訪問
オタク訪問
富嶽隊Aがモンタナ群を横切り進行方向に対して真後ろへと回る、この地点でも上空10000mであるため、対空砲は下の方で炸裂している。
爆撃機からの空爆はほぼ当たるはずがないため、艦隊には余裕があり、直掩隊が何とか高度を上げようと格闘している。
富嶽隊Bもオハイオ群に対し同様なことを行っている。
自分の速度と進行方向から爆撃地点に対して、操縦竿が自動に動く。
「護衛戦闘機隊、爆弾投下開始シーケンスに入る、直ちに退避せよ!」
藤沢新高の声が、レシーバーに響く。
護衛戦闘を行っていた紫電改が一斉に逃走を開始する。
「投下20秒前!」
「10秒」
「5、4、3、2、1投下」
「投下!」
爆弾倉から巨大な爆弾が投下される。
他の機からはフリッツXが投下される。
「全速退避!」
爆弾を投下した富嶽隊は全速で高度を上げ乍ら逃走を開始する。
富嶽隊Bも同じような行動を取る、但し、此方には新型爆弾はない。
無かった訳ではないが、これ以上の武力行使が許されるのかという、良心の呵責に負けてしまった結果である。
確実に殺せと言ってきた人間としては間違いであったのであろう。
だが、これは停戦へのブラフである。2発は必要ないと自分に言い聞かせたのである。
それについては、山本五十六も同様の答えであった。
そして、そのブラフの一発は、高度800mで見事に炸裂する、爆縮レンズは期待される役目を見事に果たしたのである。
周囲が一瞬暗くなったような錯覚が起こり、強烈な閃光が閃き、爆発の中心に光の玉が発生する。
ゴッゴオゴゴオオオオゴオオオオオーン
とてつもない、爆発が発生し、熱線と放射線と爆風と轟音が周囲を薙ぎ払う。
まさに、艦の直上で爆発の起こった戦艦モンタナは高熱と放射線に焼かれ、その後、弾薬庫が爆発した。
だがその爆発は、巨大なキノコ雲の中で起こったため、誰も見ることは無かった。
まさに、ターゲットになっていた2隻の空母も甲板にいる人間が一瞬で蒸発し、やはり、弾薬と燃料が発火し、大爆発を起こしていたが、やはり誰にも見えなかった。
爆弾は空母と真後ろを守る戦艦の中ほどで爆破したことになる。
輪形陣を作っていた駆逐、巡洋艦も次々と熱線と熱風により、可燃物が発火した、その後爆風で転覆、その後発生した津波に飲み込まれる。
熱波と津波が別の輪形を形づくるオハイオ群に襲い掛かった。
甲板にいた兵士たちはたちまち高熱により大やけどを負う。
そして、可燃物に火が付き、その後に巨大津波に転覆させられる。
巡洋艦は転覆は免れたが、兵士たちは、大やけどを負っていた。艦のあちこち火災が発生していた。
戦艦オハイオには、フリッツXが次々と命中していたため、すでに大破していた。
空母の甲板には、少数ながら戦闘機や爆弾などが存在したが、甲板全体が燃え始めて、戦闘機も火に包まれる、そして爆弾に火が付く。
ドカーン!
ドカーン!
燃えるものは、全て火がついていた。
燃料に火が付いた艦は大爆発を起こし、すぐに沈没する。
空母から日本艦隊を攻撃するために、発進していた航空隊のみが、まだ大きな傷を負っていなかった。
しかし、彼らの帰るべき場所は、すでに核の炎に包まれていた。
自分たちの艦隊が存在する方向で、巨大で不気味な雲が立ち昇り、遅れて、巨大な轟音と衝撃派が襲ってくる。
「俺たちの艦隊は大丈夫か!」
戦闘中にもかかわらず、無線でやり取りする米国航空隊。
「返事をしてくれ、おい!」
「大丈夫か、巨大な爆発が起こったようだが!おい!」
無線機器を積んでいる機のパイロットは必死に呼びかけるが、返答がない。
すでに空母は大火災を起こしていた。
こうなると、戦闘にならなかった。
必死に回頭して空母に戻ろうとする米国航空隊。
帝国海軍の紫電改が次々と動揺している敵機を撃墜していくが、彼ら自身も、動揺していたのである。
なにか、とてつもなく恐ろしいことが起こっていることを実感していたからである。
不気味な雲には、何やら怪しげな稲光が走っている。
数隻の駆逐艦、巡洋艦と輸送艦がサンディエゴに帰港できたという。
だが、乗員や救助されたパイロットたちは、その多くが重度のやけどを負っていた、そして、割と軽傷なものも、時間の経過とともに、原因不明の熱発や出血の症状を見せ始める。彼らは人知れず、軍の病院でも隔離された。そしてその後は・・・・
停戦勧告が英国経由で米国大統領に届けられる。
事態は、とんでもない方向に走っていた、狩るべきサルが、おそらく原子爆弾を先に作り、それが、我が国の最強艦隊に投じられたのである。
その攻撃により、戦艦2隻、空母4隻、その他20隻以上が失われたのである。
この攻撃による戦死者は37,000にも登ったという。またMIAの嵐の登場である。
この時点で、米国太平洋艦隊は、又も壊滅したことになる。
だが、米国大統領トルーマンは停戦勧告を飲むことは無かった。
「サルに先を越されて黙っていられるか!」
そう、彼は恐れることなく、激怒していたのである。
逃げ延びた兵士達はごく少なく、隔離された後に、ほとんどが治療の甲斐もなく、死亡していたのである。
彼らを治療した医師だけがその惨状を目の当たりにし、何かとんでもないことが起こったのだということを感じるだけだった。奇妙な症状は一部の医師や看護婦にも見られるようになったという。
そして、それらの情報は原爆開発の担当者のグリーブス少将らにより握りつぶされたのである。ゆえに、トルーマン大統領はその恐るべき威力を感じ取ることはできなかったのである。
・・・・・・・
停戦の呼びかけは予想通り無視された帝国だが、停戦に向けての準備は着々と進められている。
「もうすぐ、きっと停戦できると思われます」
それは、すでに神格化されつつあるある男がこういったからである。
そして、その男はそれから忽然と姿を消す。
しかし、元来、何処の所属かは判然としない男の事である。
皆が皆、何かの任務で出ているのだろうと考えているので問題にはならなかった。
男はその時、ダッチハーバーを経由し、爆撃機富嶽で、カナダ沖に投下されていた。
そして、例のPTボートで夜の海を疾走し、カナダに上陸する。
さらには、デトロイト川から密入国し、デトロイトへと侵入していた。
そこで、反政府組織タイガー同盟に資金と武器を提供し、さらに、ニューヨークを目指して、ハーレーダビッドソンを走らせている状態であった。
一応米国陸軍の軍服を着ている。
この男の容貌は、日本人であるにもかかわらず、そうは見えないので、全く目立つことがない。
しかも、英語も非常に達者であった。
なぜニューヨークなのか?
それはこの男が見てみたかっただけである。
決して、ニューヨークのすぐ傍にワシントンDCがあるとおもっていたからではない。
そう、ニューヨークを見てみたかったのである。
男は残念な気持ちを持ちながら、ニューヨークを後にし、ワシントンDCへと向かう。
アメリカの中でいえばすぐそこであるが、日本人間隔でいえばかなり遠いのであった。
10月ともなるとかなり寒くなるようだ。
男は白い息を吐き出した、彼方に、ホワイトハウスが見える。
警備のためか時折光が見える。
男はこの時とばかりに侍大将の鎧を着こむ。
顔を見られても何も問題ないはずだが、この男にはそういったこだわりがあるのであろう。
しかし、靴は草鞋にしていないので、今一つ統一感に欠けているのであった。
ガチャリガチャリと音が鳴る。
「無理!」男は鎧を脱いだ、面頬と兜だけになり全く統一感無く疾走を始める。
高いフェンスがあったが一飛びで乗り越える。
見張りに気づかれることなく、建物の壁に張り付いて、登り始める。
兜を被ったクモ人間のようだった。
無事に屋上に到着、しかし、残念なことに屋上には警備兵がいた。
深夜3時である。
小銃を背負って歩いてくる兵士の腹に影から一刀が突き入れられる。
声も上げる事ができず、斬殺される兵士。
「いなければ死ぬこともなかったものを・・・」近ごろ男は精神的に少し弱っていたのかもしれない。
保険のために作っていた新型爆弾をつかうことになるほど追い込まれるとは考えていなかったからである。
しかし、仕事を続ける男はインベントリから丸い何かを取り出して、タイマーをセットし、音もなくホワイトハウスを後にする。
その後、ホワイトハウスは大騒ぎになる。
警備の兵が時間が過ぎても帰ってこないため、捜索されると、屋上で死亡しているのが発見される。
死体のその近くに何か、大きな丸い機械のようなものが安置され、これ見よがしにタイマーが動いていたのである。
さらに、その現場には、ハリス・トルーマン大統領殿と大書された、手紙?らしきものがおかれていたのである。
大統領一家はすぐさま避難させられた。
おそらく時限爆弾の類であろうと推測されたからであり、大きさが尋常でなかったからである。
書状の中身は、筆でなく万年筆で、しかも英語で書かれていた。
タイマーは、爆発物処理班が解除した。
書状の中には、
親愛なる大統領閣下
ここにおかれたものを是非とも、レイズリー・グリーブス少将とアンバー・ブッシュ氏に見ていただきこれが「何か」をお聞きください。
私はいつでも、此処に来ることが可能であることは十分ご理解していただけたと思います。
なお、内部の「アレ」は入っていませんが、これは貴国に利用されることを良しとしないためであり、量そのものは十二分にあることは申し上げておきます。
お二人からこれが「何か」を聞く事ができたなら、停戦協定には、ご署名いただけることと信じています。
追伸、私は、ニューヨークを視察させていただこうかと思っています。
貴国の艦船建造能力の秘密も是非とも知りたいと思います。
何卒、停戦にご同意いただけますよう、伏してお願い申し上げます。
あなかしこ
侍大将ソードマスターより
因みに、アンバー・ブッシュ氏とは、大統領の科学顧問の一人である。
いつもお読みいただきありがとうございます。