サンフランシスコ沖海戦3
サンフランシスコ沖海戦3
もし、この戦場で冷静にしかも、ゆっくりと眺めることができる人間がいれば、一つの疑問を呈するに違いない。
陸軍機の体当たりは、「ス」の空母の艦橋に行われたのであるが、その陸軍機は、艦橋を破壊して、甲板に当たって爆発したのである。
つまり、艦橋は戦闘機の体当たりで砕けるほどの脆弱さであったのである。
さすがに米国戦闘機!硬い!というべきなのか。
ついに6隻目の空母に致命傷を与えた!ミッチャーは、壮絶な被害を受けたが、これでサンフランシスコ侵攻は防げるに違いないと考えていた。
それは、陸軍防空指揮所も同じ考えであったに違いない。
だが其のミッチャー艦隊に、「朱雀」、「玄武」から発進した航空機群がまっすぐに進んでいた。戦闘機以外は、今まで全く戦闘に参加していないため、気力体力が充実した状態の万全の態勢であった。
軽空母護衛(ミッチャー艦隊)の直掩80機対2空母からの戦闘機隊80機の対決が
そこここで繰り広げられる。
だが、紫電改部隊は歴戦の勇者の部隊、F6Fの部隊は何とか訓練終了した新米との能力は、経験値には大きな差があったことは間違いない。
そして、その隙をついて、流星部隊が魚雷攻撃80と急降下爆撃80にわかれて、軽空母群に襲い掛かる。
まさに、理想的な艦爆同時攻撃であった。
両舷から40づつの魚雷が走り、空母の転身を見計らっての急降下爆撃。
爆撃で噴き上がる炎、そして運悪く航空魚雷が命中した軽空母は一瞬で大炎上し、行足を止めることになる。
防御陣形をとる援護の艦艇も、対空砲火の数がまだ十分ではなく、そのすきをついて、次々と流星が一本棒になって突撃してくる悪夢をまざまざと見せつけられる。
ミッチャーの座上する旗艦「インディペンデンス」はたちまちに業火に包まれ、爆発沈没する。いかに米国鑑が強い硬いといっても軽空母はそこまでは行かない。
出来立ての軽空母艦隊は、はかなくもそのほとんどが波間に消えていくのであった。
・・・・・・
ロシア空母「青龍」には、特別編成のチームがスタンバっていたが、未だ発進命令はなかった。
甲板には、十数機のジェット戦闘機「震電」が並んでいた。
しかし、このジェット戦闘機は見る人がみれば、震電などではなく、米国のタイガーシャークだと言ったはずである。
もちろん、それに似せて作ったからである。技術的には、とても追いつかないが、形は、タイガーシャークである。
ある男は、青龍の甲板の先には、数字を書くように要求したらしい。
「なんとか、ここに88と書いて貰えんだろうか?」この男にしては珍しくお願い口調であったが、全く意味のない数字であったので却下されたという。
そして、タイガーシャーク、いや震電の垂直尾翼には、鉄十字に日の丸が描かれていた。
彼らは、ベルケ戦闘隊、代替わりしたリヒトホーフェンやオステルカンプの息子たちと、ドイツから留学してきて、帰らなかった(あるいは返さなかった)未来のエース達から編成されている部隊である。
パイロット待機所に、青色のベストを着た伝令がやってきて、出撃命令が下る。
「全機出撃、敵B17を掃討する」隊長のヴォルフガング・リヒトホーフェンが言う。
全員がヘルメットを被りながら、甲板上を走り、自機に駆け寄る。
「西方から敵爆撃機B17が接近中、撃退せよ」
攻撃隊長からの命令は明瞭だ。
「了解」
青龍の巨大甲板から、高速に発進していく震電達。
瞬く間に、空母上空で編隊を形成し、東方へと轟音をのこして消えていく。
一方のB17編隊30機は公算爆撃を行うため、コンバットボックスを組み、サンフランシスコ西方沖の敵艦隊番号4を目指す。(ボギー4)
これは最近就役した戦艦「アレクセイ」の艦隊であった。
艦隊の50Km圏では、敵の対空砲弾が脅威であるため、その前には、公算爆撃の態勢に入る必要がある。もちろんこの体制も、一度入れば動くことはできない大変危険な隊形ではあるのだが・・・・
はるか前方できらりと何かが光る、もちろん戦闘機に違いない、敵か味方かは不明だが、おそらくは敵戦闘機であろう。
しかし、それは通常の戦闘機よりもはるかに早かった。
前方から、機関砲を撃ちながらすれ違っていく。明らかに、プロペラ機ではなかった。
「くそ、やつらジェット機を実戦に投入してきているのか!」
機長がうなる、まだ合衆国でも、開発をできていないものが、東洋のサルごときになぜ作れる!きっと、ロシアが関係しているのか!機長がそう考えるのも無理はない。
彼らの大方の認識はそのような白人至上主義であるからである。
前方からの30mm機関砲が味方機を何機か爆発させる。
そんなことを考えていた時には、敵ジェット戦闘機は真後ろについていた。しかし、さすがに此方も機銃で打ち返す。だが、遠かった。
「フォイヤー」整然と編隊を構成するベルケ隊はコンバットボックスに向けて、5インチロケットをありったけ発射する。
16機の震電から96発の5インチロケットが発射される。
もちろん誘導ミサイルではないので、皆思い思いの方へと滑空していく。
そして、UO信管が近くに敵を感じると爆発する。
コンバットボックスは敵戦闘機の銃撃に対応する手段だが、遠距離からのロケット攻撃に対応するものでは無かった。
次々と爆発するコロリョフのロケットがB17編隊を襲う。
数機が何とか、生き残ったが、一瞬で撃墜されるのであった。
・・・・・
各所で激闘が繰り広げられている。
発見から交戦開始までが2時間、交戦から2時間以上過ぎている。
もちろん、海上での戦いで、傷つき損傷する機体、または玉切れになる機体が早々に発生し、サンフランシスコ基地へと帰投していく。
帝国戦闘機隊も、圧倒的多数で何派も繰り返される怒涛の攻撃にさすがに疲れの色を見せる。
米国戦闘機パイロットのジョンソン少尉は、敵がはるか東方へと飛んでいくのを見ていた。
敵の空母は今、真下にいて大破炎上していた。
きっとまだ別の空母が後方に控えているのに違いないと考えたのだが、自分の機もここまで1000㎞を飛翔し、敵機と交戦を行い、さらには、爆撃まで行っていた。
奇跡的に、新型の対空砲にやられてはいなかった。
だが、かなりの機銃弾を喰らっていた。そこはさすが米国製戦闘機!相当に頑丈だ!
ここは悔しいが、帰投するほかない。すでに僚機は喰われ、自分の隊がどのような状況かも判然としない。
相当数が撃破されている事だけはわかった。敵の艦艇の対空砲火は全く異常なほど強力だったからだ。
そして、何とか帰投を開始して一時間ばかりが過ぎたころ、ジョンソン少尉は愕然とする。
燃料計の針が0を指している。
これが奴らの狙い!瞬間的にジョンソンは理解した、敵ははじめから、1000㎞ほどでわざと見つかったのに違いない。
此方に空母はほぼない、ゆえに足の短い海軍機では、攻撃できない。
当然、足の長い陸軍の新型が迎撃に向かう。
だが、陸軍航空機は、海上飛行に慣れていない。
そして、見つかった場所まで、誘導してもらう必要があり、その間無駄に燃料を食い、さらには、現場で戦闘でもすればアッという間に燃料を消費してしまう。
計算上は、帰ってこれる距離でも、不慣れな飛行と激烈な戦闘で、はるかに燃料を消費してしまう、そして何とか帰投できる機は!
その時、ジョンソンの機のエンジンが止まった。
数多くの戦闘機が、燃料切れで墜落した。
うまく、不時着あるいは不時着水したものもいたが、数多くの機はすでに手負いで扱いにくい存在になっていた。
太平洋艦隊司令部並びに本土防衛隊は何とか敵の攻撃を退けたと考えた。
敵艦隊は東方に逃れていった。
戦果報告では、敵の空母3隻撃沈、3隻大破炎上、駆逐艦3隻撃沈、航空機多数の撃墜を確認した。但し、航空機の数は正確なところはわからない。
帝国の戦闘機は簡単に落ちたり燃えたりしなかったという報告が入っていた。
だが、空母を撃沈すれば、帰る場所は無くなるため、多数撃破でも問題ないであろう。
しかし、こちらの被害も深刻なものであった、一言でいうと、第51任務群がほぼ全滅の惨状であり、しかも、サンフランシスコ港湾に侵入した敵爆撃機の爆撃により、港湾施設、簡易航空基地などがかなり破壊された。帰還する機に紛れていたため、発見できなかったのである。
さらに、恐ろしいことに、新型戦闘機の相当数で迎撃に向かったものたちの多くが、未帰還となっていた。現在帰還中に救難信号を発したパイロットたちを駆逐艦が死に物狂いで探している最中である。
新型機は足が長いため今回の迎撃に向かわしたのだが、それが仇になった。
1000機以上が撃墜され、500機以上が帰還中に燃料切れを起こした。
後1000機以上は不明であった。
戦闘機で言えば、まだ3000機程度残っているが、ほとんどが旧型である。
B17、B24、B25などの爆撃機もかなりの数が撃墜された。飛行艇もさんざんな眼にあった。
サンフランシスコ沖ではまだ、沿岸警備隊、海軍の艦艇がパイロットの捜索を行っていた。
死体が多く見つかる。すでに、辺りは暗くなっていた。
米国では、兵士の死体をほおっておくわけには行かない。
家族の元に送り返さねばならないからである。
だが、非常にも死の匂いにつられて、鮫が近づいて来ていた。
海上では激しく、駆逐艦や警備艇が不明者の捜索を繰り返している。
日本では、棄て置かれているであろう。宗教上の理由でも、彼らは是が非でも死体を探さねばならない。神の復活時に自分たちも復活できるとされているからである。
ゆえに彼らは、土葬である。日本とは考え方が全く違うのである。
現地時間20:00
命令で予告された時間、帝国潜水艦隊から、全弾(1番から6番)が発射される。
第2斉射発射!はるか数キロさきから適当に狙いを付けて12発の魚雷を発射した潜水艦は急速潜航し、結果を海中でまつのである。
サンフランシスコ沖には、100隻以上の艦が集まっており、発射された魚雷は1200本にも及んだという。
忙しく不明者を探し回っている艦艇が魚雷に気づける訳もなく・・・
あちこちで爆発が発生する。
50隻以上の艦艇が後部に魚雷が命中し、一瞬で海中に没した。
魚雷の一部には音響探知魚雷が含まれていた。
スクリュー音に向かって進んでいくごく初期の誘導システムである。
そして、金属に電波が反応すると爆発するのでった。
生きて救助されたパイロットも、死んでしまったパイロットもこうしてまた海に帰っていったのである。