第二話 『ゴブリン救出劇 え? 兵士に侵入バレちゃった!?』
「ふぅ」
私は宿屋に帰ってきてベッドに横になる。さて、情報を整理しましょうか。
どうやら数年前からこの大陸に魔王『アロタロス』が現れた。そして彼は部下の四天王を使い、この島を征服した。
この村と近くにある町だけは四天王ではなくミノタウロスと言う魔物を使い、征服しようとした。ところがある日突然ミノタウロスがやってこなくなったと、村人が話していた。
しかし、ミノタウロスが来ていたせいなのか、他の魔物が村を襲う事が増えたらしい。確かに村を散策していると所々、屋根瓦が落ちていたり、外壁にひびがあったり、村の道路が陥没していたりと荒れていたのを見た。聞くと二、三日前にもゴブリンとオークがやってきたそうだ。
そりゃあ、皆警戒するよね。姿をはっきりとしか見ていないが見た目だけならゴブリンそのものだったもの。
ミノタウロス……頭が牛で体が人間の種族ね。力が強い種族で並の人間では歯が立たない魔物。知能が高い個体もおり、中には魔法を使える物もいると魔物博士の仲間に聞いたことがある。
まぁ、どんな魔物だろうと、強くなって物理でぶん殴ればいいだけ話なんだけど。
「さて、そろそろ行きますか」
日も沈み、夜も更けてきた……ちょうど侵入するには良い頃合いだ……私は道具袋のほかにいつも持ち歩いている、装備袋から鞭を取り出すとそれを左腰につけた。そして灯りを消すと、窓をゆっくりと開いた。
「……誰もいないわね……よし、行きましょう!」
私は周囲に人の気配がないことを確認するとゆっくりと音を立てないように窓をあけた。この宿屋は村に一軒しかないが実は村長の屋敷の真ん前なのだ。
真ん前と言っても村長の家は高台にあり、この宿屋は高台を背にして立っている状態である。
私は一番左端の部屋をとった、この部屋の真裏にはこの村の名産品である羊小屋がある。
夜間がうるさいのでと宿屋の人にお勧めはされなかったが、端の方が落ち着くと言い、部屋を取らせてもらった。宿屋の人がすっごい渋い顔をした。
それには理由がある。散策している時に兵士が言っていた。地下牢は村長の家の地下にあるらしい。
それなら表通りから死角になる部屋をとれば、魔法でこっそり穴をあけて地下牢に侵入できるのではと思ったからだ。
そして、私のいる部屋は完全に通りからもどこからも死角になる、これは便利だ。
「さて、穴開けますか。」
私はそう言って魔導書を開こうとした、だがとあるものが目に付く。それは草が生い茂り隠すようにして佇んでいる古井戸だった。
あぁ、そういえば私の部屋の裏には古井戸があるけど覗くなって言われていたっけ。井戸の魔物でも出るのかしら?
そう思いながら、私は草を少し刈り、井戸の蓋を取る。真っ暗だ。私は左手に魔力を集中させる、そして小さな声で『ライト』と言う、すると掌が光輝いた。
文字通りこの魔法は光を放つ魔法だ、私は井戸を照らす。うーんそこまで深くはない……ここからなら下手に魔法を使わなくても、地下牢に直接行ける気がする……。地下牢……井戸……あっ!
私はあることを思い出し声を上げそうになるが、踏みとどまる。
そういえば、村長と幼馴染と言うおじいちゃんが地下牢の場所を聞いただけだったのに、地下牢にある秘密の通路を教えてくれた。
そして、その通路はこの村のとある井戸に繋がっていると、しかし枯れ井戸を利用して作った通路であるため、その井戸はもう処分されたと聞いてもいないのに話してくれた。
もしかしてその秘密の通路がこの井戸? そういえば、幼馴染のお爺ちゃんも宿屋の辺りにあったと話していたけど……試す価値ある!!
どうせ違ったとしても魔法で井戸に穴開けて地下牢に行けば住む話よね! そう思い私はそのまま井戸の中に飛び込んだ。
井戸に飛び込むと、人が一人通れる程度の穴があるのを見つけた。これが隠し通路? 私はライトを発動したままの左手を目の前にかざす。
広い空洞だ。これは間違いないわ……そのまま足をすすめる。聞いていた通りだが完全な枯れ井戸だ、水が張っていない石の床だ。
「あ……」
思わず声が漏れた、行き止まりだ。引き返す? それともこのままぶっ壊そうかな。そう思っていがら石壁を叩き始める。叩きながら右を向く。
「ここだけ壁の色が違う……それに空洞がある?」
右を向き、しばらく壁を叩いていると明らかに途中から石が変わった。どちらも古い物ではあるが、明らかに違う石が使われているのが分かった。もしかして後から埋めたのかしら?
えぇぇい試してみるしかないわね! 私はそう思うと足を肩幅に広げ腰を落とす、そして両腕を後ろに引きながら
「はあっ!!」
声を上げ引いた両腕を突き出し、両掌で壁を叩いた。手から衝撃波が放たれると、綺麗に色が変わっている石が崩れた。そして空間が現れた。
「ビンゴっ! 良かった」
軽くガッツポーズ、上手い事力を調節したため大した音を立てることなく、隣の空間に行くことができた。うん、牢屋だ。
「それにしても誰もいないわね……まるで使われてなかったみたい。」
周囲を見渡しながらつぶやく、牢屋は全部で四つ。しかしその中の三つは使われていない、使われているのは私の正面の所だけ。
しかし、その場所も罪人をとらえるために使っていたと思われる、手枷もそこから伸びる鎖も錆びついていた。もう何年も使われていないんだ。
「それにしても、見張りがいないなんてずいぶん落ち着いているわね。」
私は見渡しながらつぶやく、牢屋のあるこの部屋には兵士が誰もいないのだ。罠かとさえ思える無防備さ。
まぁ、この部屋に入るためのドアの向こうからは人の気配がするため、外には見張りがいるんでしょうけど、あまり音を立てなかったとはいえ、物音はしているはずだ。気がついてないの?
「なんか音がしたような……えっ!」
しまった! 向こうの部屋にいた兵士がこちら側に来てしまった。完全に目が合ってしまった。
「貴様! 侵入者か!?」
距離はあるが私の左斜め前にいた兵士は左手に持っていた槍を右手で構える。
遅い! 私はすぐに右手で転がる壁の破片を持つと、走りながら兵士の右手に向かって、手甲をつけていない生身の部分に向かって投げる。
私の投げた破片は見事兵士の右手に命中、彼は槍を落とした。今だ!
私は勢いよく右手を振り、剣を抜くかの如く左腰につけている鞭を引き抜くとそのままの勢いで兵士の鎧を纏っていない、首の後ろを叩く。兵士はくぐもった声を出しながらその場に倒れた。
「っ!貴様………何者だ!!」
倒れた彼の後ろから兵士が現れる、彼は槍を構え、部屋に入ってきた。嘘でしょ!?
彼の奥にも兵士がいたが彼はすでに反対方向に走っていた、応援呼ばれちゃう!?
「ま……魔王の手先かぁ~⁉」
この兵士、戦闘に慣れてないわね……声も手も震えている。一瞬で倒せば応援に行った人に追いつける……でも、殺気がすごい、絶対に行かせない、倒すという意思が感じられる。面倒だわ……
「っ!」
私は鞭を強く握ると剣で突き刺すような動きで腕を振った。私の振った鞭は兵士の方に突き進む。
彼は私の振るった鞭を叩き落そうとしたのか、構えた槍を大きく振り上げた。その瞬間、彼の体が大きく開いた……隙あり。
私は右腕を少し左方向に動かし、すぐに右方向に大きく開くと鞭が動きを変える。私の動きに合わせ一瞬左方向に先端を動かした鞭がそのまま勢いよく右方向に向かって動く。蛇が地を這っているように動き彼の大きく開いた右脇腹を大きく叩いた。
「うごっ!」
彼はくぐもった様な声をだし大きくのけぞった。これで倒れない……浅かったか……だったら。
体勢を整えようとする彼を見た私は、少し前に出て、今度は彼の持つ槍に向かって鞭を振るい、槍の柄に絡ませた。
彼は最初の一撃で右手を槍から放してしまっている。そのうえバランスも悪い、彼から武器を奪うのは今! 私は腕を引くと彼の左手から槍を引っぺがすようにして奪い、背後に放り捨てた。
「武器を奪っただけだと? 舐めやがって。槍がなくなったところで、俺にはまだある!」
彼は苛立った様子で言葉を叫ぶと、左腰に帯刀された剣を勢いよく引き抜いた。そして両手で握ると私めがけて走ってきた。
「ぬおぉっ!」
彼は私の目の前で足を止めると、握った剣をそのまままっすぐ私に向かって振り下ろした。でも遅い、余裕で見える。私はやや右前方に体を傾けるとそのまま少し進み、彼の一撃をかわした。
「っ! 糞があっ!」
かなり怒り狂ってるわね。彼はそのまま剣を今度は左から右へ横薙ぎに剣を振るう。力が入り過ぎているわ。体をかがめながら後方に軽く飛び攻撃をかわした。
「はあっ!」
私は地面を強く蹴り、その反動で前進、腕を大きく振っていることで隙ができている。
私は先端を三つ折りにし、短くした鞭で彼のあごを勢いよく叩いた!
「うぐっ!」
彼の顔が苦悶の表情を浮かべる、だが、この程度ではビクともしないはず。私は瞬時に鞭を元の長さに戻すと鞭の端を左手でつかむ。
それと同時に左足を前方に付きだし、彼の体を中心にするように体を回しながら鞭を彼の首に絡ませた!そして彼の背後を取った私は鞭で彼の首を絞めつけたのだ!
「ぐぅ……ご……が……」
彼は少しばかりジタバタとしていたが、がくんと力を失った。私は力を抜くと彼をゆっくりとその場に寝かせた。私は急いで魔物の子がいる牢屋に近寄った。
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