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47 決意と期待

 ◇ :一人称視点への切替or場面転換(一人称継続)

◇◇◇:三人称視点への切替or場面転換(三人称継続)

「いつの日かあなたたちが邪神に対抗する力を身に付けた時――この世界を救う“救世主”として、私たちと一緒に戦ってもらえませんか?」

「……少し、みんなで話す時間をください」


 私だけでは簡単に決められない話だった。

 これは私一人のこれからを決める話ではない。みんなで話し合わなくてはいけないと思った。

 だから私は立ち上がり、後ろに立っていたみんなと向き合う。


「私はね、やりたいと思ってる。ううん、やらなくちゃかな。元々そのために女神様が私をこの世界に呼んだんだし。それにこの異変が続けば世界中の人が困ることになる。それだけは絶対にダメだよ」


 そこで一息ついて、勇気を出して言葉を紡ぐ。


「……でもね、これまで以上の危険が付き纏うのは絶対だから私は世界中の異変を治める旅をみんなに強制したくない。今までの話を聞いてみんなはどうしたいって思っているか、正直に聞かせてほしいの」


 魔泉の異変を治める旅とは、即ち危険に身を投じるような旅だ。強力な魔物と戦わなければならないことも多くなるだろう。それだけ危険も大きくなる。

 ここでみんなに拒絶されるのは怖いが下は向かない。ただみんなの言葉を待つつもりだ。

 だが、そんな恐怖を切り払うようにすぐさま1人の少女が頷いてくれた。


「もちろん、わたしはマスターと一緒に行きます! どんな場所でも相手でも、わたしがマスターの敵を全て打ち倒してみせます!」


 次にコウカの腕の中に居たダンゴが私の胸を目掛けて飛び込んでくるのでノドカを片手で持ち直し、受け止めた。

 するとダンゴが腕の中で甘えてきたため、それを指で撫でてあげる。どうやらダンゴも一緒に来てくれるようだ。

 そして次に暖かい風が頬を撫でた。手のひらの上でのんびりとしているノドカも私の旅に同行してくれるのだろう。


 こうしてすぐに3人は私と一緒に来る意思を示してくれた。だが、2人足りない。

 ヒバナとシズクは目を伏せ、口を固く結んでいた。

 ――分かっていたことじゃないか。

 危険なことが起こると分かっている旅にわざわざ来ようとは思わないだろう。それに私は彼女たちに騙されたと思わせてしまった。

 そんな相手を信用しようとするなんてそもそも無理な話なのかもしれない。


 静寂が私たちの間に訪れる。

 失意の中、私が諦めかけた――その時だった。

 青い髪を揺らしたシズクが後ろからヒバナに抱き着き、そのうなじに顔を埋める。

 シズクの囁き声が聞こえたが、内容までは分からない。

 だが彼女に何かを言われたヒバナがゆっくりと口を開く。


「……ユウヒ。あなたが最初に私たちに言ってくれた言葉、覚えてる?」


 もちろん覚えている。ヒバナたちとの関係が気まずくなってから、何度も出会った時からのことを思い出していた。

 だから迷わずに答える。


「うん、覚えてるよ。私はあの時、2人のことを支えるって言った」

「……ええ、あなたが言うにはその言葉は嘘じゃなかったんでしょ。だったら期待してる」

「期待……?」


 私がヒバナに問い掛けようとしたとき、彼女のうなじから顔を上げたシズクがヒバナと指を絡ませながら、伏し目がちに話し始めた。


「あ、あた、あたしは怖がりだからっ、すぐに挫けそうになったりっ、逃げ出したくなっちゃう」


 手を繋いだまま、シズクがヒバナの隣に並ぶ。

 そして、まっすぐ私と目を合わせてくれた。


「お、同じなんだっ、あたしとひーちゃんは。こ、心の根っこにあるものが!」


 言い切った途端にシズクはまた目を逸らしてしまった。

 シズクの言葉の意味について考える。だがそれは前から薄々と感じていたことだ。

 ヒバナとシズクは同じ環境で生きてきた。あの時、ミンネ聖教国に向かう馬車の中で言っていたように毎日を死に物狂いで生き延びてきたのだろう。

 シズクを見れば分かりやすいが、この子は自分とヒバナ以外の者に少なからず恐怖を抱いている。そしてヒバナも分かりにくいが、他者を苦手としている。

 それはヒバナもシズクと同じ気持ちを抱いているということだったのだ。

 きっと2人で震えているだけでは生きていけないから、ヒバナはシズクの前に立つことを選んだのだろう。

 だがそれでも心の奥に抱える恐怖は変わらない。ヒバナだってシズクが言ったように挫けそうになったり、逃げだしたくなったりすることがあるはずだ。

 ――だから私は彼女たちの心を理解して言葉を選ばなければならないのだ。


 ゆっくりと深呼吸をして、まっすぐヒバナと向き合う。

 未だ目は合わないが、今はそれでもいい。ただ自分の想いを伝えるのだ。


「うん、絶対に2人を支えてみせるよ。だから2人も私のことを頼ってほしい、辛い時は迷わずに縋ってほしい」


 自分でも強気な言葉だと思うが、それでもかまわない。

 そんな人に私がなればいいのだ。

 私の言葉を聞いたヒバナは静かに目を閉じると――僅かに口角を上げた。


「ふん、自惚れすぎ。あなたなんてまだまだ頼りないんだから」


 そう言ってから目を開いたヒバナと私の視線が交差した。


「……だからこれからよ、これから。私たちが頼ってもいいって、そう思えるようにしてみせて。期待っていうのはそういう意味」

「これからって……」


 ――つまり、私が考えている通りで良いのだろうか。

 少し顔を赤くしたヒバナが目を逸らす。


「……一緒に戦ってあげるってこと」

「……いいの?」


 内心では飛び上がりたくなるくらいに嬉しかったが、何とか逸る気持ちを抑えて確認のためにもう一度問い掛ける。


「勘違いしないで、どのみち誰かがやらないと世界がめちゃくちゃになって私たちも生きていけないからやるだけよ。……私とシズが抜けたらどこか頼りない子しか残らないし」


 早口でまくし立てるヒバナの言葉にコウカが反論しようとする。


「なっ、頼りないなんて――」

「事実でしょ。勝手に暴走しがちなコウカ。お子様のダンゴ。ノドカは論外よ、寝てばかりだし」


 コウカの言葉に素早く反応したヒバナがコウカの言葉を遮り、コウカ、そしてダンゴと順番に指を立てながら言葉を述べる。

 ノドカはまさかの論外と言われ、抗議しているつもりなのか、風を使ってヒバナの髪をゆらした。

 それを無視したヒバナは一度、髪を後ろに払うと口を開いて何かを言おうとする。


「それに……いえ、やめておくわ」

「……え」


 何を言おうとしていたのか、少し気になりつつもあまりしつこく聞くとヒバナが怒りかねないので、まあいいかと自分自身を納得させる。

 一番大事なのは、これからもみんなと一緒に居られるということだ。


「ちゃんと言えばいいのに……」

「なっ、シズだって言えないでしょ……!」

「ぅ……そうだけど……」


 ヒバナとシズクが仲良く寄り添いながら内緒話をしている。

 その様子を微笑ましく思いながら、私はみんなに向けて口を開いた。


「ありがとうみんな、これからもよろしくね」


 そう言ってみんなに笑いかける。

 私たちが感じていた気まずさは消えてなくなり、これから私たちはより深い関係を築くための一歩を踏み出していけるだろう。


「――無事に仲直りすることができたみたいでホッとしました。このままあなたたちが決別してしまうのは、私としても本意ではありませんでしたから……」


 私たちの会話を静かに聞いていたミネティーナ様が文字通り、胸を撫でおろしていた。

 彼女は私たち一人一人の目を見て告げる。


「契約を結ぶためには双方の合意が必要ですが、契約解消に関してはそうではありません。主と眷属というのも名目上の物でしかなく、精霊契約とはあくまで対等なものなのです。それはなんとなく察していたのではありませんか?」


 ミネティーナ様からの問い掛けにヒバナとシズクは同時に頷いた。


「まあ、何かを強制されるとか、逆にできないとかもないわけだしね」


 たしかにこの契約は縛り付けるようなものではない。あくまで繋げるだけのものだ。


「契約はきっかけに過ぎません。素敵な仲間になるために必要なのはお互いを思いやる心……いわば愛です。それを肝に銘じて、相手のことを心の底から信頼できるような関係を築いていってください」


 その言葉に私たち、それぞれがしっかりと頷くとミネティーナ様も満足そうに頷き返してくれた。




 その後、神界に私たちを呼んでいられる時間も限界が近づいてきたということで屋敷の外に出ると、目の前に神界に来た時と同じ淡い桃色の光の扉が現れる。


「改めてユウヒさん、私のお願いを聞いてくれてありがとう。私の呼び声に応えたのがあなたのような子で本当に良かった。これから辛いこともきっとあります。ですが1人で背負うものではありません。あなたには尊い仲間たちがいるということを忘れないでくださいね」

「……はい、ありがとうございました。絶対に強くなってここに戻ってきます」

「貴女たちに愛の祝福があらんことを……」


 ミネティーナ様とレーゲン様に見送られる形で順番に扉を潜る。

 レーゲン様以外の精霊に会えなかったのは残念だが、またいつか会えるだろう。

 ――そして最後に私が扉を潜る番となり、神界を後にした。




    ◇◇◇




 ユウヒが扉を潜ったことを確認したミネティーナが扉を閉じる。

 隣でその光景を見ていたレーゲンが横目でミネティーナを見て、少し心配そうな表情を浮かべながら彼女へと問い掛けた。


「……ティナ様、よろしいのですか? 彼女は……」

「ええ、少し歪ですね。でも心配することはないはずですよ。彼女の周りにはあの子たちがいる。きっといい関係を築いてくれるわ。私とレーゲンちゃんたちのように、ね?」

「も、もうっ!そんなこと言われると何も言い返せないじゃないですかぁ! ティナ様のバカぁっ!」


 顔を真っ赤にしたレーゲンがミネティーナの背中をポカポカと叩く。

 ミネティーナはそんなレーゲンの姿を見て、慈しむような笑みを浮かべていた。


「……そう、愛は決して一方的な想いから生まれるものではないわ。ちゃんと心の底から向き合えた時、あなたたちはきっとどこまでも素敵な家族にだってなれる」


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