第三十一話 『地震の原因はゲームの八つ当たり? 子供みたいに怒らない!』
「洞窟と言っていたけど、思ったより狭くないわね」
洞窟について周囲を見渡した。土の魔力で作られたことが一目瞭然なほど、土や岩の物質が目立つ洞窟だった。
カナンさんが修行に使っていたと言っていたが、本当にそのとおりでなにもない空間がただ続いていた。さて、モゥンハーンはどこかしら……。
本当になにもない、こんなところに四天王がいるの? そう思っていると、ター君が私の服の袖を引っ張った。
ター君を見ると彼は私の後ろを指さしていた。振り返りその方向を見るとそこには、長方形状の巨大な箱のような建造物があった。
「ミノタウロスがいた部屋と同じようなものね、あそこに四天王がいるのか……」
私とター君は互いに顔を見合わせ頷くとゆっくりと、謎の建造物に近寄る。すると、建物の中央にドアがあった。
「倉庫っていう感じね……まぁいいわ……ター君行くよ?」
私はドアノブに手を伸ばした、その時!
「だァぁぁっ!!落ちない!」
ものすごい声が聞こえると同時にビリビリと中から魔力が衝撃波のように伝わってくる。
まずい! そう思っていると、外壁にヒビが入った! 私とターくんは急いで後ろに飛び上がり、距離を取った。
そして、私達の足が地面についた瞬間、洞窟が一斉に揺れた。
「くっ、この魔力。アースクエイク……」
もしかして気づかれたの? 彼女に……でもあの、落ちないという言葉が気になるけど……そう思い、倒れないように踏ん張りながら、彼女がいると思われる、建造物を睨んだ。
すると、ガラガラと音を立て勢いよく建物は崩れ、アースクエイクが止まった。
「嘘でしょ!?」
何が起きたのかわからない、自分で起こしたアースクエイクで根城を壊した? なんで。
私とターくんは顔を見合わせるとゆっくりと、瓦礫の山に向かって、部屋があった場所に向かって歩いていく。
その時だ、勢いよく瓦礫の一部が吹き飛び、中から一人の女性が姿を表した。
「くっそ、気分悪ぅ。素材のせいで家ぶっ壊しちゃった」
その女性はきれいに染めた、茶色の頭をかきながら、歩いてくる。デモンほどではないが健康的に焼けた小麦色の肌を持った女性。
オヘソが見えるほどまでに丈が短い赤い服を着てその上から黒い服を羽織り、おしりが見えるのではないかと思うくらいの短いスカートを履いた私と同い年くらいの女性だ。
彼女がモゥンハーン……?
「なんで? 後一個で終わるのに! 何百匹狩ればいいのよ! さっさと落ちなさいよ、皇玉!」
彼女は、長方形状の何かを地面に叩きつけながら言った。なんか怒っている? ものに当たるのはだめよ?
そう思っていると、彼女と目があった。
「ん? 誰よ!?あんたち!?」
彼女は目を見開くと後ろに下がりながら言った。私達に気がついてなかったのね。
「! そうか! また、あの天蝎騎士団とかいうやつらね! たしかにあーしは、魔王の命令で一回だけ、地震を起こしたわよ? でも、それ以降のことなんか知らない!」
え!? 一回だけ? どういう事なの? カナンさん達が嘘をついていたようには見えないけど……じゃあ、私達が天蝎鉱山に来た時の地震は別の魔物が起こしていたの?
「あーもう! イライラする! 素材は落ちないし、普通に暮らしているだけなのに、たった一回の事をグジグジと怒られて……鬱陶しいのよ! あんたたち!」
彼女が声を荒げる、すると勢いよく洞窟内が揺れた! くっ! アースクエイクか……。
「分かった! あなたの言い分は信じるから、とにかく地震を止めて!」
「しつこいな! あーしは地震なんか起こしてないって言ってるでしょうが!」
彼女が二度、声を荒げる。すると、地震の強さが増し、天井の一部が剥がれ落ち降ってきた!!
くっ! 怒りで強さが増した!? あ、そうか彼女、自分が怒りで地震を起こしているって気がついていないんだわ……だから、魔王に命令されてやった一回しか認識していないんだ……面倒ねっ!
「いい加減にしなさいっ! 子供みたいに癇癪起こして物に当たらないの! 他人の迷惑を考えなさいっ!」
私はそう叫ぶと、魔力を全身に集中させ、地面を勢いよく踏みつけ、集めた魔力を一気に放出し、彼女が発散している魔力にぶつけた!
そして地震の発生を止めた。よし、コレでなんとか戦える!
「はぁっ!?こ、子供みたいぃ? もう怒った! 説教されるのがね、だいっ嫌いなのよ、あーしは!」
うっわ! めっちゃ怒ってる!?すっごい魔力だ!
「四天王を舐めないでよっ!」
モゥンハーンはそう叫ぶと、私たちに向かって走り出した。そして右腕を勢いよく突き出そうとしていた。魔力が込められている!? 魔法は撃たせない!
私も右手に魔力を込める、そして彼女の突き出した右腕に向かって私も手を広げた状態で右腕を突き出した、彼女の拳を私の手でつかむためだ。
しかし、私の手は彼女の拳を包むことはなく、宙で何かの壁に阻まれたようにぶつかったそして一気に衝撃波を生んだ。
「っ!」
私とモゥンハーンは思わず後ろに飛び上がり距離を取った。そして彼女は舌打ちをすると、右手をぶらぶらと降りながら気怠そうな顔で私を見た。
「あーしと同じ力の土の魔力ぅ? ほんとだるいなっ!」
彼女はそう言うと体に魔力を込める、今の状態の私と同程度の土の魔力。しかも彼女の性格を表現しているようにまるで炎のような荒々しさがある。これは強い……。
「ター君行くよ!」
私はター君に呼びかけながら鞭を引き抜く。デモンの時のように加減をしている余裕はない、私は鞭に魔力を流し込んだ。
ター君は強く頷くとカタナを引き抜いた。すると、天井の一部が剥がれ落ち、地面に命中。そして私たちはそれが合図だったかのように一気に走り出した。
モゥンハーンはター君に向かって右腕を真横から振り回すようにして突き出す。ター君は屈んでその攻撃を躱した、そして瞬時にカタナを構え彼女の左わき腹に向かって左から右に向かって振った。
しかし、ター君のカタナの刃は彼女が纏う土の魔力により阻まれる。
ところが衝撃が伝わったのか、彼女は左目を瞑り苦の表情を浮かべると後ろに下がった。いまだ!
彼女が後ろに下がった瞬間、私は飛び上がる。そしてそのまま鞭を勢いよく姿勢を整えようとしている彼女の頭に向かって振り下ろした!
「うっざ!」
彼女はそう言うと右側に転がった。嘘!? 躱された!
そう思っていると彼女が私に接近、右手を下に垂らしている。腕を突き上げる気か……違う何か持っている……武器だ。速い、間に合わない。
私は土の魔力を左手に流すと、何かを握り振り上げようとしている彼女の腕の動きに合わせて左腕を前方に突き出し、彼女の攻撃をふせ……げない!
「うあっ!」
土の魔力を込めて突き出された何かの武器は私の左腕を大きく吹き飛ばした! それだけじゃない十分に魔力を込めて防いだはずの私の左腕は切り裂かれた。
私は腕ごと身体が飛ばされ、バランスを崩すもすぐに立て直す。その時だ、目の前に彼女がいた。
本当に素早い! 彼女は右腕に持っていたナイフを私に向かって両手で握り振り下ろそうと構えていた。
まずい! 私は右手に握る鞭に魔力を流し、彼女の一撃を防ごうと突き出そうとした。
その時! ター君が右横から飛びかかる様に、モゥンハーンに向かってカタナを突き出した!
彼の握るカタナから黄色い閃光が放たれ、彼女に命中すると彼女はそのまま勢いよく吹き飛んだ! そして瓦礫に突っ込んだ。
「ごめん、助かったよ……」
私は着地したター君に向かって言う。ター君は私の方を振り向くと小走りで近寄ってきて、悲しそうな表情を見せた。
私の傷口を見ている。大丈夫と言ってくれているのか。
「大丈夫だよ、魔力を込めて防いだ私に傷をつけるのはすごい技と武器だとは思うけど、かすり傷よ……」
私はそう言って右手を傷口に添える。そしてヒールを唱えた。かすり傷……とは言ったがまだ血が流れてきている。回復しておこう。
「ったいなぁぁ! なんて攻撃すんのよ」
声が聞こえ私たちは睨む。するとモゥンハーンが瓦礫を押しのけ立ち上がった。あの斬撃受けてピンピンしている……ところどころ汚れてはいるけどね。
もしかして土の魔力には雷は効きにくいのかな? なんせ雷の魔法と言うのが珍しいから力関係が分からない……。
「二対一は流石にきついな」
彼女はそう言うと服のポケットから小さな手帳くらいの大きさの何かを取り出した。するとそれに彼女の魔力が込められた。
そして変化、手帳くらいの小さいサイズだったものが私の持っている魔導書と同じくらいの物へと変わった。
そして彼女はパラパラとページをめくった。すると彼女の足元に魔法陣が展開され、距離があって聞こえないが詠唱を始めていた。って、この魔力、まさか!
「はあぁぁぁぁっ!」
彼女は声を荒げ魔法を発動した! すると周囲にある洞窟内にある土や岩石がボコボコと盛り上がり魔力光を放ちながら変形、彼女の左隣にモンスターをかたどったゴーレムが生まれた。
四足歩行の虎のような姿に鎧の様な皮膚を持ち、オーガの様な鋭い顔を持ったゴーレムが。
そして彼女は魔法を唱え終わったのか、魔導書を元の大きさに戻すと服の胸ポケットにしまった。そして、ゴーレムが雄叫びを上げ、魔力を纏った。
「私が四天王を倒すから、君はゴーレムをお願い!」
私の言葉にター君は強く頷く、そして私達モゥンハーンとゴーレムに向かって走り出した!
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