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24 剣聖への道

 ピカピカの鎧に身を包んだ男が右腕を天高く掲げ、勝鬨を上げる。


『第8グループ……勝ち残ったのは選手番号8092番、成金のマンティス!』

『他者を寄せ付けない、見事な戦いでした』


 ここまで見た限り、本当にいろいろな戦い方をする人たちが集まっているみたいだ。

 このマンティスという選手は他の人に自分を守らせた後、その人たちに棄権してもらって勝ち上がった。

 ――いや、見事な戦いかな……これ。

 観客たちも歓声ではなく、ブーイングばかりなのだがそれも当然だろう。


 まあいい。次のグループの方が気になるので意識を切り替えて次の試合を見ることにする。もし紹介されていたのがあのベルなのだとしたら、彼女の戦いがよく見られるいい機会だ。

 第9グループの選手が続々と入場してくるが中々ベルを見つけられない。

 あのベルではなかったのだろうかと疑いはじめるが、会場に響き渡る甲高い声がその疑いを一瞬で否定する。


「キャー! ベルぅぅ!」


 ――ロージーじゃん。あんな声を出すのロージーしかいないじゃん。


「うっせぇ! 黙って見てろ、ロージー!」


 無事にベルも見つけられた。

 小さいので、大柄の男たちに阻まれて見えていなかったようだ。


 そこから屈強な男たちに対して大立ち回りを演じたベルは予選を勝ち上がった。

 先ほどの試合と比べると正攻法かつ非常に見応えのある戦いだったので、会場中から大きな歓声が上がっていた。

 勝つために魔力はそれなりに使っていたようだが、ベルの魔力量がどれほどなのか分からないのでこれが本選のトーナメントにどう影響するかはわからない。


 ここまで見てきて分かったのだが、誰もが基本的にエンチャントを武器に使用している。

 あの魔法は魔力消費が少ないにもかかわらず、威力向上などの恩恵が得られるので武器を使う人とっては必須の技術だったはずだ。




「次はコウカ姉様の試合なのに……来ないね、ヒバナ姉様たち」

「そうだね。でも大会はまだまだこれからだから」


 観客席で昼食のお弁当をつまみながら、そんな会話をダンゴとする。

 アンヤは「来る」と言っていたが、やはり来ないのではないかという気持ちが湧き上がってきて少し残念に思う。

 大会はまだ予選段階なので諦めるのは早いのだけれど。


「お姉さま~あーん」

「まずちゃんと座りなさい、ノドカ」


 私の膝の上でゴロゴロしながら、ノドカは口を大きく開けて催促するが、寝転んだまま食べさせてもらおうという横着さは認められない。


「は~い」


 大人しく起き上がったノドカの口に切り分けたお肉を近づける。


「はい、ノドカ。あーんして」

「わぁ~、あーん。はひはほ~(ありがとう~)ほへえはあ~(お姉さま~)


 もぐもぐと口を動かしているノドカはご満悦だ。


「あー! ずるいずるい! ボクにもやって、主様! それでボクはアンヤにやる!」

「……アンヤは、別に――」

「いいからやるの!」


 やってもらってやってあげてって、ダンゴは欲張りさんだ。そんなところも可愛いのでやってあげるのだが。

 そんなやり取りをしている間にコウカたち第15グループの選手たちが入場してきた。

 試合前だから声を出しても咎められないとは思うのだが、恥ずかしいのでコウカに声を掛けるのはやめた。

 その代わりとして、私たちをキョロキョロと探していたコウカに小さく手を振ることで応えるとコウカは笑みを浮かべていた。




「勝った勝った! コウカ姉様が勝ったよ!」

「お見事~ですね~」


 予選の展開はコウカによって都合よく進んでいった。

 注目選手とはいえ、実力面ではノーマークのコウカを余所に強者同士が潰し合ってくれるし、魔力の制限がないコウカがその力を見せつけて、選手たちがあの子の存在に注意し始めた時には全てが遅かった。

 消耗した強者たちに万全のコウカは常に優勢に立ち回っていた。

 恐らく、ただの少女にしか見えないコウカに対して、選手たちにも油断があったのだと思う。


『なんということだ、第15グループを勝ち上がったのはコウカ選手! なんという大番狂わせ!』

『一度美少女を捉えると離さないと自負する私の目でも見失ってしまいそうになるほどの素早い動きでした』

『あの動きの中、コウカ選手自身には全てが見えていたというのでしょうか』


 兎にも角にも、これで予選は突破できたのだからとホッと息を吐く。

 退場するときコウカの表情が複雑そうだったのは気になったが、戦い自体におかしな点はなかった。

 普段の通りのコウカで、言ってしまえばこれまでと決して変わらない。何も得られるものがなかったということだ。

 でもこれからだ。予選を突破したことでその先に道ができた。


 ――続いて、第16グループの試合が始まろうとしている。


「あれがライゼ選手……」

「うーん、なんかボクが思っていた感じと違うなぁ」


 この大会を6連覇しているというライゼ選手は2本の曲刀を携えた初老の女性だった。

 たしかに想像とは少し違ったが、ただ立っているだけなのに凄い存在感だ。まさに女傑と呼ぶに相応しい雰囲気を纏っている。


 そうして試合が始まり、早速場内が大きな動きを見せる。

 なんと選手紹介の時に解説の人が言っていたようにライゼ選手を多人数で取り囲んだのだ。

 ライゼ選手とその正面に立つテンガロンハットを被った男が何かを話しているようだが、ここからではその会話を聞き取ることはできない。


 会話が終了したのか、テンガロンハットの男が腕を天に掲げて指を鳴らす。

 するとライゼ選手を取り囲んでいた人たちが一斉に彼女との距離を詰めだした。

 だがライゼ選手は動じていないように見える。この絶望的な状況で果たしてあの人はどんな戦い方を選ぶのか。


「すご~い」

「全部捌いてる……」


 彼女はなんと迫ってくる剣その一つ一つの軌道を鮮やかな剣技で逸らしていたのだ。

 特にいい動きをしているテンガロンハットの男や眼帯を付けた大男が隙を見ては攻撃を仕掛けているが、それすらも受け流す。

 遂に堪えきれなくなったのか一部の選手が周囲の選手を巻き込みことを厭わず魔法で攻撃を加えるが、それすらも剣で逸らしたり、弾いたりと上手く捌いていた。


「ッ! 地面を割る気だ!」


 ダンゴが何かに気付いたのか軽く前のめりになりながら戦場の中心に目を向ける。

 彼女の言ったように地面にできた数本の亀裂が枝分かれを繰り返しながらライゼ選手へと迫っていく。その大元では眼帯の男が地面に手の平を押し付けていた。

 そこで初めてライゼ選手がその場から大きく移動する。

 移動するライゼ選手を今度はテンガロンハットの男が雷魔法で攻撃していたがライゼ選手はそれすらも受け流す。


 そして男が大きな魔法を放った時、ライゼ選手が攻勢に転化した。

 正面から迫る雷に向かって曲刀を交差させるようにして振り抜くとそのまま大きく前に飛び出し、テンガロンハットの男へ接近する。

 男も自らの剣で対応するが、やがて首元に刃物を突き付けられて降参した。

 その直後を眼帯の男をはじめとする選手たちが狙っていたが、彼らもライゼ選手に攻撃を当てることすらできずに敗退していった。




    ◇




 全ての予選が終わり、本選におけるトーナメント表が発表された。


「ベルもライゼ選手も反対側か……」


 トーナメント表によるとその2人がコウカと当たる可能性があるのは決勝戦のみだった。

 そしてコウカの初戦は第8グループを勝ち上がったマンティス選手だ。

 ……卑怯な手段を使って勝ち上がっていたが、本選でちゃんと戦えるのだろうか。コウカは八百長を持ち掛けられても絶対に応じないと思うのだが。


 案の定、コウカに一瞬で切り捨てられてあえなく決着がついたのは言うまでもない。

 そうして一通り、それぞれの組み合わせで第1試合が終わる。ベルもライゼ選手もしっかりと勝ち上がっていた。




 続いてのコウカの相手は第4グループを勝ち上がったロドリゲスという筋骨隆々の男だった。

 彼は先ほどのマンティス選手と違い、ちゃんと実力で勝ち上がっている人のはずだ。あの子にとってはここからが本当の勝負となる。


 コウカが霊器“グランツ”を構え、対するロドリゲス選手は1メートルを優に超える大剣を構えた。

 相手との相性を考えると、小回りの利くコウカの方が有利に映るが果たしてどうなるか……。


 先攻を取ったのはコウカだ。

 あの子は稲妻を纏い、地面を蹴ると一気に加速して距離を詰める。だがそれは大剣の腹で難なく受け止められた。

 そのままロドリゲス選手はコウカを押し返すと横なぎに大剣を振るうが、それをコウカは宙返りをするような形で回避した。

 ロドリゲス選手からの追撃はない。やはり大振りな分、一撃一撃は重いがそれほど速く振ることはできないらしい。


 コウカは少し考える素振りを見せた後に雷魔法を前方へと放つ。

 閃光が瞬いたと思った時には既にコウカは再度加速していた。

 ――なるほど、今のは目くらましだ。

 その隙にロドリゲス選手の背後まで移動したコウカが肉薄する。だが驚いたことにこの死角からの攻撃にロドリゲス選手は対応してみせた。

 彼も予選を突破しただけあって、相当の実力を兼ね備えていることは疑いようのない事実だった。

 ほとんど勘であるはずなのに振り向きざま、背後のコウカへと正確に剣を振るう。タイミングも完璧だった。

 このまま気付くことができなければコウカは間違いなく重い一撃を受けることになるだろう。

 しかし、コウカは足を止めることはなかった。

 そのまま直撃を受けると思った瞬間、稲妻の中から姿を現したコウカは地面を蹴り、横なぎに振られている大剣を足場にするように跳躍するとロドリゲス選手の頭上へと跳び上がる。

 実況と観客たちが沸き上がるほどの衝撃だった。


 頭上からの攻撃を叩きこもうとするコウカに対して、ロドリゲス選手は未だ大剣を振り抜いた体勢を整えられていない。

 ――決まった。

 誰もがそう思った時だった。

 ロドリゲス選手の周囲にある地面が突如として割れ、その奥から数多の緑色の蔓が勢いよく飛び出してきたのだ。

 それらは空中で落下することしかできないコウカの体に絡みつき、その動きを空中で固定する。


「植物、魔法……?」


 ロドリゲス選手はここまで魔法を一度たりとも見せていなかった。それはすべてこの時のためだったのか。


「待ってよ、主様! こんなところに植物なんて――」

「多分、種を持ち込んでいたんだと思うよ」


 私たちの座る席の隣に誰かが立つ。

 私たち全員が一斉にそちらを向いた。


「シズク!」

「ヒバナ姉様も!」


 そこに立っていたのは軽く口角を上げてこちらへ視線を向けているシズクと戦場をまっすぐ見下ろしているヒバナだった。

 実況解説を余所にシズク自身がこの展開を解説してくれる。


「普通なら植物魔法の動きじゃ高速で移動する相手を捉えられない。だから、あの展開に持って行ったんだ」

「コウカの性格を読んで、自分の剣を足場にさせてまで跳ぶように仕向けたってこと?」

「大抵の人は、何もない空の上で自由に動くことなんてできないから」


 もしそれが事実なのだとしたら、相当クレバーな相手だ。

 再び戦場に目を向けるとコウカとロドリゲス選手が何かを話し合っている光景が映る。


「降参するか~しないか~言い合ってます~」


 風で声を拾ってきたのか、ノドカが会話の内容を伝えてくれる。

 コウカは見た目で言ったら本当に人間の子供と変わりがない。だから彼が躊躇するのもわかる。


「優しい人なんだろうね、ロドリゲス選手。でも……」

「アイツが降参なんてするわけない」


 私の言葉を引き継いだのはヒバナだ。真剣な表情でジッと戦場を見つめているこの子はそう確信していたのか、はっきりと言い切る。

 それについては多分、私たちみんなが思っていることだ。


「そうだよ。コウカ姉様がこんなことで諦めるわけがない!」

「……負けず嫌いだから」


 ――みんながコウカを信じている。だから頑張って。

 直後、閃光とともに轟雷が鳴り響いた。

 後に残っていたのは引き千切られた植物と倒れ落ちた男に剣を突き付けているコウカの姿だった。


 試合終了のアナウンスが流れ、一気に会場が沸き立つ。勝ったのはもちろんコウカだ。

 そして驚いたことにコウカは剣を《ストレージ》に収めるとロドリゲス選手に向かって手を差し伸べた。

赤の他人を顧みることがなかったコウカがそのような行動を取るのは私に衝撃を与える。


 ロドリゲス選手がその手を取るとコウカは勢いよく彼の体を引き上げる。

 驚いた反応を見せるロドリゲス選手は苦笑いを浮かべていた。まさか小さな少女があんなに軽く自身を引き上げるとは思わなかったのだろう。

 コウカたちはそのまま握手を交わしていたかと思うとやがて離れて退場していった。

 退場の間際、こちらに目を向けて微笑んだコウカは私の隣にいるヒバナとシズクの姿を見て驚いていた。




 試合後のインターバルに私たちと並んで観客席に座っているヒバナとシズクへと声を掛ける。


「2人とも、来てくれて嬉しいよ」

「ポケットの中にチケットを忍び込ませておいてよく言うわ」

「え?」

「え?」


 ――何だそれは……知らない。

 紛失したと思っていたチケットはどうやらヒバナたちの衣服のポケットに入っていたらしい。

 ……何故かはわからないが、そのおかげでこの子たちが来てくれたというのならその偶然に感謝しなければならない。


「勘違いしないでよ。シズがチケットを見てお金がもったいないって言うから――」

「ひーちゃんがやっぱり行きたいって言い出したからだよ?」

「ちょっ、行きたいとは言って……じゃなくて打ち合わせと違う!」


 2人のやり取りに私とダンゴ、ノドカが笑いだす。

 突然の裏切りを受けたヒバナは顔を真っ赤にして俯いた。

 そんなヒバナに笑みを向けているシズクは《ストレージ》から本を取り出すと呟く。


「それに妹のいじらしいお願いを断るのはお姉ちゃんとして、ね」


 本に目を落とし、読み始めたシズクの発言の意図が最初理解できなかった。


「ヒバナ姉様、妹だったの?」

「ん~……衝撃の~事実~?」

「ちがーう! そもそも私はお願いなんてしてないのっ!」


 ヒバナとシズクにとって、どちらが姉か妹かの区別はないようだし、反応からしてあの2人も違う。


 ――ああ、そういうことか。

 全てのピースが繋がったような気がした。


「ありがとね」


 彼女にちゃんと伝わっているかは分からなかったが、私はこの機会を作り上げてくれたことに対して心からの感謝を込めた言葉を贈る。

 私の鼻孔をココアの甘い香りがくすぐった。




    ◇




 その後も試合が続き、2回戦でベルとライゼ選手がぶつかっていた。

 結果はベルの敗北。

 彼女の剣技と体術、魔法を合わせた猛攻には目を見張るものがあったが、幾度にも及ぶ剣戟の末にライゼ選手からカウンターをもらう形でベルは負けてしまった。


 続く第3試合。ここでコウカが勝てば、あの子は決勝に進める。

 コウカが戦う相手はガイストという黒い外套で全身を覆い隠した人物だ。

 紹介によるとコウカと同じく今年初出場の選手で、経歴なども謎に包まれているらしい。

 その戦い方に関しては動きがどこか朧気で他者からすると予備動作を察知しづらいため、厄介そうな相手ではあった。


「さっきの試合を見る限り、ガンガン魔法を使ってくる相手ね」

「一切の躊躇がなかったし、相手は相当魔力量に自信があるのかな」


 こっちのコウカも魔力量に関しては心配する必要がないくらいに多いからその点が不利に働くことはない。

 相手は闇魔法でこちらのメインは雷魔法だから、相性としても別に悪くはないはずだ。




 そうして試合が始まった瞬間、前に出ようとしたコウカに蛇行する無数の闇の弾丸が迫る。

 それを見たコウカは一瞬、迷う素振りを見せた後にそのまま正面へと稲妻を纏いながら飛び込んだ。

 すると案の定、数発の弾丸を正面から受けてよろめく。


「アイツ、何やってんのよ……」


 呆れたようにそう呟くヒバナに私は私の予想を告げる。


「多分、自分の影がやってきたことを真似したかったんだと思うよ」


 聖都ニュンフェハイムで戦ったあの子の影は高速で移動しながら、コウカの雷魔法の間を潜り抜ける形で迫っていた。

 それを覚えていたコウカは影と同じことをしようとして失敗したのだろう。


「コウカ姉様、なんともなさそう。よかったぁ……」


 防御が間に合わなかったとはいえ、稲妻を纏うことでそれ自体が簡易的な魔法防御の役割を担ってくれていた。

 あの程度の攻撃なら問題なく動けそうだ。そして、これは相手も予想外だろう。

 コウカはあれでは上手く避けられないと自覚したし、相手も生半可な魔法では足止めにしかならないと悟ったことでギアを1つ上げてくるはずだ。

 双方にとってここからが本当の戦いになる。


 先に仕掛けてきたのはガイスト選手だ。

 彼――性別が分からないので便宜上、彼としておく――はコウカの足元を中心にして半径5メートルほどの渦を作り出す。

 それに気が付いたコウカが離脱するが、あと少し遅れていたら渦に飲まれていただろう。


「術式の構築が速い……」


 ボソッとシズクが呟く。

 シズクから見てもやはり速く見えるらしい。だがコウカを捉えられるほどではない。

 さっきの被弾はあの子の試みのせいだから普段通りに立ち回れば相手の攻撃を潜り抜けて懐に飛び込めるはずだ。


 稲妻をまとったコウカが高速で移動を始める。

 相手の攻撃を避けるために軌道は大回りとなるがそれでも着実に距離を詰めている。観客たちには光の筋しか見えていないだろうが、寧ろそれが躍動感を生み出していた。

 やがて肉薄したコウカと細剣を持ち上げたガイスト選手が交差する。


「取った!?」

「……掠っただけ」


 ダンゴが興奮する中、アンヤは冷静に状況を見ている。

 どうやら直撃させることはできなかったようだが、衝撃でガイスト選手のフードがはらりと落ちる。

 ――そしてその素顔を見たとき、会場内にどよめきが走る。


「骸骨!?」

「スカルナイトキング……従魔だったんだ……」


 フードの下から出てきたのは骸骨だった。

 スカルナイトキング、シズクによるとそんな名前の魔物らしい。アンデッド系でも上位の存在だ。

 この大会は制御できてさえいれば別に人間以外でも出場することができる。そうでないとコウカまで違反となってしまう。

 たとえそれでも運営側は黙認してくれそうだが、そんな違反を犯してまで大会に出ようとは思わないだろう。


 それはさておき、今は目の前の試合だ。

 実は人ならざる者同士の戦いであったこの試合がどう転ぶのか見届けなければならない。とはいえ、相手が従魔と分かったところで何か影響があるわけではないのだが。

 コウカは驚いたような反応を見せていたがすぐに気を取り直すと再度加速の動作に入った。

 それと同時にスカルナイトキング――ガイスト選手も凝縮した闇魔法を解放する。


「ねえ……真っ暗で何も見えなくなっちゃったよ?」


 霧状の闇が戦場を包み込み、視界が遮られる。これでは中にいる者たちも視界を確保できないはずだ。

 だがそんな愚行を相手がしてくるとは思えない。


「シズク、まさか相手からは見えている……なんてことはないよね」

「ううん、見えてるはずだよ。あ……見えてるっていうのとは少し違うのかな。要はノドカちゃんの感知魔法と同じなんだよ。あの中にいる自分以外の存在は感知できるはず」


 厄介だな、と思う。

 ノドカの索敵と違い、魔力消費は多そうだが視界を遮ることができる分一長一短だ。それに今回の場合だと一方的に攻撃を加えられるばかりで反撃することも難しい。

 流石にコウカも気配で相手の場所を特定するという真似もできないだろう。


「何それズルいよ! シズク姉様、どうにかならないの!?」


 ダンゴに呼びかけられたシズクの顔を見ると、彼女の顔はそこまでこの展開を深刻に捉えていないようだった。


「どうにかなるよ。光は闇を打ち消すことができる。その逆も然りだから、結局は魔力量での勝負になっちゃうんだけど」


 魔力量勝負か。なら、私から魔力を持っていけるコウカは無敵だ。


 ――直後、戦場を包み込む霧の中から眩い閃光が漏れ出し、拡散する稲妻が霧を晴らす。

 勝負は一瞬だった。視界が確保できるようになった戦場に立っていたのはコウカただ1人だ。


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