開戦2 激闘エンタープライズ
「戦闘態勢継続、索敵機の発進急げ」
零戦が増槽タンクを積んで発進していく
目指すは西方である
すぐに、空母艦隊発見の報がもたらされる
「戦闘機隊発艦!」空母甲板上では、色とりどりのベストを着た兵士たちが、動き回っている、現代の空母のように、担当する職務により、ベストで色分けされている
空母甲板上には、フォークリフトが爆弾を運んでいる
「空母1重巡1駆逐艦5確認とのこと」
空母エンタープライズの任務軍は、オアフ島の西200カイリの場所まで、帰ってきていたのである
そして、そのことは、占いにより予想されていたのである!
刻々と、情報が入ってくる
「やはり、副司令の占い通りでした」
「うむ」と俺、知っていただけです
「最大戦速」艦長が吠える
時速30kn敵艦隊に突進する第21艦隊である
「神武」の前方には、巨大な空母がやはり高速で進んでいる、その間にも、航空機が次々と発艦している、空母には2機の油圧式カタパルトがついているため、風向きを気にする必要はないのである
「敵航空機、レーダーが捕らえました」
艦橋に声が響く
八木宇田岡部のレーダーシステムは確実に、結実していた
いま、世界のどこよりもこの技術は日本が最先端であろう
八木宇田アンテナの発明は世界に発表されていない
そして、小型化も日本が一番進んでいる、宇田教授に渡したオーパーツは解析され、トランジスタが最近実用化のめどがついたらしい
これにより、レーダー機器が劇的に小さくなり、必要電力量も激減することが可能であり、”あの”秘密兵器も確実に開発の射程圏に入ってきたのである
ブルことハルゼー中将は怒っていた、真珠湾が敵の大部隊に完全に葬り去られたのだ!
「これは演習にあらず」という有名な無線を傍受していたのである
「黄色いサルごときが!」しかし、完全に灰になっているとは思わなかったようであるが
一撃をくれんと、残り少ない航空機を索敵に繰り出していたのだが、敵は向こうから現れた
「敵と思われる航空機2機接近してきます」
見張り員が見つけたのである
「たたき落とせ!」
上空には、直掩戦闘機F4Fが6機が飛んでいた
全ての戦闘機F4F 6機が零戦に襲い掛かる
しかしである、あっという間に後ろをとられて、一機が火を噴いたのである、あろうことか、2,3機目も同じ運命をたどる、その間も残りの3機は敵の後ろをとることができないようにもう一機に阻まれている
これで2対3になったと思ったら、今度は、もう一方の機が攻撃を開始する
下からは、そんなことはわからなかったが・・・
ものの5分ですべてのF4Fが打ち落とされる
「これでは、狙い撃ちされる全機発進急げ!ハワイ方面に敵艦隊はいるはずだ」
ハルゼーの無茶な命令だったが、すでに発見されているので仕方がない、さらに言えば攻撃は失敗しても、オアフ島の基地にたどりつけるはずである
そのオアフ島は重油に焼かれている最中ではあったが・・・
最後のTBD艦攻が発艦する
零戦は対空砲火を浴びない距離でこちらをぐるぐると回って様子を伺っている
ハルゼーにはそれが、ハゲタカの舞に見えた、自分が死ぬのを待っているかのような不吉な陰に思えた
SBD艦爆6、TBD艦攻16機が全速力で東へ飛び始めると、送り狼よろしく、零戦がゆっくりと追っていく
「舐めやがって!」
・・・・
「山口さん!大変です!斥候の2機がすでにエースになったんですって」
同じ編隊のもう一つの2番機の島特務少尉である
「なに、それはすごいじゃないか」
「おい、浮かれている場合ではないぞ」小隊長稲垣特務大尉である
そう、現在戦場にいるのは、ロシア海軍に属してはいるが、すべて日本人であり、みな特務〇〇という身分である
山口は、高野九十九が特務大佐くらいでどうですかと言ってくれたのだが、飛行技術では、皆に負けているので、特務中尉ということになった、そもそも、戦場に出る年でもないのだが・・・そもそも大佐では、空に出ることはないのである
「9時方向、敵機高度3千を東進中」送り狼からの通信が入った母艦から通信が入る
「便利すぎて、これでいいのかと思うな」と稲垣
「まったくです」と関谷(副隊長)
「年寄には、これくらいでちょうどよい」と山口
階級は低いが年が上なので、尊敬はされているし、命令されることもあまりない
地上に降りれば、みな息子のようなものである
敵航空機は戦艦「神武」の対空レーダーに捕らえられる
真珠湾攻撃では、帝国海軍より後続だったため、第21艦隊の航空部隊の損失機はほぼなかった、不調で2機ほどが海面に不時着したくらいである
戦闘機隊は半分ほどが敵機の迎撃に向かっているが、40機以上の大編隊である
別の40機が艦爆隊を守って迂回しながら前進を続けている
島特務少尉(航空学校卒業)が一番若いというか最近卒業した若者であり、その次は、山口である、年はもう60と老齢であるが、気力体力とも問題ないとされている
あとの二人は、北海道で航空の教官(航空大学校卒)をしていたベテランである
「山口さん、さすがに今日は出番はないと思います」航空無線ではなしながら
周りには、ベテランの乗る零戦がうごめいている
「見敵必殺!だ」
「まあ、そうですがね」彼らに気負いは見られない
それを見るものがいたとしたら、唖然としたかもしれない
多数のシュバルム(4機編隊)が宙返りを行いながら、急速に降下していく、それも次々と別のシュバルムも同じように宙返りを行い降下していく
東進するSBDとTBD計22機は零戦に後ろをつつかれながら、必死に飛んでいた
彼らは、決して無理に攻撃してこない、此方が斜め機銃を打つと素早く宙返りを行い距離をとってしまう、はぐれたら、一機に襲い掛かってくるのである
だが、潮目はかわった、突如太陽の方向から、高速で落下してくる、黒い影が来襲してくる
見上げると太陽を背に、敵機の大編隊が見えたが、その時自分の機が翼を引きちぎられた
第5、第6、第7 送り狼の零戦のパイロットは見ていた、急速落下してくる味方機のなんと凄まじい攻撃か!
瞬く間に、敵機は次々と火を噴いて落とされていく
高速落下の凄まじいGに耐えながら、山口は稲垣の後方を飛んでいる
稲垣機の20mmが火を噴く、敵機が真ん中から分解する
その横でも、関谷機が敵機を破壊する、空中で飛び散る破片をすり抜けるのが一番の難関になったようだ
稲垣機が機首を起こすと自分も起こす、そのように徹底的に訓練を受けているので自然とできるようになっていた
その時には、すべての敵機は海の藻屑となっていた
こうして、ハルゼー中将の怒りの攻撃隊はすべて泡のように消えてしまった
ハルゼー艦隊は日本機が消えてから、すぐに進路を北に変えていた
おそらく、敵艦の数を考えれば、まともにやりあうのは誤りであるそう考えたのである
しかし、それは、すでにかなり近接した状況だったため、第21艦隊のレーダーが艦影をとらえていた
「敵機です」
「わかっておる、攻撃隊からの無線はまだか」
「何も、反応ありません」
「防空戦闘!」
急降下爆撃機が直角に重巡に落ちてくる?
空母ではなく?
駆逐艦に急降下爆撃が行われる?
ハルゼーは唖然とした、このエンタープライズこそが、もっとも狙うべき艦のはずだ!
次々と対空砲をかわしながら急降下爆撃が敢行される
誰が見ても、一流の腕を持つものだった、こんなやつらがいるのか?
月月火水木金金のもう訓練のたまものといいたいところだが、リヒトホーフェン航空学校ではそのような教え方はしていない、しっかりと休まないといい飛行はできないのであると
重巡と駆逐艦は一瞬で火の海となった
そこに戦闘機が機銃と機関砲を浴びせている
空母は全く攻撃を受けなかった、「奴らは、エンタープライズを狙わないのか」
その時、やっと彼は敵の目的に気づいたのである
エンタープライズの鹵獲を奴らは狙っている
「全速で逃げるぞ!」
無理な話である
一機の99艦爆が逃げ始めたエンタープライズの真上から急降下を開始する
「取り舵一杯」艦長が悲鳴のような声を上げたとき、艦橋が爆発した
艦爆の25番爆弾が直撃した
ハルゼー以下、艦橋にいた司令部はその一撃で戦死あるいは重症を負ってしまった
エンタープライズは指揮系統を破壊され身動きができなくなり漂流することになる
航空機から発光信号が盛んに送られる「降伏せよ」である
無傷の艦は、駆逐艦が2隻である、彼らだけが攻撃されなかったのである
駆逐艦艦長は盛んに、エンタープライズに連絡を取ったが、無理であった
艦橋から黒煙が上がっている
そんな時、無線が入る
「米国艦隊に告ぐ、降伏せよ、抵抗すれば、一兵残らず海の藻屑となる、直ちに降伏せよ、駆逐艦2隻のみ帰還を許可する、此方は連合艦隊所属第21艦隊、副司令高野である、これ以上の抵抗は無意味である」
流暢な英語である
本来は、山梨長官におこなってもらうはずだったが、英語が流暢な方がよいであろうとのことから、俺が降伏勧告を行った
ハルゼーが健在であれば、空母を雷撃するように命令したであろうが、この瞬間には彼の生死は不明であった
駆逐艦の艦長2人は降伏を選択した
辺りを敵爆撃機がぐるぐると旋回しながら脅されては、抵抗事態が無意味である
かれらの周囲に改大和型戦艦が姿を見せる、途方もない大きさでこちらに主砲を向けている
航空機は、引き揚げていった
今回の真珠湾奇襲には、大和、武蔵も来ており、空母の護衛を行っている
「負傷者を連れて、ラハイナにでも向かうといい、オアフ島は当分使い物にならないだろう」敵艦からの通信であった
敵の司令官が、負傷者の救出を日暮れまで許可してくれた
エンタープライズには、日本軍が乗り込み、重巡洋艦がえい航していく
「魚雷を打てば、全員海のもくずだ、勇気をおこしてやってもいいよ」
此方の心を見透かしたように、通信が届く
駆逐艦には、将兵が零れ落ちそうなほど乗っていた
2艦合わせて、一万人近くいるのではなかろうか、俺たちは命をすてるべきであろうか?
ハルゼーなら、俺たちが逃げる時に奴らを撃つといっただろうか?
奇跡的に、一命はとりとめていたが、早く治療をおこなわねば、まさしく命を落とすような状態であるが
夕闇があたりを包むころ、敵艦隊はゆっくりと、北へと消えていった
とにかく、ラハイナ軍港に向かうしかないと無線で話し合った結果きまった
第21艦隊は夕闇に紛れて反転し、もう一度ハワイ・オアフ島を目指す
かくして、作戦の第3段階が始まろうとしている
いつも読んでくださりありがとうございます。




