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14 黄金核

 こちらへと向けられたノーライフキングの手から金色の波動が放たれる。

 私はその射線上に迷わず飛び込み、左手の大盾を構えた。

 受け止めるのは膨大な魔力の塊だが、それが何だというのだ。私の手にあるのは何物にも貫くことはできない最強の盾だ。


『眷属スキル《グランディオーソ》! 準備は万端だよ、主様!』


 黄金の光が広がっていく。

 それと同時に凄まじい衝撃が私の身体を襲うが、決して揺らぐことはない。

 今の私たちはまさにみんなを守る要塞なのだから。


「はあぁっ!」


 受け止めるだけじゃない。押し返すことだってできるんだ。

 私は雄叫びと共に足腰に力を込めて踏ん張り、ノーライフキングとの距離を詰めるためにそのまま突き進んだ。

 すると不意に盾から伝わってきていた圧力が弱まる。相手もこちらに攻撃が効いていないと気付いたようだ。

 ――なら敵が次の対応へと移る前に押し切る。

 私は両手の得物を剣の形に変えると地面を強く蹴った。

 しかし、進路上にアンデッドたちが現れて私の邪魔をする。


「どいて!」


 片手で剣を振るうだけで一度に数体のアンデッドが吹き飛ぶ。

 そして足で再び地面を蹴ろうとした私を今度は無数の魔法が襲った。

 ノドカがいる場所と距離が開いたことで風の結界による加護を受けにくくなっているのだ。

 加えて、今は彼女たちの近くにファントムだっている。そちらの攻撃を防ぐためにリソースを割いてしまうのは自然なことだ。


『もう、邪魔だよ!』


 眷属スキルと魔法防御を併用していることもあり、魔法が直撃したところでダメージはほとんどないが、邪魔くさいことには変わらない。

 魔法で岩を生成して撃ち返すが、これだけではずっと湧き続ける敵にはあまり効果がないだろう。

 無視して突撃するしかないだろうかと思い、正面に向き直った時だった。

 飛んでくる魔法の数が急激に減少したのだ。


『主様、アンヤだ!』

「アンヤが……そっか」


 魔法を使うアンデッドたちを黒い影が襲っていく。あの子が魔法をどうにかしてくれるらしい。

 これで私たちは正面の敵に集中できるようになった。

 ノーライフキングは下級のアンデッドでは足止めにすらならないと踏んだのか、新たに強力なアンデッドを生み出しているようだが関係ない。私たちの攻撃をまともに受け止められる者など居てたまるものか。

 私は一度、両手に持つ剣を1本の大剣へと変化させる。

 そして頭上に掲げたそれを勢いよく黄金の床へと叩き付けた。


「【ガイア・スマッシャー】!」


 地面に剣を叩き付けた際に発生した衝撃と共に魔力を伝播させた。

 大きく割れる地面とそこから飛び出した破片によって進路上の魔物たちは一網打尽となる。

 今出せる全力でノーライフキングに向かう私の進路には新たに生み出されたアンデッドが飛び出してくるが、それは力任せに振るった大剣によって足を止めることなく蹴散らすことができた。


 そして玉座へと辿り着いた私はノーライフキングと対面する。

 こちらと比べて3倍くらい大きい体躯と未だに底の見えない無尽蔵な魔力によって威圧感が半端なものではないが、こちらも負ける気など毛頭ない。


「コウカ……ッ」


 相当勢い強く壁に叩き付けられてようで、崩れた壁の奥からコウカの気配は感じるものの未だ抜け出すことはできないようだった。

 目の前の敵を倒したら助け出してあげようと心に強く誓い、大剣から再び双剣へと変化させたイノサンテスペランスの切っ先をノーライフキングへと向ける。

 敵も観念したのか2本の黄金の剣を構えた。

 ――よし、先手必勝だ。

 読み合いなど私ができるはずもない。

 ダンゴだって苦手なようなのでまずは勢い任せの一撃を叩き込むために敵の懐へと飛び込み、剣を振り降ろした。

 だが間違いなく捉えたと思ったその一撃は宙を切ることとなる。


「――えっ……ぐ……ッ!」


 背中から強い衝撃が走り、膝を突きそうになりながらもなんとかその場を離れて態勢を立て直すことに成功する。

 背後に回り込んですぐさま追撃を仕掛けて来る敵の攻撃をスキルにより強度を増加させた身体で受け止め、瞬時に振り返るとそこに佇んでいるノーライフキングへと剣を向け直す。


『こいつ、速い。というか、ちょこまかと動くのが得意みたい』


 コウカとの戦いを見る限り、少なくともあの子と打ち合えるくらいには速く動けるようだ。

 大雑把な動きになりやすいダンゴとのハーモニクス状態ではまともに打ち合おうと考えない方がいいかもしれない。

 別に貶しているわけじゃない。得意不得意はあるという話だ。……だからダンゴ、あまり拗ねないで。


 差し向けてきたアンデッドたちを軽く吹き飛ばし、金色の弾幕を掻い潜りながら再びノーライフキングへと肉薄する。

 剣を振るうと先程と同じように回避しようとするのでもう片方の剣で追撃し、何とか相手を捉えることに成功する。

 体格差が3倍近くある相手の剣とこちらの剣では体格に比例したリーチ差はあるものの、こちらが力負けすることは一切ない。

 それは眷属スキルによって揺るぎのない体幹を持っていることと純粋な力の差があるからだ。

 敵もこちらを押し退けようとしているのは見て取れるが、全くもって無意味だ。

 今のままでもジリジリとこちらが押しているが、まどろっこしいので力を一気に込めて押し切ろうとすると急に抵抗がなくなった。

 ――ノーライフキングが剣身でこちらの剣を滑らせるようにして攻撃を逸らしたのだ。


 力一杯押し付けようとしていたので、剣は勢いのまま地面へと突き刺さる。

 すぐに追撃してくる気配を感じ取ったので、イノサンテスペランスを双剣から巨大なガントレットに変形させて敵の剣戟を受け止め、そのまま反撃に移る。

 反撃自体はバックステップで回避されたものの追撃は阻止できた。……やはり、技量はあちらの方が上だ。

 上位の魔物とはいえアンデッドに負けるなんて悔しいが、これが現実なのだ。


「ダンゴ、ここからは私たちの戦い方で行くよ」

『まどろっこしいのは苦手だしね。そっちの方がボクたちらしいよ!』


 最初から相手の戦い方に合わせる必要なんてなかったのだ。

 相手がどんな戦い方をしてこようと私たちは力で叩き潰せばいい。


「はあッ!」


 まず手始めに魔法で作り出した岩を殴りつけ、破片がノーライフキングに向かって飛ぶように粉砕する。

 そして地面を蹴りつけて跳躍した私は上からノーライフキングの脳天目掛けて拳を叩きつけようとした。

 しかし、当然ながら回避される。

 相手のすばしっこさは既に把握している。避けられるのも想定済みだ。

 ――だったらその対策はどうする。

 決まっている。相手が逃げるなら逃げられないように逃げ場を壊していく。いつか捉えられる時まで攻撃し続ける。

 差し向けられる有象無象に興味はない。狙うのは大将ただ一人だ。


 そうして魔法を駆使しながら追撃し続ける私の拳がついにノーライフキングを捉えた。

 敵は剣でこちらの攻撃を防ごうとしたらしいが勢いが乗り、スキルによって質量の増しているこの拳を受け止めることはできない。

 黄金の剣は拳の勢いを止めることすら叶わず、砕け散る。


『このまま押し切ろう!』


 アンデッドを差し向けながら距離を取り、こちらを強力な魔法の弾幕で迎撃してくるノーライフキングだがその攻撃のほとんどが私のいる場所まで届くことはなかった。

 耳に聞こえてくるのは綺麗な音色と歌声だ。

 それと同時にノーライフキングの足元から水が噴き出してその態勢を崩させる。


「ノドカ……シズク……!」


 アンデッドたちを打ち砕きながら、先程の魔法の行使者であろう2人のいる方向へ目線を向ける。

 そこには予想した通り、ハープ状態のテネラディーヴァを奏でながら歌うノドカとヒバナを抱きしめながら連結したフィデルティア状態の杖をまっすぐノーライフキングに向けているシズクの姿があった。


「……ますたー、行って……!」


 気付くとアンヤが駆け付けていて、周囲のアンデッドたちの相手を引き受けてくれる。


「ありがとうアンヤ、みんな」


 魔法は弾き返され、逃げようとしてもどこまでも水魔法が追いかけてくる。もはや敵に逃げる場所などない。

 だからこれが正真正銘、最後の一撃だ。


「これがボクの――私の必殺技! 【ガイア・インパクト】!」


 巨大なハンマーへと変形させたイノサンテスペランスを振り上げる。

 狙うは敵の脳天。《グランディオーソ》で質量も増加させれば間違いなく圧し潰せる。

 そうしてスキルを使いながら振り下ろそうとした――その時だった。

 私の勘とダンゴの勘が同時に警告を鳴らし、すぐに防御姿勢を取らないとマズいという結論に至る。

 攻撃を中止し、スキルで守りを強化しつつ得物を盾へと変形させた私の視界は真っ白になったかと思えば点滅を繰り返していた。


『主様、盾を右にッ!』


 ダンゴが誘導してくれる感覚のまま、よく分からないながらに盾の持ち手を変えながら構え直す。

 何度か盾を衝撃が襲うが、次第に光の点滅は収まっていった。


「な、何なの……」


 正直、頭が追い付いていない。

 ――ノーライフキングは? さっきの攻撃は何?

 取り敢えず状況を確認しようと思い、遮られた視界を確保するために盾を降ろす。

 そうしてまず視界に映ったのは私に粉砕された上に所々黒く歪な線が走る黄金の床だった。こんな黒い線はさっきまでなかったはずだ。

 見れば、盾の表面にも同じような線が走っている。

 近くで見るとこれが何なのかがよく分かった。これは表面が焦げてしまっているんだ。


「ハァ……ハァ……」


 荒い息遣いが聞こえる。それは崩れ落ちていた壁のある方向からだ。

 ――まさか。じゃあさっきの光はあの子がやったの?


「コウカ……」


 瓦礫を押し退けながらボロボロの身体で飛び出してきたのはコウカだった。ボロボロとは言っても、傷の修復は済んでいるようで服がボロボロなだけだが。

 しかし、息を乱しているということは魔力を大量に消費したということだ。

 状況から判断するに先程の光はコウカの雷魔法のはず。

 ――コウカが、私もいるのにあんな攻撃を……?

 正直、信じられない。

 コウカはいつも私を守ろうと頑張ってくれている子なんだ。そんな子が私もいるのにあんな無差別な攻撃をしたのか。


 伏せた顔を上げ、膝を突いているノーライフキングを睨み付けるコウカ。

 その目を見てゾッとする。


「……けるな……わたしは……」


 今のコウカの目に私の姿は映っていないのだ。


「……どうして……ッ!」


 これは――駄目だ。


「コウカっ!」

「――ッ、マスター……?」

「うん、私だよ……私はここにいるんだよ……」


 コウカの目に私の姿が映る。

 だが刹那、敵を捉えるために視線が元に戻る。私の存在には気付いてもらえたみたいだが……。

 彼女はグランツを右手に持ち、ゆっくりとノーライフキングへ向かって歩いていく。


「下がっていてください。あれはわたしが倒します……わたしが倒さないといけないんです」

「何で? どうしてそんなに……」


 意味が分からない。

 この状況で、それにボロボロになっているのに。コウカが倒さないといけない理由なんてないはずだ。


「誓ったんです……だから……」

「誓った……?」


 一瞬、呆気にとられる。

 何を、と聞こうとしたが膝を突いていたノーライフキングが鈍重な動きながらも立ち上がったことで中断せざるを得なかった。

 だが理由がどうであれ、これ以上コウカを戦わせるわけにはいかない。

 この子は一度負けている。これ以上傷付くのは見過ごせない。


「コウカ、お願い。もう休んでて」

「でも……ッ」

「お願い……」


 彼女の視界にしっかりと入るようにその瞳を覗き込む。

 すると彼女の瞳が揺れ始めた。


「……はい……マスターが……そういうのなら……ッ」


 納得がいっていないことは俯いた彼女の態度を見れば分かる。

 悔しさを噛みしめたような声は私の胸を締め付ける。


『コウカ姉様、どうしちゃったのかな……』

「わかんない、でも――」


 まずはノーライフキングを倒さなければならない。

 さっきは攻撃を中断せざるを得なかったが今度は当ててみせる。

 アンヤとシズク、ノドカもずっと頑張って私たちにアンデッドが近寄らないようにしてくれていたみたいだし、その頑張りに報いるためにもすぐに終わらせよう。

 コウカの攻撃が大きなダメージとなっているのか、ノーライフキングの動きにキレはない。

 その影響かもはや出し惜しみする気が相手にはないようだ。


 一層勢いが増した強力な弾幕に上位アンデッドの大群。

 それらを突破した私は今度こそノーライフキングの脳天目掛けて武器を振り下ろす。

 いくら大量の魔力を内包しているとはいえ、単体の魔物相手に使うには過剰な攻撃だ。

 この攻撃によって地面は陥没し、ノーライフキングを圧し潰そうとさらに力を込めたところで床が抜けてしまった。


 ――なんと玉座の真下は空洞になっていたらしく、そのさらに下が魔泉の中心となっているようだった。

 慌ててノーライフキングの身体を蹴り、飛び退くことには成功したが超高濃度の魔力を内包している今のノーライフキングが魔泉へと落ちていったら爆発するんじゃないかと冷汗をかく。

 幸いにもそんなことはなく、ただ霧散していくだけだったのでそっと胸を撫でおろした。


「……こっちも終わった」


 私の隣に並んだアンヤが後ろを指さしながら声を掛けてくる。

 なるほど、ノーライフキングが倒れたことでアンデッドたちも消滅したらしい。


「お疲れ様。すごい魔力量だったけど、終わってみれば大したことはなかったね。使いこなせなかったのかな」

「所詮は知能の低い魔物ってことね。アンデッドだから脳みそまで腐ってんでしょ」

「あ、ヒバナ……」


 ファントムがいなくなって回復したヒバナがやれやれ、と肩を竦めながら歩いてくるがその後ろから着いてくるシズクとノドカは苦笑いだ。

 私の目の前まで来たヒバナは視線を彷徨わせるが、気まずそうな表情を浮かべながら意を決したように口を開いた。


「さっきは取り乱してごめん……迷惑かけちゃったわ」

「いいよ。苦手な物は仕方ないし、もう終わったことなんだから。それにあの時のヒバナは可愛かったから許す!」


 本当はいろいろと言いたいことがあったが、それこそ今私が言ったようにもう終わったことだし、すぐにケアしてあげられなかったこともある。

 何よりも暗い雰囲気にはしたくなかったから最後はこの場を茶化そうとしたのだが、ヒバナの顔は茹蛸のように真っ赤になっていた。


「か、かわっ……やめてよ……は、はずかしい……から」


 しどろもどろになりながら上目遣いで私を見上げるヒバナ。

 ――いや、本当に可愛い反応だな。駄目だよ。このままじゃこっちまで恥ずかしくなる。


「いや、照れる必要ないって。可愛かったよ、ヒバナ」

「っ……もう、さっさとハーモニクス解除しなさいよ! この魔泉をどうするかさっさと決めるからね!」

「はーい」


 言い切ると勢いよく反転し、ヒバナはシズクの傍へと戻っていく。

 ハーモニクスを解除する前に私の中でダンゴが「ヒバナ姉様、可愛かったね」とこっそり呟く。

 解除すると彼女は私に向かってニッコリと微笑んでからノドカのいる方向まで歩いていった。


「それと言い忘れてた」


 ダンゴを見送ると代わりにヒバナが私のいる場所まで戻ってきて声を掛けてきた。

 その顔には赤みが残っていたが、表情が真剣なものだったので私も少し気を引き締める。


「話し合いの前にコウカねぇのこと、お願い」


 顔を近付け、ボソッと呟いたヒバナはまた元の位置に戻っていく。

 彼女がコウカの名前を出したことで私は反射的に後ろを振り向いた。


「コウカ……」


 コウカはずっと同じ場所で俯いたままだった。

 右手は剣を固く握り締めている。


「コウカ……!」


 あんな状態のあの子を放置していていいわけがない。

 駆け足のようになりながら近付いた私は、彼女の身体が小刻みに震えていることに気が付いた。

 ほとんど反射的に彼女の身体を抱きしめる。密着したことでより一層、その震えを全身で強く感じた。


「勝てなかった……勝てなかったんです……」

「コウカ……」

「最初から相手にされていなかった。わたしじゃマスターの敵を倒せない。わたしじゃ守れない」


 これがコウカの想いだというのか。

 この子はそんなことを考えながらずっと戦ってきたとでもいうのか。


「コウカはよく頑張ったよ」

「でも、誓ったのに。マスターの敵を倒すと誓ったのに……!」

「焦らないで。コウカはまだまだ強くなれる。だからそんなに思い詰めないで……お願い……」


 このままだとコウカは押し潰される。誓いという名の重圧によって。

 その誓いを否定することなんて私にはできない。でも、無理に背負おうとしてほしくもなかった。

 最後はただの懇願のような形になってしまったが、それでもコウカに伝えたのは全て私の本心からの言葉だ。


 ――だから、どうかコウカにこの言葉が届くようにと祈った。




    ◇




 この“黄金郷(エルドラード)”がグローリア帝国の栄光と結びつけられるのには理由がある。

 グローリア帝国の発展は魔導具なくしてあり得なかった。そしてその魔導具開発には必須条件が2つある。

 1つは技術者、そしてもう1つは動力源となる魔石だ。

 魔石の質は魔泉の規模、魔素濃度など様々な条件によって変化する。このグローリア帝国は昔から良質の魔石が採れると言われていた。

 だが、その中でもこの“黄金郷(エルドラード)”で採れる魔石の質は正しく格が違う。

 魔素内包量も圧縮率も他のダンジョンから採れる魔素と比較することすらおこがましい。


「これが黄金核? すごい魔素……」

「これを持っていけば、ボクたちも帝都に入れるんだよね!」

「そうだね……そうらしいけど」


 魔導国家にして軍事国家。

 そんなグローリア帝国を支えていたのは黄金の魔石“黄金核”によって作られた魔導兵器だ。

 だからこのダンジョンが約30年近く前に人の立ち入ることができない場所となり、黄金核が採取できないとなった時にこの国の軍事力は大きく低下したと聞いている。

 私たちがこのダンジョンの異変をどうするか。その話し合いの焦点となるのはそこだ。

 異変を治め、また黄金核を採取できるようになったこの国は一体どこへ向かうのか。本当に異変を治めてもいいものなのか。


「私は異変を治めるのには反対よ。こんなものが簡単に手に入るようになれば何を仕出かすか分からないもの」

「あたしは賛成……したいけどやっぱり反対かな……? 魔導具の発展は見たいけど、異変をいつでも治めることができるっていうのは交渉材料になると思う……」


 全体的に異変を治めるのに反対の意見が多い。

 何よりも良識者のシズクとまとめ役に近い立ち位置のヒバナが反対側に付いているのが会話の流れを大きく反対に寄せている。

 正直に言うと私は悩んでいた。

 やはり懸念材料が多いし、迂闊に異変を治めない方がいいのだろうか。


「ボクは面白そうだから賛成したいけど、ヒバナ姉様とシズク姉様が反対するってことは何かあるんだよね……」

「……アンヤは賛成」

「アンヤ?」


 反対に傾きつつある流れを止めたのはアンヤだ。

 ヒバナが優しい声音で「理由は?」と問い掛ける。

 全員でアンヤが語り出すのを待っていると彼女は遂に口を開いた。


「……救世主だから」

「……ッ」


 アンヤは「……それだけ」と締めくくったが、今の一言は私の中の天秤に重くのしかかった。

 ――そうか、悩む必要なんて最初からなかったんだ。私は救世主だから、魔泉の異変は治めなければならない。


「魔素鎮め、やろう」

「でも不安が残るわよ」

「それでもやらなくちゃ駄目だよ。それにもしここにある魔素が淀んで、穢れた魔素になったらそれこそ大惨事だ」


 邪神の影響を受けることで穢れた魔素が蔓延して、このダンジョンを利用されたらマズいことになる。

 ならこの国の――皇帝の良心を信じるほうがまだいい。


「……分かった。魔素鎮めはやりましょう。シズもそれでいいわよね」

「うん、いいよ」

「ありがとう、ヒバナ。シズクも」

「……ただし、条件付きで。これだけは約束だよ」


 反対側の筆頭であったヒバナとシズクが同意してくれたことに礼を言うとシズクは人差し指を立てて1つの条件を提示したのだった。


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