暗躍する輩
1933年(昭和8年)
シコルスキーACは設立から10年以上経過している
その間、人材登用と育成を行い、多くのロシア人も加え、航空機メーカーへの育成を行ってきたところである
多くの社員が、技術研修もかねて、日本の航空機メーカーに出向させられる
愛知航空機、川西航空機と資本提携を行い、社員を派遣していたのである
愛知は、99式艦上爆撃機、「流星」を製造することになる会社である
川西は2式飛行艇と紫電改を後に製造することになる会社である
これらの早期開発と大量生産の支援を行うためでもあった
いざとなれば、シコルスキーが一手に大量生産してもよい、そのための派遣でもある
そもそも、シコルスキー博士はロシア帝国時代、ムーロメッツという爆撃機を開発した実績を持っており、史実では米国で水上機を販売していた
星型エンジン開発の必要性から、DEの技術者は中島飛行機、三菱に社員を派遣している、ここでは部品の規格統一、大量生産技術の必要性を逆に、注入している
早期に、航空機の自力生産が可能なように、技術収集と改良が行えるよう基盤づくりが必要なのであった
この年ヒトラーがドイツ首相になる
いよいよ、ナチスドイツが政権を握った
ウラジオストク軍港の造船ドックでは、ロシア公国海軍用の航空母艦の建造が開始される
全長300m、排水量4万t艦載機100機、タービン4機4軸×5万馬力搭載20万馬力、最大35KNを誇る異形の空母である
すでに、改良実用化されている加賀、土佐によって空母運用のノウハウをかなり蓄積している
今までの経済活動により得た資金2億円を投じて行うビックプロジェクトである
建造のノウハウもここで手に入れて、同型艦を後3隻は建造する予定である
設計は帝国海軍藤本大佐にお願いしたが、あれこれと口出しして、現在あるアメリカ海軍の原子力空母の形に準じるように書いてもらった
うまくいけば、ロシア公国にも作ってやるという約束で、半額を王家に出させる
そういえば、アレクセイ大公には、子供がいないため、内の息子も後継者の一人にエントリーしているらしい、あとは、宮様の子どもか?なんか半分日本化している気がするが、上の姉もいるし、そこらへんはあまり考えないようにしよう
日本における造船不況を利用して、各地のドックで駆逐艦を製造している
全て、ロシア海軍と満州海軍の駆逐艦という触れ込みで建造ラッシュをかけている
そのおかげで、経済状況は大不況?ではないような気がする
「おい、高野」声の主は当社(?)顧問の平賀譲である
「先生、どうも」
「なんだ、この潜水艦は」
「絵が下手なのですよ」
先日、潜水艦の絵をかいてこんなの欲しい的に、平賀顧問に渡したのだが
「そんなことは知っている、貴様は頭はいいが、技術者にはなれん、絵を描くセンスがないからだ」
「そうですか」
「しかし、これで本当にいいのか、大砲がついておらんし、何とも変な形だが」
「先生、造波プールで試してみてほしいんですが」
「こんな、変な形が?大丈夫なのか?」
これも、現代の潜水艦風なスタイルを踏襲しているので、性能は良いはずである
エックス舵、葉巻型、艦首にセイルとこの時代にはまだ存在しないデザインであろう
水中速度を大幅に向上させるが、水上速度は抵抗であまり期待できない
「なかなか、面白い」
「先生、早く量産したいので、溶接とブロック工法は必須ですよ」
「溶接か?」
「先生、溶接は今後どんどん進化していきます、というか、当社では、溶接必須です」
当社とはどの会社なのか、もうすでにわからなくなっているのだが・・・
きっと造船であろう、いや重工、それとも自動車なのか
「お前本当に戦争をもくろんでいるな」とニヤリと平賀先生
「必要がなくなれば、アジア諸国に安く供出しますよ、それで植民地から独立させればいい」
「ところで、戦艦はどうなのだ」
「先生、取りあえず、条約失効を待ちましょう」
「うぬー」
「技術の蓄積がより良い戦艦作りになります、頑張って、駆逐艦と空母と潜水艦を作りましょう」
「いや、戦艦が作りたいのだが」
「先生これからは、航空機の時代ですよ」
「バカ者!航空機で戦艦はやれはせん」
「先生、機動部隊には戦艦も随伴させるので、絶対作りますので、先生は素晴らしい計画を立てておいてください、あと、何点かは、私の提案も入れてくださいね」
「お前の案を入れると、変な形になってしまいそうだ」と不安そうな平賀先生
「・・・・」
1934年(昭和9年)
この年、友鶴事件は起こらなかった、我々艦政本部が舞鶴を厳しく監査したおかげで、しっかりとした艦艇になったのであろう
東郷元帥がなくなられる、いつも、俺の悪口を言うのが趣味だった人だ
一抹の寂しさを感じる今日この頃、俺も40を超えた、年をとったと実感する
しかし、見た目は自分でいうのもなんだが、20代とまったく変わらない、年齢の深みが足りないのが悩みになりつつある
スターリンが大粛清を開始した模様
できるだけ、幹部が少なくなることを願い、同時に、ロシア公国側から、偽情報を流し、後押ししてやろう、ついでに、有能な人材がロシア公国に来てくれれば、ゆうことなしである
ミハイも俺のありがたみをわかろうというものである
ちなみに、ロシア公国では、ミハイが軍団の機械化を推し進めている
残念ながら、わが方の新型戦車は秘匿兵器のため、売れないのだが
関東軍もミハイに習い、機械を推し進めている
海兵師団(旅団から格上げ)も機械化を熱心に行っている
それは、高野グループが率先して誘導した、モータリゼーションの効果である
特に、農業では、相当機械化が進んでいる
ゆえに、収穫量も数倍に跳ね上がり、不作時でも、飢饉が発生しないレベルにはなっていた
さらに、ニューギニア島、台湾で大規模なゴムプランテーションのおかげでかなりの収益を上げることができるようになっている(藤農業のこと)
まあ、ゴムの輸入先は、高野グループであるのだが
学校で訓練を終えた航空兵は、3千人になろうかとしている
これらの人材は、日満露の航空隊の指導教官として、働かせてもらっている
さすがに3千人を遊ばせておくのはもったいないし、まだまだ、航空兵を動員できるようにしておくことが必要である
日満露の町のあちこちに、「来たれ少年航空兵!」のポスターが張られている
日本では、北海道でその訓練が大規模に行われている
教官は内の社員である
ドイツから来た人々は、学校の周辺で、勢力を増やしているらしい
リヒトホーフェンの名を慕って、あるいはあこがれて、ドイツからも若い大人や少年もやってくる、この学校は試験さえ受かれば、授業料は免除、生活費支給であるため、航空技術を得るためにはもってこいであるためであった、ただし、10年間は日本(高野)のために働く必要がある、国籍条項で朝鮮人、中国人は受験の対象外となっている、戦後補償問題に発展する可能性を排除するためである
そういえば、ウーデッド氏は、ナチスの高官として、ドイツに帰っていった
俺は、止めたのだが・・・
男爵にも、帰りたいか一応聞いてみたが、ナチスの思想に興味はないとのことだった
すでに、DB601程度の液冷エンジンが、DEで開発済みであるので、いまのところ、ドイツと技術貿易する必要がなかった
Uボートの技術が欲しいところだが、空母技術を流すのでは、わりに合わない気がしている
DEは、ディーゼル氏が亡くなられた
跡取りの息子(日本で再婚しできた子供)が名目上の社長後継者となっているが経営は、岩倉の配下が仕切っている、子供が適当な年になれば、経営権は譲り渡すつもりである(結果的に戦後になる予定)
そのことは、ディーゼル氏からしっかりと頼まれているので、約束は守る
・・・・・
ドイツ某所
「お久しぶりです、ウーデッドさん、今はウーデッド大佐とお呼びした方が良いですか?」
「何をおっしゃる、高野伯爵、日本では大変お世話になりました」ウーデッドは世話になったが、日本から出てしまったのを負い目に思っているようだ
「お気になさらずに、今日は、久しぶりに会いに来ました」
「ええ、ええ、ゲーリングは私の友人なので、紹介しますよ」
「ありがとうございます、では、ゲーリング上級大将を交えて、取引を行いましょう」
「やはり取引ですか」
「まあ、私も暇で、旅行しているわけではありませんから」
ドイツ空軍エースで世にいうリヒトホーフェン大隊の隊長であったヘルマン・ゲーリング上級大将が目の前にいた
残念ながらというか、リヒトホーフェンは生きたまま退役したため、エースとしては有名だが、隊に名前は付けられてはいない
「ゲーリング閣下初めまして」
「貴公が日本軍の高野か」
「は、高野大佐であります」階級は向こうの方がだいぶ上である
「それで、今日はどのような取引だ、内容によっては、受けられるが」ずいぶんと尊大な物言いである、さすがナチス!
「ゲーリング、彼は日本でずいぶん世話になったのだ、そこを忘れてくれるな」とウーデッドが助け舟を出してくれる
「はい、そちらに損はない取引であると思いますので、よろしくお願いします」
絶対に、そんなことはないはずだが、そういってみる
「内容次第だな」
「ある重要な人物がいます、その人名をお教えします」
「ほう、それで」
「どうするかは、そちらが決めていただきたい、その代わりに、ドイツ人を一人お譲りいただきたい」
「ということは、重要な人物というのは、ドイツ人ではないのだな」
「ええ、違います」
「で、誰だ」
「まずは、ドイツ人の方をいただけるのかどうか、ご確認したい」
目と目とが合い、火花が散る、さすがにナイフの長い夜を生き抜いた人間だけに、迫力がある
「言ってみろ」
「フォッケウルフ社の技術主任です」
「フォッケウルフ?あの傾きかけの会社か」
「わが帝国では、航空機技術が非常に世界から遅れております、そこで貴国の優秀な技術者を貸していただきたいのです」
「そうであろうな」ゲーリングは然もあろうとうなずく
西洋人にとってアジア人種とは劣った人種であり、当然このような感覚であった
「それで、フォッケウルフか、メッサーシュミットかハインケルでなくてよいのか」
「それでは貴国の航空機産業に迷惑をおかけしてしまうので」
「そうか、わかった、手配しよう、フォッケウルフはどちらかに吸収させて救済すればよかろう」
「ありがとうございます」
「礼はまだ早い、その人名となぜ重要なのかを聞かなくてはな」
「では、お耳を拝借して」
俺は、本人以外には聞こえないように人名と、なぜ重要なのかを教えていく
「なぜ、貴様にそのようなことがわかるというのか?」ゲーリングはショックを受けていた
「信じる、信じないはあなた次第です」俺は冷たく突き放した
「そうだな、此方でも調べてみる、フォッケウルフの技術者はそれからということになる」
「主任技術者ですので、よろしくお願いします」
「クルト・タンクだったな」
「そうです、クルト・タンク氏です」
こうして会談は終わった
会談の後、ウーデッド氏は平謝りであった
「お気になさらずに、其れよりもご自分の健康にお気をつけられますように」
俺たちは握手をし別れた(自殺なんかしないでね!と思う俺だった)
そうして俺は、ソビエト国内へと侵入していく
すでに何回か、やってきたわけだがソヴィエトは広い、今回はモスクワを目指すことになる
現在のソビエトはウラル山脈以西までとなっている、山脈を超えると、ロシア公国との係争地ということになるそれでも広大な地域である
内戦では、白衛軍が早々に、ウラジオストクへと集合してしまったため、それ以外の地は割と簡単に制圧することができたが、バイカル湖以東に組織力のある軍隊が残ってしまった、しかし、レーニンの死後権力を固める必要があったスターリンは、赤軍の粛清を開始するのであった
ロシア公国からすると、ソビエトは認められない国であったが、世界では認められた国家であり、ロシア公国のほうが、認められていない傾向が強い
親戚である英国までまだ認めていないのである(一緒の顔しているだろうが!)
いつも読んでくださりありがとうございます。




