第一話 『私 不思議なゴブリンと出会う』
「嬢ちゃん、ついたぜ。ここが目的地のリンクスの南端の島、セインクロスだ」
私はその声に目を覚ますと、ゆっくりと立ち上がった。どうやら寝てしまっていたようだ……。
「無理を言って、船を出してもらったのに眠っちゃって……すみません」
ここまで自分の船で連れて来てくれた、男性に向かって頭を下げた。
「いや、気にすんなや。俺もこの国の出身だ、たまには里帰りも悪くはねぇ」
船長さんはそういうと豪快に笑う。
「ただ、嬢ちゃん。ここ最近、この国で良くない噂を聞く。魔王とかって言うのが暴れているらしいんだ……。だから、強力な魔物がいるかもしれないから注意しな」
船長さんは鍔に触れながら低い声で言う。魔王……だからこそ私はここに来た。
「まぁ、嬢ちゃんの腕っぷしならこの辺のは大したことはねぇだろう。ここから北東に行けば白洋の村と言う村がある、疲れたら行ってみると言い」
船長さんはパイプをふかした。
「分かりました。教えてくださってありがとうございます」
「じゃあな」
船長さんは笑いながら言うと、この小さな港に唯一ある建物に向かって歩いて行くと、扉を開け中に入った。
さて、船長さんが教えてくれたみたいにまずは北東にある村を目指しましょうか。私は髪をかき上げ、足をすすめた。
「待ちな」
港から外に出る階段を上がると私はそのそばの街灯の近くにいた赤いマントを羽織った青年に声をかけられた。
私は足を止め、青年の方を見る。羽織るマントと同様に赤い魔女が良くかぶる尖がり帽子を深々と被り、男性にしては長い銀髪を揺らしながら青年は私に近寄る。私は警戒をする。この人……強い。
「ここにいると言う事は別の大陸から来た人間か?」
「ええ、そうよ? 私に何か用?」
「探し物をしている。ラビュルスの斧と言うアイテムを知らんか?」
ラビュルスの斧? どこかで聞いたことがあるような……思い出せない。
「いえ、知らないわ」
「そうか、邪魔したな」
青年は少し残念そうな顔をすると帽子のつばを持ち深くかぶり、港に入っていった。
何だったんだろうか、まぁいい。行きましょう。
私は青年の方を振り返ることなくそのまま港を後にした。
港を出てから、私、リサ・ビアンカ・ノエルは草原を数時間歩いていた。目指すのは白洋の村。
私がこのリンクスと言う小さな群島国家の一部である南の島に来たのは、船長さんも言っていたけど『魔王』と言う存在に人々が苦しめられているという話を聞いたからだ。
「それにしても、この辺は本当になにもないわね、木の一本でもあればお昼寝できるのに。」
私は目の前にある小高い丘を上がりながら悪態をつく。そして足を止め、周囲を見渡した。
「あっ! あそこか!」
私は思わず指をさす。見つけた、他に村と思われる物はない。間違いないあそこが白洋の村だ。
肩にかけた道具袋から一冊の本を取り出すとページをぱらぱらとめくった。目的のページで手を止め、本を広げると同時に、両足を肩幅まで広げ、本を左手に持ち、胸の前で掲げた。
右手は掌を空に向けて勢いよく右腕を掲げた。その後、私は町と思われる、家の集合地をじっと見つめた。
「この地に散らばる精霊たちよ。我の声に耳を傾けよ。我を眼前の土地まで移動させよ!!我は唱える。瞬間移動魔法。テレポーテーション!」
私は深呼吸すると、目的地である村をじっと見つめ、魔力を集中させ、放出。私の足元が黄土色に光り輝くと私の体を包みこみ、私を上空まで勢いよく飛ばしたのだった。
「ふぅ………良かった見える範囲で………」
私は村の目の前でゆっくりと着地した。この魔法は私の仲間の魔法で行ったことがある場所や知っている人がいる場所に瞬時に飛んでいくことが出来る。
または地図と目的地の写真があれば、知り合いがいなくても目的地に近い場所まで飛ぶことが出来る。
本来なら、こういう魔法は得意としていない。でも、魔法を封じそれを意のままに扱える魔導書を私は持ち歩いている。その魔導書にはいくつも魔法が記録されていて、私はその内の一つを今、使用したのだ。
「さて、ちょっと休ませてもらいましょうか………」
私は魔導書を道具袋に入れると、そのまま村を目指して歩きだした。
「なにかあったの?」
私は村に入ってすぐ、とある後景に目がいく。それは目の前の広場のような所で群衆ができていたのだ。おそらく村の中心部だと思われる場所に。
「このゴブリンめ!またわしらの町を荒らしに来たのか!?」
群衆の中心から声が響く。魔物!? 私は走り出すと群衆をかき分けながら声のした方に向かって行く。かき分け、先頭に出るとそこには銀色に輝く胸当てのような鎧を着込み、槍を持ったこの町の兵士と思われる屈強な男達と一人の老人がなにかを囲んでいるようにして立っていた。
「vgっkxgれonajkaへた」
聞きなれない言葉で消え入るような声が聞こえた。
「こいつ! 訳のわからん言葉を使ってるぞ!」
兵士の一人が後ろに下がりながら、声を震わせて言う。声のトーンや雰囲気を見るにおそらく新人だろう……。
しかし、彼が下がってくれたお陰で中心にあるなにかを少しだけ見ることができた。
「ゴブ……リン?」
中心には綺麗な銀髪で耳の尖った、体全身が緑色のゴブリンと呼ばれる魔物に似た子供がうつぶせに倒れていた。
「長老。この魔物をこの場で始末しますか?」
物騒な言葉に一瞬私は耳を疑い、その言葉を発した兵士を見る。いや、まぁ確かにゴブリンは人を襲うことが多い種族でどちらかと言うと魔物に分類されている。
でも、傷つき、倒れている子は魔法攻撃を受けたような傷をしていた、申し訳ないがこの村を襲うとは思えない。それにあの子ゴブリンなの? ゴブリンにしては銀の鎧に赤いマントと言った立派な格好をしているけれど……。
しかし、兵士や村人の緊迫しおびえた表情から察するにこの村は魔物に狙われた過去があるのだろう。だから必要以上に警戒してしまうのか……。だとしても始末するというのはいささか乱暴な話だ。
「いや、金牛の町の騎士団長と話をする。この魔物の処分はその後だ。」
兵士から村長と言われた老人は、兵士の問いかけに首を左右振るとそのまま後ろを振り返り、そのまま背後にあるお屋敷に向かって歩いて行った。
「そのゴブリンのような物が何者かは分からん、一応牢に入れておけ。」
兵士に向かって、先ほどから村長の隣にいた金髪で長身の青い鎧を身にまとったイケメンの青年は現場にいた兵士たちに向かって声をかけると村長の後を追いかけるようにその場を去った。
あの人、ゴブリンのようなっていった? やっぱりあの子ゴブリンじゃないのかな?
「シオンの命令だ………。地下牢に入れに行くぞ。ほかの奴は民間人への声掛けを忘れるな。」
立派なひげを蓄えた兵士は他の兵士たちに声をかけた、おそらく彼が兵士長なのだろう。
心なしか他の兵士よりも立派な鎧を着ているようにも思える。兵士長と思われる男は、数名の兵士とゴブリンらしき魔物の子を抱えて屋敷の方に向かって歩いて行った。
さて、ここで追いかけるのも手なんだけど……。
「兵士さん……あのゴブリンは、ミノタウロスの仲間なのかね?」
「私たちはもう嫌よ、魔王の部下に襲われるのは!」
残っている兵士たちに向かって村人が口々に魔物の子のことについておびえた様子で聞いていた。やっぱり、この村は魔物に襲われたのか、それにしてもミノタウロスか。やっかいね……。
これは先に情報集めね。あの魔物の子のことも気になるけど、ここでヘタに動くのはまずい、その前に宿屋に行こう、汗まみれだ。私は軽く息を吐くとその場を去った。
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