第三話 『地下牢からの救出劇 お次の相手は大剣使いの女戦士』
「良かった、拷問とかはされてないみたいね。」
私は胸をなでおろす。てゆーかこの子、鎖につながれているこの状況で寝るって何気に図太い神経をしているのね……。
「さてと、助けないと」
私は道具袋から一本の小さな棒を取り出す。これは仲間に貰ったアイテムで、どんな鍵穴でも開けることができるカギだ。
金色に輝く本当に小さな棒で、これを鍵穴に差し込むと、形状が変化し、鍵穴に合うカギに変化するという反則に近い代物である。
「空いた。流石!」
私は牢屋のカギを開けると、ゆっくりとカギを抜く、すると元通りの一本の棒へと姿を変えた。
「君? だいじょ……」
私は拘束されながらも寝ている魔物の子に駆け寄った。傷の処置はされており、真っ赤なマントに銀色の鎧をつけたままであった。そして、私は彼を起こそうと肩に触れる、するとだ。電気のようなものが腕に走った。
「っ! な、なに? 今の……」
不思議な感覚におそわれる私。直感でわかる、この子はゴブリンではないと……。まずは見た目だ、子供のゴブリンにしては筋肉質すぎる。まるでドワーフ。
でも、体格以外はゴブリンの子供と変わりない。それにゴブリンにしては容姿も整っており、清潔感がこの子にはある。
次に違う点、彼の体からあふれ出てる魔力だ。私の仲間は魔力のことを気やスピリッツと呼んでいる人もいたが、この世にある万物が内に秘めるエネルギーのことだ。
ゴブリンの魔力は濁ったものなのに対し、彼はその真逆、綺麗で聖騎士と同じような輝きがあるがそれと同時に、ドラゴンやオーガの様に荒々しい攻撃的なものを秘めていた。
こんな魔物、見た事ない……あ、一人だけ私の仲間にいた。でも彼、オーガを素手で倒す化け物だし……。
まぁ、そんな事よりもまずは彼を救いましょう……。引っ込めた右腕をもう一度、彼に伸ばそうとした、その時!
「っ!」
殺気! 私は後方に勢いよく飛んだ。すると目の前の壁が勢いよく崩壊し、そこから勢いよく私目がけてまっすぐに、何かが……分厚い塊が降ってきたのだった。
「まじぃ? 完璧に不意を突いたと思ったのになぁ……」
壁が勢い良く崩れて発生した土埃の向こうから女性の声が聞こえ、私はその方向を見る。そこには大剣を肩で担ぐように抱えた女性が立っていた。
気がつかれたみたいね、面倒だなぁ……。
「へぇ、あんたなかなかやるじゃん」
女性は笑みを浮かべながら私に言う。後ろでひとまとめにして括った綺麗な桃色の髪が風に揺れる。
「で? あんた、何が狙いなのさ。まさか……その魔物を助けに来たとか言わないよね?」
「そのまさかよ」
「へぇ、笑えない冗談ね。まぁ良いわ。あんたを叩き潰した後で目的をじっくり聞くわ。それとミノタウロスとあのブタのこともね‼」
彼女はそういうと担いだ大剣を両手で握り飛び上がると勢いよく私に向かって大剣を振り下ろした!
私は後ろに下がって彼女の一撃をかわす。勢いよく振り下ろされた大剣は冷たい床を砕いた。見た目の割にかなりの力がある。
「あれ? これもダメか……だったら……」
彼女は大剣を両手でしっかりと握り、私に向かって突っ込んできた!
「オラオラオラオラァ!!」
乱暴な言葉を吐きながら彼女は大剣を勢いよく振り回す。左、右、振り下ろし、振り上げ、左斜め下からの振り上げ……
重い大剣をこの速さで振り回せるのは恐れ入った。見た目に反してすごく力も重心も安定しているわ……
まぁ、私は見えるんだけどね。だから彼女の斬撃を一つ一つ丁寧にかわしていく。それにしてもこんな狭い場所であんな大剣を振り回されたらたまったものじゃない。
「マーシャ! 落ち着け! このままだと牢が崩壊するぞ!」
突然、声が響く、私は攻撃をかわしながら、声の方を見た。すると、そこには五人程度の兵士が入って来ており、先ほど叫んだのは先頭にいた初老の男性兵士だった。もう増援が来てしまったのね……
「どうしたの? 避けることしかできないの? それとも、手を抜いてるのかしらっ!!」
荒々しい戦い方や言葉遣いに反して可愛い名前の少女、マーシャは私に接近していた。彼女の猛攻を後ろに下がりながら躱す私にどんどん詰めよってくる。
分かってはいたけど、なかなかの速さだ。そう思っていると、彼女の振り下ろした大剣の威力で床が割れ、その残骸に足がとられてしまった。
彼女はそのすきを見逃さず大剣を大きく振り上げた! こうなったら!
「っ!」
狭い空間に響き渡る、鈍い金属音。目の前には目を丸くしているマーシャ。彼女は何が起こったか分からないだろう。
なぜなら彼女の振り下ろした大剣の一撃は、私の持っているムチで受け止められたうえ、弾かれたのだから。でも危なかった、確実に頭を斬られるところだった。
「はぁ? なに、その鞭。何で私の一撃を受け止めるだけじゃなくて弾いたって言うの?」
彼女の声は震えていた、まぁ、無理もない、私に大剣を振り下ろした時の彼女の表情は笑っていた。
明らかに勝ちを確信していたはずだ。そんな状況で振ったはずの大剣は私の鞭の下から突き上げた衝撃に負けたのだから。
「おい、マーシャが力負けしたぞ………なんて怪力だ、あの女。もしかして女型のオーガか?」
むっ! 失礼なことを言っている兵士がいる。確かに魔力は高いがれっきとした人間ですぅ!
「くぅ、でもね……まだ負けてないわ!!」
マーシャは大剣を再び握ると今度は薙ぎ払うように斧を振ってきた。私はそれを後ろに下がってかわす。
驚いたな。かなり強く真下から突き上げるように防いだから、あの腕の弾かれ方だと、暫く痺れるはずなんだけど……。
「くぅ。こんなのじゃ、埒が明かない……あの技を使う!」
突如動きを止めたマーシャは後ろに飛び、距離を大きく撮ると大剣を床に刺し、一度手を放すと、両腕を両腰の位置にもってきて拳をにぎった。
そして深く息を吸い始めた。すると、彼女の体が赤く光輝いた‼ まさに必殺技と言う所ね
「マーシャ!! ここでその技を使えばここが吹き飛ぶぞ!!」
初老の兵士の声が響く。他の兵士もうろたえる。見れば分かるが、彼女の皮膚が赤く染まり体から煙が発生していた。
そして、火の魔力と水の魔力を感じた。この二つを混ぜ合わせた技……と言う事かしら。
「行くわよ! 私が今使える、最大の技だ!!」
マーシャは大剣を引き抜くとしっかりと両手で握り、声を上げながら私めがけて走ってきた!
大剣を真下に構えて走ってきたマーシャ、だけど突然構えを変えた。胸を開くように構えたのだ、あの構え方からして右から左に向かって横一線に切りかかるはずだ……。私は鞭を強く握りしめた。
「はあっ!」
マーシャは私の狙い通り勢いよく大剣を一文字に振ってきた。チャンス! 私は右斜めに軽く飛び、彼女に一撃をかわすと、そのまま鞭を彼女の大剣を勢い良く振ったためできている左胸へと叩きつけるように振るった!!だけど……。
「えっ!?」
私の放った鞭は、マーシャの体に命中することはなく、そのまま空を切った! 違う! 躱されたのだ、なんていう速度なの!
「すきありぃぃぃぃぃっ!!」
マーシャの声が響く、私は背後をにらむようにしてみる。そこには体から煙……蒸気かこれ、蒸気を発生させながら、大剣を両手で握り今にも右上から左下に向かって振り下ろそうと構えている彼女の姿があった。
やむを得ない、この技を使うしかない。お願い! 怪我しないでよ!!
「がぐっ!」
彼女が大剣を勢い良く振る、それは私の体に命中し、私は切り裂かれることはなかった。代わりに、攻撃したはずの彼女が勢いよく吹っ飛んでいた。
私がやったのは防御魔法だ。自分の目の前に土の魔力で作った光の壁を展開する技で、相手の攻撃を跳ね返すこともできる。
吹き飛んでいくマーシャは意識が飛んでいるのか微動だにしない。まずい! あの方向には壁が……このままだとそのまま壁にぶつかる!
私を含め気がついた兵士が何人かマーシャが飛んでいくと思われる地点に向かって走っていった。
「ほぅ、ただの侵入者ではないようだな」
マーシャと壁の間に突然、人影が現れ、マーシャの体を抱えるように、受け止めた。そしてその影は私の方に向かって口を開いた。
月明かりがさし彼を照らす。そこには、村の英雄と人々から慕われている、青年が。青く輝く鎧に、銀髪と赤い瞳をした戦士。シオンがマーシャを抱えて立っていた。
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