新型爆弾
新型爆弾
1944年、年が変わっても
それでも米国は断固として停戦に応じることは無かった。
世論は停戦に大きく舵を切り、トルーマンに停戦を求めているが、彼はそれを認めなかった。
サンフランシスコ攻防戦では、どうやら大変な被害がでたことはばれたようだが、それは情報統制により、核心をつくものではなかった。
そして、日本空母6隻撃沈は今も本当の事であると首脳部は考えていた。(岩倉商事の輸送船を偽装したものだった)
此方が、もう一度大戦果を達成すれば、世論は簡単にまたゲットバックパールハーバーに戻ると考えていた。
また、そういうものであった。
少し、気の利いた情報を流してやれば、此方に乗ってくる。
というか、いかにうまくのせるのかというのが、政治なのだ。
そのことはさておき、やはり米国である。
またしても、エセックス級空母が就役していた。
「イントレピッド」「ホーネット」「フランクリン」「ワスプ」の4隻である。
ホーネット、ワスプは「Ⅱ」を付けたほうが良いかもしれない。
こうしてみても、無茶苦茶な造船能力といえよう。
そして、その護衛として、戦艦BB67「モンタナ」BB68「オハイオ」が就役していた。
史実では、真珠湾攻撃で航空優勢をはっきりと悟った米国が建造計画を中止していたのだが、この世界ではいまだに、それは確立されておらず、この大戦艦が現実化したのである。
この情報は、大日本帝国にも伝えられた。
さすがに、この俺をしてやはり無理のある戦いであったのかと慨嘆せしめたのである。
だが、すでに始めてしまった戦は終わらせなければならない、そして、米国は決して負けを認めることはしない。(停戦を呼びかけているが、降伏を呼びかけているものではないのだが)
彼らは、勝つまで決して止めないわがままな子どもと同じなのである。
・・・・
軍令部長室
「兄上、ことここに至っては、申し訳ありませんが、私は軍籍を返上いたしたいと思います」殊勝な態度で頭を下げる男
「九十九どうした、突然」
「私は軍を辞めたいと存じます」
部屋には兄弟以外に誰もいない。
「どういうことだ」
「お認めください」
「それはできん」
「このままでは、戦争は終わりません」
「お前が辞めれば、戦は止むのか?」さすがに顔は全然似ていないが兄弟である。
兄の弟を心配する気持ちがひしひしと伝わってくる。
「止める方法を使います」
「お前、何を考えている、私は兄として、お前に何もしてやることができなかった、まあ、お前は何もしてやらんでも勝手にやらかしていたからな」
五十六が苦笑いの表情を作る。
「兄上」なぜか涙が溢れてきた。
「儂に話してみろ、お前は今まで自分で全てを背負ってやりすぎた、少しつかれたのではないか」
そこで、語られた話は驚愕の事実である。
ウラジオストクの北方100Kmの地点に研究所が存在する。
その中では、ある物質の濃縮が行われていた。
そして、それは、新型爆弾の材料であった。
元は、ニューヨークの倉庫におかれていたものを、高野親衛隊のスパイが奪取したものであり、それ以外は、南アフリカ大陸のベルギー領コンゴで採掘された鉱石が元であった。
そして、濃縮は完了し、別の研究所で設計されていた、その物質を完全に起爆することができる、爆縮レンズも完成したのである。
本来は保険の意味で開発していた兵器であり、人道上も使用するには問題がある兵器であるという。威力が大きすぎるためであり、爆弾から発せられる放射線は長い期間、その地を汚染するという。
そのような爆弾を使うということは、日本という国が長い間、批判を浴びることになるであろう。
ゆえに、自分が軍籍からはずれ暴走したことにすれば良いのである。
弟は兄にそう語ったのである。
そして、そのほかにも、パナマ運河の惨事の原因やロスアラモス爆発の顛末が語られる。
「まさに、神の使いと呼ばれるだけあったな」兄はやさしく頭を撫でてくれた。
「高野中将に命ずる、新型爆弾で敵艦隊を攻撃せよ!」
「兄上!しかし」
「お前が倒さねば、誰が倒せるのだ!」
「新型爆弾で敵戦艦を撃破し、残りを大連合艦隊で撃滅する」
「しかし」
「悪名は我ら兄弟で引き受けようではないか、その代わり、お前にしかできん作戦でこの戦いを終わらせるのだ」
「私にしかできない作戦?」
「そうだ、其れでしかこの戦は止められぬ、しかし、今は、敵新型戦艦の艦隊を葬りさるのが先だ」
「は、」俺は泣きながら、兄に敬礼した。
やはり山本五十六は俺の兄だった。似てないけど。
・・・・・
サンフランシスコ基地は富嶽のより度重なる爆撃を受けるようになっていたため、米国太平洋艦隊はサンディエゴに寄港し補給を受けていた。南米大陸を周回する間に、訓練を実施してきたのである。
東海岸を出発したころは、新米だったが、サンディエゴに着いたころには、一人前になっていた。但し、厳しい訓練のために、何十名かは、事故死していた。
この時期には、太平洋艦隊がこの艦隊のみであるため、全ての帝国側潜水艦がこの周辺に集められ、艦隊出撃を見張っていた。
モンタナ級戦艦が2隻しかいないため、輪形陣は2つになっている。
その輪の中に2隻の空母が守られている。
戦さの後半には、空母輪形陣の戦法が進化し、空母は一隻づつになり大きく距離をとるようになっていくのだが、戦闘経験が少なくまだそこまで危機管理がいき届かなかったのか、それとも、艦艇の数が少なかったせいなのか・・・・
彼らの作戦はどういうものだったのか、彼らは、4隻の最新鋭空母があれば、空母6隻を失った帝国海軍に勝てると考えていたのか?
おそらく、一度海戦におよび戦術的勝利を納めたかったのか?いずれにしろ、ニミッツなら許可しないような作戦?だった。
いずれにせよ、敵艦隊がハワイを目指していることは、明らかだった。
ハワイ王国を守るため?それとも受けて立つためか帝国大連合艦隊にも出撃命令が下る。
さすがに先のサンフランシスコ攻防により、帝国戦闘機パイロットもかなり戦死していた。
しかし、もともと空母所属の攻撃機(爆撃機兼務)のパイロットは十分にいたので、問題は無かった。先の戦いでは空母にはほぼ戦闘機しか搭載していなかった。
「艦長!緊急電です。X地点(緯度%%度、経度&&度)周辺より退避せよ!この命令はあらゆる命令にかかわらず最優先に遂行すること、以上です」
夜、帝国からの命令を受電するために浮上した帝国のSX改潜水艦に緊急電が届いたのである。このような命令は、開戦依頼初めてのことであった。
しかし、艦長達はきわめて冷静に命令を受諾し、命令を忠実に執行していく。
もちろんX地点の周囲にいる潜水艦自身はそう多くない。
そのころハワイ島基地には、爆弾が持ち込まれていた。
ハワイ島基地は周囲が溶岩なので、周囲全体が黒い。
滑走路のみ色が違うような状況であった。
エプロンに富嶽が駐機している。
「藤沢特務大佐、非常に重要な命令が届いた」基地司令が重々しく言う。
「は、少将殿」
「君の任務はきわめて重要な様だ、昨日届いた新型爆弾を、敵艦隊の中心部に投下するというものになる。幸いに、護衛戦闘機は先行する空母群から得られるとのことである。この作戦に帝国の命運がかかっているとの、高野中将から直筆の命令書である」
「高野中将の命令、命をかけて完遂します」
「その意気や良し、しかし、生きてこそ華は咲くものだ、無事に帰れよ」
「ありがとうございます」敬礼しながら藤沢新高は莞爾と笑った。
「では、出撃せよ」
隊員達は駆け足で富嶽へと向かっていく。
そして、その予備部隊として、兄、藤沢富士夫少佐も出撃する。彼らは、新型爆弾機を攻撃されないためのおとりである。しかし、ツ式誘導爆弾を搭載している。
・・・・
雲量8
高空を飛ぶ航空機から海上の状態は、確認はほぼできない。
先行している艦隊空母から紫電改が舞い上がってくる。
「此方、空母青龍の戦闘機隊、佐藤ワンです、護衛任務を開始します」
「デビルワン了解、護衛を頼みます」
「藤沢、任せておけ」
「佐藤隊長よろしくお願いします」
無線でたわいないやり取りを行う。
しかし、佐藤も藤沢も新型爆弾がどのようなものなのかは、理解していた。
彼らは、あの映像を見たことがあり、原爆がどのような結果をもたらすかをある程度理解していた。
富嶽搭乗員に決まった時、藤沢は、高野と会ったことがある。
いつも、本当になにも気にしない男であったが(もちろん藤沢が知るわけがないが)、高野の顔は何とも微妙な表情をしていたのを思い出す。
前方、下方では、空中戦が始まっていた。
大連合軍の戦闘機のほうが圧倒的に多いのは間違い無かった。
その上空を悠々と高速で進む富嶽隊30機、まさに雲を引きながら飛び過ぎていく。
・・・・・
「レーダーに感有り」
「敵戦艦らしき熱源を感知」
レーダーとツ式レンズに寄り、敵空母群が確認される。
雲の上から、熱源を感知したようである。
レーダー画面には、ノイズも多いながらも、敵輪形陣を確認することができた。
角度が悪いため、一度やり過ごして、真後ろから爆撃に入ることにする。
直掩のF6F数十機が急速に上昇してくるが、此方は高度10000mである、簡単に到達することはできない。
そして、佐藤の紫電改隊が急降下して、敵の頭を抑えに行く。
富嶽隊A(15機)は輪形陣の一つ、モンタナのいる艦隊に富嶽隊B(15機)はオハイオのいる輪形陣へと向かう。
そして、新高の機はA隊にいた。
モンタナ群とオハイオ群は20Kmの距離を取っている。
しかし、時速600Kmを超える爆撃機からすればほんのわずかな距離でしかない。
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