秘匿技術
1923年(大正6年*)
関東大震災が発生する
激しい揺れが、神奈川県から東京市にかけて襲う
簡単な作りの家は、なぎ倒される
かねてより、各方面で防災・減災活動を行ってきたが、やはり自然の力にはこうすべくもない
ただし、区画整理事業が何度も行われていたおかげで大規模な火災延焼は免れた
横須賀工廠でも、火災は免れ、天城は無事だった
この日はなぜか、関東圏一円で、防災活動の日ということで、早朝から、防災講習会が開かれており、会社すらこの日は、特に休みとなり、地元防災講習に参加することになっていた、このおかげで、昼の食事作りの火が引火しなかったことが大きかったようだ
これを機に、東京市から関東各県への工場、会社の疎開がおこなれることになった
東京はさらなる区画整理を行い、それにより、百瀬建設が莫大な利益を生むことになる
すでに、かなり地所を持っており、換地があり、しかもノウハウがあったためである
ロシア戦争(歴史上のロシア内戦)は今現在も、バイカル湖を境に戦いが続いている
赤軍の大兵力の前に、完全に覆われると思われていた状況だったが、縦深防御が効果を十二分に発揮し、いったん引く場面があったが、追い返している
満州国境の関東軍が陽動を行ったためでもある
それに、赤軍の政治将校の死亡率は半端ではない、前線兵士以上に、確実に射殺されている、今では、政治将校も一般兵と同じ格好をしているらしいので、督戦隊と思しき兵が狙撃対象となっている
赤軍の突撃は、M2重機関銃の恰好の標的となり、すでに数十万にも被害が及んでいる
ロシア大公国は防衛に自信を深めている
さらに、ソヴィエト国内で、大不作が発生し、飢饉が発生しており、前線に食料が不足している
追い打ちをかけるように、満州国義勇航空隊が、偵察飛行や爆撃を行っている
これは、リヒトホーフェン飛行学校の卒業生で現在教官になっている者やその生徒が行っている
経験を積むための訓練の一環であった
天城が無事であったことから、加賀はロシアのウラジオストク港に回航され、空母への改装が行われる、同じく、沈船処分となる土佐についても同様、ロシア海軍への編制となる予定(売却)である
三段空母ではなく、全通甲板のアイランド艦橋空母としてはじめから設計される
因みに、赤城も同じで当初から全通甲板でしかもアイランド型艦橋が右舷に設置されている
史実が大きく捻じ曲げられている(飛龍も右舷艦橋を採用されることになる、煙突は傾斜煙突が採用される)のであった
艦橋部分は海側に張り出すようにし、反対側の飛行甲板もできるだけ海にはみ出すように、設計されている、いわゆるアングルドデッキを目標にした試行である
すでに、軍縮会議を見据えた対処を内々に進めている
航空機部門は、現在、シコルスキーACと川西航空機が協力して水上機を順次製作途中というところである、もともとシコルスキーのヘリが主目的であるが、航空機部門が発達しないと無理なことがはっきりしてるための処置である
シコルスキーは水上機が得意であり、川西もそれを得意にしているため、いわゆる2式飛行艇の繰り上げ開発と量産化を目指している
航空機のエンジンについては、DEに星型エンジンを作らせる方針だが、三菱にDEの技師を派遣し技術力の強化を目指している
ディーゼル氏の指揮のもとエンジン(ディーゼル)は良い出来のようだ
貨物専用の船舶用ディーゼルの開発は順調である
重機用のエンジンも軽量化がなされ、重機の生産も順調になってきている
ゆくゆくは戦車用のディーゼルエンジンも可能となるであろう
ただし、ディーゼル氏自身はそれには反対の意向があるようだ
戦車のシャーシの方も設計しておく必要があるだろうが、そこは有栖川自動車にお願いする
燃料問題であるが高オクタン価のガソリンはアメリカの専売特許であった
高性能戦闘機は高性能ガソリンがひつようなのであるが、日本には、製造する技術がないらしい、まあ、アメリカにも今はないのだが
そこで、高野石油化学に大量の資金を供給し、研究させている
とにかく、原油精製途中の物質を高温、高圧内で触媒を使用し水素を重合させ変化させるらしいので、触媒技術を研究しろと指示しておく(この技術がいずれアメリカで発明されるのである)
エンジンで必ず問題になるターボ過給機の耐熱金属は東北帝国大学金属工学研究所の本多博士に、耐熱金属の研究を行うよう、資金とともに依頼しているし、ある程度の比率も教えているので、順調に研究が進んでいる
余力があるそうなので、ハイテン鋼の研究もお願いする
1924年(大正7年*)
第3子が生まれる、ソロモンと名付ける、男の子である
ザ・ニンジャ3が全世界ロードショウされ、驚異的な特撮技術が大変評価される
銃弾が侍大将の前で止まり、ポトリと落ちるシーンや木に飛びあがるシーンなどである
実際は特撮ではないのだが・・・
世界の桜井と世界の○○がハリウッドの星に刻まれそうだったが、黄禍論で中止になった
アバレーエフから近ごろ頻繁に何を輸送するか問い合わせがくる
ものすごく儲かっているらしい、なんでも買ってくれるらしいので、モリブデンをお願いしておく、黒人やインディアンの友(強敵?)ができたとも書いていた
「タイガー同盟」とか中二病のような名前の同盟を結んだようだ
禁酒法を逆手にとった密輸で絶賛大儲け中、カナディアンウィスキーではなく、ウォッカを製造しているようだ、有色人種の情報網の構築は順調なようだ
カナダ在住のコマンチ族やナバホ族を確保し、暗号破り要員として、ロシア公国内で保護している
現在、ウラジオストクはロシア公国の生産基地となるべく、工作機械が大量に必要な状況であり、カナダに中継基地を置き、機械を輸入させるよう手配してもらう
アメリカに置く場合は、接収される可能性があるためそれを回避するためである
アメリカはロシア大公国を承認していない
パナマにペーパーカンパニーを設立し、香港経由、上海経由、大連、奉天などで様々な欺瞞工作をなされて様々な物資が輸入されるような流通網の整備も行っている
全て、岩倉商事が裏で取引を操っている
そういえば、同盟を廃棄したイギリスへの嫌がらせの布石として、第1第2部隊の精鋭が、アジア各地の欧州植民地へと出発している
独立運動を支援するためである、現地人に日本製の武器や資金、戦闘のノウハウを伝授するのである、べトナムでグリーンベレーがやっていたことだ
開戦後速やかに、占領し独立を承認し、宗主国からの影響を排除し、自存自営を行ってもらう必要があるための措置である
1925年(大正8年*)
この年、ブラウニングさんが天命により旅立つはずだが、全然元気である
温泉三昧は相変わらずで、いたって元気である
近ごろ山口兄は、リヒトホーフェン航空学校で飛行機のパイロット養成講座を受けているらしい
大名になったブラウニングさんには、20mm機関砲、30mm機関砲の設計をお願いしている
生きているうちに、作り上げてほしいものだ
M2重機は、日満露にのみ販売しているので、外国には存在しない
日本光学に出資し、M2用高性能スコープの製造を後押ししている
M2重機対物狙撃モデル用である
対物とか言っているが、本当は人間を撃つ、威力が強すぎて、悲惨な状況になるため、人用でなく物、例えば自動車を撃つんですと言って嘘をついているに過ぎないのである
・・・・
「岩倉よ」
「はい」いつものように、岩倉が忍び寄ってくる
「東北帝大に行くぞ」
「はい、DEですか油圧、はたまた、シコルスキーACですか、本多金属の資金はすでに振り込んでおりますが」
「どれでもない、これからが正念場である、心せよ」妙な気合を込める俺
「は、では、第3部隊から兵を回しますか」
「いや、それはいい、ところで、部隊の訓練だが、アジアの言語も導入して、現地住民のゲリラ化を支援せねばと考えているが、どうか」
「総長の考えは神意です、すでに、現地住民の中から知識人を選び出し、日本へ招く予定としております」
「そうか」頼んだ覚えはないのだが、すごいな岩倉、お前こそ神だ!
「今回は、アンテナと電波だ」
「はい、ロバでなくて何よりです」嫌味なのか!
「驢馬は重要だろう」と切り返す
「航空学校の方は、定員の問題がクリアできたので、随時心身健康な、教育を受けた、身体能力の高い個人を生徒として受け入れてまいります」
「そうか、リヒトホーフェン男爵はお元気にしておられるのか?」
「総長、お忙しいのはわかりますが、やはり会いに行かれるのが良いのではないですか」
「ああ、もちろんだ、俺も飛行機に乗りたい」
「それはだめですね」
「だめか」
落ちるとさすがに死ぬかもしれないので乗ってはダメらしい
こうして、東北帝大へと船を走らせるのであった
すでに専用の船を所有し、ウラジオストクと新潟を往復している
「飛行機があればな」
「空港がないでしょう」
「作ればよい、そのための、工兵部隊だ」
「あれは、百瀬建設です」
すでに、基地づくりのベテランではあるのだが
新潟からは、有栖川自動車の黒塗り車(部品のほとんどは米国製実質T型フォード)で一路仙台へと向かうのである
東北大学前に付くと、人垣ができている、何かあるのだろうか、車はさすがに、俺が、率先して普及活動をしているので珍しいというほどではなくなっているはずだが・・・
別に開けてもらわなくても構わないのだが、運転手が開けるまで待てとの岩倉の命令である
「高野閣下万歳!」人垣が万歳三唱を始める
「高野閣下万歳!」きれいな女性が花束を渡しにくる
「握手していただいてもよろしいでしょうか」きれいな女性が握手を求めてくる
「私もお願いします」
人垣が俺をとり囲む
俺はあっけにとられて、されるがままであった
やっと学生たちが、離れていく
「なんだ、いったいなんだ」茫然とした俺だった
「総長、彼らは高野学校卒業生で東北帝大に入学した、いわば奨学生です、DEやその他の関連会社の社員もいたようですが、さすがにすべてはチェックできていませんね」
「関係者か」
「そういうことです、みな、総長に会ったのが初めてなのではないでしょうか、学校には、総長の写真をご真影の横に飾っておりますので、心配はいりません」
「なに!」それでは、俺は・・・・
「そうですね、だいぶお姿が代わられましたので、今度はご家族ご一家で写真を撮りましょう、ええ、これは私としたことが、失礼しました」
「やめろ!」
「これはいいことを思いつきましたな」と岩倉がニヤリとしている
「高野閣下、八木教授の部屋に案内します」学生の一人が声をかけてくれる
「そうか、すまんな」
「いえ、私は、八木先生の元で研究しております、誠に光栄です」
「がんばってくれよ」
「は、命にかえましても」
「いや、命はかけんでよい」
研究室で
「それで、私に何の用かね」
「八木教授、初めまして、宇田先生もよろしくお願いします」
「ああ、こちらのことは、わかっているようだね」と八木
「教授達には、仙台港にあるDE敷地内に研究室を移していただきたいのです、教授の研究は、これから非常に重要な、戦争にとって非常に重要な研究なのです」
「ははは、初めて聞くぞ、あなたほど、この研究の本質を理解してくれる人が軍にいるとは」とてもうれしそうな八木教授
それもそうであろう、八木たちの研究は、重電主体の学会では、邪魔者扱いされ、あまりの論文数にもう出さないでくれと学会に言われる始末であった
「教授、皆のことは知りませんが、私は実は、軍人であり事業者でもあります、教授の研究は、世界を変えるのです、というか、日本が独占し、世界を変えるのです」
「おお、大きく出たな」教授は愉快そうである
「もちろん、そのためには、教授たちに頑張ってもらわなくてはなりませんが」
「そこまでいわれるなら、努力を惜しむはずがない」
「ありがとうございます」
「まだ、協力するといってはいないが」
「そうですか、しかし、摂政宮からの要請書ならどうでしょうか」
「何!」
「摂政宮にわたくしが、お願いし、一筆いただきました、お国のために、頑張ってほしいと書かれています」
直筆の書類を差し出すと、八木教授は恐れ多くといった風に受け取り、中を恐る恐る読み始めた
「これは、まいったな」
「教授、摂政宮も期待されおります」
「わかりました、あなたの言う通りにするのは少し癪だが、殿下の申し出とあれば、なんの問題がありましょうや」
「では、DE内に移動をお願いします、DE社内では、警備が充実しておりますので、機密の安全性を担保できます」
「わかった」
「あ、それと、博士の研究には、岡部教授の研究も非常に重要でありますので、ご一緒にお願いしたい」
「岡部君か?わかった、連れて行くよ、意図はよくわからんが」
「資金や材料は、私の部下に連絡があればいかようにも、人材に対する給与などもすべて、手配しますので、遠慮なくどんどんいってください」
「えらく、気前のよい話だな」
「そうですか、DEもそのようにして作りましたけど」
「なんと、あの広大な面積を贅沢に使っとる会社か」
「ああ、そういえば、東北大の教授の会社、七味油圧装置もありましたね、今度は八木・宇田アンテナでいいですか?登記しときますよ」
「なんだと、わしらの会社なのか?」
「資本の持ち分は51%は私側が持ちますけど、49%までは、先生たちで分ければいいですか?」
「儂らにそんな金があると思うか?」
「金は、私がすべて、だしますのでご安心を」
「いいのか?」
「ですから、すべてそんな感じで立ち上げてますよ」
「そうなのか、我々はじゃあ、30%ももらえればいいよ、悪いしな」
「では、70%は私の方で、岩倉、八木・宇田アンテナ㈱でお願いする」
「は、総長、仰せのままに」
こうして、八木・宇田アンテナ㈱が誕生した
岡部研究所もほぼ同時に誕生した
こちらはマイクロ波の発生装置の研究であり、このチームには、レーダーとそれを映像化する装置の製造もお願いする
あとで、面倒なことにならないように、陸海の技術将官も研究所に詰めさせるべく、手を回しておくとするか
こうして、ひそかに八木・宇田アンテナ及びマグネロトロンの研究がひっそりと開始されるのであった
いつも読んでくださりありがとうございます。




