。

 大事なことは決まったし、後は気兼ねなく今日という日を楽しむだけだ。


 料理を口にしないアンヤの隣に座って自分でも食べながら、何とか彼女にも食べてもらおうとするヒバナ。

 食べ終わってすぐに本を読み始めるシズクとそんな彼女に膝枕をしてもらいながら甘えるノドカ。

 食べながら談笑するダンゴとコウカなど。

 こうした瞬間にふと思う。みんなは本当の姉妹に近付いていっていると。


「私も、みんなの中に入れるのかな……」

「なに言ってるの。あなただってちゃんといるじゃない」


 零した言葉をヒバナが拾い、アンヤも口を開く。


「…………ますたーは、太陽」

「……まあ、言い得て妙ね。というか、一口で良いから食べてみなさいって」

「……いらない」


 太陽……そうか、私は太陽か。

 太陽である限り、私はきっとこの場所に居させてもらえる。


 ――この場所をもう手放したくはないよ。

 私は胸のペンダントをそっと握りしめた。


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