迎撃
襟裳岬の防空レーダーが敵編隊をとらえていた
直ちに、複数の系統で海軍省防空司令部に敵機の侵入の通達が届く
「敵編隊本土へ向かう」
「敵の攻撃目標は東京、室蘭、札幌であろうと推測されている」
「各地の防空レーダーに知らせよ」
まだこの状態でレーダーではわかるはずもないのだが、敵B25爆撃機が本土各地に向かっていることが、各基地に通達される
防空担当基地には、局地戦闘機「飛燕」が各基地に配分され始めていた
美幌基地にも飛燕部隊が編制されていた
美幌空に迎撃命令が発令される
かつての飛燕は発動機が、不良で、うまく飛ばすことができなかった
これは液冷エンジンに対する経験不足と工作精度の不足が主な原因といわれている
しかし、この世界では、DEの技術が浸透し、工作精度は格段に進化し、エンジン製造に関する技術と経験も十分蓄積されていた
これは、高野が早い段階から、モータリゼーションを推し進めてきた成果である
そもそも、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより作りにくいものなのである
そして、早くからディーゼルエンジンとの相性が良い、ターボ技術が進歩しているため、液冷エンジンにも、ターボ過給機がすでに搭載されており、馬力、燃費が上昇している、さらに、無理な徴兵が行われていないおかげで、DEエンジニアの指導を十分に受けた整備兵が大勢供給されている、しかも史実の世界では、整備兵は身分的に肩身が狭い思いをしたらしいが、この世界では、整備兵は好待遇で優遇されている、パイロットと同様に大事にされているのである
もちろん、そのように、世間を誘導した結果だが・・・
美幌空(701空)とは別に、ロシア海軍航空隊が、隣の滑走路に存在していた
というよりは、ロシア航空隊と同居しているといった方がただしいのだが
滑走路は、全面アスファルト敷きで整備され、格納庫は半地下、コンクリ張り(掩蔽壕)で整備されている
この世界の日本は土木技術が、世界で最も進んでいると自負している
早くから、建機の機械化を推し進めてきた成果がここに表れている
世界に冠たる「百瀬建設」(元ヤクザの建設会社)である
日本の海外占領地に次々と要塞を作っている、ある意味最も、儲けている軍需企業の一つである、港湾建設も請け負っている、総合ゼネコンである
ちなみに、 美幌空のパイロットは、ロシア海軍航空隊のパイロットから教授された人間が多い、これは、ロ空は、リヒトホーフェン学校出身のベテランパイロットから構成されており、この露空の面々が各地に講師として出向することがよくあるからである
そして、この北海道はリヒトホーフェン航空学校の本校がある地でもある
「ロシア海軍航空隊、R379航空団出撃、敵B25編隊を要撃する」
迷彩色の飛燕が2機づつ、同時に離陸していく
さすがに、教官を務めるような人材ばかりである、見事な同時離陸でほとんど編隊の形になっている
701空は飛燕と零戦の混成となっているが、R379空は、新型飛燕のみの構成となる
V12型液冷ターボエンジンは推力2000馬力をたたき出し、高空でも十分力を発揮することが可能となっている
この飛燕は川崎航空機で製作されているわけだが、エンジンはすべてDEから供給されているので、R379には優先的に新型が配備されている
空襲の被害を分散させるため、DEは日本、ロシア各地にエンジン工場を建設していたりする
そして、本当のエース部隊(現在、最強の優れたパイロットが所属)は、その工場や仙台、函館、新潟などの守りについている
時間のある彼ら(最強パイロット)に、若手パイロットが教えを受けているという状況が各地で作られているのであった
・・・・・
「発見しました」
「誘導を頼む」
「了解」
R379航空団の何機かには、レーダー搭載機が存在する
驚異的なレーダーの進化(小型化)には、宇田・岡部両教授の尋常ならざる努力がある
すでに石が完成し、玉(真空管)は必要なくなりつつある
R379空の飛燕の翼下には5インチロケット弾が2発づつ、計4発搭載されている
爆撃機攻撃には、効果ありと、どこぞの航空本部次長が無理やり認めさせて、開発した経緯がある、いわくつきの代物である(コロリョフ博士の研究成果)
低空を飛ぶB25編隊を前方下に発見する
R379は24機、701空も24機の編制でR379の後ろをついてきている状態である
「我々は後方から、ロケット弾にて攻撃をかける、701空はその後上方から攻撃をかけよ」
「了解」
ごく自然にR379の隊長が701空に命令を下す
命令系統には入っていないが、R379の方が指揮権を持っているかのように命令するのである
701空の方でも、かつての教官ばかりだったので、命令を受けざるを得ないような状況でもあり、自然と命令を受諾する姿勢にならされている
速度的にも逃げられるはずもないので、B25は密集隊形をとらざるを得なかった、しかしその選択が誤りとなってしまう、後方に回った敵機がいきなり、ロケット弾を全弾発射したのだ、ロケット弾を持っているとは計算外もいいところである
高速で飛来するロケット弾がさく裂すると、一機丸ごと爆破されてしまう
5インチロケット弾の作薬量が多いためである
16機のB25のうち6機が墜落していく
密集隊形が大きく崩れるところに、上方から逆落としに、戦闘機が20mm機関砲と12.7mm機銃を雨のように降らしながら、突っ込んでくる
たちまち、数機が炎を噴き上げて、墜落していく
何とか、それを持ちこたえたB25も後方の戦闘機が少し上方から、機首に向けて、20mm機関砲を撃ち込んでくるともう大混乱となってしまう
陸地ははるか前方にある海上で全機が墜落炎上していく
中には、パラシュートで脱出した兵士がいたが、彼らは、R379の戦闘機から機銃の標的にされてしまう
こうして、すべてがなかったことにされていくのであった
・・・・
統合作戦本部では、このドーリットル空襲の顛末が報告される
「敵全艦の撃沈及び敵爆撃機全機の撃墜を確認、報告します」
「よくやってくれた」陛下が素直に喜びの声を上げる
「兵によく伝えておきます」
「そうしておいてくれ」
しかし、笑顔を見せながら、永田総理の心の裡は微妙ではあった
あまりにも、海軍が強すぎる!開戦からここまでまったく、米国太平洋艦隊を完全に封殺している、しかも、空母5隻のうち2隻鹵獲、3隻撃沈などありえない戦果である
陸軍出身の彼は、じりじりと何かにあぶられているような気になってくる
そして、海軍大臣の米内光正も苦々しいものを感じていた
報告によれば、敵兵がパラシュートで脱出したのを戦闘機が撃ち殺したという報告を受けていたからである
「武士道精神に悖る」と心の中で怒りが巻き起こっていたのである
「どうした、みな、勝ったのであろう、もっと喜んでもいいのだぞ」
陛下が、笑みを浮かべていた
・・・・・
米軍に見捨てられた形になってしまったオーストラリアのポートダーウィンでは、約束通りに帝国の大艦隊が沖合に進出し、空爆後、艦砲射撃を開始、町をがれきに変えてしまったのである
幸いにも、攻撃前に、政府が市民に避難勧告を行っていたため、人的被害は少なかったという
しかし、政府は対応を迫られることになる、今度の目標は、東海岸の主要都市を随時に攻撃していくので、避難するように通信が入ったからである
「いつでも、停戦する用意がありますので、連絡をいただきたい」
敵の司令官堀悌吉が通信の相手であった
「くそ、何とかならんのか?」首相が海軍大臣と陸軍大臣を見る
しかし、すでに、オーストラリア軍に兵力はない状態である
すでに、ケアンズ、タウンズビルの爆撃が常態化しているのである、力があれば反撃している
「マッカーサーはどうしているのだ」
「現在連絡が取れません」
「奴らは、フィリピンから逃げてきているのだろう」
「ポートダーウィンにいましたが、現在は不明です」
「反撃は行われなかったのではないのか」
「はい、米軍による反撃は行われなかった模様です」
「おかしいだろう?反撃するために、ここまでやってきたのではないのか」
その答えを出せる人間はそこにはいなかった
本国がすでに、ドイツの攻勢に対峙するので精一杯であり、海戦当初に東洋艦隊も、日本の攻撃で主力艦を壊滅させられている
当のマッカーサー将軍は、ポートダーウィンをすでに脱出、サモア諸島へと逃れていることがのちに判明する
頼みの米国も、真珠湾を完全に破壊され、そのせいで、物資の輸送がそちら優先しているため思うように入ってこない、兵力も武器も同様である
さらに言うと、そのすくない輸送部隊が、敵の潜水艦による攻撃により相当数が海の藻屑とされているのである
敵の潜水艦は非常に静かであり、発見が難しい、ついでに、攻撃能力も高い、主に酸素魚雷に由来するが、そして、早い、もちろんオーストラリアの首相にはわかるはずもないことではあるのだが・・・
ニューギニア島で十分補給をうけた連合艦隊がオーストラリアの東海岸の都市次々にがれきに変えていく、ブリスベンががれきと化した時、オーストラリアは事実上降伏した
これ以上破壊されては、復活できそうにもないからである
停戦監視のためという名目で、ポートダーウィンに帝国陸軍5個師団が進駐することになる
また、鉱物資源の優先的貿易権を認める
さらに、満州、ロシア公国の承認
ニューカレドニアの領有権の放棄
アボリジニの一部自治権を認める
「今後停戦協定を破れば、オーストラリアに白人政権を認めず、この地をアボリジニのものと認定し、あらゆる白人種を殲滅する旨、私が宣言したことを肝に銘じていただく」
調印式において、もっとも苛烈な言葉を投げかけたのが、ロシア伯爵で、日本軍人の高野なる人物であったという
ニューギニア島から、百瀬建設の重機部隊がダーウィンに到着し、早速港湾の整備と航空基地整備を行い始める
オーストラリア人のスパイが遠くから見ていても、彼らは構わず重機を使って、仕事を神速で進めていく
進駐した部隊の一部は、アボリジニを集め、早速軍事訓練を開始する、今後は、環太平洋の仲間として助け合わねばならないからである
すでに占領したアジア各国でも、独立のために、同じようなことが各地で行われている
資源地以外には、陸軍はおいていないので、各地に派遣されている陸軍の兵力はそれほどの数ではない
しかし、事ここに至っても、オーストラリア政府はそれほど悲観してはいなかった
いずれ、米国艦隊が来れば、協力して日本軍を撃退できると信じていたからである
そのためにも、今は彼らを好きにさせ我慢するのである
そういう姿勢であった
だが、その考え方が大きな悲劇を生むとは、誰も考えていなかった
さらに言うと、米国の反撃作戦において、2空母を含む二つの任務部隊が完全に海の藻屑なったことを彼らは知らなかった
米国の方でも、この作戦で、一万数千人以上の兵士がなんの成果もなく、消滅したという事実を完全に隠蔽していたからである
すでに、米国空母は底をついており、新造艦の完成も一年以上も後になる事態に陥っていた、さらに言えば、太平洋の潜水艦もほぼ殲滅されていた、日本の輸送を阻害する作戦は全く機能していない状況である
逆に、ハワイへの輸送船団に多大な被害が出ており、物資輸送は大変な労苦を伴うものとなっている、さらに間の悪いことに、敵の潜水艦は高性能でまったく補足できないような状況になってもいた
米国には、ソ連、中国、英国からレンドリース法による物資と武器の供与を求める矢の催促が届いている
だが、太平洋の制海権を保有できず、シベリアがロシア公国であるため、シベリア鉄道経由での輸送は不可能であったし、大西洋には、ドイツの潜水艦が暴れまわっているため、思うように輸送ができない状況であり、中国に至っては、物資を送り届ける場所すらない状況となっているのである
まあ、中国が戦っているのは、国内の共産党勢力ではあるのだが・・・
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