超兵
1935年(昭和10年)
夏の暑い日だった
陸軍省の内の一室の重厚な扉をノックする
「誰か?」
部屋の主は永田鉄山陸軍軍務局長である
「海軍少将の高野と申します」
「お入りください」
「今日は早くからすいません」
「ところで、海軍さんが何か?」
このころのはやりなのか、永田軍務局長も丸眼鏡が特徴的だ
「私は統合作戦本部付きですから、それほど疎遠というわけではありませんよ」
「まあ、そうですね」
「今日は、少し用事あってきたわけです」
「なんでしょうか?」
「用事はもうすぐきます」
「?」永田は何をいっているのかという顔している
ガチャリと扉が開くと
「天誅!」男が刀を抜きざまに切り付けてくる
しかし、刀は空を切る
手首をねじりあげられて、極め投げを受けてしまう
側頭部に強烈な鉄拳を食らい意識を失う暴漢
「誰かある!」大音声が響き渡る
「暗殺未遂事件である、こいつを捕らえろ」
陸軍ではなく、憲兵隊が、相沢中佐を逮捕して連行していく
憲兵隊に成りすました八尋が速やかに、現場を収束させる
・・・・・
「用は済みましたので、これで」と俺
「いや!え?」
「では、頑張ってください、一つ貸しということで」
こうして、相沢事件は未遂に終わる
これで、226事件が発生しなければいいのだが・・・
相沢は憲兵隊?実は特高警察に拘禁されるが、闇の中に葬り去られるであろう
日独防共協定は締結されず、日本は、迫害を受ける人民を受け入れるために、満州国内にユダヤ人自治区の開設とハワイ独立を国際連盟でぶち上げる、それと同時に再び、人種差別廃止法の制定を要求するのであった
日本、満州、ロシア公国が再々同じ法案の制定を訴えかけているが、国際連盟では成立しない、もちろん、英仏が反対しているためである
自分の意見が聞き入れなければ、潔く脱退するなどというのは、まったくもって日本人的な考え方であるが、外務大臣には、決してそのようなことは許されてはいない、いつまでもしつこく自分達の意見を主張する方向で意見がまとめられているのである
ドイツ方面で迫害されるユダヤ教徒も、アジアであればそれほど迫害を受けることもない、もともと歴史的にあまり関係性がないためである
そして、欧米を資本的に支配するユダヤ人に対する、アピールにもなる
そのような効果を狙ったパフォーマンスも十分に含んでいる
満州国を国際連盟に認めさせる目的があるのだが、国際連盟はやはり満州国を国家として認めていない、国際連盟の主要国が、英仏と加盟していないが大きな力を有する米のためである
しかし、ロシア公国は英国の協力もありなんとか認められている
現ロシア大公国の大公アレクセイの母親は、英国王家の姫であることから、このことについては協力を得られたためである(親父ニコライと英国王は従弟で顔がそっくりの関係も効果があったかも)
1936年(昭和10年)
1月日本は、軍縮条約から脱退することになる
そして226事件はやはり起こりかけていた、だが、陸軍内部の神道派が未然に鎮圧していた
焚きつけていた連中は治安維持局が全員逮捕し、その後闇に溶かされていく
この国の闇はかなり深いものになりつつあった
すでに神道派の勢力は、国家の隅々にまで根を張っている
ただし、その神がどんなものなのか、首魁である俺もしらないのが一番の問題である
若手将校の中には、高野学校(小学校時代から奨学金を出すことにより優秀な児童を引き取り教育している)から士官学校経由のものがふくまれるようになっていた
現代アメリカの原子力空母を手本とする、アングルドデッキ空母が竣工する、結局、動力源はディーゼルから艦本式タービンに変更された、エンジンが大きくなりすぎて、小型化技術が追い付かないようであり、必要なパワーが不足してしまったからである
しかし、DEの技術陣が、艦本式タービンエンジンに改造を施し、今までより高圧高温に耐えうるタービンへと変化させたのは、今後の良い材料になるであろう
艦載機は現行、零戦を予定しているが、まだ零戦は開発されていない
仕方がないので96式艦戦で試験運用を行う
艦上航空戦隊の訓練に必要なのである
ロシア公国艦隊には、加賀、土佐の2隻の空母が存在するので、3隻目の空母ということになる、加賀も土佐もアングルドデッキへの改良と艦橋、煙突の改造、エレベータの位置の変更(中央から舷側)、機関の更新などの改良が加えられている
さらに、対空装備の充実、レーダーの搭載が行われていた
(加賀については、関東大震災で天城が焼失しなかったことにより、ロシア公国へと売却された、土佐についても、自沈処理されずやはりロシアに売却されたため空母改造されていた)
そして、今、空母建造技術がある程度習得できたことにより、正規空母として、全長330mの空母の建造が始まる(米国原子力空母は330m長である)
従来の造船技術でも十分、製造できることが確認されたため同時2隻起工という無茶ぶりである
ロシア公国(元王家)と高野財閥の莫大な資金が存在するため可能となった荒業である
ウラジオストクには、巨大ドックが準備されていたため可能な荒業であるともいえる
すでに、駆逐艦(ロシア海軍所属)は日本各地のドックで次々と完工しているので、それらへの兵員の割り当てを帝国海軍に要請している、みなロシア公国海軍への出向ということになる
そして、平賀氏念願の大戦艦の建造も始まろうとしている
大和型改とでもいえばいいのか、基本大和型を継承しつつ、主砲は50口径41cm3連装4基
、副砲は15cm3連装砲2基、両舷に5インチ両用砲連装8基16門、速力30kn以上、排水量6万t、戦艦であるが、空母への随伴性と対空戦闘性を重視している
(主砲のサイズを小さくし、船幅を小さくし、高速性を優先させている)
平賀氏はなぜ、大和と同じ46センチ砲を載せないのか!と顔をしかめたが、これからは、機動艦隊の時代なので、譲ってもらった
しかし、これも2隻同時起工である
ウラジオストクには空前の造船景気が沸き起こっていた
「兄上、この国は、世界不況の中でも、好景気に沸いております、ありがとう」
「いやいや、いつも、面倒なことばかりお願いして悪いね」
「おい、九十九、ところで、あの遠心分離機というやつがあんなに一杯届いてるが、いったい何を始めるつもりだ」とミハイ
今や、彼は、大公の最も信頼厚い臣下となっている
「人気のないところで、分離しようかなと」
「?」
ロシアは基本的に町以外には人はほとんどいないので、人気のない場所は大変多い
「イエローケーキという、新しいケーキを開発しようと思っているんだよ」
「なんだそれは?うまいのか?」
「どうだろうな?やめといたほうがいいと思うぞ」
こうして、何気ない時間がすぎていくウラジオストクの午後である
コンゴから持ち去られた鉱滓はロシアの片隅で濃縮されることになったのであった
・・・・・
統合作戦本部内
「では、A140--F6の1号艦・2号艦の建造を開始します」海軍大臣の米内光政が宣言する
俺の知る歴史より一年は早いことになる
そうするように仕向けたのだがね・・・
いよいよ、ネイバルホリデーが終わる
世界は、戦争へと加速されていくことになる
「高野がロシア・満州と協力し、兵器を大量に用意している、陸海軍は高野と協力し、万全の準備をするように、これは、朕の意志である」
参加者全員が頭を下げる
「陛下はああいわれましたが、現在、兵器に関しては、隠蔽期間中ということになりますので、開戦が予想される場合のみ、一年前に開放します、それまでは、旧来の兵器でお願いします」
「なぜかね」
「新発想でありますが、技術的には、敵国でも製造は可能であります、ゆえに存在を知らせることが危険であると考えられるからであります」
「では、敵も同様のものを用意しているかもしれないではないか?」
「かもしれません、ですが製造競争では、米国には到底勝つことは難しいと考えます」
「はっきりせんな」
「あることがわかれば、敵も製造するということです」
「この中に、スパイがいるというのか」
「わかりません、しかし、どこから漏れるかもしれませんから用心は必要かと思われます」
「海軍の新型戦艦はどうか」
「あれは、世界的に宣伝しましょう」
「なぜ?」
「敵には、できるだけ戦艦に製造能力を使ってほしいからです」
「製造競争では負けるのではないのか?」
「はい、ですが空母の重要性については理解していないでしょうから、欧米には戦艦建造でできるだけ力を使ってもらうのがよいと思います」
次々と海軍、陸軍のお偉方が攻撃してくるが、俺は愛想笑いでごまかしていくのである
「それよりも、陸軍は、決して支那攻撃だけは起こさないように!これは、朕からの厳命である」
話を断ち切ったのは、昭和天皇であった
重要な点だけは、解説しておいたのだ
史実では中国政府を相手とせずと近衛内閣は言ったのだが、現在の内閣では、その中国政府と交渉しており、満州国を認める代わりに、講和条約の締結に向けて、交渉中である
陸軍内部には、乃木中将(乃木将軍の息子たち)を中心に、神道派が力をもち、永田鉄山を助けたことにより、統制派も味方してくれているため、あからさまに、俺に敵意を向けてくる陸軍はいない
それよりも、おかしな輩は、陸軍超兵部隊に送られている
超兵部隊とは、精神力でなんでも可能な超人的な兵達の部隊であり、エリート部隊と呼ばれている、今は、ニューギニアでオーエンスタンレー山脈越えの訓練を行っている、この前は、シベリアでのサバイバル訓練を行っていた
そのような、どのような状況でも戦えるのが超兵部隊である
現在陸軍で、竹やりが百万本もあれば戦えるなどといった場合、間違いなく超兵部隊へと入隊できる素地ができていると判断される
選ばれなかった兵たちは、虚弱なごくごく普通の兵士ということである
・・・・
艦政本部
「でですね」と俺
「うむ」艦政本部長
本部長室での会話である
「蘭印、仏印等から、石油などの資源を輸送するわけですが、その場合に問題となるのが、敵潜水艦となります、簡単にいいますと、輸送艦には、護衛をつけねばなりません」
「そうか」
「それで、旧式の艦はすべて、この護衛艦隊(仮)に配属し、現在鋭意製作中の露艦と入れ替える必要があるわけです」
「そうか、それで、お前のところはどれくらい儲かるのだ」
「本部長、私は利益のためにこのことを言っているつもりはありません」
「でも、儲かるのだろう」
「まあ、儲からなければ、続けられませんからね」
高野造船でも駆逐艦の建造をかなり受注している
「で」
「護衛艦隊の創設と艦の入れ替えを進言してください」
「自分で行けばいいだろう、陛下の信任の厚い貴様のことだ」
「え~」
「なんだ、貴様でも苦手がいるのか」
「宮様は苦手で」
「俺も、受けが悪いぞ」
「では、ご一緒にお願いします」
「お前の意見だろうが」
「まあ、でも本部長の発案ということで」
こうして、百武本部長と俺(次長)とで、軍令部総長室へと行くと明らかに面倒な奴らが来たという顔の総長が待っていた
「護衛艦隊?そんなものがいるのか」
「はい、こいつ、いや高野少将が考えたものであります」
「高野?なぜそれが必要なのだ」
「我が国には資源がありません、自ずと輸入することになりますが、それらは敵潜水艦の恰好の餌食になります」
「敵は輸送船などを狙うのか?わが方の戦艦を狙うのではないか?」
不毛な戦いに疲れてきた
潜水艦が敵艦をつけ狙うのは、日本の特徴であるが、目立った成績を残せてはいなかった
今回の大戦(予定)では、徹底的に輸送船を狙うように指導すべきであると確信している
「戦艦など狙いません!余程隙があれば狙うでしょうが、もちろん駆逐艦などが随伴しているため、攻撃すなわち反撃による撃沈が関の山ではないでしょうか」
「そんなものは、わが海軍の精鋭が信念をもってことに当たれば」と総長が唾をとばしていう
「総長、ひょっとして、超兵の素養がおありなのではないですか」
その時、伏見宮の顔色が劇的に変化する
「さすがです総長、やはり超兵としての才能をお持ちだったとは、私陸軍に知り合いがおりますので、早速、海軍超兵の指揮官として」
「いや、まて、ちがう」
「さすがは宮様であらせられる」と百武本部長
「何を言うか、わしは、もう年だ、そんなことはできん」
「いえいえ、陸軍の荒木大将はいまだ現役ですよ」
「忘れろ、今のことは忘れろ、もちろん精神力は大事だが、やはり冷静に分析すると、そうだな、駆逐艦相手では、分が悪い、よし、その護衛艦隊とやらを作れ、いや作ろうそうだな、これからは長期不敗体制を構築するためには、輸送路の確保は最も重要だ、さすがは百武だ、」
「いえ、高野が申したのです」
「いや、百武だろう、よし百武の意見を採用する、では、貴様ら用事がすんだのであれば、退出するように」
超兵またの名を懲罰兵部隊、入れば死ぬまで出ることはできない、名目上のエリート部隊である、超危険な訓練をこなす猛者たちの砦である
護衛総隊 初代司令官 有栖川宮栽仁王中将
こうして、彼は知らないところで海上輸送を一手に握る重要な役職を担うことになる
いつも読んでくださりありがとうございます。
在庫が少なくなりました、早晩毎日更新が途切れそうです




