暗躍する輩2
モスクワ駅で待っていると、ロシア人が近づいてくる
「閣下、お待たせしました」アバレーエフの配下でソビエトに残った地下工作員の一人である
「ああ、わざわざすまないな」
「見張られていますので、動きましょう」
駅全体が監視対象となっているようである
「すまんな、つきあわせて」繁華街の一角の古い飲み屋である
「大将からくれぐれもといわれております」
彼は、元アバレーエフの部下で、今はスパイのかたわら赤軍の兵士をしている
いや、赤軍の兵士のかたわら、スパイをしてアバレーエフに情報を流している
「お探しの方は、やはりツアギの科学者刑務所ですね」
「そうか、何とかいうことを聞いてくれればよいがな」
「そこまでは、何とも、それとこれが、面会に必要な書類の偽造品です」
身分証明や各種命令書などの偽造品である
金さえかければ、本物が用意できるので、書類事態は本物を使用している
命令自体が偽物ということになるのであるが・・・
・・・・・・
「わたくしができるのはここまでです」ロシア人が言う
ツアギの壁が見える場所まで、運転をしてきてくれたのである
「スパシーバ、助かったよ」
「は!」彼は敬礼をした
監視所の兵が車を止める
「なんだ」
「NKVDの者だが、」身分証を見せる、本人以外はすべて本物でできている
「御用はなんでしょうか」
「ああ、収監者と面会したい、場合によっては連れていく」
「科学者刑務所の連中ですか?」
「そうだ」
何度か、警邏の連中が交代で俺を核心部へと連れていく
常に二人が付きそい、俺を警戒しているのか守っているのか不明だがついてくる
もちろん、当の本人を見たこともないので、連れて行ってもらうしかないのだが・・・
まさに、取調室のようなところにとおされる
しかし、何か所の鉄格子を抜けないといけないのだろうか?
中年のロシア人が連れてこられる、軍服を着ていないので、彼が俺の求める人物だろう
もちろん、俺は本物の赤軍の軍服を着ているがね、ところでNKVDで赤軍の軍服でよいのか?(似ているが違います!)
「お前がツポレフか?」俺が得意?のロシア語で聞くと
「そうだ、なんの用か?」
「そうだな、近ごろ航空機の研究が盛んなのだが、そのことについて聞きたいのだ」
「そうか、何を聞きたい?」
「ところで、本当にメッサーシュミットに技術をながしたのか?」
「そんなことがあるものか、向こうの方が進んでいるだろう」
「わが祖国のほうが遅れているだと!」
ツポレフは自分が失言したのに気づいた
「お前には再教育が必要なようだな」
ツポレフは真っ青になった
「ところで、貴様の弟子だったものに、コロリョフというものがいたな」
「セルゲイは何も関係ない」
「師弟愛というやつか、気に入らんな、お前のシンパではないのか?」
「違う」
「ほお」
「私は祖国を裏切ったりしていない」
「おい、貴様、セルゲイ・コロリョフを連れてこい、近くでロケットの研究をしているはずだ」NKVDは赤軍内部でも恐れられている
まさに、無実の罪で大量の人間を抹殺しているからである
「まあ、今日は来れないからあすだな」
俺は面会を打ち切る
堂々と正面から出てこれた
昨日と同じように、堂々と正面に向かう
昨日とは違う歩哨が身分証を要求してくる
しかし、明らかにおびえていた
俺が、NKVDだと知っているようだ
同じようにして、3回交代して、昨日の取調室にやってくる、鍵付きの扉は、2か所、監視している兵士は、20名前後である
ツポレフとコロリョフらしき人物がパイプ椅子に座って蒼い顔をしている
最近ソビエト内では、粛清が横行し、ラーゲリという政治犯収容施設へ送られる人物が激増しているということは、彼らも知っているのだろう
俺が入ると彼らは飛び上がって立ち上がる
「待たせたな」
「セルゲイは関係ない、本当だ」
「すると、メッサーシュミットへの情報漏洩は認めるのか」
「そんなことはしておらん」
「先生!」
「貴様が、コロリョフか?」
「はい、同志、セルゲイ・コロリョフであります」
「そうだな、同志セルゲイ、しかし、本当に同志なのか?今、重大な嫌疑がかけられているのだがな」
「同志、・・・」
「私は、NKVDのコロシス・ギールデ少佐だ同志」
「ギールデ同志、私は何もしておりません、先生ももちろん、祖国のために、働いております」
「まあ、みなそういうがな」俺は酷薄な笑みを浮かべる
目の前の二人が氷つく
「君らは、少し外で待っていてくれ」
その笑顔で兵士二人にいうと二人も氷ついてしまうが
「同志ギールデ、それは命令違反になりますので無理であります、それに武器がないので危険です」
俺は、ここに入る前に自分の拳銃を渡している
兵士二人は武装している
「私の得意は尋問だ、少し、刺激が強い方法なのでな、見せたくはないな」
そういうと、どこからか、ウォッカの瓶を取り出す、それはウォッカの本場、ソビエトでも人気のカナダ産のウォッカだった
「これでも、飲んで外でリラックスしてくれ、何かあったらすぐに来てくれ」
「わかりました、今回だけですよ、同志」
二人の兵士は、ツポレフたちを脅して、部屋の外に出ていく
そもそも二人とも、手錠をはめられているので反撃はかなり無理がある
「さあ、何から聞こうか?」
「声を出すな、いまからお前たちにある情報を見てもらう、いいな」
ツポレフとコロリョフにだけ聞こえるように小さな声でいう
「目をつぶれ、手をつなげ、いまから恐ろしい目にあうぞ」聞こえるように俺はいう
俺がツポレフのてをとる
「さあ、始めるぞ」
その映像は、やはり前世界からのアカシックレコードの映像であった
ソビエトの赤軍大粛清の映像、ツポレフ逮捕、拘禁、そしてコロリョフ、逮捕、シベリヤ流刑(ラーゲリ:強制収容所でもある)地での労働、彼は同僚の密告により逮捕され、コルイマ(現在は、ロシア公国占領地)に送られ、ほとんど死にかかるのである
ツポレフの方はまだましでここのツアギで一生外、飛行機の研究を行い、この地を出ることはなかった
コロリョフはツポレフが何とかとりなしを頼んで、やっとシベリヤ流刑から逃れられるのである
ラーゲリでは次々と人々が病気と飢えで死んでいった
「どうだ、まいったか」
二人とも、泣いていた
「助けてください」
コロリョフがいい鳴き声を出す
「私も、こんなのは嫌だ、何とかなりませんか」
「私に協力することだ、祖国に協力することで、貴様らは助かるのだ」
「なんでもいうことを聞きます、お願いします」映像の仲では死にかかったコロリョフはすでに落ちていた
自分の姿がみるみる、死にかかっていくというのはどういう心境なのだろうか?
「私も全力で祖国のために働きますのでよろしくお願いします」
「そうか、良い心がけだ、私に見つかったのは、お前たち運が良いぞ」
「はい、閣下、仰せの通りです」
「では、君らに、更生の機会を与えるので、君らが、使えると思うものをリストアップして、旅の用意をせよ、再研修すれば、祖国のためになるであろう、急ぎなさい」
その時、扉が開き兵士が入ってくる
「終わりましたか?」
やはり、盗聴されていたようであるがしっかりとウォッカは飲んでいるので問題あるまい
「ああ、どうやら、私の手足となって働いてくれる気になったようだ、彼らを連れていく、NKVDの秘密研修所になる、手続きを頼む」
「は」
きっかり2時間後、収容施設前の広場に、研究者10名が並ぶ
輸送トラックが必要になるので、兵士に依頼する
ブルブルとうるさいエンジン音を立てたトラックが用意される
「これから向かうのは秘密研修所であるため、詳しい場所を記すことはできないが、これでいいか」書類にサインだけして、兵士に渡す
「運転手はどうされますか」
「私が行うので問題ない」
「閣下の自動車は?」
「置いといてくれ、あとで人をやる」
「わかりました」
こうして、10人を乗せたトラックは、最後の関門にたどり着く
金網のフェンスのゲートが押し開かれる
その時、歩哨所の兵士が飛び出てきて車を防ぐ
俺は、窓から頭を突き出して
「貴様、死にたいのか!」と怒鳴りつける
一瞬ひるんだ兵士だったが、「ちょっと待て!」と小銃を向けてくる
「少佐、車から降りてください」
あと二人の兵士が出てくる
「なんだ、貴様ら、ラーゲリにでも行きたいのか!」といかにも、NKVD風に脅す
「今、NKVDに問い合わせしています、ギールデ少佐、トラックから降りなさい」
「ふん、まあいいだろう」俺は運転席から降りる
「で、どうしたのか」
「コロシス・ギールデ少佐なる人物は存在しないといっている」と兵士
「ふん、そんなことか、ところで今相手先とはつながっているのか、私が話そう」
全く当たり前だという態度で返されて不思議そうな顔をする兵士たち
「貴様ら、私は、秘密任務中なのだぞ、本名を出すわけがなかろう、お前たちは、シベリヤいきだな」そう言って、歩哨所に向かう
兵士たちは背中に冷汗が流れ始める
「電話をかわれ」俺は尊大に受話器を受け取って、向こう側の声を聴かず、適当に罵詈雑言を浴びせる、「ダー、ダー、ニェット、お前、私の言っていることがわからないのか、名前と階級を名乗れ、長官に報告するぞ、私を誰だと思っているのか!ふん、よし、わかった、死にたいのなら、またかけてこい」ガチャンと受話器を置く
周りの兵は何が起こっているのか、ビビり切った状態で眺めている
「また、かけてくると思うが、奴は、私の政敵の味方だから、俺をはめようとしているようだ」
ジリリン、ジリリンと電話が鳴りだす
蒼い顔の兵士に、俺は顎をしゃくり、電話に出るように促す
兵士が嫌な顔をして、受話器をつかんだその時、その兵士の首筋から、刀の刃先が突き出る
周りの兵士は何が起こったのかわからないうちに、一瞬で首筋を断ち切られる
血しぶきが、狭い室内を赤く濡らす
「おい来てくれ!大変だ」
俺は、歩哨所の扉をあけて、残りの兵士2名を呼ぶ
「どうしました」2名が近づいてくる
「お前の仲間の様子がおかしいのだ!」
兵士が室内に入った瞬間、あたりは真っ赤に染まっていたが、その脇腹に刀が付きこまれる
「ぐふ」
もう一人は顔を羽交い絞めにされ、首筋を斬られ、またしても血で、室内を濡らす
こうして、俺以外の人間は死に絶えた
俺は、血まみれの顔を拭きながら、歩哨所を後にする
ジリリンジリリンと電話がうるさいが無視する
こうしてトラックは、ドイツに向けて出発する
その夜、300Km以上走り、スモレンスク近郊の森の中である
「今日はここで夜営する」
「兵士たちはいないのですか」とコロリョフ
「ああ、いない、テントの立て方はわかるな」トラックの横には、先ほどまでなかったテントの部品が置かれている
「ところで、話があるんだが、博士と君とで話をしよう」
のこりの連中は火をおこし、テントを建て、食事の準備を行っている
「ところで、これからのことだが」
「はい、なんでもいうことを聞くので、ラーゲリいきだけは勘弁してください」
「そうだろうな、しかし、今君らは、まさにそれどころか、処刑される可能性すらでてきたのだがね」
「どうしてですか?あなたのいう通りにしています」
「ああ、そうなんだが」俺は、暗い表情を作っている
「実は、言いにくいことなんだが、私が、NKVDではないので、君らは、殺人及び逃亡の容疑をかけられていると思う」
「え」彼らは、声を失った
「申し訳ないことだが、私は、ロシア公国側の人間でね、君たちをスカウトに来たのだ」
「ロシア公国」
「ああ、しかし、心配には及ばない、君たちに見せた映像はまさしく「事実」だから間違いなく、君はラーゲリに送られるはずだ、讒言によってね」行先は、コルイマではないだろうがである
「さっきの収容所で兵士を何人か殺したので、おそらく君らの犯行ということになるはずだ、もちろん、私がやったことだから、君たちは私のことを伝えてもらって構わない」
「なんということだ」
「私を捕らえて、突き出すというのは、選択肢に入れないほうが良い」
二人で顔を見合わす彼らに告げる
「おそらく、君らでは私をとらえることはできない、全員の力をもってしても」
「ではどうすれば」
「私と共にロシア公国に来てもらいたい」
「それでは、ソビエトと戦うことに」
「いやかね、君らは、生粋の赤軍というわけでもないだろう」
「しかし、皇帝家にも恩はありません」とコロリョフ
「そうだな、皇帝家もひどかったらしいからね、まあだから革命が起きた訳だからね」
「そうです」と二人
「わかった、では、君らをソビエトから脱出させたら、解放するよ、それでどうかな?私としては、ロシアは別にして、会社を興してもらって、航空機の開発をしてもらいたかったのだが」
「会社ですか」これには、ツポレフが食いついてきた
「ああ、今日本では、航空機ブームでね、私は、見ての通り日本人だが、金は持っている方なのだが、航空機会社を持ちたいと思っていたのだよ、君らが、やってくれればうれしかったのだが、少し騙してしまったことに罪悪感も感じている」
全く悪びれていないように見えるが・・・ちなみに、一見しても日本人には見えない
何人と言われても困るが・・・
「日本人?なのですか」
「ああそうだ、どこから見ても日本人だろ、彼らがなぜ俺がNKVDなんかだと思ったのかねえ」NKVDには、グルジア人などスラブ系でない人間が多かったのである
「いえ、あまり日本人には見えません、もちろん日本人をみたことがあるわけではないですが」
「そうかい?まあ、嫁がロシア人だからな、そう見えるのかもしれないね」とまったく関係ないことを言う俺
「ということで、脱出までは、私のプランに乗っかってもらうことにして、安全圏に入ったら、その後は、その時考えるとしよう」
次の日、全員が赤軍兵士の制服を着ている、全員に赤軍兵士の身分証が配られる、さすがに写真までは、偽造できていないが制服などは俺のインベントリに収容されていたものである
ツポレフ、コロリョフの分は写真までちゃんとついている偽造品である、もちろん正規の偽物の身分証である
国境警備に向かう部隊の命令書をもってそちらに向かう体の部隊に成りすます
その3日後ようやくポーランドに侵入し、命の危機は回避された
一週間後、ドイツベルリンに到着し、人心地ついた、久しぶりにシャワーを浴び、ビールで祝杯を上げたのだった
いつも読んでくださりありがとうございます。




