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オーパーツ

八木・宇田アンテナでは、すでに優秀なアンテナを開発するとともに、岡部研究所のマグネトロンを利用、発展させたレーダーシステムの開発にある程度成功していた

アンテナを回転させ、電波を全周に放射し、その反射を確認できる装置がかなり大きなものであるが完成していた

軍艦に乗せて、実験したが、ちゃんと敵航空機及び艦船を発見することができた、ここまで来るのに、相当の期間、資金、そして研究員たちの努力が必要であったことはいうまでもない


しかし、まだ真空管の機械であるため、頻繁に真空管が切れて交換を要する状態であった

しかも、真空管の特性上かなりの電気を食う(真空管は温まるまで動かないので、温まるように電力を無駄に消費するというかそのようなシステムらしい)


「大丈夫ですよ、艦にはディーゼル発電機を設置しますので」

男は笑いながら軽く手を振った

しかし、男が笑うととんでもないことが今までも起こってきた

研究者たちは戦慄した、ヤバいことが起こりそうな気配を感じたのである

もちろん、研究者の中には、その男のシンパが相当数いる、そのシンパ以外の者である

宇田教授と岡部教授はともにどうしようもない、悪寒を感じた

その男とは、高野九十九ロシア伯爵兼帝国海軍大佐である


「ところで」ビクッツ!

「少しご内密の相談があります」

きょうはよりによって、八木教授がいない、八木教授は彼らの心の防波堤になっていた

二人では、このロシア伯爵を抑え込む自信がなかった


別室で

「実は、これを見ていただきたいんです」

男の手にはいつの間にか、銀色の四角い物体が乗っていた

本一冊程度の銀色の物体である


「なんですか」

「それは?」

宇田、岡部が不審そうに聞く

「ああ、ちょっと試してみましょう」

スイッチのようなつまみをひねると、ザーッという音が流れる、男はつまみを回すが、ビービーザーザーとなるだけでうるさいだけだ

しかし、ラジオの音に似ている


「残念ですね、野球放送でも聞けたらよかったのですが」

「それは、やはりラジオなのですか」

どう見ても、真空管の入るサイズではない

「携帯用のラジオですよ」

「携帯用?ラジオをですか?」

「皆さんは私がなんと呼ばれているかご存知ですか?」と俺

「悪魔?」宇田はドキッとした、まさか自分の心の声が、口をついて出たのか?

岡部教授だった

「ひどいですね、死神とか呼ばれたことはありますが、悪魔といわれたことはありませんよ」

目の前の男は軽く笑った

あんた!絶対死んだ!宇田は確信した、岡部は明日、仙台湾に浮かぶ

岡部教授は非常に無残な死骸をさらすことになる!


「確か、神の使いとか呼ばれていませんでしたか」何とか宇田は言葉を紡ぎだした、よいしょである

「ああ、よかったそれですよ、それ」

何が良いのか全く分からない、そんなことを普通に言う人間はこの世界では、頭のおかしいやつということになるのだが・・・


「残念なことに、それは本当のことです」

「・・・・」二人とも逃げ出したい衝動に駆られる、目の前の男は何を言い出そうとしているのか?

「大丈夫ですよ、お二方をオカルトワールドに引き込みに来たのではありません」

「よかった!」またも岡部である、あんた、死体も残らず消されるよ!宇田は心の中で叫んでいた

「私は#$%&女神から命令をもらっていましてね、ああ、#$%&ってほとんど日本語の発音できないじゃないですか?私的には、クトゥルーか何かの神なのかなと思っているんですがね」

なにを言ってるのかわからん!クトゥルーってなんだ!

「まあ、それはどうでもいいんですがね」

どうでもいいんかい!

「こちらに来るときに、注文を付けたわけですよ、金と寂しいからラジオもつけてくれってね」

「金?」

「もちろん、贅沢するためにいるじゃないですか、一億っていったら、1000万しか出せないっていうんですよ」

「一千万円!」この時代の金額では、それを千倍から万倍の勝ちがあるのでかなりの金額である

「嘘ですよ、金は、この日本のために必要だったんですからね、この研究所や研究員の給与とか、とにかく現実の世界は金がかかりますからね、話を戻すと、このラジオです、寂しいからともらったのですがね、なんと長岡では、やってなかったんですよ、ラジオ放送が!なんということでしょう!」

ラジオ放送が始まったのはつい最近である


「しかも、この時代のラジオは大きいじゃないですか?ふと思ったんですよ」

「何をですか」宇田は顔からとめどなく汗が流れるのを感じていた

「これって、オーパーツじゃねえって」

ってやっぱりオカルトじゃねえか!宇田の心の声が絶叫を続ける!


「オーパーツ!?」

「ああ、ご存じないですかね、その時代には決して存在しないものが発見されると、それをオーパーツって呼ぶんですよ」

「存在しないもの」

「例えばこのラジオですよ、今は真空管ラジオしか存在しないのに、これはトランジスタてんこ盛りのラジオなんですからね」まじめな研究者宇田は、目の前がグルグルしているように感じた、この男のしゃべる言葉の意味が良く理解できない、違和感が半端ではない


「トランジスタ!?」

「そうです、真空管の代わりになる”石”ですよ」

「”石”!?」

「宇田教授は、八木宇田アンテナの開発者の一人ですが、アンテナは八木宇田です、宇田八木アンテナではない、今度は、宇田・岡部トランジスタを作られれば、どうかなと思いましてね」

悪魔が笑顔でこちらを見ていた

「しかし、ここでのことは、八木先生以外は他言無用にお願いしたい、どうですか?作ってみませんか?宇田・岡部トランジスタ、見本はこのラジオを分解すれば問題ないと思いますよ、ほとんどがシリコンでできてるはずです」


「私の名前が先ではだめなのですか?」意外なことに岡部が口を開いた

「岡部先生は、マグネトロンがあるじゃないですか」

「私にお願いします、岡部先生、私にチャンスをください」宇田は完全に舞い上がってしまった、やはり自分の名を名を残すというのは、男のロマン、研究者のロマンであった


「では、このことを内密にしていただくために、血の盟約をお願いします」

悪魔と呼ばれる所以の血の盟約!噂で聞いたことがあるだけだが、契約を裏切れば大変なことが起こるという、実際本当にひどすぎて、軽々に試す人間はいないという

命を懸けて試して生き残った者はいないとのうわさもある


そして、宇田教授は悪魔の契約をしてしまうのである、同じく岡部教授も同じく

のちに、宇田・岡部型トランジスタと呼ばれる電子部品の出発はこのようにして行われたのであるが、真実を知る者は、ごく少数である


ちなみに、真空管はよく切れるため真空管工場が仙台に作られる、真空管の製造は、白熱電球の製造に似ているらしいのだが、この工場では、作業員はすべて女性とされた、女性の社会進出のためとお題目が唱えられたが、本当のところは、戦時を見据えた労働者の確保が目的であった

社会実験であった


1932年(昭和7年)

関東某所

「今皇国は危機に瀕しておる、奸族、佞臣を排除せねばならん」

袈裟を着た僧侶であった

「憂国の士である若い君たちが国を正さねばならんのだ」

「今上陛下を迷わす佞臣は、皇国の富を収奪する財閥の当主であり、ロシアのスパイ、しかも海軍の一部を惑わす高野九十九である」

「その配下であり、岩倉商事で荒稼ぎを行い国状を顧みない、岩倉総士である」


その前年、浜口雄幸総理大臣の暗殺事件が発生したが、未然に、治安維持局に入り込んだわが第3部隊の八尋により阻止されている

統帥権干犯問題が後を引いているようである


そして、今回、後に血盟団事件と呼ばれる事件のターゲットとして、俺が上がっているということらしい


俺は、この事件が起こることは知っていたが、歴史が変化し、自分がターゲットになるなど考えもしないことだった


俺は、家族と麹町に洋風建築の館を建設し住んでいた、ただし、建物の4隅には監視ができるベランダがあり、その陰には常に、完全武装の兵員が待機している

家庭内の使用人も、全て軍事訓練を終えた兵士である、女中ですら、護身術を会得したものたちとなっている


「門の外に不審な男たちが3人、こちらを見張っています」

監視所から連絡が入る

「総長、連中の狙いはこの屋敷、つまり総長であると考えられます」

「うむ、しかし、なぜ俺が狙われるのか?」

「陸軍あるいは、ソビエトですかね」

「まあ、俺は構わん、八尋に連絡して、後始末だけはしてもらうように」


「では行ってくる」

「あなた、行ってらっしゃい」

「ぱぱ、いってらっしゃいませ」

家族が見送ってくれる、この家では、ロシア語と日本語が入り混じっている


玄関前には、黒塗りの有栖川自動車が止まっている

ついに、乗用車も開発できる体力がついたのである


「高野!」

男たちであろう、三人が思い思いに走りこんでくる、手には拳銃が握られている

しかし、この家の門から、玄関までは相当な距離があるのだがな


俺が拳銃を抜いた時、数発の発射音が響いた

男たちの頭の一部がはじけた


ベランダからの的確な、的確過ぎるヘッドショットが彼らを遺体へと変えた

「こんな場合は、体の真ん中を打つのではないのか?」

「総長まいります、お乗りください」と運転手

「うむ」


今現在日本でもっとも厳重に警戒されている場所の一つがここである

もう一つが仙台港DE社内敷地である


井上準之助、団琢磨の暗殺も治安維持局特高警察の八尋によって未然に防がれた

血盟団事件の首謀者たちが逮捕される

八尋に暗黙の裡に処理するよう指示を出しておく、自分に牙をむくような奴を生かしておくわけにはいかないのである


こうして、後に血盟団事件と呼ばれるはずだった事件は跡形もなく消え去ったのである

あれ、後に、言われるのではなかったのか?


・・・・・


「伯爵、部隊の準備が終わりました」

「そうか、行くぞ」と俺

5月15日夕刻のことである

俺の家の隣には、100人程度の兵員が生活できる建物があり、そこには、高野親衛軍もしくは皇女親衛隊と呼ばれる第3部隊の隊員の一部が寝起きしている、いざというときの兵隊である

「出発!」

数台の黒塗りの乗用車と軍用トラックが敷地外へと滑り出していくのだった


総理官邸では、海軍士官たちが、突入していた

「死ね!」引き金をがくびきしたが、弾が入っていなかった

「まあ、そんなに急ぐな、話せばわかるだろう」と犬養総理

もう一方の入り口から、別の士官たちが入ってくる

「問答無用!」

「その通り!」暴漢全員が動きを止めて、入り口を見た

そこには、海軍の将校と数名の兵士が立っていた

海軍将校は官給品のブローニングインペリアルを構えていた

それが轟音を発した

一発の発射かと思われるような高速発射だった、発射炎が長く伸びていた

普通は、発射の反動で次の目標には当たらないものであるが、ブレ一つ起こさな尋常でない射撃であったが、気づいているものはいなかった

海軍士官全員がすでに、額を打ち抜かれていたからである


「海軍大佐、高野九十九です、閣下ご無事で何よりです」

「話せば・・・」

「問答無用です、彼らが言ったのです」

「しかし・・・」

「海軍の不始末は海軍が正すということです」

「残敵なしです」

「うむ」

「それでは、あとのことは、特高警察が処理すると思いますので、我々これで失礼します」

「なんというか、ありがとう」

「いえ、国家を安寧に導くは軍人の仕事でありますので」

敬礼を行い退出する将校

こうして515事件は不発に終ったのである

いつも読んでくださりありがとうございます。

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