第六話 『マーシャと仲良く冒険 いざ、金牛の町へ』
「リサ……だったな。まさかこの村で遭遇するなんてな。ラビュルスの斧について何かわかったか?」
「ごめんなさい。何も分からないの。旅の疲れをいやしにたまたまこの村によったの。あなたはどうしてここに?」
私は不自然に思われないように彼と距離を取りながら体を彼の方に向ける。
「この辺りで、強力な魔力を感じた。もちろん君でもこの村にいるシオンとか言う魔法戦士でもない存在がな」
あの魔物の子供の事か。この人、どうしてわかったの、あの子がすごいって。私はあの子に触れようとするまで彼の強さが分からなかったのに。
「そう、すごいのね、私は気がつかなかったわ」
「そうか……なかなかの強さを持っているらしいが見込み違いのようだな」
ムカッ。彼の発言と表情は十分に私を怒らせてくれるようだ。
「私は調査の為、しばらくこの村にいる、もし何か情報を掴んだら知らせてくれ。ミノタウロスの討伐の件、十分に気を付けろよ、奴は唯の魔物じゃないからな」
謎の魔法使い風の男性は軽く私に頭を下げると棚にあった赤と緑の液体が入った瓶を持ちカウンターに向かって歩いて行った。
ちょっと待って、なんであいつ、私がミノタウロスを討伐すること知っているの? 聞かないと
「お待たせしました。リサさん、行きましょうか」
私は彼に詰めよろうとしたところで、マーシャがやってきて私に声を掛けた。
「ええ、いきましょう」
私はマーシャの方を見ると、笑顔で頷く。彼が何者か分からないけど、とにかく今はミノタウロスを倒すことが先決ね。
私はマーシャと一緒に店を出ると、そのまままっすぐ門まで進んで歩いて行った。
「リサさん、さっきの人はどなたですか?」
不意にマーシャが先ほどの人物のことについて尋ねてきた。
「すみません、私もよく知らないんです、ラビュルスの斧とか言うのを探しているそうです」
「なるほど……」
それからしばらくして、私たちは町を出た。さて、さっきは一応話しかけてきたみたいだけど、これからどうするかな……
昨日のことがあるから彼女も話しかけずらいよね……。でも無言のままって言うのはかなりきついな……。
「リサさんは今までどんな国に行ったんですか?」
これからマーシャとどうやってコミュニケーションを取ろうかと考えていた矢先、マーシャが話しかけてきた。
昨晩のことがあるから重い空気になるかと思っていたけど、明るい様子で尋ねてきたので少し驚いた。後腐れしないタイプなのかしら……。
「改まらなくていいですよ、リサと呼んでください。後、敬語もなしで」
「そう? それならリサも敬語は使わないで、不公平だから」
「うん。分かった。で、質問もう一度してもらってもいい?」
「うん! リサは今までどんなところを旅したの?」
私はマーシャの質問に笑顔で答える。マーシャは驚いたり笑ったりしながら私の話を体全身でいろいろ表してくれながら話を聞いてくれた。
結構楽しい子なのね。話をしている私も彼女の反応が嬉しくて、色々話した……。そして白洋の村を出てから二日くらい経過した。
「あそこ、あそこが金牛の町だよ」
小高い丘の上でマーシャは麓にある町を指しながら笑顔を浮かべる。遠目からでもわかるほど立派な城壁のある町だ。私たちはそのまま金牛の町に向かって歩いて行った。
「えっと、まずは町長に挨拶に行こう。すぐに行きたいんでしょ?ミノタウロスの所に」
町に入るとマーシャは笑いながら尋ねてくる、私はゆっくり頷いた。
町のいたるところに建築中の家があり、白洋の村よりも重厚な鎧を纏った兵士たちがいる、金牛の名に恥じないような立派な二つの角のような兜をつけた人たちだ。
「建築中の家があるのはどうして? ここもミノタウロスの襲撃を受けたの?」
「う~ん、確かに魔物に襲われているけど白洋の村ほどはひどくないの。建築中の家は避難所。ここは魔王城から一番遠い町だからね、何かがあった時のために各町の人々を避難させているの。魔物はやってくるけど、ミノタウロスは出てこないしね」
そういうとマーシャは目の前から歩いて来ていた、家族と思われる、子供二人と一人の女性に頭を下げる。私もつられて頭を下げた
「あの人たちも避難民だよ、宝瓶の神殿だったかな?」
どこ、そこ。でも確かに町の規模にしては人が多い。それだけ魔物被害は尋常じゃないって事ね。これは早急に終わらせる必要があるわね。
「さ、ついたよ。ここが私たち金牛の町の町長の家であり、金牛騎士団の本部があるところよ」
町から入って一番目立つところにある屋敷に招待される私、屋敷の門には金色の牛の銅像が置かれていた。
「!? マーシャ、どうしてここにいる。君は白洋の村の守りを固めるように指示されていたはずだが?」
屋敷の入り口の前にいる兵士は、マーシャに声を掛けた。
「ミノタウロスを倒すための助っ人を連れてきたのよ。いろいろ面倒だからコレ白洋の村の村長からの手紙、さっさと団長に渡してきて」
マーシャは兵士に手紙を渡した。受け取った兵士は、屋敷の中に入っていく。しばらく待つのね……私たちはそのまま屋敷の外で待った。
その間もマーシャと話をするが彼女はどこかソワソワしている……どうしたんだろう? そう思っていると、屋敷の入り口が開く、そして先ほど手紙を渡した兵士が屋敷から出てきた。
どうやら、団長さんが会ってくれるみたいだ。
「ねぇ、ル、ルキウス隊長は帰ってきている?」
マーシャは先頭を行く兵士に尋ねた、兵士は『ああ』と返事をする。
するとマーシャの顔が一瞬青ざめた。ルキウスって誰だろう? 隊長ってことは彼女よりも偉いのよね。
彼女の様子から察すると……鬼教官とか? 警備が厳重ね、いたるところに兵士がいる……そう思っていると、大きな扉の前の部屋の前に立った。
「こ、ここが団長の部屋、大丈夫、いきなり切られることはないから……たぶん、ルキウスがいる……けど……大丈夫なはず……」
マーシャはそう言いながら私の後ろに隠れる……なるほど。これがさっきから落ち着かない様子の答えか。
腕試しで同僚や上司がドアの陰から切りつけてくる奴。全く男の人ってそういうの好きよね。いや、まぁそのルキウスって言うのが男かも分からないのだけれど。
ただ、扉の向こうから殺気のような物は感じる、これはやる気満々ね。
「じゃあ、あ、開けるよ?」
私達を案内した兵士は部屋の前まで来るとすぐにどこかにはなれる、持ち場に戻るのかしら? 私が兵士の動きを追っているとマーシャの震えた声が聞こえ、私の後ろに来る。
私を盾にする気? まぁいいけど。そして彼女は私の後ろから体を伸ばし、ドアを開けた。すると、ドアの陰から、一本の剣が振り下ろされた!
「っ!」
私は瞬時にツチヒメを引き抜くと、振り下ろされた剣を防いだ。
「見事!」
私に剣を振り下ろしたのは一人の男性だった、立派なひげを蓄えた。40代後半くらいの男性。
桑年って言うんだったっけ? 彼はニヤっと笑みを浮かべると、一歩下がって剣を納刀した。
「君がリサだな。私の名前はブルーノ。この町の町長であり、この町の騎士団。金牛騎士団団長だ。」
ブルーノさんは優しく微笑んだ。
「手紙は読んだ。内容はともかく君がミノタウロスを倒してくれるならこちらも助かる」
彼は私に笑いながら歩きだし、入り口から一番目立つところに置かれた椅子に座り、手紙は手紙を机の上に置いた。
「正直、人手不足なんだ。魔王やその配下の四天王、四天王以下だが強力な魔物の討伐、そして町の防衛、騎士団を編成はしているが猫の手も借りたい状況だ」
「なるほど、分かりました。では早速ミノタウロスの討伐に行きますね」
私は、そういうと一歩下がる。
「あ、相変わらず、せっかちね……」
「やる気満々なのは助かるな。よし、マーシャ。お前も一緒に行け。あと、ルキウス。お前も行け」
ブルーノさんは自身の隣にいる茶色の髪をした短髪でキレ長の鋭い目をした男性に目を向ける、なるほどこの人がルキウスさんか。確かにマーシャよりは強そうね。
「シオンを圧倒する人間と聞いていたが、魔導師か……」
ルキウスさんは私の傍まで歩いてきた。
「シオンの魔法剣もそこにいる鉄砲玉の秘儀も破ったらしいが……悪いが俺は自分で見たものしか信用できないのでな、やる気満々なのは結構だ、だが、口だけなら誰でも言える。少なくとも、そこの鉄砲玉と同じで及第点、本音はそれ以上の実力じゃないと足手まといにしかならんからな」
この人こういうタイプね。なるほど面白いわね。少しイラッとするけど。
「そう、あなたはずいぶん自分の部下を過小評価しているのね」
私は笑いながらルキウスに返した。
「まぁ確かに彼女の必殺技は破ったし、彼女の一撃に押し負けない力はある、でもあなたに彼女みたいな強さはあるの? ミノタウロス如きなら私一人でも倒せるわ むしろマーシャは案内役として必須だけれど、あなたはどうなの? 足手まといにならないのかしら?」
私の言葉に、マーシャが慌て始める。なんであなたが慌てるのよ……。
「ふっ、面白い女だ、その挑発にのってやる。団長、裏の訓練場使うぞ? この女の実力を見たい」
ルキウスはブルーノさんの方を見ながら言う。
「いいだろう。実際私も、シオンを倒し、私の一撃を受け止めた彼女の力を知っておきたい。今から向かおうか」
ブルーノさんは立ち上がると笑いながら言う。彼の案内の元私たちは団長室を出た。団長室から出た私たちは階段を降り一階に向かう、そして外に出ないで一階から訓練場と思われる場所に向かった。
屋敷と兵舎が繋がっており、兵舎を抜けると訓練場があった。
訓練場も弓兵が訓練するもの、剣術や槍術と並んでおり、私たちはそこの一番奥の何もない殺風景の所に止まった、明らかに一対一の戦いのみの訓練場、腕試しにはもってこいだった。
門を抜け三段ほどの段を降りる私とルキウス。そして私たちは向かい合うようにして立った。
「さぁ始めようか」
ルキウスはそういうと、ベルトの両方から筒のような物を取り出す、そしてそれを連結させた、すると右手側の方の先端から、光の刃が伸びた。槍! しかも魔法武器だ。
「加減はせんぞ、貴様の実力を見せてもらう」
「ええ、良いわよ、どこからでもどうぞ?」
私は鞭を握りベルトから引き抜きながら言った。
「ルキウスとリサのどちらかが降参もしくは気を先に失った方が負けだ。では、模擬戦開始!!」
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