大海嘯
大海嘯
この題名を見て、大きな蟲を思い浮かべた人はかなり・・・・である。
・・・・
ガトゥン湖は人造湖である。
パナマは熱帯に属しており、雨季には大量の雨が降るのである。
ガトゥン湖はその雨を集めて、運河の運用に使うのである。
朝未だ明けやらぬころ、湖面に靄が発生している。
ギリースーツに身を包み、迷彩ネットに隠れている男たち、アバレーエフとその部下が3名である。彼らが身を隠しているのは、ガトゥンダムのすぐ前にある島であった。
島といっても、元は丘で周りが水で浸水しただけなのだが。
「良し、今から始めるぞ」アバレーエフがロシア人の側近たちに合図を送る。
しかし、すでに準備は夜の内に済んでいた。
ダムのすぐ横には、ガトゥン閘門が存在し、その中から、湖面へと巡洋艦が進んでいく。
次はいよいよ、『エセックス』である。
すでに、2隻のエセックス級が湖面で待機しており、一隻がまだコロンで自分の順番を待っている状態である。
アバレーエフから見ても、同型艦のため、みんな一緒に見えたことは言うまでもない。
数字の番号(認識番号)が違うだけであった。
「良し、逝け〇人1号!」
なぜ〇人なのか、郷田にはわからなかった、しかし、手にしているのは、PTボートのラジコンボックスであった。
〇人には、魚雷三本が船内に積まれており、信管がすでに作動している。ゆえに、郷田は逝けと言ったのは、黄泉への旅立ちだと思い、逝け!と口走ったのだが、それは間違いである。
往け!が正解?であろう。
高野総長の内心はわからないが、何らかのまじないなのだろう!彼は神の使いなのである。
アバレーエフは冷静に、日本製PTボート(魚雷3発搭載)を操作していく、目指すは閘門の扉である、しかし通路をかなり中に進まないとの閘門の扉には行きつけない。
なお、ラジコンの操作圏内は1km程度なので、このダム前の場所が潜伏場所に最適であった。
アバレーエフは、全神経を研ぎ澄まし、PTボートを何とか、通路内に侵入させるのである。まさに日頃の訓練の賜物であった。
パナマックスサイズ32mの幅にPTボートが侵入し、扉に向けて疾走する。
扉の向こうには、『エセックス』の巨体が見える。
エセックスは最後の関門(閘室)の中で、注水を待ち、湖面との高さを同じにするのである。
魚雷三本の爆発力は凄まじかった。
ドッカーン、続いてドカーンドカーンと巨大な水柱吹き上がり、爆炎が弾けた。
エセックスの艦橋にたまたまいた、ハルゼーはその轟音で突き飛ばされたように、壁に頭をぶつけてしまった。
「なんだ!どうした!」
前方では濛々と煙が立ち昇っている。
・・・・
「やったか!」
アバレーエフは、叫んだが、やれていなかった。やったかはやっていないことのフラグであった。
ガトゥン閘門の扉は、まだ何とか、砕かれずに生きていた、なんという強さ!
アバレーエフは、愕然とした。
実は扉に激突する前に壁にぶつかって、威力が少し壁に向かってしまったために、扉を完全粉砕できなかったのである。
「くそ!何ということだ、これでは総長に合わせる顔がないではないか!」
「では、頭、次はわたしですね」ロシア人の副官がコントローラーを取り出した
「行くぞ!鉄〇2号」ロシア語でそういった、彼ももちろんその意味は知らないが、頭のものが1号だから自分は2号でよいと考えたのだが、彼は間違っていた。
あの男はちゃんと28号であると教えていたのだが、誰も覚えていなかったのである。
しかも、何の意味があるかもわかっていなかったのであるから当然である。
もちろんそうであろう。意味などないからである。
ロシア人副官1号の操縦する、PTボート2号が疾走する
だが、通路に侵入するも直線をうまく走らせるのが難しい、緊張するとさらに難しくなるのである。
副官1号のPT2号は扉直前に操作が失われ、今度はアバレーエフとは反対側にぶつけて大爆発を起こす。
「今度は俺っす」副官2号が言う。
彼は、ラジコンボートでは一番の腕でいつもこの中で勝っていたので自信を持っていた。
「行くっす、三号突撃砲」すでに意味不明であった。
島影から三号突撃砲が走り出る、そして、まっすぐ閘門を目指すのかと思いきや、PTボートは湖面で八の字を描く。
走りに余韻があった。
しかし、その余裕がいのち取りになる。
「あのボートを打ち砕け、近づけるな!」艦橋では、ハルゼーが血まみれになった顔で絶叫していた。
「反則っす!こんなの反則っす!」副官2号は慌てた!
「馬鹿野郎!切腹ものだぞ!」アバレーエフが怒鳴った。
銃撃を避けながらも副官2号の三号突撃砲が閘門を目指す。
「当たらなければ、どうということもない」ニヒルに言い放つ副官2号
なぜか、アバレーエフはイラっとする。
しかし、冷静な射撃手がいた。追い回すから外れるのであり、必ず此方にくるのであり、幅は32mである。待ち構えて撃った。3号突撃砲がハチの巣になり爆発する、搭載の魚雷が飛び出して前方で爆発する。
「次はわたしですね」
「ダメだ、ブレジネフ!」副官3号はリモコンボートが下手だった。絶対に、閘門の扉部分には、いけないと思われた。
だがしかし、すでにPT4号は発進を開始していた。
しかも、明らかに閘門に向かっていなかったのである。
「ブレジネフ!方向が違う、閘門を狙うんだ!」
「私の技術では無理です。」
「では代わるのだ」
「お頭もう、遅い!」ブレジネフは叫ぶのであった。
「ブレジネフ~!」アバレーエフは叫んだ。
ブレジネフの4号は全く、閘門から外れていた、しかし、前方には、ダムの堤体が迫っていた。
ドドド~ン、巨大な水柱が吹き上がる。
ブレジネフは閘門攻撃はあきらめ、ダムを破壊して、運河の交通を不可能にさせる事を冷静に考えていたのである。
次第に、堤体の破壊口が砕けて大きくなっていく、水の流れが破壊を加速して、一挙に崩壊させる時が、近いうちに迫っていたころ・・・
閘門の方でも、異変が進行していた。
すでに、2重になった扉の一つは完全に、アバレーエフの〇人1号により砕けていたのだが、実は2枚目の扉も、副官2号の〇人3号により、かなりの被害を受けていたであった。
それが、ダム破壊の衝撃と水流により最後の支えが砕けてしまったのである。
空母エセックスのいる閘室では、破壊された扉から大量の水が侵入してくる。
そして、その閘室をすぐに満杯にし、その下の閘室に向かって流れ落ちていく。
エセックスも浮き上がり後ろへと流され始める。
「全員退艦!」
艦橋で艦長が怒鳴る。
しかし、浮き上がった状態では、岸に飛び降りると大けがをすることは必定だった。
しかも、あふれた水が岸をも満たしていく。
ゴーンとスクリューが後方の扉にぶつかる。
もうそこからは、どうしようもなかった。
エセックスの後ろの閘室には、アイオワが待っている状況であったが、そこに、エセックスが降ってきた。
エセックス艦尾がスクリューを振り上げて、アイオワの一番砲塔付近へと落下する。
辺り一面に金属のこすれるギギギという嫌な音が響き渡り、耳を覆わんばかりの状況であったが、船員たちはそれどころではなく、鋼鉄の壁にぶち当てられて大けがを負っている。
エセックスの体当たりを喰らい、アイオワが閘室の後ろの扉にぶち当たる。
鋼鉄巨人アイオワが閘室の扉を砕き、エセックスの押せたアイオワが後進して次の閘室へと落ちていく。
アイオワ、エセックスの両巨人が閘門の扉を破壊していく、さすが最強の鋼鉄巨人達。
横倒しになった艦橋が、時たま火花を散らしながら、運河を落ちていく。
エセックスの甲板には、ほぼ航空機はなかったが、艦内には航空燃料は満載されていた。
その燃料庫は、鋼鉄とコンクリートに守られていたが、度重なるアイオワの肉弾攻撃と場外乱闘の攻撃により、亀裂を生じさせる。
ダメージコントロールの長を務めるべき、副長は艦橋で、複雑骨折を負い意識不明に陥っていた。
最後の閘門を破壊し、大西洋に落下する二人の鋼鉄巨人。
ひっくり替えりながら、激流により流されていく。コロンの街付近に待機していた4番目の空母バンカーヒルも激流に煽られる羽目に陥った。
ガトゥン閘門からあふれだした奔流は津波となって、バンカーヒルの空母打撃群に襲い掛かる。悪いことに、閘門側に対して、片舷を見せる方向にいたのでまともに、津波を被ることになってしまった。
逃げるまもなく、押し倒され街に乗り上げさせられる。
駆逐艦がバンカーヒルの艦橋に体当たりを行い、爆発する。
そして、エセックスから漏れ出ていたガソリンに引火する。
横転していたエセックスの腹から爆発が発生し、最後のとどめを刺されることになった。
何度も爆発を起こし、エセックスは前後に分断され沈没。
闘将ハルゼーもその後を追った。
この偶発的に起こった事故により、米国海軍空母エセックス轟沈、ヨークタウン、レキシントン、バンカー・ヒルは大破着底
戦艦アイオワ、ウィスコンシン轟沈、ニュージャージー、ミズーリは大破着底という事態になった。なお、これはパナマ運河に生じた事故により発生したものである。
と米国内の新聞社は報道した。
この事故により、パナマ運河はダムも決壊し、修復には最低でも1年半は要するものと予想される。
なお、この不幸な事故にもかかわらず、英雄的犠牲的精神で、ガトゥン閘門の水流出を防いだ、戦艦ニュージャージー艦長カールス・ボールデン大佐(戦死)は3階級特進し中将へと昇進した。
軍神ボールデン中将の国葬が盛大に執り行われたという。
たまたま横倒しになった戦艦ニュージャージーが閘門方面への水の侵入を防いだことが評価されたのである。
この偶発的事故により、駆逐艦などの艦艇の多くが、沈没、転覆し大惨事に発展した。
米国海軍兵士4万5千人以上が事故死した。
いつもお読みいただきありがとうございます。




