第五話 『村長からの依頼 ゴブリン助けるためには拒否できない』
シオンの後につられ、上の階に上る。シッカリとした作りの家だ……。
廊下を歩くと分かるが、窓のそばや部屋の前、外から侵入した際、隠れることができそうな場所に兵士一人一人を配置していて、思った通りではあるが警備は厳重だ。
「この部屋だ、入れ」
私はある一つの部屋に通される、かなり広い部屋で、中央に大きな机が置かれた部屋だ。
「そこの椅子に座りなさい。」
立派な椅子に腰かけながら村長は、顎で向かい側の椅子を指しながら言った。その態度にイラッとするがまぁ仕方がない。
私はゆっくりとその椅子に腰かけた。すると私の後ろと左右を兵士が囲んだ。なるほど……まだ警戒はされているのね……。
私が座ったことを確認するとシオンは村長の隣に行き、その場で止まった。
「では、聞かせてもらおう。貴女とあのゴブリンの関係を。貴女がどうしてこのような真似をしたのかを……な」
村長は私に尋ねた。一見すると、穏やかな表情ではあるが目は鋭く、口調もどこか突き刺さるようなものの言い方だった。私はゆっくりと息を吐き。
「どうしてこのようなことをと言われても、傷ついた魔物の子供を、明らかに魔法攻撃を受け気を失うほどの怪我をしている子供が牢屋にぶちこまれている姿をみて助けたいと思ったからですけど……いけない事だったんですか?」
と早口で言い放った。
「ゴブリンのような醜い魔物を助けようとするなど……やはり貴様……魔王の部下だな?」
私の隣にいた兵士の言葉にイラッとする私。私は怒鳴ろうと机を叩きつけようとした、その時だった。
「口を慎め‼ 愚か者‼」
床が割れたのではないかと思うくらいの音が部屋にこだまし、間髪入れずに、シオンの怒号が響いた。
「す、すみません……」
私の隣にいた兵士のか細いが聞こえる、これぞまさしく『しょんぼり』と言う状態だろう。
「あのゴブリンを見て、悪と判断しない……この国の人間ではないな? 性別年齢関係なく、魔物を見れば善悪関係なく、恐れるはず……。それにシオンや粗削りとはいえマーシャを倒す実力……ただ物ではないな……話を聞かせろ、お主が何者なのかを……」
村長は机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていくという人にものを聞く態度ではないような姿勢になりながら私に問いかけてきた。
「分かりました。お話しします……」
私は溜息をつくと、秘密にしなければならないところは秘密にしつつ、村長やシオンに説明した。
「なるほど……なかなかな修羅場を歩んできたようじゃな……それならばシオンやマーシャが後れを取った理由も頷ける」
「少し話が……」
シオンは村長の耳元まで腰をかがめると、何かを話し始めた……内緒話……気になるわね……。
「なるほど……それはいい案かもしれんな」
っと、話し終えたみたい……いい案ってなんのことだろう……。
「リサとやら……お主に提案がある」
村長は私の方を向きながら言った。その言葉を聞き、提案? 命令じゃないの? と言いそうになるがぐっとこらえた。
「ここより北に金牛の洞窟と呼ばれる洞窟がある。そこにいるミノタウロスを討伐してきてほしい」
「ミノタウロスと言えば、この村を襲ったモンスターですよね?」
私の問いに、村長とシオンは同時に頷く。息ピッタリね。
「突然やってきて我らが村と金牛の町で暴れたうえ、部下の魔物を放ってきている迷惑極まりないモンスターじゃ」
「ここから北上した先にある、金牛洞窟に居座っている。そこで何をしているかは知らんがな」
「奴が送り込んでいる魔物の被害もあり、ミノタウロス討伐に人員を割けん……そこでお主にミノタウロスを討伐してきてほしいという訳じゃ。それと条件にあのゴブリンを解放しよう」
なるほど、まぁ理にかなっているわね。利用されている感じが少し腹立つ、だけれど魔王を討伐するつもりがある私にとってみれば配下の魔物の強さを知るには願ってもない機会、ここは受け入れましょう。
「分かりました。引き受けます、しかし約束は守ってくださいね?」
「うむ、約束しよう。では明日の朝、もう一度この屋敷に来るがいい」
明日? 私は今からでも行くつもりだったんだけど……。
「ん? なんじゃ、そのあっけにとられた顔は。お主まさか……今から行こうとしてたわけではあるまいな!?」
「ええ、そのまさかですけど……早く片付けたほうが……皆の為にもいいかと思って……」
私の言葉にその場にいた人たちは驚きの表情を見せる。
「ハッハッハッ、流石は俺を倒しただけのことはある」
突然シオンが大笑いした、一人称も私から俺に変わってる。
「その心意気は認めるが、金牛の洞窟は金牛の町の騎士団が見回りをしている。わしが金牛の町にいる団長の方に手紙を書くから、明日の朝に取りにこい」
「わ、分かりました……」
ゆっくり頷くと、そのまま村長の部屋を出た。もちろん兵士がそばにいた。村長のお屋敷を出た後も、私の後をついてくる兵士たち、私が泊っている宿屋の前に着くまで、じっとついてきた。無言で……。
「明日、また迎えに来る。それまで勝手なことをするなよ」
宿屋が見えると、兵士は途中で足を止め、冷たい声で私に言い放つ、そして私が振り返るのと同じくらいの早さでもうすでに私に背を向けて歩いていた。
「はいはい、勝手なことなんかしませんって」
私は呟くと、兵士がこっちを見てないことを確認し、全力で舌を出し所謂、あっかんべ―をした。私は溜息をつくと宿屋の入り口に手を伸ばす。
「あ、カギがかかっているんだっけ?」
安全のため、宿屋のカギは締まっていることを思い出す。仕方がない……私は宿屋の裏手に回り、自分が出てきた部屋まで行く。そしてゆっくりと窓を開けると部屋にこっそりと入った。
「ふぅ。まずはシャワーを浴びて休みましょうか……明日も早くなるし……」
私は呟きながら、腰に巻いたツチヒメや道具袋等が取り付けられるベルトをベッドの上に置くと、歩きながら、身につけている黄土色の薄い素材の上着を脱ぎ、それもベッドの上に放り投げ、ベッドの右横に置いてある3段のタンスの一番上を引くようにして開ける。
そしてそこから大きめのタオル1枚と、少し小さなタオルを2枚取り出すと、部屋の右端にある扉に向かって歩いて行った。
翌朝、私は早々に屋敷にいた。寝ている所を叩き起こされると言う事はなく、朝食を済ませ、出ていく準備をしているとシオンとマーシャが来たのだ。
宿屋の人はいきなりシオンとマーシャがやってきたので驚いていたけど……。そこで私は一通の手紙を受け取った。
「これを、金牛の町の町長に渡せ。そうすれば金牛の洞窟へ行ける」
「それと、マーシャ。君がリサをミノタウロス討伐まで同行しろ」
シオンが隣にいたマーシャの肩をたたきながら言う。なるほど。監視目的ってわけね……。
「なに? シオン。勝手なことを言うな……マーシャがいなくなったらここの守りはどうなる? 監視なんか、兵士二人で十分だろう?」
兵士長と思われる立派なひげを蓄えた兵士長風の男性がシオンに詰め寄る。言葉には出さないが、村長も何か言いたそうな顔をしている。
「本当にそう思っているのか?」
「なにぃ?」
シオンの静かな声に首をかしげる兵士長。
「昨日の一件をもう忘れたのか? ハッキリ言って今いる兵士たちでは彼女を監視できるとでも?」
「うっ……」
シオンの言葉にうろたえる兵士長、彼が影になってシオンの表情は読めないけどたぶん。
あのうろたえ方から察するに睨まれている……あれが兵士長で良いの? この村。
「これは村長の命令でもあるのだ」
シオンの発言にみんなが一斉に村長の方を見る。
「ど、どういうことですか?」
「金牛の騎士団の団長がマーシャも連れて来いと行っている……。理由は分からんがな……」
ため息交じりに言う。どうやら納得していないようだ……。
「と、いう訳で。マーシャ、リサを金牛の町まで案内してやれ」
「分かりました」
マーシャはゆっくりと頷いた。
「さて、行きましょうか」
道具袋に手紙を入れた私はマーシャを見ながら笑顔で言った。
「まって、行く前に道具そろえていったほうが良いのでは?」
「そうね。そうしましょうか……」
屋敷からでるとマーシャが騎士団と取引している道具屋に案内してくれた。ここならいろいろな装備を安く買えるそうだ。
私はそこでいくつかの食糧と新しい鞭を購入した。
「リサさん。私、店長と話したいことがあるから、お店の前で待っていてもらって良いですか?」
「ええ、良いわよ。ゆっくりしてください」
私は笑顔で答えると、再び、道具屋から出ようとドアに手を掛けた、その時。
「また会ったな」
ドアの近くにある棚で道具を見ていた、真っ赤なマントを着た、ここに来る途中の港で出会った男性が私に声をかけてきた。
港の時も思ったけどこの人相当強いわね、何者なの?
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