帰ってきた男
帰ってきた男
その男は、唐突に帰ってきた
勝手に休暇をとり、2か月以上たったある日のことである
すでに、男が何に属しているのかもはっきりしない
海軍中将で艦隊副司令官だが、ロシア海軍なのか帝国海軍なのか、はたまた情報部なのか、
海軍省(東京)にやってきたのである
ちなみに、彼の勤務先は一応、ロシア義勇軍艦隊司令部、場所はウラジオストクになっている
「やあ、みなさんご無沙汰しております、土産にテキーラ、バーボンを大量に買ってきました、それに友達からウオッカとカナダウィスキーももらいましたおいていきます」
コーヒーは好みの問題もあるので出さなかった。アバレーエフの一押しだったのだが・・・
といって、軍令部総長室に入っていく
「兄上、ただいま戻りました」
「九十九、どこに行っていた」と五十六兄
「パナマですね、運河で釣りをしてきました」
「お前が返ってきたということは、いよいよ決戦はまじかとみるべきなのか」
「別にそういうわけではないと思いますが、単に休暇明けのアピールでよっただけです、土産も買ってきたので、俺だけ休んでるって言われちゃうので」
かってに休暇宣言し、休みに入った男がよく言う
逆にいうと他の人間は一生懸命休みなく働いていたのである
「そうか、此方はそれほど動きはなかった、情報部では、米本土で大きな爆発事故が起こったらしいという情報があったぐらいか」
「そうなんですか」
「お前なんもしてないよな」
「ええ、何もしていません」
「ところで、砲兵工廠から、新型の爆弾5発が盗難にあったらしいのだが、神の声を聴くお前だ、犯人捜しをしてくれんか」
「わかりました、では私が探しましょう必ず星を挙げてみせます」と握りこぶしをぐっと上げる男
その握りこぶしが、事件を握りつぶすことを暗示しているのではないか・・・
海軍省をでて、一度本宅に帰還、家族との再会を果たす
その後、各地の工場、施設、研究所の視察を行う
・・・・
爆弾盗難犯は、大阪で強盗殺人をおこなったものに身代わりになってもらった
新型爆弾は4tもあるのであるから、その男が盗めるわけはない、だが、こんな世界である、誰も気にしないし、憲兵はこちらの意のままに動いてくれた
そんなこんなで1943年の春、桜が舞い散る季節が訪れる
中島飛行機武蔵野工場でそれは、完成したとの報告を受ける
そもそも、艦政本部の人間でもないのに、なぜそのような報告が来るのであろうか
航空本部長でもないし
「おめでとうございます、中島社長」
「ありがとうございます、高野総帥」ああ、企業のトップとして呼ばれていたのか軍服できてしまった
そういえば、エンジンは内が作っていた
厳密にいうと、DEであり、内ではない
富嶽(B29)の難しいところは、まずエンジンにあったのだが、それはDEの技術力がものをいい、ターボプロップエンジンで安定的に動力を発生させることに成功していた
米国のB29はガソリンエンジンが高熱で発火する問題が残ったが、此方は大丈夫だった
空力等の設計は中島の風洞実験施設が役にたった
そして、最後の与圧室も何とか、DE、ロシア人科学者の協力もあり完成する運びとなった
武装の方も、BFAのM2重機と20mm機関砲を搭載
そして、この爆撃機のために、仮称グランドクロス爆弾が大阪砲兵工廠で試作されていた
のだが、盗難にあってしまうという悲劇が起こる、犯人は逮捕されたが、爆弾自体は行方不明のままとなってしまったのである、非常に残念なことであった
「中島社長、これをまずは100機頑張って作ってください」
「わかりました」
式典が終わり、帰りの自動車で
「それで、博士、ロシア型富嶽の量産のめどはどうですか」
「もちろん、すでに10機が完成しています、順次生産を行います、ただ、ツポレフでは、札幌にしか工場がありません、ウラジオストクにも工場を作りたいのですが」
「いえ、さすがに完全な新型です、それは許可できませんので、仙台あたりでお願いします」
「わかりました、では、岩倉様にお願いしてみます」
「私からも、いっておきます」
ロシアの戦況は、ロシア公国がオムスクまで進出し、防衛線を構築しつつある、ソビエトはウラル山脈まで押し返されている状況である、戦略爆撃機は非常に有用で、ロシアも欲しいらしいのだが、さすがに譲るわけにもいかない
アレクセイは良い義弟だが、ニコライは悪い義父である
そこを誤ってはならない
まずは、ハワイからサンフランシスコ、サンジエゴを空爆し廃墟に変えないといけない
日本は焼夷爆弾で燃えたが、アメリカではそれはきくのだろうか?
とりあえず、工兵師団にハワイ諸島(主にハワイ島)にこのB29いや、富嶽の離発着可能な基地をつくるように命じる必要がある
東京のロシア要塞(自宅)の一室
ツポレフ博士、コロリョフ博士、ツボルキン博士、シコルスキー博士、トハチェフスキー将軍とロシア人の重鎮が集まっている
やはり、ロシア人の遺伝子なのか、とにかく、ウォッカが大好きだ、自称ロシア人のアバレーエフの会社のウォッカをぐびぐびと飲んでいる
「富嶽の完成でいよいよ、帝国も打って出ることが可能になりました、ところで、ツボルキン博士」
「おお、あれか、あれならできている」
「そうですか」
「しかし、高高度からの投弾ではなかなか調整に手間がかかる」
真っ赤な顔になりながら、博士が答える
「ではシコルスキー博士の方は?」と水を向ける
やはり真っ赤なシコルスキーが、「試作機は完成したよ、やはりターボシャフトエンジンだ、馬力があるんだよ、いいよ~」と自慢げである
ツボルキン博士と言えば、テレビの研究で有名な人間だが、アイコノスコープという赤外線撮像素子の開発した研究者でもある
そして、その赤外線撮像素子を装着した誘導爆弾の開発がひっそりと行われていたのである
シコルスキー博士と言えば、当然アレである
ヘリコプターである、ターボプロップエンジンの開発を成功したので、ターボシャフトエンジンを提案したら、やはり天才、実際に作って見せたのであった
こうして、秘密裡に赤外線誘導爆弾とヘリコプターが製造されていくのである
「九十九、ぜひともソビエト軍あいてに実験すべきだぞ」とミハイがいう
「戦闘ヘリはそうかもしれんが、爆弾は米軍あいてになるな」
「え?戦闘ヘリ?」
「おう、そうだよ、ヘリには、コロリョフ博士のロケット砲と20mm機銃を装備して、戦車と戦うんだよ」
「お前、天才か!」
「いやいや、お前がナポレオンになれよ」
「おお、今日は飲むぞ!」
「おお、それはいい」なんにしても、飲みたいだけのロシア人達だった
・・・・・
ロシア人たちが、酒を飲んで騒いでいるころ、北海道のリヒトホーフェン航空学校の一室では、ドイツ人たちがまじめに会議を行っている
新型のジェットエンジンを搭載した航空機の訓練についてである
「やはり、耐Gスーツがないと、ブラックアウトしてしまう」
「それにしても、うちの息子が乗りたいと言い出している、困ったものだ」
リヒトホーフェン航空学校の校長、リヒトホーフェン兄、リヒトホーフェン弟
現在学校には、リヒトホーフェンの名声にあこがれて、ドイツの若者たちが、多くやってきている
その中でも、優秀な若者を集めて、部隊が組まれているが、その中に、リヒトホーフェン兄弟の息子達が入っている
そのエース部隊とも言うべき部隊の一部が『ベルケ隊』であったりする。
エーリッヒ・ハルトマン、ハンス・マルセイユなどが所属している
もちろん、このようなエースを返す俺ではない
本来、この学校で学んだドイツ人子弟は、本国に帰る予定だったのだが、ヒトラーのナチス政権を嫌って、皆帰りたがらないので、高野九十九に頼んで、ビザを延長してもらっている状況なのである
そんな中、戦争中である日本人の訓練生たちが、訓練するための新型、先ごろ開発されたジェット戦闘機「震電改」が配備されてきたのである
この開発には、ドイツ人技師クルト氏が大きく関与していたゆえに、試作の頃から、テストパイロットの一部がドイツ人教師となっていたりする
「まあ、難しい話は此処までにしよう、とりあえずビールでものみに行くか」
「そうだな、本土では、爆撃機の完成祝いがあったようだから、皆飲んでるだろう」
「ロシア人どもは飲んでるに違いない」
かくして、ドイツ人教官たちも飲みに行くことになったのである
日本の食料事情は全く問題ない状態であることの証左である。
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