レッドバロン
1926年(昭和元年)
大正帝が身罷られ、ついに昭和の世となった
俺は、大佐に進級した、これには、ロシア大公国の重鎮となったことが関係している
同期の中でも、出世頭である
ロシア伯爵であり、大公の義兄で、相談役、関東軍への連絡役等様々な状況があり、早く出世させようとの軍の意向もある
今年の正月には、高野財閥総帥として、仙台に幹部社員を集めて、訓示を行い、そのあと大宴会を行った
これは、幹部の中に俺を見たことがない者が非常に増えたためであるらしい
また、世間的にも財閥グループとしてこれからは、前面に押し出していくことになった
参加者の中には、今まで助けた人も入っており、伊藤公、こっそりと摂政宮(正月時)も存在して、みなを慌てさせた
ソビエトはついに、ロシア大公国に休戦を申し出た、レーニンが没し、スターリンが権力を掌握したが、地盤固めのために、仲間(同志)の粛清を開始する合図であろうか?
こちらは、まったく問題ないので、ロシア大公国を認めるように迫ったが、さすがに休戦でまとまった、そのおかげで、シベリア鉄道で、欧州に行くことができるようになった
赤軍は、百万人が、バイカル湖周辺で戦死している
白軍は数万人程度である
大公国では、陸軍大臣にミハイル・トハチェフスキーが就任して、スターリンを悔しがらせることに成功した
・・・・・
艦政本部長付き副官の辞令が届く
ウラジオストクである
「サーシャ、東京勤務になるから、あとから来てね」すでに、4人目がおなかにいるので生んでから来てもらおう
ロシア内戦もようやく休戦になり、少し大公国方面でも余裕ができたので、本職の方に復帰できるよう、手を打ったのである
艦政本部に入って、建艦に口を挟む所存である
基本的には、艦隊勤務が非常に少ない海軍軍人なので、一言居士になるであろう
だから、本部長付き副官という何ともけったいな辞令である
「本部長よろしくお願いします」
「ああ、君があの有名な、一発屋の高野大佐か」ユトランド海戦の頃のあだ名が定着したのだろうか
山梨本部長は穏やかな人であった
「はい、あまり、艦隊勤務の経験がないのですが、精一杯努力します」ていうか勤務していないのでは?疑惑が誠しやかに存在する
「ああ、君の目は、時代の先を見るといわれているらしいから、頼むよ」
「は、頑張ります」
さてと、何から口を挟もうかな!
・・・・
このころ艦政本部内では、権力の交代劇が起こっていた、今まで、神のように君臨した平賀譲が、外国派遣中にその席を追放され、新しく藤本喜久雄がその地位についたようである
平賀譲という名に反して、まったく譲らない性格であったことが、軍幹部から疎まれ、米国視察中に解任されたのである、一方藤本の方は、軍幹部の要請をできるだけ受け入れるという柔軟かつ斬新な態度をとったため、幹部からは都合がよかったのである
しかし、のちに藤本設計の艦が大事故を起こし、その問題の気苦労のためであろう、藤本は若くして急死するのである
「藤本大佐、私この度、艦政本部長付き副官を拝命した、高野九十九大佐であります、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく、ロシア大公の義兄なんだってね」
「はい、一応そういうことになっています」もちろん、一応ではない
藤本は第四部の設計主任である
「ところで、大佐にお願いしたいことがあるのですが、」
「君も大佐で同じだから、藤本でいいよ」
「では、私のことは、高野で」
「私、実は、事業家の顔を持っていましてね」
「高野財閥だろう、よく、そんなことができるよね」
今や、政商高野財閥?を知らない者はいないだろうというほど、日本中で有名な存在になってしまった、岩倉の所為である、だからいやだったのだ
「潜水艦の設計をお願いしたいのですがね」
「それは、第3部の仕事だろう」
「いえ、個人的な家業ですよ」
「潜水艦って戦闘艦だろう」
「ロシアで運用しますから、個人的な家業ですよ」
「個人って、個人で作れるの?」
「作れますよ、個人的資金を使うだけでしょう」
「作って、どうすんの?」
「決まってますよ、商船破壊ですよ」やることは、個人の家業では済まなさそうである
「あと、機雷の設置もできる機能が欲しいですね」
「本気?」
「嘘言っても仕方ないじゃないですか」
「じゃあ、第3部の人間に書かせるわ」
「ありがとうございます」
「あと、いろいろお願いしたいので、諸条件の書付です」
条件を見た藤本は驚いたような顔をしていた
「このハイスキュードプロペラって、こんなの作れんの」
「うちの造船で何とかならないか、とか技研の方で何とかならないかとか」
「でも、軍縮条約中だよ」
「ロシア艦隊なので何ら問題ありませんよ、空母加賀もウラジオストクで作ってますし」
「え~、大丈夫なの、軍機とか」
「さあ、どうでしょう、ドックはウラジオストクですけど、工員はほとんど内ですから、三菱や佐世保と変わらんでしょう」従業員には、ロシア人などが入っている、そのおかげで冶金技術が向上している、やはり、冶金技術はヨーロッパの方が数段進んでいるということか
「まあ、なんとかするよ」
「お礼は何でさせてもらいましょうか?」
「てお礼?」
「それはそうでしょう、設計図書かせるわけですし」
「仕事だよね」
「個人的にお願いしてるので、作業は、仕事時間中でも、おうちででも、俺は構いませんよ」
「無茶言うね」
「金でも女でも車でも酒でもなんでも言ってくださいね」
「おい、俺が捕まりそうだよ」
「大丈夫ですよ、憲兵にも特高にも、知り合いがいるんで手を回します」
「結構危ないな、高野」
「え、そういわれてませんか、東郷元帥なんかいつも俺をぼろくそに言ってますよ、奴はやばいとか」
「確認できたよ」
「それは良かったですね」
・・・・・
1927年(昭和2年)
娘が生まれた、ナディアと名付ける
そういえば日本名つけてないが、ロシア人なのか、日本人なのか?
ちょっと、やばいな!と冷汗が背中を流れるが、ぐっと我慢する
札幌近郊
きょうも晴れている、俺は、時間を無駄にせず、こちらにやってきた、早く旅行用の飛行機が実用化してくれれば、良いのに
リヒトホーフェン男爵の航空学校に来たのである
「岩倉よ」
「はい総長」
「結構大きいな」
「そうですね」
結構大きなレンガ作りの校舎が印象的だ
あとは、司令塔、ハンガー、滑走路など、ほぼ航空基地と何ら変わらない
複葉機が飛んでいる
まだまだ、エンジン音が軽い、馬力の問題なのであろうか
「男爵、お久しぶりです」
「やあ、九十九、久しぶりだね」
男爵は男前だ
「きょうは、学校の状況や、男爵達の近況を確認しに来ました」
「ああ、うまくいっていると思うよ、学校はね、生徒の授業料は、君が全部払ってくれてるし、生徒は枠いっぱいだし、しかも、運動神経、頭脳の方も問題ない、俺たちが、まあ、君の部下でも入っているが、確実に良いパイロットを養成できていると思うよ、3年間みっちりしごけば、当然かな」エドワルド・ベルケ直伝の弟子がリヒトホーフェン男爵である
「僕は、もっとロシアの内戦が続けばと思ったけどね、3年の授業より、一か月の実戦のほうがはるかに得るものは多いとは思うからね」
「そうですか、何か困ったことはありませんか」
「いや、ないね、僕も弟も家族とも満足している、少し冬が寒いけど」
真冬の期間は学校も閉鎖し、避難している
「ウーデッドさんはどうですか?」
「彼もうまくやっていると思うが、案外浪費家だな、そこらへんは心配ではある」
「では、ウーデッドさんには、お願いしたいこともあるので、呼んでもらってもよいですか」
「ああ、少し待っていてくれ、呼びにやるよ」
10分後ウーデッドとオステルカンプがやってきた
「どうですか、ウーデッドさん、お元気にやっておられますか、オステルカンプさんお久しぶりです」
そういわれると、ウーデッドは少し顔を曇らせた
「どうかしたのですか」
「実は、少し借金をしていまして、お恥ずかしい」
「おまえ、あれだけの給料をもらって、借金て、どうやったら」リヒトホーフェン男爵は驚いたふうである
「わかりました、ウーデッドさん、その借金を持ちますので、ちょっと、お願いしたいことがあります」
「え?」今度はウーデッドが驚いたようである
「金額も聞かないのですか」
「じゃあ、いくらですか」
「50万円ほど」
「そうですか」
「馬鹿な」とてつもない金額である(この当時の50万円は)
「男爵、ちょうどいいですよ、お願いしたいことがありますからね」
「ですが、いくら何でも」
「頼み事というのは、ドイツがらみなのですが、ドイツ軍と渡りをつけてほしいのですよ」
「ドイツ軍と!」
「ええ、ウーデッドさんがゲーリングさんと親しいので、お願いできないかと思いましてね」
「ゲーリング!」
3人のドイツ人が思い思いに同じ名を呼んだ
「ゲーリングからは、ドイツに来ないかと誘いを受けました」とウーデッドさん
「わたりをつけてくれれば、戻ってもいいですよ、ただし、私はおやめになった方が良いと思いますが、それにこちらの損失にもなります」と俺
史実では、ウーデッドは、ゲーリングに見放され、最後は自殺してしまう
しかし、この世界はもうかなり変わっている!はずだから、どうなるかはわからない
「この前の条件では、こちらの方がよいかなと」
「お前失礼だろう!九十九は俺たちにすごくよくしてくれているだろ」
「まあまあ、いろいろな考え方があってよいと思いますよ」
「とりあえず、ゲーリングとあって何をすれば、」
「ドイツは、現在国内で、兵器を生産できませんが、よそでは、研究開発しています、それが、スウェーデンのボフォースです、そこの武器のノウハウをいただきたいのです」
何でそんな事知っているのという顔のドイツ人たち
「見返りとしては、何を用意しますか」
「手っ取りばやく金かゴールドなんかどうでしょう」
「金はいくらあっても困りませんからね」とウーデッド
「そうですね」
「話がうまくまとまるようであれば、順次商いを大きくすることも可能です」
「え?」
「例えば、鳳翔の設計図とか、これは日本初の空母ということになりますが」
「向こう側は?」
「新型航空機の設計図とか、まあ、とりあえずはこの取引が成立すればといいうことにしておきましょう、チャンネルを作るところからですね」
「私への報酬はあるんでしょうか」
そこかい!リヒトホーフェンが心の中で突っ込んでいた
「もちろん、お支払いしますよ、私はただ働きという言葉がだいきらいですから」
「わかりました、今回の件はお任せください、必ず口説き落としてきますよ、それで、旅費の方は」
「岩倉、頼む」
「は、総長」
かくして、ウーデッドがドイツに旅立つ
今後の日本戦車の行く末が決まるこの一戦である(対空砲を戦車砲に転用するという意味)
ところで、このドイツ4人組(男爵、弟、オステルカンプ、ウーデッド)だが、ウーデッド以外は、日本永住を覚悟したのか、家族や親せきを呼び寄せ、日本人の嫁を貰っている
北海道にはリヒトホーフェン町ができるかもしれない!(長いわ!)
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